笠形山(939.4m)〜入相山(780.2) 神崎町・加美町 25000図=「粟賀町」「生野」
オウネン滝・扁妙の滝から笠形山へ地質の記
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グリーンエコー笠形のこいのぼり |
扁妙の滝 |
神崎町文化協会は、『かんざき夜話 自然編』の編集を進めている。その中で、私は神崎町の地質・岩石を「神崎町の成り立ち(仮題)」として著すことになった。そこで、今回の山歩きをその原稿風に記してみよう。
播磨平野を見下ろす笠形山は、その雄大で整った山容から「播磨富士」とも呼ばれています。登山口となる「グリーンエコー笠形」は、傾斜のゆるい開けた谷にあります。この谷は、氷期の凍結破砕によってできた岩屑に埋められたものでこのような地形を「麓屑面(ろくせつめん)」といいます。
笠形山へは、「グリーンエコー笠形」の最上部、オウネン平の白いコテージの裏手から登るのが普通ですが、その少し下の「オウネン滝入口」の標識のある氷池キャンプ場から登るのがおすすめです。
氷池キャンプ場から谷沿いに進むと、まもなく右手の崖に子育て観音が見えます。子育て観音の左右に塔のように立つ岩が、「夫婦岩」です。夫婦岩は、大きな岩が縦に積み重なっていてちょうど「だるま落とし」のようです。縦方向の節理によって岩が切れ落ち、横方向の節理によってできた割れ目に沿って風化・侵食が進みこのような「だるま落とし」になったのでしょう。近づいて岩の表面を見ると、水平方向に細長いレンズ状の穴が開いていることが分かります。これは、押しつぶされた軽石が風化によって抜け落ちた穴で、このことからこの岩が「溶結凝灰岩」であることが分かります。
子育て観音のすぐ先に、「オウネン滝」がかかっています。黒い岩盤を滑らかにすべり落ちる一筋の水の流れが、岩の割れ目によって途中から乱れ、涼しい音をたてて滝つぼへ下っています。
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夫婦岩と子育て観音 |
オウネン滝 |
オウネン滝の上に出て、沢に沿って進みます。辺りは角ばった岩が積み重なった岩屑帯で、谷底には大きな岩も見られます。岩屑の上につくられた遊歩道を歩いていくと、「扁妙の滝」の下に出ます。滝を見上げると、荒々しい岩壁の上を幾条にも分かれた水が岩角にぶつかりながら飛沫をあげて流れ落ちています。迫力あるこの光景は、しかし滝の下半分にすぎないのです。
滝の下には、崩れ落ちた岩が積み重なっています。ここで、岩を割って新鮮な面を出し、岩石の観察をしてみましょう。赤褐色の基質の中に、透明できらきら光る石英、白い長石、黒くて小さな黒雲母の結晶の粒が入っています。また、黒い頁岩や赤っぽい流紋岩などの岩片を多く含んでいます。岩石に名前をつけると、多結晶流紋岩質溶結凝灰岩ということになります。これは今から約7000万年前、白亜紀末期の大きな火砕流によってできた岩石で、笠形山のほとんど全体を含む広い範囲に分布しています。
滝の左手に、崖を上る道がついています。急な崖ですが、金属製の階段が設置されていて安全に上ることができます。尾根上の「滝見台」に立つと、落差65m、扁妙の滝の全貌が見えます。深い緑に囲まれた切り立った岩壁に、扁妙の滝は白い筋を長く引いています。
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滝見台から見る扁妙の滝 |
滝見台から道標に従って進むと、すぐに笠形山登山道に出ます。登山道を少し上ると、3合目の標識が立っています。この合目を示す標識は山頂まで続き、登山者のよい目当てとなります。4合目から5合目にかけては、谷の左の斜面をほとんど水平に進みます。5合目には、「水辺広場」の標識が立ち、屋根のある休憩所があります。ここで一休みしましょう。すぐ目の前を、沢の水が岩盤の上をゆるやかに流れ下っています。水の表面では、降り注ぐ陽光が屈折し波形を際立たせています。
6合目は、急傾斜の杉林の中です。この急坂を上りきり、緩くなったところに、登山者がその上に小石をケルンのように積み上げた大きな岩があります。この岩の表面にも、押しつぶされた軽石が抜け落ちた細長い穴が観察されます。
7合目あたりは不思議な地形です。標高800mあたりに緩斜面が発達しているのです。ゆるく上ったり下ったりしながらこの緩斜面をトラバースするように進むと、南の笠ノ丸から続く尾根道に合流します。コナラ、アセビなどにアカマツやモミの高木の混じる雑木林を山頂へ向かいます。登山道には、板状に割れた岩石が斜めに突き出しています。この割れ目は、溶結凝灰岩の板状節理によるものです。最後の急登を上りきったところが山頂です。
笠形山の山頂は、ぐるりと360度展望が開けています。北には、暁晴山、段ケ峰、千ケ峰、篠ケ峰など、播磨北部の名だたる山々が並び、南には播磨平野が広く見渡せます。よく晴れた日には、氷ノ山や明石海峡大橋を捜してみましょう。眼下には、越知川の開いた谷に沖積低地が細長く延び、道路に沿って民家が点在しています。
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山頂から見る神崎町北部の地形 |
笠形山の岩石をもう少し観察するために、東へ少し下ってみましょう。山頂のすぐ下には、「天狗岩」が斜面に立っています。
さらに、少し下ったところにあるのが「天邪鬼の挽岩」です。案内板には、この岩にまつわる伝説が次のように記されています。
『大昔、笠形山にアマンジャクがいた。笠形山から向こうの妙見山まで橋を架けるために、橋脚を立て橋板にする岩を板状に切り出した。準備が整って、いよいよ架橋に取りかかろうとしたとき、東の空が明けかけた。アマンジャクは、夜だけの生物なのでこの大工事はここで終わってしまった(要約)。』
これは、本当によくできた話です。案内板より上の岩石には板状節理が発達し、板状に薄い岩石が重なっています。その下の岩石には、縦方向に節理が発達し、そこには橋脚となる高さ5m程度の岩塔が立っているのです。岩石の産状と見事に一致した伝説に感心させられます。
さらに下ると尾根道にステゴザウルスの背のように岩の並んだところがあります。これも岩石の節理によってできた景観で、「龍の背」と呼ばれています。
「龍の背」の先の分岐を右に折れると、加美町の大屋へ下ります。また、尾根を真っ直ぐに北へ進み入相山を越えて高坂峠へ下ることもできます。グリーンエコー笠形へ戻るのなら、山頂へ上り返して来た道を帰ります。
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天邪鬼の挽き岩
妙見山は、写真中央やや左よりの上 |
天狗岩 |
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4月というのに、夏を思わせるような積雲が出て汗ばむほどの陽気であった。しかし、辺りは白くかすんで、この日は山頂から六甲山や瀬戸内海は見えなった。千町ケ峰のちょうど上に、雪を残す氷ノ山の白い山頂が双眼鏡でようやく確認できた。
この日、私は笠形山から尾根上の縦走路を入相山を越えて、高坂峠まで歩いた。アップダウンのかなり激しいコースで時間もかかり、入相山から下る頃には日が大きく傾き、自分の影が横の木立に映った。
山行日:2004年4月16日