笠形山B(939.4m) 市川町・神河町・多可町 25000図=「粟賀町」
笠形山、校外学習下見の記
 |
 |
| クリンソウ |
アケボノソウ |
秋の昼下がり、「リフレッシュパーク市川」から笠形山へ向かった。4日後に迫った校外学習『ふるさとの山に登ろう、ふるさとを山上から眺めよう』の下見である。
アスファルト舗装の林道を北へ向かった。民家が途絶えてしばらく行ったところで、道は河内川から離れた。そこから道は、等高線に沿うように大きく蛇行しながら緩く上っていた。
単調な林道歩きであるが、それでも周囲には秋の気配が漂っていた。ススキの穂が開き、西へ傾き始めた陽に光っている。アザミがあちこちに白い綿毛をつけていた。
細い水の流れの傍に、アケボノソウやミゾホオズキが咲いていた。
そして、鮮やかな紅紫色の花弁をつけたクリンソウ。こんな時期に、クリンソウに出会えるとは思っていなかった。あと4日、ここに咲いていて欲しいと願った。
林道脇から一筋の水が飛び出していた。「クマザサの水」……クマザサの広がる鹿ヶ原あたりで地面に染み込んだ水が地下の水脈となって下り、ここに湧き出している。雨が何日も降らなくても、枯れることないという。口に含むと、ほのかに甘い感じがした。
林道は、地形図に描かれた先端からさらに伸びていて、瀬加と根宇野を結ぶ峠に達していた。
小さな石の祠に一体の石仏が祀られていた。石仏の首は欠け、体も風化によってその輪郭がくずれかけている。もう誰も通らなくなったこの峠に、それでもじっと立っている。
林道終点からは、幅2mほどの作業道が山腹斜面を東へ九十九折れに上っていた。
初めは急坂。石がごろごろ転がっていて歩きにくい。あたりはスギの植林が広がっている。下層には、わずかにナツハゼやヒサカキ、サルトリイバラなどが生えている。700mを越えた頃からアセビが混じりだした。
道は予想に反して尾根を通っていなかった。尾根の南側斜面を、いくつもの谷の頭を巻くように北に南に曲がりながら、笠形山をめざしていた。高度計とコンパスを使ってコースを地形図にトレイスしていくが、なかなか難しかった。
雲間から日が射し込むと、土の上の小さな石英の粒がキラキラと光った。
道の真ん中に、一株のセンブリが咲いていた。
標高720mあたりの水平に近い道を東へ進んでいくと、水の流れに出た。褐色のさび色の浮かんだ岩盤をわずかの水がちょろちょろと流れている。鹿ヶ原から流れてくる河内川源流の水である。
方向を北東に変え、この流れに沿って緩く上っていった。丸木橋を渡ってこの流れを渡ると、大きなアセビの木の下で登山道と合流した。
登山道を北に向かうと、急坂を丸太階段が上っている。息を切らしながらアセビとアカマツの林をひと登りすると、傾斜が緩くなり鹿ヶ原へと入っていった。
鹿ヶ原には、背丈ほどの枯れたクマザサが広がっていた。鹿ヶ原の出口には木の門柱が立ち、赤く紅葉した一本のシラキがその門柱をおおっていた。
枝から垂れ下がった果実がおもしろかったので、一つ採って家に持ち帰ったら、二日後にその果実が裂けて中からまだら模様の種子が三つ出てきた。
 |
| シラキの紅葉 |
ヒノキの植林を抜け、雑木林を上ると丸く開けた笠の丸に達した。ここで、あずま屋の下のベンチに座り一休みした。
笠の丸から北へ下った。アセビは樹皮がはがれ、ネジキのように木肌がねじれている。アカマツ、リョウブ、ミツバツツジ、イヌツゲ……、緑に囲まれた道を進んだ。タカノツメの葉が、わずかに黄色に染まっていた。
コルから急坂を上り返した。道には、板状節理の発達した溶結凝灰岩が飛び出している。岩を越えて上っていくと、緑のトンネルの先が明るくなってきた。そこが笠形山の山頂だった。
笠形山の山頂で
 |
全天が雲におおわれ、山頂にはもう夕暮れが迫っていた。
南には、山々の間に市川・福崎の町並みが広がっていた。その先のずっと遠くに小さな黒い影が薄くかすかに見えた。それが播磨灘に浮かぶ上島だった。
双眼鏡で上島から右へ景色を追うと、太島、さらに家島。今度は左へ追うと、淡路島の山影がぼんやり浮かび、その先に明石海峡大橋が白いもやに溶け込むようにかすんで見えた。
辺りの山並みは、青色のモノトーンで幾重にも重なっている。
千ヶ峰が北東にどっしりと座っている。直線的に伸びる越知の谷の向こうには、小畑山や高畑山。
双眼鏡で、段ケ峰のなだらかな稜線を西へたどると、遠く離れた氷ノ山の山頂が千町ヶ峰の上にちょこんとわずかに乗って視野に入った。
ふと我に返ると、ここまで一緒に上がってきたK氏がベンチに腰かけてペンを持っている。
・名水「クマザサの水」の水温は何度でしょう?
・丸木橋に使われている丸太は何本でしょう?
・山頂の休憩所の青い屋根は何角形でしょう?
などなど、生徒たちに出すクイズはもうだいぶできたようだ。
周囲の山並みは一段と青みを増してきた。ススキの穂の揺れる山頂で、4日後の好天と生徒たちの無事を祈って下山の準備を始めた。
山頂では、ヒガラやエナガが木々の間を忙しく遊んでいた。
 |
 |
| 段ヶ峰を望む |
千ヶ峰を望む |
山行日:2007年10月14日