虚 空 蔵 山 (592.0m)                  三田市・篠山市     25000図=「藍本」

芽吹きの春、酒滴神社から虚空蔵山へ

虚空蔵山 丹波岩(背景は六甲連山)

 桜の花が散ったかと思うと、草木の芽吹きがいっせいに始まった。水辺にも山々にも、日増しに若い緑が広がり、一日一日とその色彩を変化させている。今朝は、昨夜までの雨で洗われていっそう瑞々しく映える山の緑を目にしながら、虚空蔵山に向かった。

 武庫川を隔てた対岸から虚空蔵山を眺めた。トンネルから出た高速道路が山脚を一直線に横切っている。虚空蔵山は、その上に台地状の稜線をゆったりと広げていた。まだ枯れ枝も目立っているが、それでも朝日を浴びた山は、木々の芽吹きによる生命力にあふれていた。

 酒滴(さかたれ)神社から小さな沢に沿った小道に分け入った。ショウジョウバカマの紅紫色の花が、流れの傍に咲いていた。沢沿いの小道はやがて、沢そのものと区別がつかなくなり、山上の小さな池にぶつかった。
 そこから、コナラの落ち葉の積もった斜面を上ると、道のついた尾根に出た。コバノミツバツツジの咲くその尾根を上ると359mの小さなピーク。そこから道はさらに明瞭になり、登山道(裏参道)に合流した。古くからよく歩きこまれたこの参道は、まわりから50cmほども掘り込まれている。ときどき、その道にヤブツバキの花が色鮮やかに落ちていた。

酒滴神社 コバノミツバツツジ咲く小径を359mピークへ

 虚空蔵堂で一休みしたあと、堂の右脇から続く登山道を上る。急坂を上り切ったところに役行者の石像が祀られていた。少しの間ゆるやかに進むと、再び道は急坂となった。標高が高くなったせいか、このあたりのコバノミツバツツジはまだ咲き始めたばかりで、つぼみも濃い赤紫色で残っていたりする。まだ開いていない三枚の小さな葉は、葉裏の純白の毛を巻き込んで、上向きに立っている。タチツボスミレが道の横に咲いていた。
 主尾根に達すると、立杭の「陶の里」からの道に合流した。道標に、焼き物のプレートが使われているのが、この山らしくて嬉しかった。
 山頂手前の「丹波岩」と呼ばれている露岩の上に立った。虚空蔵山は、今からおよそ7000万年前の激しい火山活動によってできた溶結凝灰岩から成っている。岩石には、無色透明でガラスのように光る石英の結晶が、キラキラと入っている。岩体に見られる幅1〜5cm程度の平行の割れ目は板状節理である。丹波岩の外観は複雑だが、基本的にはこの板状節理によって形どられている。
 

丹波岩より望む北摂の山々
中央の吊尾根は千丈寺山、その奥に大舟山の山頂部が見える

 丹波岩の上からは展望が大きく開けている。
 眼下には、緑に水を湛えた四斗谷川が緩やかに流れている。その向こうには上山(496.6m)や御嶽山(552m)などの丸い山が並び、三草山が奥に小さく見える。厚い雲におおわれて視程はあまり良くなかったが、それでも遠くに笠形山や千ケ峰が見えた。
 南には、北摂から東播にかけての広大な丘陵が続いている。丘陵地には深い緑の森が帯状に重なり、その森の間の低い部分には住宅やビルが密集している。丘陵の向こうには、丹生・帝釈山系と六甲連山が連なって長い稜線を引いている。雄岡山と雌岡山はつり橋のようなシルエットをつくり、さらにその先には淡路の山影が遠く霞んでいた。
 そして、東には千丈寺山、大舟山、羽束山……北摂の山々が幾つも重なって並んでいる。20万分の1の地形図を出して山座同定を試みたが、一つ一つのピークがどの山なのか、私にはとうてい分からなかった。空をおおった層積雲の間からこぼれる陽光が、複雑に起伏する北摂の山並みにまだら模様に射し込み、連なる山々の景観にさらに変化をつけていた。

 たどり着いた虚空蔵山山頂では、近畿自然歩道の眺望図を設置する工事がちょうど行われていた。しばらく、その工事のようすや周囲の山々を眺めてから、アセビの咲くこの山頂を後にした。

八王子山三角点 下山コースより虚空蔵山を振り返る

 八王子山、山上山を経由して油井に下った。山上山を越したところで雨に遭った。車での帰路、雨上がりの空に右脚だけの虹が鮮やかな色彩でくっきりと立っていた。

山行日:2003年4月21日

山 歩 き の 記 録

酒滴神社〜359mピーク〜裏参道との合流点〜虚空蔵堂〜丹波岩〜虚空蔵山山頂〜14番鉄塔〜八王子山(Ca.540m)〜八王子山三角点(496.1m)〜17番鉄塔〜417mピーク〜山上山(Ca.390m)〜油井

 酒滴神社(地形図JR藍本駅のすぐ南の神社記号)の境内横に車を止める。ここから、神社北の小さな沢に沿った道に分け入った。初めは明瞭だった道は、やがて沢そのものと区別がつかなくなり、山上の小さな池に行く手をさえぎられた。池の左手の斜面を雑木をかき分けて上ると、道のついた小さな尾根に達した。この尾根を、少し上った所が359mのピーク。ここから、尾根上の道を西へ下ると登山道(裏参道、地形図破線路)に合流した。
 この裏参道は、虚空蔵堂(地形図卍記号)の石段につながっていた。虚空蔵堂の右脇より虚空蔵山山頂まで明瞭な道が続いている。

 山頂からは、北へ主稜線を辿った。Ca.540mの八王子山は、高くそびえている。これを越して下り、やや上り返すと496.1mの八王子山三角点に出た。ここからさらに尾根を北へ進む。途中で大きく東へ曲がって417mピークへ上る。ここから北へ進み、山上山(Ca.390m)を経て油井へ下りた。

 JR草野駅から藍本駅までは、電車を利用して帰った。

   ■山頂の岩石■ 流紋岩質溶結凝灰岩 (白亜紀 有馬層群平木溶結凝灰岩)

 虚空蔵山には、約7000万年前(白亜紀後期)の有馬層群平木溶結凝灰岩が分布している。激しい火山活動による火砕流で形成された岩石である。

 岩石は緻密で硬く、帯紫灰色をしている。岩石中には2〜3mmの粒状の石英の結晶片が多く含まれ、これらがキラキラと光ってよく目立つ。石英以外には、白濁した長石の結晶片や、黒雲母・角閃石の小さな黒色の結晶片も多く含まれている。溶結凝灰岩に特徴的なユータクスチック組織が、肉眼で一部に認められた。
 丹波岩や山頂の岩体をはじめ、尾根付近でみられた岩体には板状節理が著しく発達している。板状節理の幅は、1〜5cm。節理面は急傾斜であり、丹波岩ではN20°E、70°〜80°Wであった。

写真:虚空蔵山山頂の岩石
大きな粒は石英と長石。石英は、無色透明だが写真では黒っぽく見える。白い粒は長石。黒雲母や角閃石は、細かく黒い点として見える。

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