段 ケ 峰 (1103.4m) 朝来市・宍粟市 25000図=「但馬新井」「神子畑」
リンドウの花咲く秋の高原
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縦走コースよりフトウガ峰(中央)、段ケ峰(左)を望む |
リンドウ |
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センブリ |
一面のササ原にアセビの群生する山上の高原、その下の豊かな森林……。兵庫県のほぼ中央、段ケ峰を中心とする山域にはすばらしい光景が広がっている。
山上の高原は、氷期に形つくられた化石周氷河斜面。そこには岩塊流も発見され、段ケ峰は地形的にも貴重といえる。
そして、ここに絶滅危惧種のイヌワシが生息していることが確認された。
この段ケ峰に、国内最大級の風力発電施設の建設が計画されている。これから、段ケ峰はどうなってしまうのだろうか。
次の世代に、私たちは段ケ峰を“風の精”イヌワシの舞う豊かな自然として残すことができるのだろうか。
空気が澄み、遠くの山も山襞(やまひだ)がくっきりと美しく見え始めた秋の一日、段ケ峰を歩いた。
車を降りると、ひんやりとした朝の風が谷間を抜けた。
ササが広く刈り込まれた登山道を、ほとんどまっすぐに上っていく。時々、大きな岩が登山道に飛び出している。岩陰には、リンドウの花が朝の光りを浴びていた。
高度を上げていくと、アカマツの木立の間から、高星から平石山の稜線が大きく見える。振り返れば、播磨の山並みが逆行の中に重なり合って、まばゆくかすんでいた。
朝の光が背後から射し、刈られたササの上に私の影を落とした。その影に誘われるように、一歩ずつ急な斜面を上っていくと、達磨ガ峰の肩に達した。
ここからは、もう起伏のゆるやかな稜線歩き。アカマツはまばらになり、ササやススキがあたり一面をおおうようになった。
ススキの穂は青空を背景に軽く揺れ、その足元には5弁の花びらが星型をつくるセンブリの白い花が咲いてた。目に映るどれもが、秋の景色を演出していた。
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達磨ガ峰のススキ |
達磨ガ峰山頂へ |
達磨ガ峰の山頂は、ササにおおわれてこんもりと盛り上がっている。そこに近づくと、山頂から話し声が明るく聞こえてきた。
山頂で、あいさつをしてから、どちらからともなく話しかけた。
「よく、一人で来られるの?」
「石を調べながら歩いていると、止まったり、戻ったりするもんで……。それで、一人が便利で……。ここの石は、7000千万年頃……。ゴツゴツとび出しているのが石英で……。」すぐに石の説明を始めてしまうのが、悪い癖。
そのうち、次から次へと人が来て、犬も来て、山頂はすっかりにぎやかになった。
空には、巻雲が筋を描き、一本の飛行機雲がその巻雲に交わっていた。
達磨ガ峰を発ち、少し進むと、フトウガ峰と段ケ峰が初めて見えた。どちらも、ほとんど水平に近い稜線を長く引いている。雄大な風景が目の前に広がった。
しばらく、ササとススキの草原が続いた。草原にはアカマツとスギがポツンポツンと立っている。リンドウがあちらこちらに咲いていた。その花の紫は、目の覚めるような清らかな色だった。
いったん下ったコル(Ca.880m)から、風景が一変した。あたりは、ミズナラ・クリ・アセビ・アカマツ・リョウブ・ネジキなどの豊かな自然林となった
カマツカの葉がまだらに色づいている。ベニドウウダンは、真っ赤に紅葉していた。
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稜線の自然林 |
ベニドウダンの紅葉 |
登山道の脇に、スミレが咲いていた。ハート型をした薄紫の花びら。秋に咲くたった一輪の可憐な返り花だった。木々の中を歩くと、時折り吹く風に落葉が舞った。
そこからも、道はゆるく起伏を繰り返した。自然林がスギとヒノキの植林に変り、再び現れた自然林の中を最低コル(Ca.880m)へ下った。
ここからしばらくは、自然林と植林が交互に現れた。木々の下を、道はずっと上っていた。やがて、ミズナラにアセビやネジキがふえ、その下をササがおおい始めた。
フトウガ峰山頂への急斜面にかかると、一面がササとススキにおおわれた。斜面に立つ大きな岩を調べるため、道をはずれてススキの中に入り込むと、リンドウが乱れるように咲いていた。
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タチツボスミレ?の返り花 |
フトウガ峰へ |
フトウガ峰山頂付近の光景
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フトウガ峰の広い山頂は、一面のササにアセビがまばらに立つ。ここだけの独特の景観……。
ここはいつも風が強く、そのせいでササもアセビも背が低い。今日も、南風が強く吹いていた。
フトウガ峰から段ケ峰へはいったん下り、ぐるりと北へ回りこむようにして稜線を進んでゆく。南の谷から吹き上げる風がしだいに強くなり、そのうちヒュンヒュンと鳴り出した。
ササにおおわれた細長い高原の中、一筋の道が段ケ峰の山頂へ続いていた。ここを歩くときは、いつも、ほとんどもう夢見心地である。
段ケ峰の山頂に達したのは、ちょうど昼時だった。
三角点の傍、マツの木の下、その下の斜面……、広い山頂の思い思いの場所で多くの人が休んでいた。私も、岩に腰かけ、大きく翼を広げて立つ千町ケ峰を前に見て弁当を広げた。
天気は下り坂で、いつの間にか空には高層雲が大きく広がっていた。近くの山はくっきりと色濃く見えたが、その背後の山々はうすく灰色にかすみ、稜線だけが折り重なっていた。
段ケ峰の東斜面には、自然林が広がっていた。紅葉のピークにはまだ早いのか、それともあたりの空気が湿ってかすんできたせいなのか、段ケ峰の紅葉は鮮やかではなかったが、優しい色をしていた。
稜線に立つ風況調査の高いポール、切り開かれた広い道、道の両側に張られたビニールテープ付のロープ、地面に打ち込まれた赤や黄のプラスチックの杭、○号機と書かれた標識……、風力発電施設をつくる準備が少しずつ進められているのだろうか。計画によれば、稜線上に高さ100〜130m、直径70〜88mの風車22基が並ぶことになっている。
多くの人たちが愛するこの段ケ峰を、風力発電という大規模な開発からなんとか守りたい。まだ若い木々は、これから少しずつ大きく立派になる。植林を自然林に戻せば、さらに豊かな森へと変わっていくだろう。ふもとは、里山として整備をすればよい。高原を飛ぶイヌワシは、子孫を次の世代へ残すことができるかもしれない。
エネルギーは、他でもできる。いつまでも自然豊かな段ケ峰であることを願わずにはいられない。
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段ケ峰山頂 |
段ケ峰東斜面の彩り |
山行日:2006年10月22日