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沼島 江ノ尾の結晶片岩と海辺の小石 江ノ尾はちょうどその間にあって、緑色片岩と泥質片岩が入り組んだ地層が観察できます。また、美しいピンク色の紅れん石片岩も見ることができます。 ただし、最近の研究からこれは紅れん石ではなく、Mn(マンガン)をふくんだ緑れん石であることがわかりました。鉱物命名の決まりでは、Mn>Feなら紅簾石、Mn<Feなら緑簾石となります。三波川変成帯で見られるこの赤い鉱物は、化学組成分析によってほとんどがMn<Feであることがわかったのです。ここでは便宜上、紅れん石と表すことにします。 江ノ尾へ行くには、船の着く沼島ターミナルセンターから北へ峠を一つ越えます。江ノ尾は小さな入江になっていて、色とりどりの結晶片岩の小石が集まっています。入江の両側では、結晶片岩の地層を観察することができます。
1.沼島の結晶片岩 三波川帯は、中央構造線の南側に九州から関東地方まで細長く伸びた変成帯です。 三波川帯のもとの岩石は、白亜紀前期頃に沈み込んだ海洋プレート表層の堆積物や海洋地殻です。このような岩石が地下深くに引き込まれて、高い圧力のもとで変成作用を受けました。 三波川帯の結晶片岩は、地下15~30km程度の深さでできたものと考えられています。その時期は、年代測定によって白亜紀中期ごろ(約9000万年前)とされています。このような地下深くでできた岩石が、その後今の位置へ上昇し、上の地層が侵食されてなくなったため地表に表れているのです。しかし、どのようにして三波川帯の岩石が上昇したのかは、いくつかの説が提出されていますがまだよくわかっていないのです。
2.緑色片岩と泥質片岩 写真左は、緑色片岩で厚さ20cm程度の泥質片岩がはさまれています。両者とも片理が明瞭で、片理に平行に泥質片岩がはさまれています。泥質片岩は、片理に伴う割れ目(劈開)が発達しています。 写真のハンマーの下の白い部分は石英脈です。石英脈は片理に平行に脈状やレンズ状に入っていることが多いのですが、このように片理に斜交している場合もあります。 写真右は緑色片岩の表面を拡大したものです。白い斑点が目立ちます。この斑点は、変成作用でできた曹長石(斜長石の一種)の結晶で、大きいものは、3~4mmに達します。このような変成作用でできた周りの鉱物より大きな結晶を斑状変晶といいます。また、斑状変晶の見られる緑色岩を点紋緑色片岩といいます。 曹長石の斑状変晶の間を埋めている部分は濃い緑色です。これは、緑れん石や緑泥石などの緑色の鉱物がふくまれているためです。その他、角閃石、白雲母、石英などがふくまれています。 緑色片岩は、玄武岩質の火山岩や火砕岩が変成を受けてできたものです。
3.紅れん石片岩 写真左は、石英片岩の中に見られるピンク色(紫紅色)の紅れん石片岩です。この色は、赤色の紅れん石(Mnをふくんだ緑れん石)をふくんでいるためです。片理が発達し、片理面には銀色に光る白雲母の細かい結晶がぎっしりと並んでいます。 紅れん石片岩は、Mnをふくんだレッドチャートが変成作用を受けてできたものです。 紅れん石片岩は、三波川帯の結晶片岩に特徴的に出てくる岩石であり、日本以外ではあまり産出しないようです。自然がつくりだした色の美しさをもつ紅れん石は、海外でも人気の高い岩石なのです。 紅れん石片岩の地層中に、褶曲構造が見られます。写真右の露頭では、完全に180度折り返したように見えます。さや状褶曲が伸長方向に平行な面で見えているのかもしれません。
江ノ尾では、緑色片岩や泥質片岩・紅れん石片岩のほかに、砂質片岩や石英片岩も見られます。 4.海辺の小石 入江には、さまざまな色のきれいな小石が転がっています。小石はどれも、うすく平たい形をしています。結晶片岩は、板状や棒状の鉱物が一定の方向に並んでいるためにうすくはがれやすいという性質をもっています。これを片理といい、そのために海岸に転がっている石も平たくなっているのです。
紫紅色をした美しい石です。これは、紅れん石(Mnをふくんだ緑れん石)というピンク色の鉱物がふくまれているためです。紫紅色のこい部分に、紅れん石が多く集まっていますが、結晶が小さいのでその形は見えません。 石の中にもっとも多くふくまれているのは石英です。片理(平行な割れ目)がよく発達し、片理面には銀色に光る白雲母の細かくうすい結晶がぎっしりと並んでいます。
表面に白い粒の目立つ緑色の石です。この白い粒は、変成作用でできた曹長石(斜長石の一種)の結晶です。このような結晶を斑状変晶といいます。石の名前につけられた「点紋」は、この斑状変晶の斑点をさしています。 沼島の緑色片岩の多くは、この「点紋」が入っています。緑色の部分には、緑泥石や緑れん石、あるいは角閃石、白雲母、石英などが含まれています。こい緑色と黄緑色が縞もようをつくっていることがありますが、こい緑色の部分には緑泥石が多く、黄緑色の部分には緑れん石が多くふくまれています。
泥質片岩
白色、銀白色、オレンジ色、赤色など、さまざまな色をしています。入っている鉱物の違いよってできた縞もようが、よく見られます。 石英がもっとも多く、白雲母、黒雲母などが含まれています。片理は、よく発達していますが、ほとんど石英からだけできている石英片岩にはあまり片理が見られません。
量はあまり多くありませんが、真っ白な丸い石を見つけることができます。これは、ほとんどが石英からできています。 緑色片岩中などに、脈状に入り込んでいたものが、洗い出されたものです。この石だけは片理が発達していないので、他の結晶片岩とちがって平たくならずにコロッと丸い形をしています。
よく探すと、銀白色の表面にオレンジ色の粒が目だつ石を見つけることができます。オレンジ色の粒は、ざくろ石の斑状変晶です。白雲母は、片理面に同じ方向を向いてぎっしりと並んでいます。白雲母の間に見られる緑色の長細い鉱物は、緑泥石です。 結晶片岩以外に、わずかの頁岩、安山岩、流紋岩質の火砕岩などが含まれています。これは、もともと沼島の石ではなくて、工事などで外から持ち込まれた石の可能性があります。割れたガラスが丸くなった青い石ころもあり、これもなかなかきれいです。 三波川帯の結晶片岩が見られることでは、埼玉県の長瀞や徳島県の大歩危・小歩危などが有名ですが、海岸をこの石だけが埋め尽くす光景は、ここ沼島だけのものです。 引用・参考文献 前川寛和(2024)沼島のさや状褶曲,HP「青石三昧」https://bluestone27.com/ ■岩石地質■ 後期白亜紀 三波川変成帯 結晶片岩 |