金 梨 山 (463m)                        和田山町       25000図=「但馬竹田」

山上に浮かぶ淡紅色の花崗岩

金梨山(山頂直下の露岩が岩谷権現) 岩谷権現の大岩

 「金梨山(かなしやま)には、4年生の頃に学校から登ったことがあるよ。2月か3月のことで、まだ上の方には雪が残っていた。そんな山に、下駄を履いて登ったねぇ。岩の間に、祠があったのも覚えとるよ。」
 この日の朝、畑仕事をしていた明治生まれというおばあさんに、そんな話を聞かせてもらった。

 
和田山町の金梨山は、円山川を隔てて竹田城跡(古城山)と向かい合っている。標高463m、山頂に三角点はない。最近、島田一志さんのホームページ『山であそぼっ』で紹介された。山上には、大きな岩石がつくる岩窟があり、その岩窟の中の祠が新しくなったという。この山上の大岩に惹かれて、金梨山に上ってみた。

 諏訪神社の鳥居をくぐり、社の右手から山に入った。ここから、山のすそを南へ下がり、金梨山の西の谷を詰めて山頂へ達する予定である。
 山のすそは、棚田状に石段が組まれている。今はスギが植林されているが、昔は田だったのか、あるいは桑畑だったのかもしれない。石組みによる段差、生い茂る草木、それに倒木によって、径は途切れがちであった。
 期待した谷沿いの山道になかなかぶつからない。小さな浅い谷に沿って、山の斜面を上ることにした。ときどき、踏み跡が現れる。しかし、植林地は荒れていて、侵入した草木や倒木によって、踏み跡はすぐに消えた。
 しだいに傾斜がきつくなる。樹の幹につかまりながら、上へと上った。稜線が近づくと、この山をつくる花崗岩があちこちに出ていた。地面から、大きく突き出ている岩体が多い。
 山頂は、アカマツ・コナラ・タカノツメなどの木々の中の狭い平面であった。眺望はないが、木々を透かしてみるとここより高いところがないので、山頂だと分かる。

岩谷権現から竹田城跡・大路山
 山頂の南の大きな岩を巻くようにして下り、少し西に回りこむと大岩のつくる岩窟の正面に出た。岩窟の入り口には、「金梨山岩谷権現」の札が立ち、奥には真新しい祠が置かれていた。
 岩窟の両側は、高さ5m程度の切り立った花崗岩の壁。上と奥は、10個程度の大きな岩でふさがれている。岩の隙間からは、岩窟の中に陽が差し込んでいる。中から外を見ると、朝来山が正面に見える。岩窟はほとんど正確に北を向いて開いているのである。
 両側の岩壁の走行と傾斜を計ってみた。走行は、NS(南北方向)。傾斜は、ほとんど垂直である。岩窟入り口左下の大岩盤の走行はN70°W。この2方向の割れ目の走行は、周囲の節理の走行と調和的であった。花崗岩の風化によって、中にあった岩盤が崩れ落ち、このような岩窟ができたのであろうか。
 この地点は、西と南に大きく眺望が開けている。眼下に円山川と竹田の町並み。その向こうに竹田城跡が浮かんでいる。空気は、白く霞んでいた。

 下山後、南西の山すそから金梨山を振り返った。山頂のすぐ下に、岩谷権現の大岩が露出している。そこだけがスポットライトを浴びたように、西に傾きかけた陽の光を反射している。緑の木々に包まれて、大岩は、淡紅色の花崗岩の色を映し、ほんのりとピンク色に浮かび上がっていた。その光景は、古くからここに住む人々から神の座として崇められていたに違いないと思わせるに十分な姿であった。


山行日:2002年6月2日

山 歩 き の 記 録

竹田諏訪神社〜鉄塔(送電線屈折点)〜金梨山山頂(463m)〜金梨山岩谷権現〜金梨山山頂〜デイサービスセンター「さくらの苑」〜諏訪神社

山頂のタカノツメ
 低い山であるが、道が見つからなかったのでかなり手ごわかった。
 竹田の集落の北、円山川の右岸に諏訪神社がある。ここから、山に入った。送電線の下を通って金梨山の裾を南に下がる。このあたりは、ずっと棚田状に石が組まれている。見え隠れする踏み跡を利用するが、草や倒木で歩きにくい。金梨山西の小さな浅い谷に出た。この谷を、そのまま山頂目指して上った。マムシを一匹見かけた。やがて、尾根にたどりつき、その尾根を回りこむようにして山頂に達した。
 山頂から南へ急斜面を下りると、右手に「岩谷権現」があった。岩谷権現からは、一旦山頂に戻る。
 帰りは、金梨山の西南斜面を下りる。この斜面にも、道はなかった。公立竹田病院の上にあるデイサービスセンター「さくらの苑」に下り着いた。
   ■山頂の岩石■ 花崗岩 (白亜紀〜古第三紀 和田山花崗岩)

中粒花崗岩(横8cm) 細粒花崗岩(横8cm)

 金梨山は、花崗岩でできている。白亜紀末〜古第三紀に形成された山陰帯の深成岩体のひとつで、西の大路山を中心に分布するこの岩体は「和田山花崗岩」と呼ばれている。
 金梨山の山麓部には、中粒花崗岩が分布している。アルカリ長石が淡紅色なのが特徴であり、岩石も全体としてこの淡紅色を呈している。アルカリ長石が、ポイキリチックに石英を含有しているのがルーペで観察できる。黒雲母や角閃石は、変質していることが多い。
 金梨山の山上部には、非常に細粒の黒雲母花崗岩が分布している。鮮やかな淡紅色を呈し、色指数も低い(黒雲母や角閃石などの有色鉱物の割合が小さい)。岩谷権現の大岩もこの岩石でできている。ところどころに、中粒〜粗粒部が細く脈状に入っているのが観察できる。
 どちらの花崗岩も、方状の節理がやや発達している。

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