来日岳(566.7m)   豊岡市      25000図=「城崎」


紅葉の尾根をたどって山上の八畳岩へ

来日岳遠望

 六方たんぼから遠くに見えた来日岳は、車が玄武洞の脇を抜けると、円山川の対岸に大きくなった。朝もやがようやく晴れ、それまでモノトーンだった山影に色彩が現れた。赤や黄に色づいた夏緑樹が、常緑樹の緑と溶け合うようにして、その山肌を鮮やかに染めていた。

 登山口には、古い標識が立ち、二体の石仏が祀られていた。
 いきなり急な上りが始まった。道の傍らには、フユイチゴの実が熟し、それを口に入れると甘酸っぱくなつかしい味がした。木々の枝葉のすき間から、円山川の水面が光っている。ひと登りすると小さな尾根に達し、そこからは円山川に背を向けてその尾根を登った。
 カマツカの葉がオレンジ色に染まっている。タカノツメの黄葉が際立っていた。汗ばんできた体に、樹間を抜けて吹き上げてくる風が心地よかった。

円山川と来日岳 二体仲良く

  「天望」の標識の横に立つと、そこから続く尾根の向こうに来日岳の山頂が見えた。
 道の両側に、岩が壁のように立っていた。火砕流によってできた岩石で、火山礫や火山岩塊が表面に飛び出してゴツゴツしている。その岩の回廊を抜けて、さらに続く尾根道を登った。石仏は、ほぼ等間隔に置かれているようだった。どれも風化にじっと耐えて、静かに立っていた。

 急坂を登り切ったところが「304mの頭」。ここに立つコナラは、一本での木でも葉の色が緑、黄、茶とさまざまで、音を立てて風にそよいでいた。
 道は、ゆるくなった尾根に背丈ほどのササが切り払われて続いていた。こずえの上の空が、青く晴れてきた。足元に、ミヤマシキミが赤い実をつけていた。
 やがて下りに転じた。250mコルには、「中間点」の標識が立っていた。さあ、ここから山頂までは登り一方。道を歩けば、落ち葉を踏む音。ウラジロの緑が、木漏れ日を反射してまぶしい。アカガシの木は古く、樹皮がはがれかかっていた。

 419mの肩で一休みした。コハウチワカエデやウリハダカエデの紅葉が、青空をバックに美しい。コゲラが、木を上りながら幹をつついていた。鳥の声を聞こうと耳を澄ましていると、山陰線を走る電車の音が小さく聞こえてきた。

コハウチワカエデの紅葉 ウリハダカエデの紅葉

 ご夫婦の二人連れに追いつかれた。石仏の写真を撮っているのだという。
 山頂に近づくと、ブナの木が現れた。ブナの根元に立って見上げると、幾本にも分かれた枝が曲がりくねって四方に広がり、色づいた葉が陽光を透かしていた。

山頂へ
 山頂の手前には、展望台が建てられていた。展望台に上ると、北東に日本海を望むことができた。円山川の河口に津居山湾が湾入し、その向こうに久美浜湾が見えた。丹後山地は、青く薄くなりながら幾重にも山並みを重ねていた。

 一等三角点の埋まる山頂は、林立するアンテナの中にあった。14体の石仏がきれいに並んでいる。登山口に、「頂上まで健脚 1時間40分」とあったが、2時間45分かかってようやくここへたどり着いた。

 来日岳の山頂には、「八畳岩」と呼ばれている岩がある。山頂にいた地元の方に、先ほどのご夫婦と一緒に案内してもらった。その岩は、山頂から東へ標高で30mほど下ったところにあった。
 上面の広さは4m×1mほど、高さ2mほどの岩が、山の斜面にぽっこりと飛び出している。岩の上に立って下をのぞきこんでみると、前がすっぱりと切れ落ちている。高度感あふれる、展望の所であった。
 展望を楽しむ前に、岩を調べてみた。岩石は流紋岩。縞模様は、マグマの流れを示す流理構造である。ぶつぶつと小さな穴が開いているのは、球顆による。岩の表面には、ごく小さな水晶の結晶が光っていた。
 岩の下に下りてみた。八畳岩の高さは、10mぐらい。その下にも、2つ3つの岩が重なり、八畳岩を支えている。八畳岩の下には、太子像の石仏と不動明王が陰刻された石板が祀られていた。
 再び岩の上に立った。尾根と谷が複雑な地形をつくって円山川に落ち込んでいる。円山川は、ほとんど流れていないかのように静かに水をたたえていた。

八畳岩の上で 八畳岩からの展望
 ロープウェイで下りることにしていた。山頂を西へ少し下ったところから古い尾根道に分け入ったが、その道は草木に深く覆われていた。朽ちかけたあずま屋や標識、それに尾根に沿って並ぶコンクリートの円柱が、かつてそこに道があったことを教えてくれた。
 尾根道をあきらめ、それに沿うようにして伸びている車道を下った。紅葉平からしばらくは尾根道が残っていて、車道をショートカットすることができた。

城崎温泉ロープウェイ
 大師山から、ロープウェイで城崎温泉へ下りた。
 山麓駅の下には、「元湯」として源泉が岩の上から湧き出していた。周辺はポケットパークとして整備され、温泉卵をつくったり足湯につかったりして観光客が楽しんでいた。
 「Chaya」で、マンゴジェラートを買って、私も少しだけ温泉気分を味わった。

山行日:2009年11月8日
全但バス「来日」のりば〜登山口〜304m点〜中間点〜419m点〜来日岳山頂〜八畳岩〜460m点〜紅葉平〜261m点〜231m点〜大師山=(城崎温泉ロープウェイ)=城崎温泉〜全但バス「来日」のりば
 全但バス「来日」のりばの横に、狭い駐車スペースがあった。今回歩いたのは、ガイドブックに載っている一般的なルートである。要所に案内板が立ち、ところどころに祀られている石仏が山頂まで案内してくれた。
 来日岳山頂から、ロープウェイ山頂駅のある大師山までの尾根道は、ほとんど消えかかっていた。並行して伸びる車道を歩いたが、紅葉平からしばらくの間は古い尾根道を利用した。 
山頂の岩石(八畳岩) 新第三紀鮮新世 照来層群高山累層 球顆流紋岩
八畳岩の球顆流紋岩
 来日岳の山頂付近には、照来層群高山累層が分布している。その岩石は、八畳岩で詳しく観察することができた。
 八畳岩は、球顆流紋岩でできている。表面に見える縞模様は、マグマの流れを示す流理構造である。径数mm〜1cmの大きさの球顆を多数含んでいる。球顆は、外側を白色の玉髄が囲み、その内側に小さな水晶の結晶がついている。水晶は、皮膜状の褐鉄鉱におおわれていることもある。小さな球顆は、玉髄や石英によって埋められているが、大きさが5mm以上のものは内部が空隙となっている。

 標高の低いところでは、北但層群に属する安山岩や石英安山岩などの溶岩、火山礫凝灰岩や凝灰角礫岩などの火砕岩、泥岩や礫岩などの屑砕岩が観察された。

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