鳥帽子山(532.4m) 多可町 25000図=「中村町」
展望の岩峰に巻き上がる風
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多可町西脇より見る鳥帽子山
中央が鳥帽子の頭、山頂はこれに隠れて見えない |
鳥帽子山は、笠形山の東、杉原川の流れに抗して立っている。
ふもとの、山野部あたりからだと台形の穏やかな山容に見えるが、右肩が岩壁によってすっぱり切れ落ちている。北へ移動して西脇あたりに回り込むと、その岩壁が山頂を隠して稜線上に飛び出し、その名のとおり鳥帽子の形に見えるのである。
初秋の朝、鳥帽子山は、黄金色に染まった田の上に、岩壁から下る稜線を波打たせて陽光を浴びていた。
坂本と山野部をつなぐ櫂の坂から山に入った。櫂の坂の峠には、配水池があったが、ここからの尾根はいきなりヤブにおおわれていた。そこで、尾根の東の浅い谷に逃げ、ヒノキの植林の中を上った。
谷には水がチョロチョロと流れ、ゼニゴケが密生していた。ゼニゴケの上のマツカゼソウは、林内の風に涼しげにそよいだ。やがてその谷もヤブにおおわれたので、再び尾根に上った。
木の枝をつかみながら急登し、腰の高さまで伸びたコシダを分けて進むと、旧町界の石柱が現れて傾斜が緩くなった。
その先に、泥水をたたえたイノシシの生々しいヌタ場。笛は持って来ていない。近くの石をハンマーでたたいて音を出し、山カイ(点名)の山頂に達した。
ヒノキの枝葉の間から、笠形山が大きい。その下には、大屋の小さな集落が埋もれていた。
そこから北への尾根は狭く、進路は明瞭だった。尾根に残った踏み跡を、木々の枝を払いのけながら進んだ。
あたりは、ネズミサシ、ミツバツツジ、コナラ、ネジキ、ヒサカキなどの雑木。ナツハゼは、枝先の葉をもう赤く染めていた。実を口に含むと、甘酸っぱく熟していた。
台風の影響がまだ残っているのか、ときどき強い風が吹いた。そのたびに、木漏れ日が林内をまだらに揺れた。
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| 点名山カイより笠形山を望む |
ナツハゼ |
尾根には、少しずつ岩が現れ始めた。やがて、幹の曲がりくねったコナラ、ソヨゴ、アカマツの下の480mピークに達した。
そこから先は、ますます岩がちの様相が強まった。岩石は、溶結火山礫凝灰岩。風化していることが多かったが、1ヶ所で新鮮な標本が得られた。光を当てると、緑色の基質の中に石英がギラギラと光った。
尾根上に折り重なるように続く大きな岩を乗り越え、あるいは縫って進んだ。鳥帽子山の三角点は、一番高い岩場を少し下った雑木の中にひっそりと埋まっていた。
今日はこれからが佳境。ここから北東へ、鳥帽子の頭をめざして下った。尾根上に現れる大小の岩を越して進むと、目の前にグッとたくましく盛り上がった高まりが見えた。高まりの中からは、大きな岩が飛び出している。その岩に登ると、突然目の前が大きく開けた。
岩の上は、5m四方ほどの小さな広場。正面に妙見山が大きく立っている。岩の前方に立てば、木々の枝を揺らして風が湧き上がってきた。ここが、鳥帽子の頭……。
岩の右手に、雑木のトンネルのようになって下る踏み跡があった。その踏み跡をズリズリと落ちるように下ると、山からせり出した岩の上に出た。前も左右もスッパリと切れ落ち、風をさえぎるものがない。正面からだけではなく、左右からも体をさらうように風が巻き上がってくる。風の強さと高度感に足がすくんだ。後ろのヒノキの枝を手でつかみ、岩の後方にへっぴり腰で立つのがやっとだった。
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| 展望岩から見下ろす |
展望岩を見上げる |
ここが、HP『山であそぼっ』にあった展望岩だった。
妙見山の下を、杉原川がゆるく弧を描いて流れている。杉原川を上流へ追うと、その上に篠が峰、大井戸山、竜ヶ岳が霞んでいた。
杉原川の西岸には、またに山、千ヶ峰、飯盛山、入相山、笠形山……。しだいにボリュームを増し、色を濃くして迫っていた。
木々の枝をつかみながら、この岩の横をさらに下りてみた。すると、その下にも小さくせり出した岩場がいくつかあった。
ここから上を見上げると、展望岩の底が見えた。展望岩は、岩壁と一続きの岩ではなかった。節理に沿って風化し割れ落ちた大きな岩塊が、上から滑り落ち、ここでかろうじて止まっているのだった。
奇跡のようなその岩にもう一度上り、さらにその上の鳥帽子の頭に引き返した。
杉原川の両岸に広がる田は、緑、黄緑、黄、黄土色といろいろな色調に染まり、パッチワークのように見えた。
ここは、三方が木々に囲まれているため風も弱い。目の前には、初秋の空、初秋の山……穏やかな里の風景が広がっていた。
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| 展望岩から望む妙見山 |
千ケ峰(右)から飯盛山(左) |
山行日:2006年9月20日