日ノ原山(788.7m)      宍粟市    25000図=「音水湖」


音水湖の南に佇む日ノ原山

尾根の木の間から見える音水湖

 日ノ原山は、音水湖の南に静かに佇む山である。
 
 昨夜から霧雨が降ったりやんだりの天気だった。朝、音水の集落から見る日ノ原山は、雲を透かした弱い斜光を浴びていた。

音水の集落から見る朝の日ノ原山

 日ノ原山の集落の最奥に大森神社がある。ここが、今日の登山口である。
 苔むした石段を登ると、小さな社殿が建っていた。

日ノ原 大森神社登山口

 社殿の左脇から山道に入った。あたりはうっそうとしたスギ林。林内は薄暗く、地面はじっとりと湿っている。
 道はすぐ、左へ大きく折れた。山の斜面を斜めに登っていく。
 スギの間に、大きなケヤキが立っていた。
 道の脇にマツカゼソウが咲いていた。今日は、この小さな白い花が何度も目を楽しませてくれた。

マツカゼソウ

 道は、今度は右へ折れた。ほとんど一定の角度で、スギ林の中を斜めに上っている。ところどころに、ミツマタが葉を広げていた。
 道が谷にぶつかったところで再び左へ折れた。ずっと単調な登り。樹上で、ヒガラの鳴き声がした。
 すぐまた、右へ折れる。
 この湿り気・・・。このうす暗い雰囲気・・・。スギ林に足を踏み入れたときから、予感していた。
 登山靴をヤマビルが上がってきた!
 ここまで数匹を見つけ、指ではじき落としていた。油断している間に、ズボンの膝ぐらいまで上がってきたやつもいる。
 少しでも立ち止まると靴につきそうで、歩き続けるしかない。何度も何度も、足の周りを見ながら進んだ。

 再び谷に出たが、今度は折れずにそのまま谷を渡った。
 谷を渡ると、すぐに登山道は細くなってこれまでの道と分かれた。
 
細い道へ

 標高650mでコルに達し、初めて前が開けた。マンガ谷川を流れる水の音が南の谷から聞こえてくる。756m峰が、その谷を隔ててそびえていた。
 コルの地層は泥岩で、チリ割れした小石が地面をおおっていた。ここで、やっと立ち止まることができた。小石の上なら、ヤマビルの心配は少ない。
 幸いなことに、この先でヤマビルを見ることはなかった。
コルに達する(正面は756m峰)


 コルから尾根を東に登っていった。尾根には、自然林の中に踏み跡が続いていた。右の谷底に、沢に沿った作業道が見えた。
 傾斜がだんだん急になってきた。コナラやリョウブやネジキの幹に手を掛けながら一登りすると、720mピークに達した。

尾根の道

 ここで方向を北に変え、ゆるく下っていった。黄葉したコシアブラの葉が落ちていた。
 700mのコルあたりは平坦な道。スギやヒノキの中に大きなモミが混じっていた。
 コルから尾根を登り返す。尾根の左は自然林、右はヒノキ林。その間に、踏み跡が続いている。近くでカケスが鳴いて、どこかへ飛んで行った。
山頂へ

 アセビの枝葉が地面をはっていた。
 二つの小さなピークを越えると、最後の上り。地面のスギやヒノキの葉は、昨日の雨に濡れている。
 昨夜、オートキャンプ場で友と飲んだアルコールが今日のエネルギー源。

 山頂には無線中継所のアンテナがあって、その下に三角点と宍粟50名山の標柱が立っていた。

 山頂は丸く伐り開かれていたが、周囲の木が伸びているので展望はほとんどなかった。それでも、木々の間から北に遠くの山が見えた。
 どの山が見えるのか地形図を並べていると、霧のように細かい雨が降ってきた。その雨に急かされるように、山を下りることにした。
 

日ノ原山山頂

 尾根道は北へ下っていた。傾斜の急な下りで、ずっと丸太階段が続いた。
 やがて、スギの木立の間から音水湖の湖面が見え始めた。
 
 送電線鉄塔の先が展望所になっていた。
 眼下に音水湖が大きく迫っている。音水湖は北に向かって細長く延び、右岸から突き出た岬のうしろに回り込んでいる。
 国道29号線が、橋を渡り、短いトンネルをくぐって左岸を縁取っていた。
 雨は上がって薄日が射していた。音水湖の湖面は、周囲の山を映して緑色に染まっていた。

鉄塔下より音水湖を望む

 鉄塔からは、尾根を離れて斜面を南に回り込み、出会った浅い谷に沿って下っていった。ずっと丸太階段が続いていた。
 
山行日:2020年9月27日

日ノ原 大森神社登山口〜マンガ谷の北のコル(650m)〜720mピーク〜日ノ原山山頂〜送電線鉄塔下〜国道29号登山口
 宍粟50名山の一つとして登山道が整備され、要所に標識が立っている。尾根道は踏み跡程度だが、木々に巻かれたビニールテープが道を教えてくれる。
 南の大森神社登山口にも、北の国道29号登山口にも駐車スペースがある。

山頂の岩石 白亜紀後期 引原層 溶結凝灰岩
 日ノ原山の山頂付近で見られたのは、流紋岩質の溶結凝灰岩である。
 石英と長石の結晶片に富んでいる。変質が進んでいて、有色鉱物はほとんど残されていなかった。流紋岩や安山岩などの火山岩、あるいは黒色頁岩の岩片をふくんでいる。
 山頂の南、マンガ谷に近い650mコルには泥岩が見られた。
 山頂から北への登山道には、安山岩が分布していた。緑色を帯びた灰色の岩石で、風化による変質が進んでいた。斜長石、角閃石、輝石の斑晶が認められた。
 
 引原層は、断層による陥没構造の内部に分布している。これは、ここにカルデラがあって、その内部を火山活動による火砕流が埋めたことを示している(引原コールドロン)。
 この引原層の凝灰岩からは、7300万年前(白亜紀前期)のFT年代が得られている(小室裕明ほか 2014)。
 

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