毘沙門山(630m)・雨石山(611m)・櫃ヶ嶽(582.1m)  篠山市・京丹波町
25000図=「村雲」


毘沙門洞から東多紀連山の三山を歩く

毘沙門山(左)と雨石山(右)  (小倉より) 櫃ヶ嶽  (小倉より)

 毘沙門山と雨石山は、山稜を西から東へ連ねている。稜線を目で追うとその起伏は緩く、一見すると穏やかな山容に見える。しかし、山の南面に目を移すと、そこには切り立った岩壁が連続し荒々しい様相を呈していることが分かる。
 また、この2つの山の東には櫃ヶ嶽が小さいながらもピラミダルな姿で立っている。

 今回、小原から毘沙門洞を経て、これらの三山をつないで歩いた。

 藤坂川に架かる毘沙門橋を渡った所に忠霊塔が立っていた。その前に車を止め、ここから歩き始めた。すぐに、「小原自然公園案内マップ」の大きな古い案内板が立っていた。雑草に埋もれかけたその案内板で毘沙門洞までのルートを確認し、広い道を緩く上っていった。
 道に転がっているのはチャートの小石。石の割れ目にできた小さな水晶の結晶面が、木漏れ日にキラキラと光った。
 広い道の終点に滝がかかっていた。一の滝である。一筋の水が勢いよく流れ落ちている。滝の下には、石仏や石碑が祀られていた。滝に近づくと、一匹のシマヘビが足元から逃げ出し、滝つぼを泳いで岩の間にもぐり込んだ。

 滝の左側に小径が上っていた。入口には木製の簡素な鳥居。杖も数本置かれている。毘沙門洞に続く道である。古くからの参道なのか、急なところには崩れかかった石が階段状に残されていた。道の土や落ち葉は、昨日までの雨でしっとりと濡れている。道の脇には、大きなチャートの岩盤がそそり立っていた。
 道は始め浅い谷についていたが、途中で西へ大きく曲がり山の斜面を上っていた。斜面を上っていくと、その道は左右に分かれた、左に進むと、クサリで囲まれた「展望台」に出た。そこは、アカマツに邪魔をされて展望はすぐれなかったが、いい風が吹いていた。

 分岐に戻り、右へ進む。細くなった道をつづらに上っていくと、目の前に三角形の穴の開いた洞窟が現れた。毘沙門洞である。洞窟に入ってみると、内部は大きく広がり、天井までの高さは15mほどもある。ピシャピシャと水のしたたる音があちこちから聞こえ、黒い土はしっとりと湿っている。暗闇に目が慣れてくると、奥の岩壁の前の祭壇やその上の祠が見えてきた。祠の中には、毘沙門天の石仏が祀られていた。
 洞窟の岩石を観察してみた。岩石は、白いチャート。暗灰色の部分が縞状に入ったり、まだらに入ったりしている。上盤は層状チャートで、層理面と平行な面で大きく斜めに滑り落ちている。ほとんど垂直に立つ下盤とのすき間に、この洞窟ができていた。
 

毘沙門洞入口 登路より毘沙門山山頂を仰ぐ

 毘沙門洞の左手の急斜面に、踏み跡らしきものがあった。木の幹や枝につかまりながら上っていくと、踏み跡はヤブに消えた。ヤブを分けてそのまま上ると、南北に伸びる小さな尾根に出た。尾根に現れた小径を北に進み、小さなピークから今度は東へ進むと、送電線の鉄塔に達した。
 そしてすぐに2つ目の鉄塔へ。ここから道は細くなった。赤いチャートがときどき道に飛び出している。切り立った大きな岩を越えてひと上りすると、毘沙門山の山頂に達した。

 ゴツゴツした岩を乗せた狭い山頂。枝を水平に広げたアカマツ。モチツツジがピンクの花を残し、ナナカマドがまだ固い実をつけている。展望は明るく開け、時折涼しい風が吹き抜ける。いい山頂だった。ダイミョウセセリがアセビの葉に止まっていた。

毘沙門山山頂 毘沙門山山頂からの眺め

 毘沙門山山頂からさらに東へ。いったん下って上り返す。緩やかな地形で、尾根も広がった。雨石山の山頂までもうひと上りだと思って自然林とスギ林の間を進むと、いつの間にか下り始めた。引き返して山頂を探すと、緩く盛り上がった高みに赤い杭が埋まりその横に「瑞穂町」と彫られた石柱が立っていた。そこから少し離れた木の幹に雨石山の山名プレートが2枚掛かっていた。

 山頂は、北からの風がよく通った。その風に、緑色に染まった陽射しがさかんに揺れた。

雨石山(中央)と櫃ヶ嶽(右奥) 雨石山山頂

 雨石山を東へ下ったコルでは、多くのスギ・ヒノキが南向きに倒れていた。次の595mピークを過ぎると、尾根は再び広がりコースがはっきりしない。ときどき現れる赤い杭と、木の幹に残る赤と黄のビニールテープを頼りに下った。
 しだいに傾斜は急になって、深く積もる落ち葉を踏み分け滑るように下った。下りきったコルは、小野と小倉を結ぶ峠。ここから、櫃ヶ嶽をめざした。

 櫃ヶ嶽への尾根道は、木漏れ日揺れる自然林の道。ソヨゴ、リョウブ、ネジキ……。足元の葉裏から、キシタエダシャクが次々と飛び立った。黒地のはねに白い紋を散りばめたカノコガが、風に飛ばされそうになりながらも、じっと岩にしがみついていた。
 最後のコル手前から仰ぐ櫃ヶ嶽は深く緑に包まれていた。コルから標高差110m……府県界に踏み跡があった。

 山頂は高いコナラに囲まれ、三角点の傍らに「羊ヶ嶽」と記された十二支会のプレートが立てられていた。その下にはウツギが白い花を付けていた。兵庫県と京都府の界、分水嶺に立つこの山の頂で、今年初めて見るウツギの花。いつの年も、この花は夏が来たことを私に実感させてくれる。そして、地面にはママコナがピンクの花を付けていた。

登路より櫃ヶ嶽を仰ぐ 山頂に咲くウツギ

山行日:2007年6月16日
毘沙門橋 忠霊碑〜小原自然公園〜一の滝〜展望台〜毘沙門洞〜Ca.540mピーク〜毘沙門山(630m)〜雨石山(611m)〜595mピーク〜Ca.420mコル〜546mピーク〜櫃ヶ嶽(582.1m)〜Ca.480mコル〜宮代=(自転車)=毘沙門橋
 国道173号線を小原の集落の北で東へ折れる。藤坂川に架かる毘沙門橋の先に忠霊塔が立ち、その前に広場がある。ここに駐車し、歩き出した。すぐに「小原自然公園案内マップ」が立っているので、これで毘沙門洞までのルートが確認できる。
 道は毘沙門洞で途切れる。そこから斜面を上り、Ca.510mとCa.540mの小ピークをつなぐ尾根に出る。ここから尾根上に伐り開きがあった。2本目の鉄塔で府県界(中央分水嶺)に達する。この府県界を、毘沙門山、雨石山、櫃ヶ嶽とたどった。
 櫃ヶ嶽からは、府県界に沿ってCa.480mコルまで下り、ここからスギ林の中の杣道を宮代へ下った。
■山頂の岩石■ 古生代ペルム紀〜中生代ジュラ紀  丹波層群U型地層群三尾コンプレックス チャート

 三嶽や西ヶ嶽に分布する丹波帯のチャートが毘沙門山〜櫃ヶ嶽まで連続している。

 展望台は、白い塊状チャート。黒色の部分が線状あるいは筋状に入り込んでいる。
 毘沙門山山頂西の鉄塔下(Ca.590m)は、赤褐色のチャート。放散虫の化石が認められる。
 毘沙門山山頂は、淡褐色のチャート。塊状でもろく、ハンマーで叩くと不規則に割れる。
 櫃ヶ嶽山頂には露頭がないが、あたりの転石は赤色チャートである。山頂を東に下ったCa.460m地点で、ジャスパーのような光沢をした美しい赤色チャートを採集することができた。このチャートにも、放散虫の化石が認められた。

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