摩耶山③702m・摩耶別山717m
 
神戸市  25000図=「神戸首都」


青谷道から行者尾根を経て摩耶山へ 
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行者尾根 (風化した花崗岩とアカマツの落ち葉)

 阪急王子公園駅から青谷道を進み、行者尾根を経て摩耶山に登った。摩耶山から摩耶山天上寺、摩耶別山へと足を延ばし、ロープウェイとケーブルで山を下った。
 
 冬の朝は遅い。阪急電車の中で、ようやく夜が明けてきた。
 王子公園駅から、王子公園と住宅街を抜けて青谷道の登山口へ。20分のアプローチ。山が海に迫った六甲は、どこでも短いアプローチで山に取りつくことができる。
 登山口で振り返ると、もう海が見えた。朝もやのかかる海に、ポートアイランドにつながる橋の赤いアーチが鮮やかだった。もうここで、山を下ってくる人が何人かいた。

 アラカシの木の葉がかぶるコンクリートの登山道を登り始めた。登山道の山側に、はじめから六甲花崗岩が出ていた。カリ長石のピンク色が目立つ。風化が進んでいるが、ハンマーで割り採った岩のかけらをルーペで見ると黒雲母の劈開面がきらきらと光っていた。もう少し小さくしようと再びハンマーでたたくと、全体が細かく砕けて飛び散った。

 左手、青谷川の流れる谷がどんどん深くなっていった。谷に下りていく道が分岐していたので、少し下りてみるとお地蔵さんが祀られていた。
 向こうは切り立った大岩壁。谷底はちょっとしたゴルジュになり、奥に滝がかかっていた。この道は、途中で危険につき立入禁止となっていた。

青谷川にかかる滝

 鉄板の敷かれた橋を渡った。砂防ダムでいったんコンクリート道が途切れて地道となった。モミジの葉で埋まった山肌に、細い一筋が人の歩いた跡を残していた。
 「静香園」にさしかかった。山の斜面に茶畑が広がっている。昭和51年に、およそ100年ぶりに神戸で復活した茶畑だという。毎年5月初旬の八十八夜に小学生が茶摘み体験をすると説明版に書かれていた。
 茶畑の上に真っ赤なサザンカの花が咲いていた。先ほどから大きな声で鳴いていたルリビタキが、こちらへ飛んできて近くの枝に止まった。

静香園の茶畑 ルリビタキ♀

 静香園のすぐ先に「つくばね寮」があった。100年以上の歴史をもつ「つくばね会」の毎日登山の署名所のあるところ。ちょうど下から走るように登ってきたひとりの人が、この小屋の鍵を開けるところだった。
 8時29分、つくばね寮を過ぎたところで、朝の光が初めてこの谷に射しこんできた。

つくばね寮の上の登山道

 青谷川に沿った登山道を進んでいく。道の脇に「成田不動明王」の赤い鳥居が立っていた。その下に、「大龍院 岩屋の龍」の銘の石碑。下から登ってきた女性が、鳥居の前で立ち止まりさっと手を合わせて、また登っていった。
 鳥居をくぐって階段を登ると大龍院が建っていて、それを左へ回り込むように下ると「岩屋の滝」があった。護摩堂や滝見堂があって不動明王の石仏も立っている。滝の岩は三段になって切れ落ちているが、水はほとんど流れていなかった。

 元の道を進んだ。道の傾斜がゆるくなって行者堂跡に達した。数段の石垣が残っているが、今は荒れてかつての面影はない。草むらにヤブランの種子が黒く熟していた。

 行者堂跡で青谷道と別れ、行者尾根へと向かった。はじめは、谷沿いの細い道を進む。小さな橋で流れを左から右へと渡り、少し行くと分岐があった。まっすぐ谷沿いに進むと行き止まり。分岐を右にとり、尾根をめざしてつづらに折れた道を登っていった。
 道はコナラの落ち葉で埋まっていた。ところどころにイノシシの掘り返した跡がある。「雨上がりの落ち葉は滑りやすいので気をつけましょう。」と、今朝のラジオでアナウンサーが言っていたことを思い出した。

 行者尾根は、急傾斜の岩尾根。標高差250mを一気に駆け上っている。尾根に突き出た花崗岩の岩の間を抜けたり、岩の上を越して登っていった。
 岩の間は落ち葉で埋まっていた。ときどき岩や落ち葉の上にソヨゴの赤い実が落ちていた。アカマツが多くなってきた。あたり一面がアカマツの茶色の枯葉で敷き詰められていた。

落ち葉散る行者尾根

 尾根を岩壁がふさいでいた。岩壁の花崗岩には、縦・横・斜めの節理が発達している。その斜めの節理で割れ落ちた棚が安全な登路をつくっていた。
 下は老婆谷に向かって深く切れ落ちている。岩壁の上で振り向くと海が光っていた。

行者尾根の岩壁

 傾斜がさらに急になってきた。開けたところから前方に、天狗道の通る620mピークが尖っていた。あそこまで登り、そこから尾根を右へ進んでいくのだ。

天狗道の通る620mピーク

 岩の角や木の枝に手をかけて体を引き上げ、高度をかせいだ。ようやくたどり着いた620mで、一休み。
 あたりは、コナラやアカガシやアカマツの林。林内を風が吹き抜けて心地よい。木立の向こうに、摩耶山に林立する白いアンテナが見えた。

620mピーク

 尾根をゆるく下り、コルから登り返す。最後はササ原の間の細い道を伝って摩耶山山頂に達した。ここに埋まっているのは標高698.6mの三等三角点。摩耶山のいちばん高いところは、ここから30mほど西の標高702mである。
 三角点の上には、古いアカガシが枝を広げていた。三回目のこのアカガシとの出会い。樹皮が丸くうろこ状にはがれ落ちている。木漏れ日を浴びてたたずむ姿は、さらに存在感を増しているように感じた。

摩耶山山頂のアカガシ

 摩耶山から、天上寺へ向かった。車道を進み、山門をくぐって石段を登る。境内に広げられた白砂の上に緑色片岩の庭石。石の緑と屋根の緑、砂の白と壁の白が青い空の下で美しかった。

摩耶山天上寺

 天上寺の裏を通って、摩耶別山へ向かってみた。摩耶別山は、標高717mと摩耶山周辺ではいちばん高い。アゴニー坂へ進む道のわずかに外れたところが摩耶別山の山頂で、そこは「神戸市水道局摩耶減圧槽」が建っていた。
 遊歩道を、摩耶山方面へ戻った。途中、「摩耶の石舞台」に寄る。展望の好い丘で、大阪湾だけではなく北東に六甲のなだらかな尾根が見えた。六甲ケーブル山上駅の左下に保塁岩が白い岩肌を見せている。山上の六甲町には、保養所や研修所などの建物がいくつも建っていた。

摩耶の石舞台から見る六甲の尾根

 遊歩道から車道に出て、石段を登ると掬星台。展望バルコニーから、神戸のビル群がほとんど真下に見える。そこから芦屋、西宮、尼崎、大阪と、どこまでも続く市街地が大阪湾を囲んでいる。
 梅田のビル群は薄くなって黒く見えた。その上の生駒山地から、遠くの山を右へ追っていくと紀伊半島の山地へと続いている。陸が海に没すると、友ヶ島を間にして、淡路島が再び山影を延ばしていた。
 ポートタワーやあべのハルカスなどのランドマークを探した。いくつも浮かぶ人工島、人工島を結ぶ橋、川の流れに沿った一直線の林、ビルを抜けて縦横に走る道路・・・。双眼鏡を手にして、しばらくぼーっとここに立っていた。
 大阪湾には、船が何隻か浮かんでいた。一そうの船がこちらに向かって走っている。船のうしろに、一筋の白い航跡がゆるく曲線を描いていた。

掬星台から大坂方面を眺める

 まだ時間は早いが、今日はこれで終わり。星の駅の「Maya702」で食事をして、「まやビューライン」のロープウェイとケーブルを乗り継いで街へと下った。

山行日:2025年12月18日

阪急王子公園駅~青谷道~行者尾根~摩耶山~摩耶山天上寺~摩耶別山~掬星台~摩耶ビューライン~神戸市バス~JR六甲道  map
 阪急王子公園駅から青谷道登山口まで、王子公園内と車道を歩く。そこからの登山道はよく歩かれていて、要所に道標が立っている。
 行者堂跡から行者尾根にとりつくまでは、少し道のわかりにくいところがあるので注意が必要である。

山頂の岩石 六甲花崗岩 (後期白亜紀)
 地質図では、山すその市街地に布引花崗閃緑岩が分布しているが露頭が見られなかった。
 青谷道の登山口から六甲花崗岩が現れた。カリ長石のピンク色が特徴的な、黒雲母花崗岩である。新鮮なものは少なく、いろいろな風化の状態が見られた。
 行者尾根では、風化によって表面から崩れかけたコアストーンと、そこから崩れて真砂になりかけた岩の粒が見られた。

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