朝日山(88m)      姫路市      25000図=「網干」


ウォーキングで親しまれる風土記の山


JR山陽本線の南より朝日山を見る

 朝日山は、JR網干駅のすぐ北の小さな山である。標高わずか88m。
 この朝日山は、「播磨国風土記」の大法山(勝部岡)に比定されている。「播磨国風土記」に次のように記されている(現在訳)。

 「大法山(おおのりやま)。今の名を、勝部岡(すぐりべのおか)という。
 応神天皇が、この山で大法(重大な法令)を発した。だから、大法山という。
 今、勝部岡というわけは、斉明天皇の世に大倭(おおやまと)の千代(ちしろ)の勝部らを遣わして田を開墾させたところ、この山の付近に住み着いた。だから、勝部岡と名づけた。」

 ふもとに適当な駐車場が見当たらなかったので、中腹の朝日山公園駐車場に車を止めた。
 車道を下ると、山の下に小川が流れている。そこにあるのが、「船つなぎ岩」。そばに立つ石碑に、「神功皇后征韓の時、この大岩に船をつないだ。」という、この岩の由来が彫られている。
 高さ3mほどの大きな岩で、表面に数cmの丸いくぼみが多く見られる。黒や白の地衣類の間からピンク色の岩肌が見える。流紋岩のように見えるが、ハンマーで打ち欠いて中を見ることができないので断定はできなかった。 

船つなぎ岩

 朝日山の山体は、沖積平野の中にぽっかりと突き出ているので、平地と山地の境界はシャープだ。山脚を流れる水路に沿って、西へ歩いた。
 山体の西端までくると、そこに登山口があった。コンクリート階段を登ると、すぐに厳島神社。
 道は、社殿左の雑木林の中に続いていた。
 アラカシやナナミノキなどの常緑樹に葉が茂っている。ヤブニッケイは、まだ緑色の枝先に冬芽がふくらみ始めている。アベマキの木の下には、大量の落葉。薄暗い林内に、カクレミノの白い樹肌が映えていた。

カクレミノの白い木肌

 ゆるい坂を登っていくと、林が途切れて明るくなり、小高い丘の上に六角屋根の東屋が建っていた。標高44.5mの三角点が埋まる和久山の頂である。

和久山山頂

 南側にベンチがあって、そこから網干の街並みやその向こうの工場地帯が見渡せた。
 日本触媒のプラント群が陸の端を区切り、そこに男鹿島の島影が重なっている。播磨灘は、もやと逆光に色を失って、淡くかすんでいた。
 そんな地上の風景に、天使の梯子が空から降りていた。

和久山より南を望む

 和久山から、植樹された桜の中の道を進んだ。桜の枝越しに見える朝日山が意外と大きい。少し下ると、車を置いた朝日山公園駐車場に出た。
 ここから車道が山頂へ上っているが、擬木の階段を登ると近道だ。
 カナメモチの木の下には、鳥が食い散らかした赤い実がたくさん落ちている。足元から飛び立ったヤマガラが、目の前の枝先にとまった。

カナメモチの実の下の階段道

 車道を二度渡って、階段道を登っていくと仁王門に達した。朱の色はあせているが、二体の仁王像も健在な風格ある建物である。
 仁王門の前で振り返ると、街並みの向こうに播磨灘が広がっていた。相変わらず海はかすんでいたが、そこに上島、クラ掛島、太島、男鹿島、家島の島影が浮かんでいた。

仁王門 仁王門から南を振り返る

 仁王門をくぐり、急な石段を登ったところが大日寺の境内だった。
 大日寺は、大化年中(645〜650)法道仙人の開基と伝えられる真言宗の古刹。社殿の左に、龍野城主赤松政秀の寄進したと伝えられる五智如来石仏が祀られている。
 宝生、阿閃、大日、不空成就、阿弥陀の五体の石の如来は、やわらかな冬の日差しを浴びて、どれもやさしい顔で瞑想していた。

大日寺 五智如来の中心、大日如来

 五智如来石仏の横に石段があり、そこを登ると朝日山の最高点である。そこはコケにおおわれた平地で、聖天堂と英霊供養塔が建っていた。

 仁王門に戻り、そこから山腹をぐるりと反時計回りに回った。
 朝日山の東から北にかけての斜面は、広く竹におおわれていた。いたる所で竹が倒れた薄暗くて荒れた竹ばかりの林。
 竹の侵入を少しでも防ぐためか、道を保持するためか、道にそって長く金網のフェンスが設けられていた。道の両脇に植えられたサザンカが、ポツンポツンと赤い花をつけていた。
 フェンスの端まで来ると広場に出て、そこから車道を少し下ると始めの駐車場に出た。

 朝日山は、1979年、姫路市の緑の十景に指定されている。市街地の中の貴重な自然。市民に親しまれ、今日もウォーキングをしている何組もの人たちと出会った。
 その朝日山が竹林の侵入で荒れている。放置竹林・侵入竹林の問題を解決する糸口がここで見つからないものだろうか。

山行日:2017年1月4日

朝日山公園駐車場〜船つなぎ岩〜厳島神社〜和久山(44.5m)〜朝日山公園駐車場〜大日寺〜朝日山山頂(88m)〜朝日山公園駐車場
 山全体が総合公園として整備され、各方面から大日寺に向かう遊歩道がつけられている。駐車場は、和久山と朝日山のコルにつくられた朝日山公園駐車場が広い。

山頂の岩石 白亜紀 伊勢累層  火山礫凝灰岩
 播磨平野には、お椀を伏せたような小山がいくつも点在している。これらの小山をつくっているのは、丹波層群の堆積岩、あるいは白亜紀後期の火砕岩類である。朝日山は、後者にあたる。
 山頂下の車道脇に大きな露頭がある。ここで観察されたのは、緑灰色の火山礫凝灰岩である。数cm以下の無斑晶の流紋岩、黒色頁岩、淡灰色のチャートなどの岩片を多く含んでいる。結晶片として、長石と少量の石英が観察された。
 和久山山頂の南側にも大きな岩盤が広がっている。ここの火山礫凝灰岩は風化が進み、褐色でもろい。1〜3cmの流紋岩や黒色頁岩の火山礫を多く含んでいる。流紋岩の火山礫の中には、流理構造による縞模様が明瞭なものが含まれていた。
 厳島神社の境内では、角閃石ひん岩が見られた。青灰色で緻密な基質と、斜長石と角閃石の斑晶から成る硬い岩石である。この角閃石ひん岩には、1mm以下の黄鉄鉱が含まれていた。
 

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