点名河内(562.6m) 市川町 25000図=「粟賀町」
静かに聳える無名峰
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| 点名河内 |
笠形山を下っているとき、もうその山のことを考えていた。
点名河内……。標高こそ526mと低いが、整った富士型の独立峰。
四辺は2つの川と2つの峠道に限られている。その平らな山頂部には4つのピークが緩く波打っている。山全体が深く樹林に覆われ、登路があるのかどうかも定かではない。
山々が赤や黄に染まり始めた秋の一日、「点の記」を参考にして点名河内の登頂を試みた。
東小畑集落の奥に角谷池がある。ひつじ雲と奥山を水面に映し、静かに水をたたえたこの池の畔に車を止めて歩き出した。
道は、東小畑川に沿って杉の林の中を北へ続いていた。道の土や落ち葉は朝露にしっとりと湿っている。一本のアケボノソウが道に咲いていた。マムシグサはオレンジ色の実をつけていた。
道の脇の流れはますます細くなってきた。水は川底の石の下からときどき湧き出してはちょろちょろと音を立てて流れ、そしてまたすぐに消えていく。
大きな黄色の葉を落としているのは、アカメガシワの木。アブラチャンが道の両側から枝葉を伸ばし、陽を透かして清々しい。
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| アケボノソウ |
アカメガシワの黄葉 |
河内方面への分岐には、小さな標識が掛かっていた。その標識に従って、細い峠道へ入った。
峠道は、アカマツ林の中を九十九折りに上っていた。古くは人の行き来が大分あったのか、その道は深く掘り込まれていた。道は谷から小さな支尾根に続いていた。伐採された杉の横たわる谷を右に見ながら上ると、焚き火跡の残る峠に達した。
いよいよ、ここから南へ主尾根をたどる。急な雑木の斜面。コナラやヒサカキの幹につかまりながら胸突きの坂を上っていくと、尾根上に切り開きが現れた。この切り開きは、急な尾根をずっと真っ直ぐに上っていた。
とこどき差す陽が、黄色に染まり始めた雑木の葉を浮かび上がらせた。深く積もる落ち葉の間に、シコクママコナがピンクの小さな花をつけていた。
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| 雑木の尾根 |
シコクママコナ |
そして、この尾根を上り詰めると山頂部の最初のピークに達した。そこだけがぐっと突き出た尖った高み。中心にツガの木が立っていた。
最初のピークを下って上り返すと2つ目のピーク。このピークは低いコブで、地形図には描かれていない。コバノミツバツツジの紅葉が、ときどき舞い落ちて地面で乾いた音を立てた。
3つ目のピークには岩が乗り、ここから展望が大きく開けた。北に笠形山が大きく裾野を広げ、その下を小世山のスロープが左から斜めに横切っている。
笠形山の山腹には、先日の校外学習で生徒といっしょに歩いた林道が長くゆるく上っている。今生徒たちと作っている文集の表紙にしようと、笠形山に向かって何回もカメラのシャッターを切った。
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| 第3ピークより望む笠形山 |
真っ赤に色づいたカエデの木の脇を下って上り返し、三角点のある最後のピークに達した。そこは、登頂プレートも何もない清らかな山頂だった。
四等三角点の標石が、4つの保護石に守られて静かに立っている。常緑樹の緑の葉に混じって、タカノツメの黄色、ナツハゼの赤褐色、ウラジロノキの茶色など夏緑樹の葉がさまざまな色合いで染まっていた。
山頂をときどき風が吹き抜けた。その風に木漏れ日が揺れ、樹上ではコナラの葉がカサカサと音を立てた。
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| 第3ピークより点名河内を望む |
点名河内山頂 |
※「点名河内」の山名について
この山の名前を町史などの資料で調べてみましたが、この山自体の記録がどこにも見当たりませんでした。「いちかわ図書館」のスタッフの小川さん・赤松さんに調べていただいたところ、次のようなことが分かりました。
『この山の名前はないようである。しかし、このあたりの山のことを東小畑では「大石ヶ谷」、河内では「フル屋の中尾」と呼んでいた』
森林組合などに尋ねるなど、いろいろと手を尽くして調べてくださった小川さんと赤松さんに感謝します。
山行日:2007年11月4日