笠 形 山 (939m) 市川町・神崎町・八千代町 25000図=「粟賀町」
笠形山、蓬莱岩の上に立つ
電車が姫路駅を出て少し東に動いたとき、何気なく景色を見ていた窓から、遙か北に笠形山が見えたことがあった。標高939m、播磨を西と東に分ける境界線上に位置する笠形山は、播磨平野のどこからでも望むことができる。南から見た笠形山は、頂上のやや右に小ピークを従えて稜線を緩やかに左右に流し、大きくどっしりとそびえている。北からの姿は、やや傾いた台形状の頂上ドームが印象的である。
白岩山から望む笠形山(2000年9月18日)
3年前に子供二人と、神崎町のグリーンエコー笠形の登山口から「扁妙の滝」を見て登ったことがあった。このとき、5歳の娘は初めての山登りで、頂上近くですれ違う人たちに「よくここまで登ってきたねえ。」と声をかけてもらうたびに、嬉しそうな顔をしていた。
今回は、市川町の笠形神社大鳥居から登った。笠形神社は、長くて急峻な参道を上った鬱蒼としたスギの木の中にあった。境内には、今から1300年ほど前に建てられたという4棟の社殿が建つ。中宮や拝殿の欄間などの彫刻は、まさに”精妙華麗”。鮮やかな新緑をつけたカエデの木からは、時折小さな花が散ってくる。ひんやりした空気と静寂。ボウ、ボウとツツドリの鳴き声が遠くで聞こえる。神聖で厳かな気配があたりに漂っていた。
笠形神社を過ぎ、薄暗いスギの植林地を登っていくと突然目の前が開け、斜面がササ原におおわれた地点に出た。883mの笠が丸までまだまだ急な上りが残っているが、ササ原と自然林の中の山歩きは爽快であった。ウグイスが、すぐ足下のササの中で鳴いている。姿を見ようと、しゃがみ込んだらさえずりが地鳴きに変わった。ヤマツツジが、深紅のつぼみをつけている。コバノミツバツツジの紫がかったピンクの花が咲き誇っている。薄褐色に枯れたアセビの小さな鈴のような花は、枝を軽く揺するとぽろぽろと降り落ちた。
蓬莱岩から山の斜面を見る
一等三角点のある頂上は、多くの人で賑わっていた。頂上のアケボノツツジは、その豪華な花をまだつけていた。七種の山々、明神山、暁晴山、段ヶ峰、千が峰……どの山も、今日は白く霞んでいる。山頂を北東に少し降りたところに突き出た「天狗岩」を見て、再び山頂へ。わずかの間に、また人が増えていた。ササを漕いで、「天邪鬼(あまのじゃく)の挽岩」を探したが見つけることはできなかった。
下山の途中に、「蓬莱岩」に寄る。蓬莱岩まで20mとの道標に従って岩がちの斜面を下りていくと、山の斜面に突き出た巨岩の上に出た。岩の上はほぼ水平、畳三畳ほどの広さがある。下を見下ろすと、ほぼ垂直に落ちている。高さは20〜30mもあるだろうか。誰もいないこの蓬莱岩の上に立った。高い……!。左右の山の斜面には、自然林が広がっている。萌葱色、若草色、若葉色、薄オレンジ色……山はまだらに染まっている。どの色も初々しい春の色である。、下には、畝のように連なる低い山々とその間を縫って流れる川。その先に広がる南播磨の土地は、茫洋として白く霞んでいる。斜面の下からは、気持ちの良い風が吹き上げてきた。麓の村の田を渡り、新緑の山の斜面を駆け登ってきた風である。私は、その風を2、3度、思い切り吸い込んだ。
山行日:2001年5月4日
山 歩 き の 記 録
寺家笠形神社大鳥居登山口〜笠形寺〜休み堂〜笠形神社〜笠の丸(883mピーク)〜笠形山山頂〜天狗岩〜笠形山山頂〜笠の丸〜鹿が原〜768mピーク〜蓬莱岩〜仙人滝〜寺家仙人滝コース登山口
岡部川に沿った道を上流に向かって進み、舟坂トンネル手前の橋を渡って右岸の道をさらに上る。橋から200mほど先の分岐を左に上ると、大鳥居の登山口に着く。大きな案内板でルートを確認して、歩き始める。地形図の実線路を進み、小橋を渡って笠形寺の側を抜けると、道はスギの木の間を真っ直ぐに伸びている。丁石仏の立つ、笠形神社の参道である。林道と4回交差したところが「休み堂」。小さな橋で渓を渡り、ここからしばらくはコンクリートの林道を歩く。やがてこの林道は、行き止まりとなり、そこから右手の斜面に参道が笠形神社に向かっている。急な上りを15分程度歩くと、笠形神社に達した。
笠形神社 天狗岩
神の息づかいが今も聞こえてきそうな笠形神社の境内を抜け、薄暗いスギの林の中を上って小さな渓を渡ると、目の前がぱっと広がった。南西に瀬加の村が一望できる。上の斜面にはササ原が広がっている。ここから、ほぼ真北、谷沿いに笠形山手前のピーク(870m+)まで道があるが(地形図破線路)、草が伸びて荒れていた。明瞭な道は、ササ原の中を笠の丸をめざして伸びている。仙人岩・仙人滝分岐を過ぎ、再び現れたスギの植林地を抜けると、コバノミツバツツジの咲く自然林となる。アセビの花が、道に降り積もっている。木の枝から、糸がつうーっと一本。その先には、小さな尺取り虫のような虫がついている。そこにも、ここにも、あそこにも……。これはいったい何でしょう。(人が下を通ると、ポタンと落ちてくるようです。)
笠が丸は、休憩小屋のある広いピーク。鮮やかな紫ピンクのコバノミツバツツジに囲まれている。ここから、笠形山頂上が見える。ここで、一休み。笠が丸を下り、グリーンエコー笠形からの登山道と合流し、最後のコルから一気に上ると笠形山山頂に達した。
山頂の周辺に、「天狗岩」と「天邪鬼の挽岩」がある。東に千が峰縦走コースを少し降り、「天狗岩」の道標に従って縦走コースから北に踏み跡を辿ると「天狗岩」があった。雑木の中で、全貌をつかみにくいが、この岩は笠形山の岩石の特徴をよく教えてくれる。山頂に登り返して、今度は「天邪鬼の挽岩」を探す。山頂に憩う多くの人たちの目を少し気にしながら、方向の見当をつけてササのヤブの中に分け入った。見つからない。もう一度、山頂に出て別の方向に入る。分からなかった。次回の楽しみにとっておくことにする。
帰りは、仙人滝コースをとる。笠の丸まで帰って、そこから西へ急坂を下るとなだらかな広い稜線に出た。ヒノキ林を過ぎると、「鹿が原」と呼ばれているササ原になる。その鹿が原あたりから南西へ稜線を進み768mピークに達する。768mピーク手前には、東屋があった。768mピークから、南へ真っ直ぐ急峻な坂を下る。やがて、左へ分かれる仙人滝分岐をさらに20mほど下ると、「蓬莱岩」の上に出た。この蓬莱岩は、見どころいっぱいの笠形山の中でも、第1に推薦したいポイントである。先ほどの仙人滝分岐まで帰り、東へ仙人滝に向かう。急な斜面をトラバースするように、ガレ場を3カ所ほど越えて下ったところに仙人滝があった。黒い岩肌に走る割れ目に沿って一条の水がほぼ垂直に流れ落ちていた。
仙人滝から、さらに東へ斜面を下っていくと、地形図実線路で示された荒れた林道(?)にでた。この実線路に沿って山を寺家の集落まで下り、車道を大鳥居まで帰った。
■山頂の岩石 白亜紀 生野層群最上部累層 流紋岩質溶結凝灰岩
山頂下の登山道沿いのところどころに、岩石が露出している。平行な割れ目が入り、岩石が板状に割れているのが特徴である。山頂のすぐ下の「天狗岩」で、その特徴がよく観察された。天狗岩は、5〜6個程度の縦に長い直方体の岩石が山の斜面に突き出したものである。最大のもので高さが4m程度ある。縦に多くの割れ目が入っていて、厚さ数cmの板状に割れている。天狗岩は、この割れ目に沿って周囲が崩落し、その一部が塔のように残ったものと考えられる。この割れ目は、溶結凝灰岩の節理(板状節理)である。溶結凝灰岩とは、火砕流が冷え固まったもの。その冷え固まる過程で、このような割れ目が発達したと考えられる。岩石中には、多くの石英の結晶片と黒色の岩片が目立つ。また、黒色の細いレンズが一定方向に並んでいる。このレンズは、火山ガラス(軽石)が押し伸ばされたもので、このようなつくりを溶結構造という。
風化面に現れた溶結構造(画面中心の凹部がレンズ 長さ14cm)
蓬莱岩も、同様の岩石である。ただ、板状節理が発達せず塊状であること。また、溶結構造をつくるレンズが大きいことが、山頂付近の岩石と異なっている。