法楽寺山(315m)    神河町     25000図=「粟賀町」


伝承の古刹、法楽寺からろう石鉱山へ
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法楽寺山

 神河町法楽寺の裏山、法楽寺山やその周辺にはかつて「ろう石鉱山」があった。神河町教育委員会のOさんよりその位置情報をいただいたので、現地を訪ねた。

 法楽寺山は、こんもりと緑におおわれていた。山すそに山門が見えるが、山門から続く石段やその上の伽藍は、木々の中に完全にうずもれていた。
 法楽寺の参道入口には、白い凝灰岩の門柱が立っている。ここから本堂までは約600m。右下に流れる越知川は、今朝までの雨でにごっていた。

 法楽寺参道入口

 参道の山側にはずっと地層が表れている。火山礫凝灰岩などの火山性堆積物と泥岩などの湖成堆積物がくり返し出てくる。泥岩の連続性はよくなくて途切れがち。
 どのようなことが起こってこのような地層が生まれたのか。7000万年も前に起こったことを探りながら、行ったり来たりの参道歩きとなった。
 ところどころに、岩を削って丁地蔵が祀られている。コナスビが小さな花をつけていた。

参道の丁地蔵 コナスビ

 地層が流紋岩溶岩に変わり、やっと歩く速さがアップした。
 花崗岩の門柱を過ぎ、石灯篭の並ぶ道を進む。草地にはノアザミがいっぱい咲いていた。法楽寺の境内に入り、本堂下のベンチで休んだ。

 ノアザミ  法楽寺

 法楽寺は、奈良時代前期の大化年間、法道仙人の開基と伝えられている。「播州犬寺」とも呼ばれ、その縁起となった枚夫長者と二頭の愛犬の物語はよく知られている。
 境内のまわりは豊かな森で、環境緑地保全地域の指定されている。ベンチの上には、ヤマグルマが柄の長い葉を伸ばしている。コハウチワカエデの翼果の赤色は、本堂の石垣と白壁をバックに鮮やかだった。

コハウチワカエデ

 本堂手前の石段を上ると、両脇に白と黒の犬の像が祭られていた。枚夫長者を救った二頭の犬は、白犬と黒犬だったと言い伝えられている。
 本殿にお参りし、春日社の前を通り開山堂の裏から山へ入った。石仏の並ぶ道を横切り、そのまま森の中を上へ向かった。
 尾根には、うっすらと道の跡があった。あたりは、ヒノキがまばらに生え、そこにコジイやリョウブ、ネジキ、シキミ、サカキ、ヒサカキ、ソヨゴなどが混じっている。
 落ち葉の下の腐葉土が深く、一歩一歩がフワフワと心地よい。

 法楽寺山の山頂は、北東-南西に細長い平地になっていた。この平地を狭い平地が帯曲輪のように細長く囲んでいる。
 山頂には、標石がひとつ立っていた。半ば埋まっているが、側面に彫られた文字は「犬寺界 」と読めた。
 地面にチラチラと小刻みに影が動いた。上を見ると、樹冠の上に2匹のチョウが飛んでいる。しばらくの間飛んでいたが、林の中に入ってくることなくどこかへ飛んで行った。
 ホトトギスが遠くでずっと鳴いていた。

法楽寺山の森  法楽寺山頂の「犬寺界 」標石

 山頂から北東へ進むと切り立った崖の上に出た。この崖は、ろう石の採掘跡。崖の上の石をたたいてみると、珪化した流紋岩だった。
 山頂では見えなかった眺望がここで開けた。猪篠川の流れる谷底平野の向こうに、飛ヶ丸~入炭山~779m峰のつくる稜線が波打っていた。
 今日は梅雨の晴れ間のいい天気。

 ろう石採掘場の上より西の眺望

 次の小さなピークで方向を北西に変えて尾根を下った。
 キシタエダシャクが木に止まった。それより小さな蛾も足元を飛んでいたが、葉の裏に隠れるように止まるので何だかわからない。
 コバノタツナミが咲いていた。

 傾斜が緩くなると、尾根はウラジロとコシダのジャングルとなった。シダを手で分け、足で踏みつけて下っていくと、墓の前の広場に飛び出した。

キシタエダシャク コバノタツナミ 

 ここから、吉冨のろう石鉱山跡を探した。手には、Oさんにもらった陰影起伏図がある。その中に、2ヶ所えぐれたところがあって、そこが鉱山跡である。
 陰影起伏図は、複雑な水の流れもくっきりと示していた。しかし、自分が今その図の中のどこにいるのか分からない。
 流れを歩き、低い尾根を越え、ヤブを漕いで、さんざん歩いた。あきらめようかと思い始めたとき、草におおわれた崖を見出した。
 崖の前には、そこで掘られた岩が転がっていた。その中から、ろう石を見つけた。
 そこから少し離れたところに、大きな採掘場があった。山の斜面に長さ35m、幅10m、深さ8mほどの穴が掘られている。ここがこの鉱山の中心の採掘場であった。ここでも、ろう石を2つばかりひろった。
 

 採掘場で採集したろう石 吉冨のろう石採掘場跡

 今日の予定は、これで終了。道をめざしてふたたびヤブをこいだ。
 家へのお土産は、サンプルの石2個とろう石4個、それに・・・ダニ2匹だった!
 

山行日:2023年5月31日

法楽寺参道入口~法楽寺~法楽寺山~吉冨のろう石鉱山跡~法楽寺参道入口 map
 神崎公民館駐車場に車を止める。法楽寺までは参道を歩く。法楽寺から先に道はない。
 吉冨の鉱山跡に行きつくのは、なかなか困難である。

山頂の岩石 白亜紀後期 大河内層 流紋岩
球顆流紋岩(法楽寺山山頂の北)
 法楽寺山山頂周辺には流紋岩が分布している。
 この流紋岩は、下位の火山性堆積物の上に重なる溶岩である。
 変質していて白色~オレンジ色をしていることが多い。石英と長石の斑晶が、まれに残っているところがある。
 山頂の北の流紋岩には球顆が発達している。また、流理が見られるところもあった。
 火山性堆積物との境界部では、珪化あるいはろう石化していて数ヵ所でろう石が採掘されていた。

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