扁妙の滝~笠形山④(939.2m)  神河町  25000図=「粟賀町」


岩の見どころいっぱいの笠形山へ
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小畑山から望む笠形山

 笠形山は、山頂付近をふくめて北側一帯が白亜紀後期の火砕流堆積物でできている。
 今からおよそ6600万年前、ここではカルデラをつくる大きな火山の噴火があった。そのとき、大量に噴出した火砕流は溶結凝灰岩となって厚く堆積した。
 そのときの地表は、今の地表よりずっと上。その後の長い年月で、地表から風化し、流水によってどんどん侵食され、今の地形となった。
 笠形山は、播磨富士とも呼ばれることもあって火山のように思われがちだが、火山ではない。ずっと過去の火山活動による地層からできているが、山の形が火山活動によってできたものではなく、侵食によってできたものだからである。

 笠形山の山頂近くには、平たい石がたくさん落ちている。強く溶結した溶結凝灰岩には節理が生じやすいが、笠形山の山頂付近は板状節理が発達している。この板状節理によって、岩は平たく割れやすい。
 夫婦岩、天狗岩、天邪鬼の挽石、龍の背など、笠形山で見られる岩の造形は、この節理が元になって形づくられた。

 午前9時、登山道にはまだ朝の清々しい空気が漂っていた。右手からの水音が大きくなって、道は沢に沿い始めた。
 重なる大きな岩の間を、水は小さな滝となって流れ落ちていた。左の斜面から崩落してきた岩の間に道は続いた。

 沢の景観

 赤く塗られた鉄製の橋を渡って、石段を登ると石の塔が二つ並んで立っている。「夫婦岩」である。どちらの塔も、数個の大きな岩がたてに積み重なって「だるま落とし」のようだ。
 縦方向の節理によって岩が割れ落ち、横方向の節理に沿って風化・侵食が進み、このような「だるま落とし」になった。
 二つの石の塔の間には、「子育て観音」が祀られていた。

夫婦岩と子育て観音

 夫婦岩のすぐ先には、オウネン滝がかかっている。赤みを帯びた黒い岩肌を一筋の水がなめらかに滑り落ちている。水は、岩の複雑で小さな割れ目によって乱れながら広がり、滝つぼで小気味よくはじけていた。
 


 オウネン滝

 滝の右に、丸太階段が上っていた。滝の上に出て、登山道を進む。登山道の周辺には、大きな岩塊が並んでいた。左手に岩壁が続いていて、その岩壁から割れ落ちたロックフォールと呼ばれる岩塊群である。
 岩の上に、枯れてチリチリになったフジキの葉が落ちていた。今年の6月、ここを歩いたときにはフジキが白い花をいっぱいつけていた。
 岩の上や間を進んでいくと、目の前に大きな滝が現れた。扁妙の滝である。ここから見えるのは、滝の下半分。滝の下は、崩落した岩で真下まで埋め尽くされている。滝の水は、その岩の上に落ちているので、大きな滝にもかかわらず滝つぼはない。

 扁妙の滝を見上げる

 滝の下の岩の割れ目に、ダイモンジソウが繊細な花を咲かせていた。真白い5枚の花弁、オレンジ色や赤色の葯、黄色の花盤が鮮やかだった。
 滝の名は、江戸時代初期に、滝の近くに不動明王を祀った僧「扁妙」に由来するといわれている。

 ダイモンジソウ

 滝から登山道に戻り、滝の左を登っていく。ガレ石の道を登り、丸太階段の急坂を越すと、岩の間に鉄の階段がつけられていた。
 鉄の階段の上を左に折れると、滝見台に達した。落差65m、ここからは2段になって落ちる扁妙の滝の全体が見えた。落ち口から数条に分かれて岩を滑り落ちた水が、中ほどの飛び出した岩にぶつかって一つになり、そこからさらに勢いを増して一気に落ちていた。

滝見台から見る扁妙の滝

 滝見台を発ち、ゆるく北に進んだあと、急坂をつづらに登ると3合目の休憩所があった。ここから山頂まで、「合目」の標識が続く。
 3合目を過ぎると、いつの間にか自然林となっていた。道はゆるくアップダウンをくり返した。またスギ林になって谷を一つ渡った。
 岩と木の根の間にスギの落ち葉の埋まった登山道。4合目を過ぎても、道はずっとゆるく続いていた。
 やがて道は、一つの沢に近づき、その沢に沿うようになった。沢は滑床で、ほとんど水平に割れた岩盤の上を水が滑っている。この割れ目が、地層の重なりによるものか、溶結凝灰岩の節理によるものか判定が難しかった。

 5合目は、この滑床の中にあって「水辺広場」の標識が立てられていた。道はさらに滑床に沿って続いたが、やがて沢を離れて右手の斜面を上っていた。
 道が消えかかっているところもあったが、前方に丸太階段が見えた。そこを越えると、地面にはスギの木の根が見事に広がっていた。ちょうど6合目付近。
 上から、お父さんと小さな女の子が下りてきた。女の子に、思わず「すごいなあ。がんばっとうなあ。」と声をかけた。

登山道と滑床 6合目付近の木の根道 

 スギ林の中に、大きな岩が一つ横たわっていた。登山の目印になるのか、その岩の上にたくさんの小石が積み上げられていた。
 急な木の根道を登り切ると、道がゆるくなった。7合目の手前から8合目あたりまで、ほとんど勾配がない。何度も浅い谷を渡り、何度も低い尾根を越えて道は続く。あたりが広がって、高原のような地形となった。
 笠形山は急峻な山だが、高いところにこのような緩斜面があるのが地形の特徴である。

 沢に架かる橋をまた一つ渡ると、8合目。そこからゆるく登っていくと、主稜線に達した。
 コナラ、リョウブ、ネジキ、アカマツなどの自然林が広がっている。朝から空をおおっていた雲がどこかに去って、登山道には木漏れ日が射していた。

 主稜線の登山道

 9合目を過ぎると、山頂への急な坂が続いた。笠形山の山頂をつくっている台形の斜辺。
 息を切らしながら登っていくと、ようやく東屋の屋根が見えた。

 山頂には、数人の先客がいた。休日にしては人が少なく、ゆっくりベンチに座って休むことができた。

 笠形山山頂(千町ヶ峰・段ヶ峰の方向)

  山頂は絶好の展望地。ぐるりと周囲が見渡せる。千町ヶ峰の上に氷ノ山の山頂がわずかに顔を出している。そこから右へ、段ヶ峰、フトウガ峰の山影が薄く見える。
 越知川の流れを囲むように、白岩山、高畑山、小畑山、またに山、千ヶ峰、飯森山が稜線を連ねている。
 
 空気が澄んでいると播磨灘や、そこに浮かぶ家島の島々が見えるのだが、今日は見えなかった。

 山頂から北の展望

 山頂から北東尾根を少し下ってみた。そこには、「天邪鬼の挽岩」や「龍の背」などがある。
 どちらも、溶結凝灰岩の冷却節理によってできた岩の造形。
 もう一つ、「天狗岩」もあるはずなんだけど・・・。これまで、何度か見ていて写真も撮っているのに、今回は山頂の周りをいくら探しても見つからなかった。
 あきらめて山頂へ引き返した。探したところのもう少し下だったのかもしれない。

天邪鬼の挽岩(立岩)  龍の背

 下山は、西尾根を下った。尾根には、うっすらと踏み跡があった。自然林が多く、一歩あるくごとに落ち葉の乾いた音がした。
 812mピークを越えると、急な下り坂となった。3合目地点で登山道と合流。そこから、コテージの並ぶキャンプ場へと下った。
 途中、割れ落ちた岩塊で埋まった斜面を渡った。大規模なロックフォールだった。


 ロックフォール
山行日:2022年10月15日

オウネン平登山口~オウネン滝~扁妙の滝~滝見台~笠形山山頂~天邪鬼の挽岩・龍の背~笠形山山頂~812mピーク~コテージ登山口 map
 オウネン滝登山口に駐車場がある。山頂までは、オウネン滝、扁妙の滝、滝見台を順に通過する一般コース。
 下山は尾根を伝った。標識はなく、登山道として整備されていないが踏み跡が続いていた。3合目で一般道と合流し、コテージの方へ下った。

山頂の岩石 白亜紀後期 笠形山層 溶結火山礫凝灰岩
溶結火山礫凝灰岩(山頂の近くで採集)
板状節理によって平たく割れている
上の岩石の断面(写真横21mm)
Q:石英 F:長石 B:黒雲母
H:普通角閃石 R:岩石片
 笠形山には、白亜紀後期の火砕流による溶結凝灰岩が分布している。
 溶結凝灰岩は、火砕流が冷え固まる過程で、節理が生じることがよくある。
 笠形山では、山頂付近で板状の節理が発達していて、登山道で平たく割れた岩がたくさん見られる。

 笠形山の溶結凝灰岩は、強く溶結した緻密な岩石で、特徴的な赤褐色をしている。
 多くの石英・長石・黒雲母の結晶片をふくんでいる。少量の普通角閃石の結晶片も見られることがある。
 また、頁岩や安山岩・流紋岩などの岩石片もふくまれている。

 軽石が熱と重さで融け、引き伸ばされてレンズ状になったつくり(溶結構造)が、笠形山ではどこでも見られる。

 笠形山層からは、6600万年前の放射年代が報告されている。

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