黒鉄山(430.9m)・百間岳(435m)    赤穂市   25000図=「備前三石」


小島の浮かぶ播磨灘を一望

百間岳より黒鉄山を望む

 新幹線の線路を背に、登山口からゆるく登っていった。車でも通れそうな広い道が、折れ曲がりながら浅い谷を上っていた。
 道に降り積もったアベマキの葉が、表と裏の色の濃淡で細かな模様をつくっている。モチツツジが、やわらかなピンクの花をぽつぽつとつけていた。
 鍋森神社の赤い鳥居を過ぎると、道は少し急になった。落葉の種類が、コナラやクリに変わった。その上に、ヤブツバキが一つ二つ、赤い花を落としていた。
 丸太階段を登ると、踏みしめた落葉が乾いた音をたてた。

 谷は深くなり、もうだいぶ前から道は細くなっていた。沢の右の急な道を登っていく。落葉の下には角のとがったガレ石が多くて歩きづらい。
 葉をすっかり落としたムラサキシキブが、実だけを枝につけていた。

 尾根に近づくと谷は再び広がり、道はガレ石の斜面をジグザグに上っていた。
 ヤブツバキのなめらか樹肌を木漏れ日がまだらに照らし、その白さを際立たせている。樹冠を見上げれば、ヤブツバキの緑とコナラのオレンジとその上に広がる空の青が、きれいな色のコントラストをつくっていた。メジロが、木々の枝を渡った。

ヤブツバキの林 ヤブツバキの緑とコナラのオレンジ

 尾根に達したところが笹谷分岐。帰路は、ここから笹谷へ下りることにしている。
 尾根を山頂へと向かった。コシダの中の細い道。傾斜がゆるくなり、道のガレ石もなくなって歩きやすい。
 反射板の脇を抜けると、その先に見える低い丘が黒鉄山(くろがねやま)の山頂だった。

 山頂は、腰の高さほどの低い木の中に、背の高いアカマツがまばらに立っていた。地面には、白っぽい岩が点在している。

黒鉄山山頂

 三角点の南側に、長方形のベンチのようなものがつくられていた。この鉄板の上が一等席。ここに座って、お昼とした。
 正面に、播磨灘が逆光をまぶしく反射していた。千種川がゆったりと赤穂湾に流れ込んでいる。湾の先には、カキいかだが点々と列をつくっていた。
 赤穂湾の西には、低い山並みがゆるく起伏して重なっている。陸続きのように見える鹿久居島は、その先端を海に沈めていた。
 鹿久居島の向こうには、小豆島が薄くなって浮かび、星ヶ城山の頂には雲がたなびいていた。
 山頂で風景を眺めている間も、下を走る山陽道から車の音が絶えず聞こえていた。ときどき、新幹線が低い音をうならせて走り抜けた。

黒鉄山山頂より播磨灘を望む

 黒鉄山から細い道を下っていくと、前に百間岳が見えた。
 百間岳の山頂部は舟形をしていて、その中ほどに一つの大木が船のブリッジのように飛び出していた。

登路より見る百間岳

 ヒサカキのトンネルの中を進んだ。やがて道は急な下りとなった。ウラジロに半ば埋もれるように下るとコルに達した。
 コルあたりは、道が不明瞭だった。赤いテープを頼りに進んだ。
 コルから上り返しの道は、左右から木々がせまってあたりが見えなかった。尾根が広がっていて地形がわかりづらいので、ときどき地図とコンパスを出した。
 420mピークはヤブの中。そこを少し下ったところに、一輪のシハイスミレが咲いていた。

シハイスミレ

 次の410mピークは、その北東側に巻き道がつけられていた。ウラジロを分けて進んだ。
 道が上りに転じると、木々の高さが低くなり、しだいに風景が広がってきた。数羽のエナガが、何かをついばんでは、忙しく木々の枝を移った。

 百間岳の山頂は、広くてゆるやかなスロープの中にあった。標高435m、赤穂市の最高峰である。
 いちばん高いと思われるところにケルンが積まれていた。ケルンの前には、赤っぽい岩盤が広がっていた。
 あたりにはウバメガシが多く、その小判のような落葉が地面を埋めていた。カナメモチが、赤い実をつけていた。

百間岳山頂

 百間岳の山頂から、再び播磨灘が見渡せた。黒鉄山で見たときより太陽が傾いたためか、家島諸島の小島がくっきりと見えた。
 ここからの角度だと、遠い島ほど上に浮かんで見えるので、それらの位置関係がよくわかった。
 遠くに桂島、松島、小ツフラ島、大ツフラ島、長島、三ツ頭島。それらの手前に、院下島、黒フゴ島、高羽島、金子島、小松島。
 桂島は、背後の松島に重なって、双眼鏡でやっとその輪郭が確認できた。黒フゴ島は、海に没しそうなほど低かった。西島以西で、11の小島を数えることがっできた。

百間岳山頂より望む家島諸島
(マウスを写真に合わせて下さい)

 船のブリッジのように見えた大きな木は、山頂から少し下ったところに立っていた。そこまではわずかな距離だが、サルトリイバラの棘がズボンや服にからみつくけっこう厳しいヤブ漕ぎとなった。
 突然、ヤマドリが大きな音を立てて足元から飛び去った。私もびっくりして、大きな声をあげた。

 その大きな木は、シイの木だった。樹皮が縦に裂けているところもあるが、裂け目が浅いのでおそらくはコジイ。堅果の形を見ておかなかったのが悔やまれる。
 シイの木は、株から20本ほどに分かれた幹が空に向かって広がり、樹冠に葉をこんもりと茂らせていた。その下には、イノシシの大きなヌタ場。シイの木は、この山の主ともいえる見事な姿であった。

百間岳のコジイ

 今日はここでUターン。百間岳から黒鉄山を越して、笹谷分岐まで戻った。
 分岐から東の390mピークへは、道が判然としなかった。赤いテープや枝先の空き缶を目印に進んだ。
 390mピークからは、踏み跡程度の道が北へ下っていた。途中から谷の向こうの358mピークのピラミダルな形がどんどん大きくなった。
 湿った北面の尾根を、ウラジロをこぐように下ると、沢の音が聞こえ始めて笹谷に達した。

笹谷へ下りる

 ここからは笹谷の流れに沿った道。流れを何度か渡りながら下る野趣あふれる道だった。この谷にも、ときどきモチツツジが咲いていた。

笹谷に咲くモチツツジ

 左岸のやや高いところの道に出ると、そこから歩きやすくなった。
 県道に出て、湯ノ内の住宅街を抜けると、元の登山口までは近かった。 

山行日:2016年12月3日


行き:鍋森神社登山口〜鍋森神社鳥居〜笹谷分岐〜黒鉄山〜420mピーク〜百間岳
帰り:百間岳〜420mピーク〜黒鉄山〜笹谷分岐〜390mピーク〜笹谷〜鍋森神社登山口
 赤穂市西有年の鍋森神社の下に登山口がある。登山口には、車3台程度の駐車スペースがある。
 黒鉄山までの登山道は、よく整備されている。黒鉄山から百間岳までと、帰路の笹谷分岐から390mピークまでの間に、一部道がわかりにくいところがあった。

山頂の岩石 後期白亜紀  赤穂層  溶結火山礫凝灰岩
 黒鉄山から百間岳の山域には、後期白亜紀の赤穂層が分布している。

黒鉄山山頂の溶結火山礫凝灰岩
(横17mm)
 黒鉄山周辺は、強く溶結したガラス質の火山礫凝灰岩。灰色の緻密な岩石で、表面は風化によって白くなっている。溶結構造は風化面で観察しやすく、長さ数mm〜10mmの細長いレンズが多数含まれている。石英と長石の結晶片や、流紋岩や頁岩の岩片を含んでいる。岩片は、引き伸ばされているものが多い。

 百間岳付近のこの岩石は、熱水による弱い変質を受けて、赤褐色に変化している。最大10mmの火山礫を多く含み、その火山礫が表面にゴツゴツと飛び出している。石英の結晶片は残っているが、その他は変質していることが多い。
 赤穂層の年代は、8300万年前と測定されている。この赤穂層は、当時の火山活動によってできたカルデラを埋めた火砕流堆積物だと考えられている。

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