再度山(470m)・鍋蓋山(486.2m)・菊水山(458.8m) 神戸市  25000図=「神戸首都」


毎日登山とJAZZ喫茶、文化の薫る西六甲の山を歩く

菊水山山頂から見る神戸市街地

 電車の窓から、菊水山がビルの谷間にちらりと見えた。その東に連なる摩耶山の頂は、雲におおわれていた。

1.再度山へ
 JR元町駅で降りて、神戸の市街地をゆるく上っていくと、15分ほどで大師道の入口に着いた。六甲の山は、アプローチが短い。

朝の元町を歩く

 神戸山手学園を過ぎたところに、弘法大師のレリーフが浮かび上がった「二十丁」の丁石が立っていた。
 大師道は、弘法大師ゆかりの道である。大師道が通じている再度山(ふたたびさん)の名も、弘法大師が唐へ留学する前にここで修行し、帰国後ふたたび登ったという伝承にちなんでつけられた。

 道は少しずつ傾斜を増してきた。毎日登山の人たちが、次々と下りてくる。この道は、毎日登山発祥の道であり、早朝の登山は今も世代を越えて受け継がれている。
 沢の水音が大きくなったと思ったら、堰堤を過ぎたところに滝がかかっていた。「十七丁」あたりでも、民家がぽつりぽつりと続いた。道端にはツユクサが花をつけ、流れの脇にはアジサイが咲いていた。
 燈籠茶屋の手前で橋を渡ると、石を並べて段のつけられた道が沢に沿って上っていた。モミジの葉をくぐって登っていくと、その道は流れの傍に出て、そこは開けた休憩所になっていた。
 そこからも道は、流れに沿っていた。左岸から右岸へ、あるいは右岸から左岸へと沢に架かる橋を渡りながら登った。道の落ち葉やその下の土は、じっとりと濡れていた。
 二段になった滝は、その上の猩々池の落ち口から流れ出たものだった。猩々池の畔でひと休みする。コゲラが、道の向こうの木に止まり、幹をくるくる回りながら登った。

大師道を登る 猩々池

 猩々池を過ぎ、広いアスファルト道を登っていくと、思いがけなくお洒落な店が現れて、中からジャズの音が聞こえてきた。店の前に立てかけられたメニューにビールがあるのを見て、自然に足が止まった。
 店の名前は、「カフェはなれ家」。ご主人は有名なジャズトランペット奏者で、この店は昨年の10月にオープンした。ロッドスチュワートが歌うジャズを聴きながらビールを飲むと、別世界に迷い込んだかのようにいい気持になった。もっとゆったり、ゆっくりしたかったけれど、今日はまだ先が長かった。

カフェはなれ家

 はなれ家に別れを告げ、再び歩き出した。「一丁」から石段となった。「毎日登山壱萬回」の石碑を見て、スダジイの森を登ると、2本のイチョウの木の間に大竜寺の社殿が建っていた。
 さらに九十九折れに登ると、大師堂。大師堂から上は、さらに険しくなった。ビールを一杯にしておいてよかった………。
 再度山の山頂は、樹林が小さく開かれ、そこに神戸市道路公社の基準点が埋められていた。

2.鍋蓋山へ
 再度山の山頂から、西へ道が延びていた。イノシシが掘り起こした跡が道に沿ってしばらく続いた。この道を下ると、再度越の広い道に出た。
 コケとマメヅタにおおわれた石垣の並ぶこの道を北に進むと、修法ヶ原池の畔に達した。昼食には少し早かったが、ベンチに座っておにぎりを取り出した。
 池のまわりは公園になっていて、どこから集まってきたのか、多くの人がハイキング、犬の散歩、ジョギング、ベンチで昼寝と、思い思いに憩っていた。
 アカマツの木立を映した水面は、風が吹くとさざ波を立てた。池の上には青空が広がり、いつの間にか夏雲が湧いていた。足元には、ヒメヤブランが小さな花をつけていた。

修法ヶ原池 ヒメヤブラン

 再度越を戻り、六甲縦走路に出て西へ進んだ。道は、雑木林の中、ゆるやかに上り下りを繰り返しながら続いていた。暗い森の中も、木漏れ日が射し込むと緑の光が満ち溢れた。

 鍋蓋山の山頂は開けていた。三角点から一段下ったところにベンチが並んでいて、そこから南の展望が開けた。
 夏雲の底から、靄が垂れ下がり、神戸の街は白くかすんでいた。それとは対照的に、手前の森は波打つように眼下に広がり、緑を鮮やかに浮かび上がらせていた。
 山頂のベンチは、あとから登ってきた人たちですぐにいっぱいになった。

縦走路を鍋蓋山へ向かう 鍋蓋山山頂

3.菊水山へ
 鍋蓋山から西への道は、始めはなだらかだった。ふもとから、野球の声が風に乗って上がってきた。
 鉄塔を過ぎたあたりから、道は険しくなり、岩を伝うように下った。もう1本の鉄塔を過ぎるとさらに険しくなり、道は九十九折れになって下っていた。登ってくる人たちはみんな無言で、すれ違う時には激しい息づかいが聞こえた。
 やがて、天王吊橋に達した。渋滞気味の車の流れを下にして、吊り橋の上は涼しい風が吹き抜けた。

鍋蓋山より菊水山を望む 天王吊橋

 吊り橋を渡って、再び暗い森の中へ。堰堤でせき止められた池から、ウシガエルの鳴き声が響いた。
 木橋を渡って沢から離れると、一気の上りが始まった。途中から鉄製の階段が現れた。その上は、急な岩場だった。もうここは、陸上競技のトレーニングと思って脇目も振らずに登るしかない。
 ようやく傾斜がゆるくなった。そこから、ゆるく上ったり下ったりを繰り返しながら進んだ。道は、落ちたアカマツの新しい葉で敷きつめられていた。
 頂上直前の分岐で道を誤り、山頂の北東にある小さなピークに出た。地図に道の描かれていない無名のピークであるが、小さく開かれてベンチが一つ置かれていた。神戸の街も摩耶山方面の六甲の連なりもよく見えた。ツマグロヒョウモンが、去っていってはゆっくりと舞い戻る静かなピークであった。

 分岐に戻り、丸太階段を登りつめたところが、2基の巨大なアンテナの立つ菊水山の山頂であたった。
 アンテナの下が、北西方面の展望所となっていた。アンテナの南には、ゆるく傾いた広場が開かれ、その先に神戸の街がそのまま下りていけそうなくらい間近に広がっていた。
 一面の高層ビルの中に、ポートタワーや神戸大橋の赤色や、オリエンタルホテルや神戸海洋博物館の白い曲線が目立った。

菊水山山頂

 菊水山から南への下りも険しい道だった。アジサイの咲く公園風の場所に下り着いたが、そこに掛けられていた兵庫登山会の看板がおもしろかった。
 旧菊水山駅の脇を通り、六甲縦走路の標識をたよりに小さな峠を一つ越え、最後は森の中の古い道を歩いて神戸電鉄ひよどりごえ駅に達した。

下り着いた菊水山登山口 神戸電鉄

山行日:2011年7月23日

JR元町駅〜大師道入口〜猩々池〜カフェはなれ家〜大竜寺〜修法ヶ原池〜鍋蓋山〜天王吊橋〜菊水山〜神戸電鉄ひよどりごえ駅
 大師道の入口から、再度山に続くこの道を忠実にたどった。諏訪山公園から、ビーナスブリッジを通って大師道に出るのも魅力的なコースである。
 再度山から修法ヶ原池に寄ったあと、六甲縦走路を西へ、鍋蓋山、菊水山とたどった。菊水山から南に下り、ふもとの道を神戸電鉄ひよどりごえ駅まで歩いた。

山頂の岩石 後期白亜紀 六甲花崗岩
 大師道(再度谷)には、布引花崗閃緑岩が分布している。白い鉱物と黒い鉱物が混じった白黒の岩石である。白い鉱物は、斜長石・カリ長石・石英、黒い鉱物は角閃石・黒雲母である。
 この花崗閃緑岩の中には、数cm〜20cm大の黒色捕獲岩が普通に入っている。

 再度山や菊水山の山頂付近には、六甲花崗岩が分布している。ピンク色のカリ長石を含んでいること特徴で、岩石全体もピンク色に見える。カリ長石以外に、黒雲母・斜長石・石英が含まれている。

 鍋蓋山の山頂周辺では、六甲花崗岩の中でも細粒で優白質な岩相が見られた。主に黒雲母・斜長石・カリ長石・石英から成り、少量の緑簾石が含まれている。それぞれの鉱物の結晶の大きさは1mm以下のものが多いが、最大4mmの斜長石や石英の斑状結晶が含まれている。

 布引花崗閃緑岩は、領家花崗岩類に対比され、その形成時期は白亜紀中〜後期とされている。また、六甲花崗岩は、広島花崗岩に対比され、その形成時期は布引花崗閃緑岩より新しく、白亜紀後期とされている。

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