高 峰(725.5m)   神河町       25000図=「長谷」


長谷・・・ふるさとの山、高峰
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ホテルモンテローザの前から高峰を見る

 長谷で生まれ育った私には、高峰はふるさとの山である。私の家から見えたものといえば、前を流れる川と狭い田んぼと、そのすぐ向こうにそびえる高峰だけだった。部屋の窓から見えるのは高峰のスギ林がすべて。高峰は空さえも隠していた。
 裏山や川ではよく遊んだが、山脚からいきなり急な高峰にはほとんど足を踏み入れたことがなかった。

 空にかかっていた雲が動き、高峰に朝日が射した。山全体がスギでおおわれているが、そのスギの葉も茶色味がかって冬を感じさせた。

 町民体育館の駐車場から、斜めにつけられた道を登る。大きく曲がると広場があって東屋が建っている。何本もの桜の木が植えられた高峰公園で、住民憩いの場である。
 どこかで草を焼いているのか青白い煙が見える。その煙は、地面近くの冷たく重い空気の上まで立ち上ると、それ以上は上らずに水平に流れていた。

 高峰公園の朝

 公園を過ぎると土の道になったが、広い道はしばらく続いていた。わだちの水には氷が張っている。霜の降りた落ち葉や枯れたススキを踏むと、その下の霜柱がザクザクと音を立てた。
 小学校のチャイムがやさしい音色で聞こえてきた。時計を見ると9時20分。何の時間かな?
 ヤマガラの声がした。
 小さな鳥が枝に止まった。双眼鏡で見ると、ルリビタキの雌。枝を渡りながら、ムラサキシキブの実を食べていた。

ルリビタキ♀

 道は標高360m地点で途切れた。そこから谷の斜面を登る。始めは杣道らしきものもあったが、それもすぐに消えた。
 谷は、岩塊が重なっている。ときどきその下から水の音が聞こえてくる。岩に薄く張りついた地衣類の白が、薄暗い谷に際立っていた。ハンマーで岩をたたくと、赤い火花が飛んだ。
 ずっとスギ林が続いた。スギの木は、太く真っすぐに伸びている。地面に横たわる間伐された丸太を、一つひとつ越えて登った。
 谷の岩塊の量はますます多くなり、斜面全体を埋めていた。崩落した岩塊が集まったロックフォール(岩塊斜面)である。

 ロックフォール

 長く続くロックフォールを左に見ながら登っていく。
 標高450m地点に、大きな岩壁が露出していた。前面が節理でスパッと切れ落ち、その方向以外にもさまざまな方向に節理が発達している。この岩壁が壊れて崩落し、ロックフォールがつくられた。
 この岩壁を越えても、まだロックフォールは上へと続いた。標高500mあたりに、もっと大きな岩壁が2ヵ所に露出していた。ここが、ロックフォールの岩塊を供給した一番上の露岩壁であった。
 

 ロックフォールの供給源の岩壁

 見上げると、木々の間に空の青が見え始めた。谷を離れて、その青の見える方向をめざした。急斜面を四つん這いになって登る。
 スギにときどきヒノキが混じっていた。間伐された木はさまざまな方向に倒れているが、真下に向かって倒れている木は、登るのにいい手掛かりになった。上に向かって適当な間隔で並ぶ切り株も、いい手がかりだった。
 ときどき、木の幹にザックごともたれて呼吸を整えた。休みながら、次はどう進もうかとルートを目で探った。小学校から聞こえてくるチャイムの音が小さくなった。
 

スギの木の下の急登

 標高700mで広い尾根に出た。落ち葉の間に雪が残っていた。尾根には、どちらにも落ちなかった岩塊がいくつも乗っていた。
 尾根の急坂は少しずつ傾斜がゆるみ、最後に丸い山頂に達した。

 子どもの頃からいつも見ていた高峰の山頂・・・。
 三角点は、コナラやクリやヒノキの落ち葉に埋まっていた。

 高峰山頂

 すっかり葉を落とした木々の間から、周囲の山々が見えた。 北西に夜鷹山、北に高星。遠くに見える粟鹿山の山頂は雪で白い。白岩山から高畑山への稜線がうねっている。長谷ダムの湖面は、日陰の谷に濃い青色でたたずんでいた。
 播但線を走る列車の音が小さく聞こえてきた。小学校のチャイムは、もうここまで届かなかった。

 高峰山頂から高畑山方面を望む

 高峰は東から見ると一つの山のように見えるが、その背後に長く尾根を連ねている。高峰山頂から、この尾根を進んだ。
 スギ林の尾根。尾根の近くに林道が通っていたが、木々も生えて荒れている。尾根をそのまま進んだ。尾根はゆるくアップダウンをくり返したが、そのうち南側に平坦な地形が現れた。成ト(なると)高地を呼ばれているところである。
 山上のこの平地は、峰山高原などと同じように氷期につくられた周氷河斜面だと考えられる。
 地籍図根三角点があって、そこから北へ林道が下っている。ここから下山することにして、成ト高地へ足を踏み入れてみた。
 高地にはスギが植林されていて、林道がつけられていた。林道が浅い谷を渡ったところで、林道を離れてその谷に沿って下った。地面には、枯れたシダが伏している。倒木は、コケに厚く包まれ、それらの上をうっすらと雪がおおっていた。

成ト高地

 谷には、いくつか水流があった。水流は地面を削っているが、削られたところには大小の岩塊が層をなしている。岩盤は見られない。高いところから崩落してきた岩塊が谷を埋めて、山上にこの平らな地形をつくっている。
 水流の脇が湿地になっていた。湿地には、オオミズゴケ(兵庫県レッドリストCランク)が群落をつくっていた。冬のオオミズゴケは、中心部が赤褐色に色づいていた。

 成ト高地のオオミズゴケ

 地籍図根三角点へ戻り、そこから林道を下った。林道は急斜面をつづらに下り、途中から谷を渡っていた。
 この下りでも、大規模なロックフォールが各所で見られた。
 
大規模なロックフォール

山行日:2023年1月11日

町民体育館駐車場~高峰(725.2m)~成ト高地~ゴール地点 map
 広い道が高峰公園を過ぎてからしばらく続いている。道の終点からは、急な山の斜面を登った。岩塊が広がっていたり、倒木が多くて歩きやすくはないが、植林の下でヤブ漕ぎの必要はない。
 高峰山頂から成ト高地へ続く尾根もそれほど歩きにくくはない。
 地籍図根三角点から北へ、林道が下っていた。
 

山頂の岩石 白亜紀後期 峰山層 安山岩
 今回歩いたコースには、白亜紀後期の峰山層が分布している。この山域の峰山層は、安山岩および安山岩質火砕岩(溶結凝灰岩・溶結火山礫凝灰岩)で構成されている。峰山層の安山岩と同質の溶結凝灰岩は、区別をするのが難しいことがある。

 ふもとから標高400mあたりまでは、安山岩である。暗灰色の緻密な岩石で、斜長石・普通角閃石の斑晶をふくんでいる。普通角閃石の多くは変質している。
 山頂の東、標高500~550mあたりでは岩石片を多くふくむ溶結火山礫凝灰岩が見られた(写真1)。岩石片は、赤紫~帯紫灰色の安山岩が多い。基質の部分には、斜長石と普通角閃石の結晶片、および長さ最大1.6cmの溶結レンズをふくんでいる。全体的に緑泥石化している。
 高峰山頂には、安山岩が分布している(写真2)。暗灰色の緻密な岩石で、長柱状の斜長石の斑晶を多くふくんでいる。普通角閃石は変質している。
 
写真1 溶結火山礫凝灰岩(横8.6cm)
(高峰山頂の東、標高500m地点)
写真2 安山岩(横1.6cm)  (高峰山頂)
  

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