福畑鉱山の銅・鉛・亜鉛鉱物(神河町)

 越知川最上流部、神河町新田に福畑鉱山跡があります。鉱山跡には坑口が残され、ズリの中からいろいろな鉱物を見つけることができます。

福畑鉱山の坑口


1.福畑鉱山へ

 越知川に沿って北東へ上っていきます。「新田ふるさと村」に入り、曲谷橋を渡ると右手の斜面を上る道があります。この道を上り、「お山の大将広場」の芝滑りや遊具を左に見て進むと、「お山のテントサイト」に入ります。テントサイトを一番奥まで進むと、正面にズリが見えます。
 比高20mほどの大きなズリです。このズリの下に、南に登っていく道があります。この道を登り、獣よけゲートを抜けると、そこにも小さなズリがあります。このズリには、青や緑の銅の二次鉱物があちこちに見られます。
 そのまま道を進むと貯水槽があります。そこから山道を50mほど、先に進んだところに坑口があります。

テントサイトから見えるズリ ズリの表面に見える青や緑の鉱物

2.福畑鉱山の跡

 高さ2m、幅2mほどの坑口がぽっかりと開き、そこから坑道が奥へ延びています。今は、安全のために金網が張られて中に入れないようになっています。
 坑道の長さがどれぐらいあるのか、外からではわかりません。坑道には水がたまり、中からチョロチョロと水の流れる音が聞こえてきます。

福畑鉱山の坑口

 福畑鉱山については、鉱床の規模や稼行の時期など、詳しいことはほとんどわかっていません。
 『通商産業省資源エネルギー庁 (1988)  昭和62年度広域地質構造調査報告書 播但地域』には、「品位はCu1〜2%、Pb2〜3%、Zn3〜4%。鉱石鉱物として、黄銅鉱、閃亜鉛鉱、方鉛鉱、黄鉄鉱が存在する。」とあります。

 坑口の手前に、案内板が立っていました。それには、
 「1800年頃の江戸時代。各地で一揆が行われていた頃。生野層群のひとつ、ここ越知谷の福畑では藩の命により、鉱山開発の計画が推し進められていました。
 しかし、開発の途中、近辺の村々の役人たちにより、「開発されると田畑に悪水が流入する!」と反対の声が上がり鉱山開発は中止されました。」
とありました。

 しかし、ズリの量や精錬残渣のカラミが残されていることから考えると、採鉱・選鉱・精錬がここで行われていたことは確かだと思われます。鉱山開発は行われたのですが、案内板に記されていたような理由で、途中で閉山したと考えられます。

 坑口のすぐ下に沢があって水が流れています。この沢を下っていくと、数段の平坦地があります。鉱山の作業所か、鉱山ではたらく人たちの住居があったのかもしれません。
 沢の下の方には、もうひとつの坑口があります。坑口の大きさは、上のものより広いぐらいですが、6,7mほどしか掘られていません。試掘だけで終わった坑口です。
 鉱山跡を巡っていると、ふと、かつての人々の息づかいのようなものを感じました。しかし、それももう、はるか遠い過去のできごとです。

沢に残る試掘跡


3.福畑鉱山の鉱物

 福畑鉱山は、熱水鉱脈鉱床です。地下で生じた高温の熱水が岩石の割れ目を通過するときに温度が下がり、さまざまな鉱物ができました。

 鉱床の母岩は、白亜紀後期生野層のデイサイトです。坑口下の沢で、流理を示すオレンジ色のデイサイトを見ることができます。また、坑口の周囲でも、熱水変質を受けて褐色に色が変わり、明ばん石ができていたり、珪化したりしている岩石が見られます。

母岩のデイサイト


 ここでどのような鉱物が採掘されていたのでしょうか。
 福畑鉱山跡のズリの中から採集した鉱物を、次の3つに分けて紹介します。銅や鉛の二次鉱物、方解石には、希塩酸をかけて反応を見ました。
 産出した鉱物から、福畑鉱山は、銅・鉛・亜鉛の鉱山であったことがわかります。


   鉱石鉱物(採掘・選鉱・精錬の対象となる有用な鉱物)
   二次鉱物(地表水や地下からの熱水液によって、酸化や分解などの変質を受けてできた鉱物)
   脈石鉱物(役に立たない鉱物)

 方鉛鉱 (Garena) PbS
  結晶や劈開片が集まっている。劈開面が湾曲しているものも見られる。立方体の劈開が特徴的。鉛灰色で強い金属光沢。結晶の大きさ、最大7mm。

 閃亜鉛鉱 (Sphalerite) ZnS
  小さな結晶が集まっている。方鉛鉱を伴っていることが多い。黒色で金属光沢。
 
 斑銅鉱(Bornite) Cu5FeS4
  塊状で結晶形を示さない。表面はブロシャン銅鉱、青鉛鉱、珪孔雀石など銅の二次鉱物でおおわれている。カッターナイフで削ると、オレンジ色を帯びた褐色という斑銅鉱独特の色が現れる。翌日になると、この部分はすっかり紫色に変化していた。黄銅鉱を伴っている。

 黄鉄鉱 (Pyrite) FeS2
  立方体の自形結晶も見られるが、皮膜状のものが多い。淡黄金色、金属光沢。

 黄銅鉱 (Chalcopyrite) CuFeS2
  斑銅鉱や黄鉄鉱にともなって産出する。黄鉄鉱より濃い黄銅色。虹色の錆びが生じていることが多い。金属光沢。

 孔雀石 (Malachite) Cu2CO3(OH)2
  繊維状結晶が放射状や同心円状で集まっている。緑色、ガラス光沢。塩酸で、発泡してとけた。
 
 珪孔雀石 (Crysocolla) (Cu,Al)2H2Si2O5(OH,O)4・nH2O
  塊状で、結晶形を示さない。青緑色で半透明。ガラス光沢。塩酸で反応しなかった。
 
 青鉛鉱(Linarite) PbCu(SO4)(OH)2
  皮膜状のことが多いが、部分的に柱状結晶が見られる。藍青色でガラス光沢。希塩酸で、発泡せずに結晶が白く濁った。

 ブロシャン銅鉱(Brochantite) Cu4(SO4)(OH)6
  皮膜状で産する。やや暗い緑色で、ガラス光沢。希塩酸で発泡せずにゆっくり溶けて、希塩酸が緑色に染まった。

 水亜鉛銅鉱(Aurichalcite) (Zn,Cu)5(CO3)2(OH)6
  白っぽい淡緑色。鱗片状の結晶が集まっている。真珠光沢。希塩酸で、発泡して溶けた。

 白鉛鉱 (Cerussite) (PbCO3)
  厚めの板状の結晶で産する。無色透明。強いガラス光沢でギラリと光る。希塩酸で、ゆっくり発泡して結晶が白く濁りながら溶けた。

 異極鉱(Hemimorphite) ZnSi2O7(OH)2・H2O
  扁平な結晶が扇状に集まるという異極鉱に典型的な形態をしめしている。無色透明。
  
 水亜鉛土(Hydrozincite) Zn5(CO3)(OH)2
  白色。皮膜状〜ぶどう状。真珠光沢。紫外線を当てると、青色の強い蛍光を発した。

 絹雲母(Sericite) KAl2(AlSi3)O10(OH)2
  微細な鱗片状の白雲母。微細な銅の二次鉱物を伴っているので、薄緑色に見えるものが多い。

 濁沸石 (Laumontite) Ca4Al8Si16O48・18H2O
  白く濁っていて不透明。一部に柱状の結晶が残っていた。
 
 玉髄(Chalcedony) SiO2
 微細な石英の結晶が同心円状あるいは輪状に集まっている。白色

 石英(Quartz) SiO2
  石英脈として産出する。多形結晶の集合体。白色。ガラス光沢。

 方解石(Caicite) CaCO3
  塊状。白色。希塩酸で、発泡して溶けた。

方鉛鉱(横12mm)
鉛灰色で強い金属光沢。立方体の劈開がよく現れている。劈開面が湾曲しているものもある。
 
閃亜鉛鉱(横5mm)
小さな結晶が集まっている。黒色で金属光沢。

 
斑銅鉱(横15mm)
塊状の斑銅鉱。表面はブロシャン銅鉱など、銅の二次鉱物におおわれている。カッターナイフで削ってみると(赤矢印)、独特の銅色が現れる。
 
黄鉄鉱・黄銅鉱(横14mm)
赤矢印が黄鉄鉱。青矢印が黄銅鉱。どちらも、皮膜状。

 
孔雀石(横5mm)
繊維状の結晶が、放射状あるいは同心円状に集まっている。
 
珪孔雀石(横9mm)
塊状で、結晶形を示していない。青緑色で半透明。

 
孔雀石・珪孔雀石(横5mm)
中央の緑色繊維状結晶は孔雀石。周囲の青緑色は珪孔雀石。
 
青鉛鉱(横11mm)
藍青色でガラス光沢。皮膜状だが、部分的に柱状結晶が見られる。緑色はブロシャン銅鉱。
 
ブロシャン銅鉱(横12mm)
緑色で、皮膜状。ガラス光沢。
 
 
水亜鉛銅鉱(横11mm)
白っぽい淡緑色。鱗片状の結晶が集まっている。真珠光沢。
 
白鉛鉱(横9mm)
白い板状の結晶。強いガラス光沢でギラリと光っている。青緑色は、珪孔雀石。
 
 
異極鉱(横7mm)
無色透明でガラス光沢。板状結晶が扇型に集まっている(赤矢印)。青緑色は、珪孔雀石。
 
 
水亜鉛土(横14mm)
白色。皮膜状〜ぶどう状。真珠光沢。紫外線を当てると、青色の強い蛍光を発した。
 
絹雲母(横10mm)
針でつつくと、小さな鱗片状の結晶がペラペラとはがれる。銅の二次鉱物がしみ込んでいて、薄緑色。
 
濁沸石(横10mm)
白く濁っていて不透明。わずかに透明感の残っている部分があって、端面が斜めに切れ落ちた柱状の結晶形を示す。淡緑色は、水亜鉛銅鉱。
 
玉髄(横25mm)
白色。微細な石英の結晶が、同心円状、あるいは輪をつくるように産出。

 

■岩石地質■ 熱水鉱脈鉱床(母岩は、白亜紀後期 生野層 デイサイト)
■ 場 所 ■ 神河町 25000図=「生野」
■探訪日時■ 2022年9月24日(直近)