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砥堀谷川 |
ミヤマカラスアゲハ |
その先は、再び岩の間を水が流れる渓流となった。
「そうめん滝」の標識が立っていた。落差わずか数十cmの落ち込みが何段か続き、その上を水が流れ落ちている。
「これが、そうめん滝?」と思うかもしれないが、そうめん滝とはここだけをさすのではなくて、砥堀谷川のこのあたり一帯につけられた名前である。
「なんでも昔、姫路城の殿さんが上流から素麺(そうめん)を流して下流でそれを食べたことがあるというのでこの名がついた」といわれている(「近畿自然歩道案内板」より)。
ここで、川を反対側へ渡らなければならない。1m余りのジャンプだが、着地点の岩が濡れていて滑りそう。思い切ってジャンプ!無事だった・・・。が、そのあと岩の上を歩いていると、すてんと滑った。
いったん車道に上がり、すぐまた川へ下りる。今度は、頭上の枝にぶら下がって流れを渡った。
平らな岩盤を水が滑るように流れる滑滝があり、そこを過ぎると「岩滝橋」が架かっていた。
岩滝橋の上流にあるのが、「岩滝」。岩の割れ目を水が走り落ちて、折れ曲がったところで岩にぶつかってはしぶきを跳ね上げている。
そうめん滝のクライマックス。ここもそうめん滝の一部だが、「岩滝」と特別に名前がついている。
この日は、前日までの雨で水量が増し、水の流れに勢いがあった。今日、ここで素麺を流したら殿さんはきっと困った。流れが速すぎて、素麺を取れそうにない。だいいち、白い飛沫に隠れて素麺は見えないだろう。
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そうめん滝(標柱の立つ地点) |
そうめん滝「岩滝」 |
岩滝橋を渡ったところが増位山への登山口。近畿自然歩道の案内板が立っている。道の脇は、山の斜面から滴り落ちてきた水で濡れ、いろいろなシダが生え、岩はコケにおおわれていた。サワオトギリが黄色の小さな花をつけていた。
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コムチゴケ |
サワオトギリ |
道は、谷沿いに上っていた。谷には、水が音を立てて流れている。地面は濡れ、雑木林の中は、しっとりと湿っている。こんなところは、シダやコケが楽しめる。
ヤマヤブソテツが生えている。ゼンマイは、枯れた胞子葉をまだ残していた。
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ヤマヤブソテツ |
ゼンマイ |
ベニシダが多かった。葉裏のソーラスは、まだ紅色で包膜におおわれているものから、茶色になってはじけているものまで、熟し方がさまざまだった。
1本のベニシダが、風と同期してしばらくの間、メトロノームのように左右に揺れていた。
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ベニシダ |
シシガシラやキジノオシダが生えていた。
ウラジロが多くなってきた。斜面がウラジロの群落でおおわれているところがあった。ウラジロのソーラスは、つやっぽい緑色の胞子嚢が3つ4つ集まっていた。
道は、しだいに狭くなっていった。背丈以上のウラジロが道に張り出し、ウラジロを分けて進むと体も濡れた。
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シシガシラ |
ウラジロの斜面 |
谷にはまだ水が流れていた。流れに架かる小さな橋を何度か渡りながら登っていく。流れの脇の岩上には、ゼニゴケやシャクシゴケ。
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シャクシゴケ |
尾根に出ると、風を感じた。いくつかの分岐を過ぎると、古墳のある分岐に達した。道標や案内板、ベンチなどがあってなかなかにぎやかだ。
古墳は、盛り土が失われて石室が表れていた。このあたりの古墳は山裾に多いが、このように山上にもいくつか見つかっている。
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山上の古墳 |
古墳のある地点は、隋願寺と増位山の分岐になっている。小さな池もあって、シオカラトンボが飛んでいた。池の上のコナラの木にコゲラが止まった。
増位山を目ざして南へ進んだ。
平らな道に続く坂道をひと上りすると、増位山の山頂に達した。
三角点の横のベンチは、ちょうど日陰になっていた。リュックを下ろす。
東から南の展望が大きく広がっていた。東には、畑山、笠松山、善防山、高御位山と並んでいる。
南に目を移すと、市川が山裾から現れて川岸の緑の中を流れ下っている。市川の向かう先には、小富士山と仁寿山。
今日は遠くまでよく見えた。小富士山の上、播磨灘に上島が丸く浮かんでいる。そこから右へ、クラ掛島。発電所の煙突が工業地帯から海に突き出していて、その右に2つコブの太(ふとん)島と、3つコブの加島が重なっていた。
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太島(前の2コブ)と加島(後の3コブ) 右は男鹿島 |
海の色は手前が白く、沖に行くにしたがってだんだんと青くなり、水平線近くで再び白くなって空の雲と溶けあっていた。
キアゲハ、アオスジアゲハ、モンキアゲハ・・・。山頂には、アゲハチョウが飛んできては、しばらく舞ってからどこかに消えていった。
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増位山山頂 |
『はりまなる 糸の細道 わけ行ば とおりに見ゆる 有明けのそら 業平』
『天照らす 神さへこゝに 有明の 月もさへぬる 秋の夜のそら 西行法師』
山頂には、新しい句碑が二つあった。「播磨鑑」に載っている、在原業平と西行法師の句である。砥堀から続く「糸の細道」からこの山頂は見えないので、有明山は増位山の北東164mピークあたりをさすのかもしれない。播磨鑑には、有明山を「増位山ノ内 北ノ嶺ヲ云 神明の宮あり」としている。
「糸の細道」を通って、砥堀に下ることにした。始めは、ときどき現れる赤や黄のビニールテープを頼りに踏み跡をたどったが、途中ではずれてしまった。
急なヤブの斜面をそのまま下っていくと、ちょうど春川神社に出た。