摩 耶 山    (702m)                 神戸市         25000図=「神戸首都」

布引雄滝
芽吹く春、トゥエンティクロスから摩耶山へ

 白い水が真っ直ぐ優美に流れ落ちる雌滝を右に巻き、鼓滝を越えると、目の前に大きな岩壁が立ちはだかっていた。銀白に光るその岩壁の中央に流れ落ちる水。布引雄滝である。水は上部の4段を階段状に落ち、そこから一気に滝壺まで流れ落ちている。勢いよく流れ落ちる一筋の水は途中から衣の裾のように広がっている。滝をつくっている岩盤は花崗閃緑岩。艶やかな岩肌には、ゆるく曲線を描く節理が走り、それが水の流れと見事に調和している。落差43mという規模の大きさとその美しい姿に圧倒されながら、しばらく見上げていた。


 布引貯水池を越え、その名の響きも麗しいトゥエンティクロスを歩く。布引谷を遡るこのコースは、渡渉を幾度も繰り返し、その数がおよそ20回あったことからこう名付けられた。川の中に数個の大きな石が平らな面を上にして置かれ、その上を歩き渡るのが「飛び石渡し」。今日では、数が減って5回の渡渉であったが、今何回目だと娘と一緒に数えながら歩くのも楽しかった。道は布引谷の河原に沿って、雑木林の中についている。途中いくつかある堰堤は、横を急登して越えていく。スミレ、タチツボスミレの小さな可憐な花が咲いている。コバノミツバツツジは、葉を閉じたまま薄紫の花を開いている。ヤマザクラの花ははほとんど散っていたが、白い花をいっぱいつけたカスミザクラの大木が所々に立っていた。
 雑木林の落葉樹は、まだ小さな初々しい葉を出している。イロハカエデは、鮮やかな透き通った萌黄色(もえぎいろ)。コナラの葉はまだ小さく閉じて裏葉柳(うらばやなぎ)。花の散ったヤマザクラは浅蘇芳(あさすおう)。コバノミツバツツジは若葉色(わかばいろ)。まだまだ、いろいろな新緑の色。新緑色に多くの名があるのを知ったのは、このすぐ西の「神戸市立森林植物公園」に昨年行ったときのことであった。クスノキやカシやシイなどの常緑広葉樹も古い葉を落とし、新しい葉を開き始めている。これに、ツガ・スギなどの針葉樹の濃い緑が混じり、またところどころにはカスミザクラやタムシバの白い花やミツバツツジの薄紫の花が色を添えている。山は、春のまだらに染まっていた。
 徳川道、そして桜谷道と進んだが、桜谷道ではここまでの疲れが出て、娘も私もかなりばててしまった。幾度も休みながら、親子手をつないで頂上をめざした。
 下山は、ロープウェイとケーブルカー。摩耶山頂と山麓を結ぶこのラインは、阪神・淡路大震災で被害を受け長らく運休していた。それが、この3月17日に駅舎も新しく生まれ変わって運行が再開された。ロープウェイは、緩やかに放物線を描きながら六甲の豊かな森林の上をすべるように降りていった。開かれた窓からの風に帽子が飛ばされた(車内に落ちました)。乗り継いだケーブルカーは、時々曲がりながら、緑のトンネルの中を駆け下りていった。神戸の街がどんどん大きくなってくる。待ち望んでいた運転の再開と心地の良い緑の風……車内のどの顔も喜びに満ちていた。

山行日:2001年4月15日
スミレ タチツボスミレ
コバノミツバツツジ テングチョウ



山 歩 き の 記 録
行き:新神戸駅布引の滝登山口〜布引雌滝〜布引雄滝〜布引貯水池〜市ヶ原〜地蔵谷分岐〜(トゥエンティクロス)〜森林植物園入口分岐〜(徳川道)〜桜谷出合〜(桜谷道)〜摩耶山三角点(698.6m)〜摩耶山掬星台(690m)
帰り:「星の駅」〜(摩耶ロープウェイ)〜「虹の駅」〜(摩耶ケーブルカー)〜「摩耶ケーブル駅」
ロープウェイ
ケーブルカー
 JR新神戸駅の駅前の駐車場に車を止める。「布引の滝登山口」と書かれた駅の高架下をくぐり、生田川に沿って歩き始め、「板子橋」で左岸へ渡る。板子橋には「生田川自然のガイド」の案内板があり、生田川が断層に沿って流れていることが説明されていた。そこからすぐ、布引の滝に達する。布引の滝は、下流から雌滝・鼓滝・夫婦滝・雄滝の4つから成っている。中でも、雄滝が圧巻である。下から見上げた雄滝を右に高巻くようにしてつけられた遊歩道を登っていく。「久かたの天津乙女の夏衣 雲井にさらす布引のたき (藤原有家)」。古人にも愛されたこの滝の周遊道には、多くの歌碑が立ち、娘と一つ一つ読みながら歩いていった。
 雄滝を越えて進むと、石がきれいに積まれてできたダムが見えてくる。布引貯水池である。まだ先は長いが、ここで弁当を食べる。貯水池の湖畔を歩き、布引谷(生田川)に沿って登っていく。河原の広くなったところでは、多くのハイカーが賑わい、子供達の歓声が聞こえていた。地蔵谷分岐を越えると、トゥエンティクロスがスタートする。高雄堰堤の手前が1回目の渡渉、「飛び石渡し」で川を越える。河原を歩くことはあまりなく、谷に沿って快適な道が続いている。5回目、最後の渡渉は木の橋を渡り、森林植物園入口の石柱の立つ分岐にでる。ここから、さらに生田川に沿って徳川道を歩く。雑木の下にササが増えてくる。平坦に近い緩やかな勾配の快適な道である。やがて桜谷出合に着く。ここで、生田川本流に別れを告げ、桜谷を登っていく。ここからはかなり急傾斜。ここまでの疲れも出てきて、登っても登っても山頂が遠い気がした。「産湯の井」を過ぎて、ようやく車道にでる。摩耶山の山頂あたりは電波塔やちょっとした遊園地、ロープウェイ駅などが並び、少し複雑であった。摩耶山の僧が山中に出没する天狗を封じ込めたと言い伝えられる「天狗岩」の横に、698.6mの三等三角点が立っていた。
 神戸の夜景が美しく、手を伸ばせば星が掬えるように見えることから名付けられたのが「掬星台(きくせいだい)」。この展望台に立つと、神戸の街と大阪湾が一望できる。展望台のすぐ下には、アセビの白い花が群がって咲いていた。
   ■山頂の岩石  白亜紀 六甲花崗岩 黒雲母花崗岩

 摩耶山は2種類の花崗岩類でできている。布引の滝や布引貯水池周辺の岩石は、白色の鉱物と黒色の鉱物が混じった岩石で、全体的には白っぽく見える。これは、花崗閃緑岩である。白色の鉱物は斜長石とカリ長石、灰色でガラスのような透明感のある鉱物が石英、黒色で表面がヌメッと平らに割れている(劈開)のが黒雲母、黒色で長細く縦に細かい割れ目(劈開)があるのが角閃石である。この花崗閃緑岩は、領家新期花崗岩で、菊水山南麓あたりから再度山南麓を通り摩耶山南麓にかけての地域に分布している。
 トゥエンティクロスを歩いていると、途中からピンク色をした岩石に変わる。これは、花崗岩(六甲花崗岩)である。岩石がピンクっぽく見えるのは、六甲花崗岩の特徴であるピンク色のカリ長石を含んでいるからである。黒色の鉱物は、ほとんどが黒雲母であり、角閃石は少ない。また、花崗閃緑岩に比べると黒色の鉱物の割合が少なく、石英の割合が多い。
 六甲山地には六甲変動による多くの活断層が走っている。今回歩いたコースでは、新神戸駅の下を諏訪山断層が、布引池を布引断層が走っている。
 

TOP PAGEに戻る登山記録に戻る