愛宕山(320m)・深山(408.2m)・日光寺山(408.6m)
加西市・市川町・福崎町 25000図=「北条」
鏡岩・ゆるぎ岩から深山を経て日光寺山へ
鏡岩の水晶は、あの岩に張り付いていてこそ価値(文化的価値)があります。割って持って帰っても小さすぎて標本的な価値はありません。ハンマーで叩くことは、絶対に止めて下さい。
「鏡岩」と「ゆるぎ岩」は、兵庫県の地質レッドデータのBランクに指定されています。また、「ゆるぎ岩」は、加西市の天然記念物に指定されています。大切に保存し、後世に残しましょう。
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| 川辺城山より望む深山(左)から日光寺山(右)への稜線 |
加西市の「畑町 歴史の森」には、2つの岩の名所がある。1つは「鏡岩」、もう1つは「ゆるぎ岩」である。今回は、それらの岩を見て愛宕山に登り、さらに深山・日光寺山へと尾根をたどった。
畑町の集落を北に抜けると奥池がある。その畔に車を止めた。あたりは、冷んやりとした朝の空気に包まれていた。舗装された道路を北へ歩いた。道の傍らには、ヨメナやイヌタデが咲いている。
道が曲がったところの右手に、赤い鳥居が立っていた。ここが「畑町 歴史の森」の入口で、鳥居の下に案内板があった。
鳥居をくぐり、ヒノキ林の下の苔むした道を進んだ。谷の奥まで行くと、小さな赤い鳥居がいくつも立ち並んでいた。その先の石段を上ると、河上稲荷神社の社が建っていた。
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| 朝の奥池 |
河上稲荷神社 |
社の背後には大きな岩があった。岩は、白と赤褐色がまだらになった層状チャート。表面は、びっしりとマメヅタにおおわれていた。
社の左にも、岩が1つ転がっていた。長さ5m、高さ1.5mほどの横に長い岩。これが、「鏡岩」だった。
岩には、コケや地衣類がついているが、何かがあちこちで小さく光っている。光っているのは、大きさ1mm程度の小さな水晶だった。ルーペで見ると、水晶の結晶の三角形をした錐面や長方形をした柱面がガラスのような輝きで光を反射していた。
岩の上に、「鏡岩の覗き方」という説明板が立っていた。
「キラキラ光っている部分に顔を近づけて、横から光が入らないように手で暗くし光っている所を注意して見ると、雲や樹木が写って見えます。」
そのとおりやってみたが、暗くて何も見えなかった。うまく光が当たると、水晶の結晶面に木の緑や空の青が映し出されるのかも知れない。岩に日の光が射すのを待ったが、木漏れ日は思うように動いてくれなかった。
キラキラ光る水晶をまとい、夢やロマンをかき立てられる「鏡岩」。こんな山中で、いつ誰が見つけ、そして名づけたのだろうか。
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| 鏡岩 |
鏡岩の表面で光る水晶
(カメラにルーペをつけて撮影) |
次に、「ゆるぎ岩」に向かった。河上稲荷神社の手前から東へ向かう谷を上った。浅い谷に広い道が開かれていた。
アケボノソウにアサギマダラが止まった。豪華な組み合わせにカメラを向けると、アサギマダラはふわふわと雑木の中に飛んでいった。カメラに残ったのは、今回も手振れしたアサギマダラの姿だった。
道は急に細くなり、南の尾根に向かってつづらに上っていた。尾根の手前に分岐があって、「ゆるぎ岩」へは、いったんここから下ることになる。ネジキやリョウブの葉が、陽を透かして林内は明るかった。
尾根に出たところで、Uターンするように南面をゆるく下ると、道の脇に大きな岩が立っていた。その大岩の陰に立つ高さ5mほどの岩が「ゆるぎ岩」だった。
岩は、オレンジ色のチャート。岩の下の説明板に、岩の由来が記されていた。
「この岩は、3億年前の古生代に海底に蓄積した生物岩できわめて堅く、高さ4メートル、ふくらんだ中央部の周囲は8メートルあります。
その昔、法道仙人が「善人が押せば動き、悪人が押してもびくともしない。この岩を押して動かない時は自分に邪心があるから罪悪をざん悔して正直慈悲の人にたちかえりなさい」といって悪人を善人にたちかえらそうとこの岩を押させて心をためさせたと伝えられています。」
本当に動くのだろうか?試しに押してみるとびくともしない。悪人か!?もっと上を押した方が動きやすいことに気づき、隣の大岩に足をかけて再び押してみる。続けて、何度も押してみる……。
すると、本当に……揺れた!わずかだが、確かに岩がゆらゆらと揺れている。揺れに合わせてさらに押すと、少しずつ揺れが大きくなっていく。もう止めよう。これで十分……。こんな絶妙なバランスで、古くから何年も立っているなんて、奇跡のような岩である。
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| ゆるぎ岩 |
愛宕山山頂 |
尾根に戻って、愛宕山の山頂をめざした。急坂には丸太階段がつけられていた。割れて中身の消えた栗のイガを踏みながら階段を上ると、愛宕山の山頂に達した。
山頂のベンチに座り、先ほど山道で拾ったチャートを眺めた。この石にも、小さな水晶がたくさん付いていた。
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| タカノツメを見上げる |
いつの間にか、午後1時が近くなっていた。地質学モードから山登りモードに変えて、そろそろ歩き出さなければ……。
登山道を利用して愛宕山を西へ下り、林道を横切って尾根のやぶに分け入った。Ca.270mの小さなピークまでは、大荒れのやぶ。そこを越えると、尾根の切り開きが次第にはっきりしてきた。尾根には、頭の赤い営林用の杭が続いていた。
調子よく歩いていると、またやぶが深くなってきた。コシダを分け、蜘蛛の巣と格闘しながら進み、急坂を上ると360mピークに出た。見上げると、ほんの少し黄色くなり始めたタカノツメの葉が、日の光を透かして鮮やかだった。
最後のコルからは、暗いヒノキ林を急登し、倒木だらけの荒れた自然林へ入った。幾本もの倒木を乗り越えると、深山の山頂下の車道に飛び出した。
深山の山頂は、三角点の位置より数mも高い。紅白に塗り分けられた巨大な鉄塔が立っている(NTT DoCoMo 深山無線中継所)。北に笠形山が大きく、東に東播磨の山並みが幾重にも重なっていた。
深山から、町界の稜線を西へ向かう。切り開きがあるが、たくさんの倒木が行く手をさえぎる。小さなアップダウンを繰り返しながら、西に傾いた太陽をに向かって歩いた。
やがて、左下に広い林道が見えた。誘惑に負け、尾根からすべり降りて、いったん林道へ。林道は日光寺山山頂の手前のコルを南へ横切っていたので、ここからもう一度山の中へ入った。
ススキがもう穂を開いていた。ススキを分けて進むと、また切り開きが現れた。サルトリイバラや他の木のトゲに邪魔されながらひたすら急坂を登ると、大きなアンテナの下に出た。ここからコンクリート道を歩いて、アンテナの林立する日光寺山の山頂に達した。
山頂から、日光寺へ下りた。境内のベンチに座ると、雄大な風景が目の前に広がった。にぶく光を跳ね返しているのは、桜池や長池の水面……。
上空にはまだ青空が見えるが、南の空は雲におおわれ、地上は何もかも白くかすんでいた。稜線だけ濃く見える山並みはうねるように長く連なり、白い背景となって1つ手前の山並みの稜線を際立たせていた。
10年ほど前、まだ中学生になったばかりの息子とここを歩いたことを思い出しながら、日光寺の参道を亀坪へ下った。
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| 深山山頂 |
日光寺からの眺望 |
山行日:2008年10月4日