摩耶山B(702m)   神戸市    25000図=「神戸首都」


布引の滝から黒岩尾根を経て摩耶山へ

神戸の街から望む摩耶山

 前日、自然保護協会の六甲研修会に参加し、夜は懇親会。そのまま、神戸のホテルに泊まった。
 アルコールの残る重い頭で、朝、ホテルを出発。誰かが持ってきたマムシ酒なんかにも手を出したのがいけなかった。

 ホテルから北に向かうと、ビルの間から、電波塔の林立する摩耶山が早くも姿を現した。
 新神戸駅で、エレベータに乗ったり、エスカレータに乗ったりでウロウロ。駅の構内で地形図は役に立たない。

 何とか駅の裏側に回り込むと、もうそこは山の中で、車の音より渓流の音が大きくなった。
 砂子(いさご)橋で、新生田川を渡った。レンガ積みのこの橋は、国の重要文化財。橋の説明板を見ていると、ハイカーが次々と追い越していった。

砂子(いさご)橋

 
遊歩道をゆるく上っていくと、雌滝が現れた。滝の前の小さな広場に小鳥が群れている。白や黄やオレンジ色で美しく彩られたソウシチョウ。赤いくちばしで落ちた木の実をついばんでいるのか、地面の上を忙しく動き回っていた。
 
布引の滝 雌滝

 雌滝の横の階段道を登った。
 鼓滝は、道の上から覗き込む。滝壺に朝陽は届かず、水面が青黒く見えた。

 花こう閃緑岩の青白い峡谷に沿って道を進むと、雄滝が目の前に現れた。滑らかな岩の上を、一筋の水が静かに流れ落ちている。さざ波の広がる滝壺の水面にも、滝の白い流れが映っていた。
 水の流れを中心に、岩の割れ目が左右に広がるようについている。白くつややかな岩盤と、割れ目のつくるこの模様が、滝を優美に見せていた。

    久かたの 天津乙女の夏衣 雲井にさらす 布引の滝       藤原有家朝臣  

 滝の周辺には、たくさんの歌碑が立ち並んでいた。
 

布引の滝 雄滝

 滝の右につけられたつづら道を登る。
 茶屋を一つ越すと、見晴らし展望台に出た。神戸の街と港が目の前に迫っている。空を見上げると、ローウェイの赤いゴンドラが優雅に上り下りしていた。
 渓谷の左岸を登っていく。谷川橋を渡って右岸へ。ゆるい道を進むと、五本末堰堤。日本最古の重力式コンクリートダムは、今も堂々とした風格を備えている。上には、布引貯水池が水を湛えていた。

五本松堰堤

 布引断層を見て、渓に沿ったなだらかな道を進んでいく。ヤマガラがのんびりと鳴いている。山を走っている人たちにたくさんすれ違った。元気やなぁ。
 市ガ原に着いた。いくつかの道が交わるこの地点は、いい休憩地。下の川原で遊んでいる人たちもいる。ホテルを出てからここまで3時間。今日は本当にゆっくり。
 ゆっくりついでに、桜茶屋でビールを飲んでおでんを食べた。六甲山は、これがいい。

 茶屋を出て、北に向かう。何本もの曲がりくねった枝を空に広げているのはカゴノキ。アオキは、花芽の中から、つぼみをたくさん出している。ところどころに、ヤブツバキが赤い花を散らせていた。

カゴノキ

 天狗道分岐を越え、地蔵谷分岐を過ぎると、黒岩尾根分岐に達した。ここまで来ると、出会う人は少なくなった。
 黒岩尾根はいきなりの急登から始まった。道は狭くなったが、擬木の丸太階段が整備されていた。
 ナワシログミの冬芽がふくらんでいた。ヒサカキのつぼみが開きかけている。アセビが真白い花を枝いっぱいにつけていた。
 茶屋のビールとおでんがエネルギー源。坂道をどんどん登る。道はいったん平坦になたっが、大きなコナラの木の下から再び急に。
 木々の間から鈴蘭台の街並みが見えるようになってきた。尾根を渡る冷たい風が気持ち良い。
 アカマツがしだいに多くなってきた。シキミが、黄緑色の花をいっぱいつけて鮮やかだった。
 急な上りが続いたが、何度か小さなピークとそこからの下りがあった。

 12時過ぎに、606mのピークに達した。ここには、「神戸市界」(明治33年)の石柱が立っていた。

黒岩尾根の道

 一度大きく下り、スギ林のコルから上り返した。やがて、花こう岩の風化した砂礫におおわれた広い尾根となった。
 西に開けたところにベンチが置かれていた。眼下に、鈴蘭台の街並み。その左には丘陵地が広がり、その中に六甲全山縦走路が低い尾根続きとなって連なっていた。
 縦走路を目で追うと、旗振山、鉄拐山、横尾山、高取山、菊水山、鍋蓋山、再度山と、右へ左へ何度も曲がりながら摩耶山に向かっていた。菊水山の上には、明石海峡大橋が薄くかすんでいた。

黒岩尾根のベンチからの眺め 左の写真の一部を拡大
(写真にマウスポインタをのせると、縦走路が現れます)

 ベンチの先で、道は東向きに変わった。白い縁取りのミヤコザサの中を進む。
 クロモジの葉芽はまだ閉じていたが、花芽は破れて小さな花が開いていた。

ミヤコザサの道 クロモジの花

 スギとヒノキのコルを過ぎて登り返すと、アドベンチャーコース分岐。さらに進むと、道はもう平坦になった。アセビの木が大きかった。
 パラパラと小さな粒が降ってきた。あられだった。午後になって、気温が大分下がってきていたのだ。桜茶屋で、昨夜の六甲山上は、−5°だったと聞いていた。
 ミヤコザサを分けて進むと、日時計のある広場に出た。ここはもう摩耶山の山上。ここからは、道があちこちに向かっている。
 摩耶山の山頂部には火事で消失前の天上寺があって、史跡公園として整備されている。1本の電波塔の裏手を登っていくと、小さな鳥居が立っていて、そのうしろに5つ6つの花崗岩の岩が祀られていた。天狗岩である。その少し横のアカガシの下に、三角点が置かれていた。

摩耶山山頂

 山頂から掬星台に向かった。掬星台は山上の広場。手をのばせば星をすくうことができるようなことから、この名が付けられた。今は、日本三大夜景のひとつに数えられている。
 神戸市街地や人工島の沖に大阪湾が広がっていた。大阪湾の向こうには、紀伊半島や淡路島が横たわっている。その間を双眼鏡でのぞいてみると、友が島水道に地ノ島、虎島、沖ノ島の島影が、海や空に溶けこむようにうすく浮かんでいた。

 摩耶山からロープウェイで下った。緑や赤の車体に、家族連れのはしゃぐ声。ロープウェイは華やいだ空気を乗せて、神戸の街へと下っていった。

掬星台からの眺め まやビューライン

山行日:2019年3月24日


神戸のホテル〜布引の滝〜布引貯水池〜市ガ原〜黒岩尾根〜摩耶山〜(摩耶ロープウェイ)〜神戸市内
 神戸のホテルを出発。JR新神戸駅をくぐって布引の滝へ。摩耶山へは、天狗道、地蔵谷、黒岩尾根などのコースがあるが、今回は黒岩尾根を歩いた。
 道は山頂までよく整備されている。摩耶ロープウェイ(まやビューライン)に乗って山を下りた。

山頂の岩石  布引の滝 白亜紀後期 布引花こう閃緑岩
         摩耶山山頂 白亜紀後期  六甲花こう岩

 六甲山は主に2種類の花こう岩類でできているが、今回歩いたコースはその両方が観察できる。1つは布引花こう閃緑岩で、もう1つは六甲花こう岩である。

布引花こう閃緑岩
(布引雄滝の少し上で採集 横7.3cm)
六甲花こう岩
(摩耶山山頂付近で採集 横8.7cm)

■ 布引花こう閃緑岩
 中粒の花こう閃緑岩である。主に、普通角閃石・黒雲母・斜長石・カリ長石・石英からできている。
 自形〜半自形、黒色の普通角閃石の結晶が目立つ(最大 4×12mm)。斜長石は、自形〜半自形でアルバイト式双晶がルーペでも確認できる。カリ長石は少量しか含まれず、色がついていないため、岩石全体が白黒のモノトーンである。
 布引の滝はこの岩石でできている。滝の岩盤を双眼鏡で見ると、暗色包有物を含んでいることや、アプライトの細脈を伴っていることが観察できた。
 布引花こう閃緑岩は、六甲山地の南西部、鳥原貯水池や布引貯水池周辺に分布している。

■ 六甲花こう岩
 粗粒の花こう岩である。主に、黒雲母・斜長石・カリ長石・石英からできている。また、少量の普通角閃石をふくんでいるが、採集した標本には見いだせなかった。
 カリ長石がピンク色のため、岩石全体もピンクがかって見える。
 六甲山地の広い範囲に分布し、古くから「御影(みかげ)石」として利用されてきた。

■ 布引花こう閃緑岩と六甲花こう岩の関係
 
谷川橋を渡ったところに、この2つの岩石が接触しているところがあった。小さな断層で接触しているようであるが、露頭の表面が汚れていてよくわからなかった。
 布引花こう閃緑岩と六甲花こう岩は断層で接することが多いが、数ヵ所で六甲花こう岩が布引花こう閃緑岩を貫く露頭が見出されている。
 また、布引花こう閃緑岩を六甲花こう岩が捕獲しているところも観察されている。これらのことから、先に布引花こう閃緑岩が貫入したところに、後から六甲花こう岩が貫入したと考えられる。


「兵庫の山々 山頂の岩石」 TOP PAGEへ  登山記録へ