足尾の滝と天狗のとまり木(570m)    神河町    25000図=「長谷」


山上にかかる滝と郷を見守る千年桧

足尾の滝(上部)

 足尾の滝は、私が生まれ育った村の上にかかっている。
 小学校5年生か6年生の頃、学年の遠足で歩いて行ったことがあった。
 男子13人、女子12人の学年だった。
 滝の横に険しい巻道があって、男の子の4、5人がその道を滝の上まで登っていった。
 帰り道、その子たちは滝の上がどれだけ素晴らしかったを話していた。恐くて登れなかった私は、それを聞いているだけだった。
 滝を見上げては思い出す、昔の思い出である。

 足尾の滝登山口

 登山口のゲートをくぐり、歩き始めた。コンクリート舗装の林道がゆるい傾斜で伸びていた。右手を流れる沢から、カワガラスの声がした。
 二股の上で、滝からの流れを渡った。沢には大きな岩が重なっていて、水が岩を飛び跳ねるように落ちていた。
 道は、二つの沢の間を何度か大きく折れながら上っていた。
 スギの枝葉が空をおおった暗い林内に、ミツマタの白いつぼみが降る雪のように見えた。

ミツマタ

 気温−1℃。凛と冷たい空気の中、沢音だけが聞こえる。ときどき、本当の雪がちらちらと舞った。
 スギ林を過ぎると明るくなった。コナラやアベマキやウリハダカエデの雑木林。どの木も葉をすっかり落としている。
 アケビが、裂けた果実をつるに残している。これに、開いた刮ハを数珠つなぎにしたカエデドコロがからみつき、木の上に冬のオブジェをつくっていた。
 雑木林の下の斜面には落ち葉が積もっていた。上から崩落してきた岩が、落ち葉の中に連なっていた。
 ルリビタキが、低い枝に止まった。近づくと、地面に降りたり近くの枝に乗ったりしながら去っていった。木の上で、ヤマガラが鳴いた。

冬の雑木道  斜面をおおう岩塊

  再びスギ林に入った。林床は、ミツマタとオオバノイノモトソウという単調な植生。どちらもシカの食べない植物である。
 ミツマタの花を撮ろうと近づいたら、ジャケツイバラの強烈なトゲに衣服がからまった。ジャケツイバラもまた、シカの不嗜好性植物である。

 何度目かの曲がり角が、古い道と新しい道の分岐だった。
 古い道は、沢の上の斜面を上る細い地道で、「危険 立入禁止」の看板が立っている。小学校の遠足で登ったのは、たぶんこの道。
 新しい道は、コンクリート舗装の道をここで折れてそのまま80mほど進む。そこから、広い土の道が滝に向かって分かれていた。

 道は、急な斜面をトラバースするようにスギ林の中に伸びていた。始め傾斜のきつかった道は、しだいに緩くなってきた。霜柱が、道や法面の土を持ち上げていた。
 左下から聞こえていた沢の水音がしだいに大きくなってきた。
 前方の道の上に、しめ縄で祭られた岩が見えた。この岩に近づこうとしたとき、杉木立の間から立ちはだかる岩盤を流れる滝が現れた。足尾の滝である。

 広い道は滝の前で行き止まるが、その前で細い山道が分かれていた。この道は、しめ縄の岩の下を通っている。
 岩は斜面から飛び出していて、落ちそうで落ちない。岩の下に小さな社が新しく祀られていた。
 社の名前が、「於知奈井神社」。ていねいに、「祭神菅原道真公(受験学問の神様)」と書かれている。
 地元の人たちが、この地を大切にする気持ちがこんなところからも伝わってくる。
 
落ちない岩(右上)と足尾の滝

 この岩の下を通り、小さな高まりを越えると滝の下に出た。

 落差28m。高く、幅の広い岩盤を水が落ちている。見上げると、落ち口に1つの大きな岩が突き出して、水を二筋に分けている。
 そこから飛び出した水は、途中の岩盤にあたって広がり、最後はまた幾筋かに収れんして流れ落ちている。
 日の当たらないときは、この滝に何か暗いものを感じていたが、今日は違った。滝は、正面から陽を浴びていた。水は真白く輝いていた。
足尾の滝を見上げる

 滝の岩に生える草は、飛沫を浴びてつららのように凍っている。岩の間の滝つぼは小さく、水面で反射した光が岩にむらのある光を揺らせている。
 水が滝つぼに落ちるところに、虹がかかっていた。

滝の飛沫による氷  滝に架かる虹

 滝の左に、丸太の橋が架かっていた。その上には、「千年桧(天狗のとまり木) あと400m頑張って!!」の看板。
 橋を渡ると、急な斜面に滝の巻き道がつくられていた。つづらになったこの道を上り、スギ・ヒノキの林を抜けると、滝の上に飛び出した。
 すぐ下に、滝の落ち口があった。落ち口に突き出した岩へ降りてみた。
 すぐ前がすっぽり切れ落ちている。岩の前まで進んで、滝つぼを見ようなんていう気持ちはとても起こらなかった。
 狭い谷の下に、犬見川が見えた。谷の向こうには、入炭山が稜線を広げていた。

足尾の滝、落ち口の岩からの眺望

 もとの道に戻り、改めてあたりを見た。左の斜面には、コケの生えた岩が累々と重なっている。滝の上にも、小さな滝が連続していた。
 流れに架かる橋を渡ると、さらにその上に落差10mほどの滝が見えた。

足尾の滝の上にかかる滝

 「天狗のとまり木」は、ここにそびえ立っていた。
 足尾の滝に続く高さ40mの断崖絶壁の上である。
 樹高25m。ここから樹の上部は見えない。幾本もの根を岩に這わせ、宙に伸ばしている。幹からそのまま続くような太い根は、山上に向かって岩を這い上がっている。
 この厳しい環境下でここまで大きく成長するには、1000年もの年月がかかっているという。この圧倒的な姿が天狗の伝説を生み、そして育んだ。

天狗のとまり木

 木の前には、その伝説が説明板『千年桧「天狗のとまり木」』に記されていた。
 私は覚えていないが、祖母から「悪いことをしたら天狗に連れていかれるぞ。」と言われたことがあるのかもしれない。
山行日:2021年2月3日

登山口駐車場〜登山口〜旧登山道分岐〜足尾の滝〜天狗のとまり木
(同じ道を下山する)
 長谷橋から西へ進み、次の分岐を祐泉寺方面へ進む。祐泉寺を過ぎると、道に「P 足尾の滝」の看板が立っている。ここを左に折れて下っていくと登山者のための広い駐車場がある。
 駐車場から歩いて大日堂を過ぎ、元の道を渡ったところが登山口である。
 登山口には人用と車用のゲートがあるが、車用のゲートは普段施錠されている。ゲートをくぐると、広い林道が続いている。
 この林道を進み、途中で足尾の滝に向かう道に入る。足尾の滝、その上の天狗のとまり木まで、登山道が整備されている。要所には道標も設置されている。

山頂の岩石 白亜紀後期 峰山層  溶結凝灰岩
 足尾の滝の溶結火山礫凝灰岩
 足尾の滝は、どこでも「安山岩の黒肌に・・・」と紹介されている。しかし、安山岩というのは間違っている。
 足尾の滝の岩盤は、流紋岩質の溶結凝灰岩である。

 岩肌が黒く見えるのは、岩の表面が黒い藻類におおわれているためである。岩そのものの色は、赤紫色で、これは岩を割ってみるとわかる。また、左の写真のように水の流れていない部分を観察すると、表面も赤紫色をしている。

 この地層は、火砕流によって流れてきた火山灰や火山礫や軽石が堆積してできた。
 これらの堆積物は堆積したあと、内部の熱によっていったん融け、その後冷えて固まった(溶結)。
 軽石は、押しつぶされて気泡が抜けレンズ状になって細く伸びている。左の写真では、長さ20mm程度、厚さ2mm程度のレンズが数本、定規と平行な方向に並んでいる。

 大きさ2、3mmほどの点々と入っている粒は、石英と長石の結晶片である。石英も長石も無色透明であるが、基質の赤紫色に染まって見える。石英の量が多く、安山岩質ではなく流紋岩質である。

岩石標本室 足尾の滝「流紋岩質溶結凝灰岩」へ

 足尾の滝の手前までは、安山岩質の溶結火山礫凝灰が分布していた。灰色の岩石で、斜長石の結晶片と少量の普通角閃石の結晶片を含んでいる。石英の量は少ない。これは、峰山層に特徴的な岩相である。
 

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