藤ヶ峰(941.9m)~南千町ヶ峰(985.6m)
神河町・宍粟市   25000図=「長谷」「神子畑」


若葉の森と森の海老フライ
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送電線鉄塔から望む藤ヶ峰

 風薫る五月、神河町と宍粟市の境界尾根に並ぶ藤ヶ峰から南千町ヶ峰を歩いた。

 森林基幹道「千町・段ヶ峰線」の起点に車を止め、取付き地点に向かう。福知川を流れる水の音に重なって、ミソサザイの声が響いている。
 空気が軽く感じられる。タニウツギが咲き始めていた。

福知川

 取付き地点には、ロープが下がっていた。ロープを伝わって、ヒノキ林に入る。落ち葉の上にうっすらとついている踏み跡をたどると、境界尾根に出た。
 尾根の西側はヒノキ林、東側はコナラ、ミズナラ、ネジキなどの自然林。踏み跡はその間を上へと延びていた。
 クロツグミが鳴いていた。キツツキのドラミングの音もする。風が西から吹き上がってきて木々の葉を揺らした。フィールドノートのページの上で、葉の影が揺れた。

 急な登りと緩い登りがくり返された。アカマツが多くなり、地面は松葉と松かさでおおわれていた。目の前のクロモジの枝にヒガラが止まったと思ったら、またすぐ飛んでいった。

アカマツの林 (手前はネジキの葉)

 尾根の急坂の途中に「地籍図根三角点」が立っていた。
 アカマツが少なると、コナラとミズナラのj林になった。リョウブ、ネジキ、イロハモミジ、コバノミツバツツジなどが混じる。どの葉も軟らかくて瑞々しい。

若葉の森

 木肌にクマの爪痕があった。そんなに新しくはなかったが、コンパスの横にぶらさげている笛を慌てて吹いた。
 尾根から少しはずれたところに、ぽっとそこだけ赤いところがあった。近寄ってみると、ヤマツツジの花であった。

ヤマツツジ

 小さなピークを下ったコルから登り詰めると、藤ヶ峰の山頂にたどり着いた。三角点の横に、「宍粟別選5名山」の標柱が立っている。
 木々におおわれた気持ちのよい山頂だった。一ヵ所だけ木々の途切れたところがあって、そこから砥峰高原とその後ろに立つ夜鷹山が見えた。
 ちょっと早いが、ここで弁当を食べることにした。
 樹上ではクロツグミが軽快なリズムでずっと鳴いていた。ツツドリののどかな声も遠くから聞こえてくる。
 地面の「森の海老フライ」がふと目にとまった。あたりを探してみると、たくさん転がっている。いくつでも拾うことができた。この山頂は、リスもお気に入りの場所だったのだ。

 藤ヶ峰山頂 森の海老フライ

 山頂を北に下ると、尾根が広がった。落ち葉で埋まった地面に、かすかに踏み跡がついている。
 ウリハダカエデが何本も立ってるところがあった。そこから、再びアカマツ林となり、続いてヒノキ林、スギ林と変わっていった。
 イヌシデの大きな木が集まっているところがあって、そこからまた美しいミズナラ林となった。
 

 ウリハダカエデの林 イヌシデの林

 ときどきホオノキの大きな葉が空をおおっていた。丸い形の葉をつけた木があった。葉を持って帰って調べると、コハクウンボクだとわかった。

コハクウンボクの葉と樹皮
(同定のための写真、青は手袋)

 917mの小さなピークを過ぎると、ほとんど平らになった。地面に這う木の根やその間にたまった落ち葉を踏んで進んだ。
 送電線鉄塔の下に出た。鉄塔の周りは、ミズナラなどの苗が植えられている。シカの食害を防ぐために、一本一本ネットでおおわれている。
 ここで今日初めての展望が広がった。
 南に、砥峰や夜鷹山。暁晴山山頂の電波塔がわずかに見える。
 西には、ここまで歩いてきた917mピークが大きく横たわり、その左に藤ヶ峰の山頂が見える(いちばん上の写真)。
 そして北に、藤無山。その向こうに氷ノ山や鉢伏山が青くそびえていた。 

梢越しに見る藤無山と氷ノ山・鉢伏山

 鉄塔を過ぎると南千町ヶ峰の山頂が近づいてきた。ケヤマハンノキの老樹が数本立っていた。幹の下の方に、無数のコブをつけている。この高所で、何年も風雪に耐えてきた風格のある姿だった。
 

ケヤマハンノキの老樹

 
 山頂の手前で、前方に千町ヶ峰が現れた。標高1141.3m、神河町の最高点。雄大な山体である。その左、遠くに須留ヶ峰が稜線を波打たせていた。

千町ヶ峰と須留ヶ峰

 若葉の林を抜けると、南千町ヶ峰に達した。三角点は上空を木々に囲まれ、低いところをアセビに縁取られていた。アセビの若葉は、やわらかいオレンジ色をしていた。
 エナガの群れが木々を渡っていった。シジュウカラやコゲラの声も混じって聞こえた。

南千町ヶ峰山頂

 南千町ヶ峰を東へ下った。午後2時を過ぎ、日が陰ってきた。若葉の林にもう日の射すことはなかった。クロツグミがずっと鳴いていた。

山行日:2022年5月18日

スタート~藤ヶ峰(941.9m)~南千町ヶ峰(985.6m)~ゴール map
 ゴール地点に自転車をデポして、森林基幹道「千町・段ヶ峰線」の起点に車を止める。そこから、福知川に沿って10分ほど道を下れば藤ヶ峰への取付き地点(スタート地点)に着く。
 ロープを伝って山に入る。踏み跡程度の道が、境界尾根に沿ってゴールまでついている。途中、尾根が広がって道がわかりにくいところがあるが、ピンクのテープを見落とさないように進む。
 ゴールのあと、自転車で林道を2.8km下って始めの林道起点に戻った。

山頂の岩石 白亜紀後期 段ヶ峰層(仮称) 溶結火山礫凝灰岩
藤ヶ峰山頂近くの岩石(横3.2cm)
Q:石英  F:長石
 歩いたコースには、白亜紀後期の火砕流堆積物が分布している。明灰色~灰色の強く溶結した火山礫凝灰岩である。
 
 多くの石英(Q)・長石(F)と、少しの黒雲母・角閃石を結晶片としてふくんでいる。
 左の写真では見られないが、軽石がレンズ状に伸ばされた溶結構造が肉眼でも観察できるところがある。また、数mm~数cmの粘板岩などの岩石片がふくまれている。
 段ヶ峰で見られる溶結火山礫凝灰岩と同じ岩相である。

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