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Key Words:覆瓦構造,インブリケート構造,インブリケーション,Imbricated Structure,岸田川



橋元正彦 (2009) 岸田川の河原の礫の覆瓦構造(インブリケート構造).地学研究 58.109-113
岸田川の河原の礫の覆瓦構造(インブリケート構造)
Imbricated Structure on Fluvial Flood of the Kishidagawa River
in Hyogo Prefecture,Japan
橋元 正彦  Masahiko  HASHIMOTO※

1.はじめに

 岸田川は,兵庫・鳥取県境の扇ノ山(標高1310m)に源を発し,北に流れて兵庫県新温泉町で日本海に注ぐ.流域面積は約201km2,河川延長は約24kmで,流域は氷ノ山後山那岐山国定公園や但馬山岳県立自然公園に指定され,川の周辺には豊かな自然が広がっている.

 今回,岸田川の下流で明瞭な覆瓦構造を観察することができたので,ここに報告する.

図1 覆瓦構造(兵庫県新温泉町)

2.岸田川に見られる覆瓦構造

図2 覆瓦構造のでき方

岸田川は,新温泉町新市の新市橋を下ったところで蛇行し,そこに大きな州をつくっている.この州は川の中央部にできた中州と,蛇行の内側にできた寄州から成っている.どちらの州の上にも河原が広がり,そこに堆積した礫は見事に同じ向きに傾いて並んでいる(図1).

 このような礫の並びは他の河川でも見られるが,30cm前後(最大長径52cm)の大きな礫がこれほど明瞭に,また広範囲に渡って同じ向きに傾いて並んでいる光景はそれほどない.

 このように礫が同じ方向に傾いて並ぶ構造は,覆瓦構造(imbricated structure : インブリケート構造)と呼ばれている.これは,川の流れによってできる堆積構造の一つである.礫は水流のはたらきによって下流側へ転がり,できるだけ抵抗が少なくなるように,安定した状態で止まろうとする.その結果,屋根に瓦を重ねたように礫の平らな面を上流側に傾けて並ぶのである(図2).

 河原の中央部から下流側と上流側を見比べてみると,礫の傾きがいっそう明らかになる.下流側を見ると,ほとんどの礫が広い面を見せて太陽の光を反射している(図3).逆に上流側は,礫に光の当たった部分と礫の裏側にできた影の部分が,明暗による細かいまだら模様をつくっている(図4).

図3 覆瓦構造(下流側を見る) 図4 覆瓦構造(上流側を見る)

3.岸田川の礫を調べる

図5 Krumbein(1941)による円磨度印象図
図6 最大投影面の走向傾斜シュミットネット投影
(下半球投影)

 寄州の先端付近に巻き尺を使って5m四方の調査枠をつくり,その中の礫を調べた.

 礫の大きさは20〜30cm程度のものが多く(最大長径38cm),その間を10cm以下の礫が埋めている.2mm以下の砂粒は,礫の間や下に隠れて表面にはあまり表れていない.礫の形はだ円形のものが主で,多くが円礫から亜円礫にあたる.礫の表面は,よく磨かれていて角が取れている.Krumbein(1941)による円磨度印象図(図5)では,0.6〜0.7にあたる.

 礫の岩石種は安山岩が卓越しているが,それ以外に花崗岩・花崗閃緑岩・石英斑岩・ひん岩・流紋岩・玄武岩・凝灰岩・火山礫凝灰岩・凝灰角礫岩・砂岩・凝灰質砂岩・泥岩と,流域の複雑な岩石分布を反映して多彩である.兵庫県(1996) によると,岸田川の流域には,古第三紀の花崗岩類,新第三紀の北但層群や照来層群,第四紀の火山岩類が分布している.

 調査枠内の地表に見える大きさ30cm以上のすべての礫27個と,大きさ20〜30cmのすべての礫56個について,平坦な面(最大投影面)の走向と傾斜を測定した.最大投影面とは,礫をいろいろな方向から見てその投影面が最も大きくなる面をいう.図6は,最大投影面の走向傾斜データを,偏角補正の後,シュミットネット投影(下半球投影)したものである.シュミットネット投影には,「株式会社地質工学」がインターネット上に公開しているステレオネットシステム「MOLE  Stereo ver1.1.0」を利用した.

 シュミットネットに投影された礫の最大投影面の走向傾斜は,N45°E30゜Sあたりによく集中している.つまり,多くの礫が北東―南西の走向を示し,南東へ30°程度傾いている.また,大きさ30cm以上の礫は,大きさ20〜30cmの礫と比べると,走向傾斜がより集中しているといえる.

 岸田川はここで大きく蛇行しているが(図7),調査地点での水の流れは,礫の走向と直交する南東―北西であったことが分かる.

図7 調査地点
(上流側より下流側を望む 手前が中州,その向こうが寄州)

4.下流域に発達する覆瓦構造

図8 調査位置図
(国土地理院発行5万分の1地形図「浜坂」を利用)

 覆瓦構造の見られるこの地点は,岸田川の河口から約4kmの位置にあたる(図8).このような下流域には,一般に砂や泥のように粒の小さな砕屑物が堆積するが,なぜここには大きな礫が堆積しているのだろうか.

 その原因は,岸田川の大きな河床勾配にある.岸田川は,標高1310mの扇ノ山の山頂近くから短い距離を急な勾配のまま一気に日本海まで流れ下っている.図9(兵庫県,2004)は,兵庫県内の主な河川の河床勾配を示している.この図から,岸田川の河床勾配がたいへん大きいことが分かる.そのため,岸田川では流水による侵食や運搬作用がさかんで,山々から流出した礫が大きなまま下流域まで運ばれ,大雨で増水したときにここに打ち上げられて堆積したと考えられる.

図9 兵庫県の主な河川の河床勾配
(兵庫県(2004)による)

5.河原での観察

 最近,河原の石の観察会がよく開かれるようになってきた.石を観察して分類し,名前をつけたり,標本として集めたりすることは楽しいものである.また,河原の石は上流の地質を反映しているので,岩石の種類を調べると,その地域の成り立ちを考える手がかりを得ることができる.

 そのときに,周囲の地形や川の流れ方,あるいは砂や礫の堆積の様子にも目を向けてみよう.そうすると,侵食や運搬や堆積などの流水の作用がどのように行われているかを見てとることができる.

 このような水の流れによるはたらきは,現在も進行している.大雨が降って増水すると,川の周辺の地形や堆積のようすが大きく変わることもある.

 また,覆瓦構造は地層としての礫岩層中に認められることもある.このような場合には,礫の並びからその地層の堆積した当時の水流の向き(古流向)を推定することができる.川は,いろいろな自然の営みを私達に教えてくれるのである.

引用・参考文献

保柳康一・公文富士夫・松田博貴(2004):堆積物と堆積岩,共立出版,171頁
兵庫県(1996):兵庫県の地質,兵庫県地質図解説書・地質編,兵庫県,361頁
兵庫県(2004):人・生きもの・川づくり,兵庫県,28頁
Krumbein,W.C.(1941):Measurement and geologic significance of shape and roundness of sedimentary particles,Jour.Sed.Petrol.,11,64-72


2009年6月15日受理
 ※〒 679-3116  兵庫県神崎郡神河町寺前93(勤務先:神河町立大河内中学校)