高丸(1070.1m)〜鉢伏山(1221.1m) 養父市・香美町 25000図=「氷ノ山」
ハチ高原スキー場から高丸・鉢伏山への山スキー
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| 高丸山頂から鉢伏山を望む |
30年ぶりの山スキー。登行の体力不足と滑降のテクニックの超不足を思い知らされながらも、何とか二つのピークに立つことができた。
新調のスキーでめざしたのは鉢伏山。初めは、林道を利用して高坪山との間のコルに出る予定だった。ハチ高原スキー場入口から民宿・食堂街の前を通って順調に林道に入り込んだが、その林道が最初に大きく曲がるところで道をはずしてしまった。
林道が上にあるものと思い(実はなかったのだが)、急な斜面を上ろうとした。しかし、上に向けたスキー板につま先で立つのは不安定で難しく、スキーが前に出せなかった。斜登高とキックターンで登ろうとしたが、そのキックターンがスキーのテイルがやわらかな雪にささってなかなかできない。四苦八苦してわずかに登っただけで、体力を消耗してしまった。
あきらめて道をはずした地点へ戻ろうとした。シールをつけたままのスキーは、深雪の急斜面でコントロールできなかった。へっぴり腰……、転びまくりながら斜面を下りた。
林道を再び見つけ、少し進んでみたが雪崩跡のデブリもあるし、体力的にもきつくなってきたので、いったんスキー場へ戻ることにした。
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| 林道から望む氷ノ山 |
ハチ高原スキー場と高丸 |
「ホテルやまとよ1」の前に滑り込んで、スキーをぬいで休みながら、次の手を考えた。そして、まず一つスキーで登ろうということで、ここから高丸をめざすことにした。
中央トリプルの下をくぐり、スキーヤーやボーダーの間を縫って、ゲレンデを斜めに登っていった。整備されたゲレンデの雪に、新しいシールはよくきいた。中央ペアの下は横切れなかったので、しばらくリフトの下を真っ直ぐに登った。すぐ横を、ボーダーが滑り降りてはジャンプ台で跳んでいた。中央ペアの上部でその下をくぐり、さらにゲレンデを斜めに登った。今はもう止まっている中央クワッドをくぐって、千石平の下に達した。
ここから上はリフトも止まり、スキーヤーもボーダーもいない。ただ、千石平のゲレンデには圧雪車のキャタピラの跡が上っていた。もう誰も気にせず、キャタピラ跡を登っていった。ときどき立ち止まっては呼吸を整えた。キャタピラ跡は、高丸山頂下の全但高丸ペア山上駅まで続いていた。そこから、高丸山頂まではわずか。新雪の上を、直登した。
左手に氷ノ山が雄大な白い尾根を直線的に伸ばしている。数日前に降った雪が、黄砂の汚れをその下に隠し、風紋をつくっていた。あとどれくらいかと顔を上げると、すぐ目の前に山頂があった。
板をはずし、山頂に一つだけとび出した石に腰かけて休んだ。スキー場から、軽快な音楽が流れてくる。その音楽に、スキーヤーがリフトのゲートをくぐったときのピンポーンの音が間欠的に交じった。
下から、もう一人でスキーで登ってきた。「結構しんどいもんですねぇ。」と話しかけてみた。ゲレンデを、スキーでエッチラオッチラ登ってくるなんて、彼も私と同じように変わっている。
彼は、来週のスキーツアーに備えての新しいビンディングのテストだという。ビンディングは、偶然私と同じ「ナクソー」の製品。話を聞いているうちに、「えー、そうやったんや。そうやって使うんやったんかあ。」と、思わずうなってしまった。
ヒールフリーのときに、板と靴の角度が調節できることをそのとき初めて教えてもらった。どうりで、急斜面でつま先がぐらぐらと安定しなかったわけだ。何しろ30年前に使っていたのは、「カンダハー」。ワイヤーで、かかとに金具を取り付けた登山靴を引っ掛けるというものだった。角度がビンディングの操作で調節できるなんて思いもしなかったのだ。
来週のスキーは、おそらく白山になるというその達人は、シールをはずして先に山頂を下っていった。
私は再び一人になって、周囲の風景を眺めた。南に氷ノ山が大きく迫っている。しかし、氷ノ山までの道程を目で辿ってみると、尾根がいくつかのピークを連ねてぐるりと回りこんでいて、そこまではるかに遠く感じた。氷ノ山の下の谷間には、大久保の街並みが黒い森と白い雪に囲まれて佇んでいた。
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| 千石平を登る |
高丸山頂から扇ノ山方向を望む |
高丸から、鉢伏山への登路が一望できた。尾根が緩やかにうねりながら上っているが、山頂手前の斜面だけは、かなりきつそうに見えた。
シールをはずし、高丸から滑った。こんな緩い斜面でも、新雪を曲がるのはむずかしい。くずれかけたボーゲンで、ズリズリとコルまで下った。
そこから再びシールをつけて、鉢伏山方向に歩き出した。この、シールをつけたり、ビンディングのかかとをフリーにしたり、靴の閉め具をゆるめたりするのに、結構時間と体力がかかった。
やや急な斜面を登ると、尾根の傾斜は水平に近いほど緩くなった。しかし、ここは切れ落ちた南側に雪庇が張り出し、その雪庇が一部で割れ落ちそうになっていた。
やがて、山頂への最後の上りにさしかかった。尾根はやせ、雪から顔を出した笹がじゃまをし始めた。表面から解け始めた雪は、ときどきシールにくっつき、登高をさらに辛いものにした。尾根から左手の浅い谷に下り、キックターンを繰り返して、鉢伏山の山頂に達した。
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| 鉢伏山山頂へ |
鉢伏山山頂 |
鉢伏山の山頂は、南北からリフトの駅にはさまれ、スキーヤーやボーダーがひっきりなしに行き来した。私は、中央で雪から頭を出した石塔に腰かけて、しばらく休んだ。
スキーがうまかったら、ここから一気にゲレンデを滑り降りるのだが……。ハイランドビューコースと名付けられたその上級者オンリーのコースに入り込めばえらいことになってしまう。立ち入り禁止のロープをそっとくぐり抜けて、来た方向へ下った。
最初の急な斜面は滑れなかった。スキーを横にして一歩一歩下る。これでは、何のためのスキーなのか分からない。斜面が少し緩やかになったところで、滑ろうとしたが、真っ直ぐ滑れば山から滑り落ちてしまいそうだし、曲がるには幅がなさすぎる。横滑りの技術もないので、相変わらずスキーを横にして一歩一歩下ったり、それでも少し滑ってみたり……、何回か転びながらの悪戦苦闘だった。
高丸との間のコルからゲレンデに入り、ようやくまともな滑降ができた。湿って重くひっかかる雪だったが、それでも回転を繰り返しゲレンデの下に滑り下りた。
山スキー……。ばか力とテクニック、それにコースを読む洞察力が必要だ。登頂した喜びと技術不足の痛感とが入り混じった複雑な気持ちで、ゲレンデの上に立つ2つの白いピークを振り返った。
山行日:2006年4月1日