赤谷山(1216.4m) 宍粟市 25000図=「戸倉峠」
芽吹きを待つ森に野鳥の声
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| 赤谷山山頂(背景に氷ノ山) |
赤谷山は、播磨の北端に位置し、その山頂は鳥取県との県境上にある。赤谷山という山名は、加藤文太郎の『単独行』の中にすでに見られる。文太郎は、県境の山脈を兵庫アルプスと呼び、赤谷山には兵庫焼の名をつけていた。
1927年5月1日、文太郎は、谷の雪渓を登って出た尾根を北にたどって赤谷山の山頂に達した。山頂で、落ち葉の下から三角点を探し出したときの喜びを、文太郎は文章にも素直に表している。
深いヤブにおおわれ、長らく人を容易には寄せつけなかったこの山は、最近になって尾根が切り開かれ、今では手軽に登れる山になった。
戸倉スキー場の駐車場から、登行用を兼ねたペアリフトの下を登った。いきなりの急登。ゲレンデには、枯れたササが重なって倒れている。そのすき間から黒土が顔を出し、土の上にはヒカゲノカズラがはっていた。
途中からゲレンデの中の作業道を歩いた。昨夜のアルコールのせいか、息が切れるのが早い。リフト降り場は、板張りになっていて、休憩するのにはちょうどよかった。
板張りの先端に腰かけると、引原川の向こうに山並みがゆったりと稜線を引いていた。姫路あたりでは、もう新緑が萌え始めているというのに、播磨北部の山々はまだ冬枯れの色だった。
ゆるい風が吹き上げてきて、頭上の風速計がくるくると回っていた。
さらにゲレンデを登った。一本のリフトをくぐると、緑色の屋根のロッジの上に出た。そこから二本のリフトの間を真っ直ぐに登った。地面のササは、よく足を滑らせた。
ゲレンデを登りつめると、雑木の中に踏跡が上っていた。入り口には赤いビニールテープが巻きつけられている。ここから急な坂を登ると、通信小屋の建つCa.880mのコブに達した。
通信小屋の横に立つと、正面に木立を透かして県境の山並みが見えた。県境は壁のように立ちはだかっていたが、その稜線はなだらかで、そこに赤谷山の山頂が少し尖って乗っていた。
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| 戸倉スキー場 |
通信塔の横から
木立の向こうに赤谷山を望む |
ここからは、県境に向かって尾根を一筋に登っていけばよい。踏跡は、ところどころで消えかかっていたが、木に巻きつけられたビニールテープや、地籍調査で打たれた赤や青の杭が道を教えてくれた。
コナラやリョウブやミズナラの林が続いた。木々は、冬芽をようやくほんの少し開こうとしていた。リョウブは、まだ実をつけていて、その実を風に揺らしていた。
野鳥の声がよく聞こえた。木々が葉をつけていないので、野鳥を見るのには好都合だった。それでも、目でとらえるのはなかなかむずかしい。
真っ先に双眼鏡の視野に入ってくれたのは、いつものようにヤマガラだった。ジェー、ジェー、ジェーと鳴いたあと、枝をつついて何かをくわえ、飛び去った。
次は、シジュウカラ……。ゴジュウカラは、背中の灰色を一瞬見せただけだった。
ブナが少しずつふえてきた。ときどき、幹周りが二抱えほどもありそうな大きなブナが立っていた。ブナの木を見上げると、梢のあちこちについたヤドリギが目立った。
尾根道はアップダウンを繰り返しながらも、少しずつ県境へ近づいていった。落ち葉の積もった気持ちのよい道だった。コナラやクリの実が落ちていた。木々の間から、北に氷ノ山が見えた。
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| ブナの木 |
落ち葉の尾根道 |
標高985mの小さなコブを越えたところで、ブナの木にクマの爪跡が残っていた。少し古いように思えたが、ここからはときどき笛をピーピー吹いて歩いた。
ブナやミズナラの下に、チシマザサが現れ始めた。山頂から下ってくる10人くらいの一行にすれ違った。チシマザサが大きくなり背を越すようになると、県境尾根に出た。
ここから山頂はもう近い。道には枯れて折れたチシマザサが重なり、そこを歩くとカラカラと乾いた音がした。午後1時、赤谷山の山頂に達した。その瞬間、展望が一気に広がった。
山頂には、座るのにちょうどいい切り株があった。それに座って休んでいると、戸倉峠の方から一組のご夫婦が上がってきた。言葉を交わしているうちに、大きなイチゴをいただくことになった。そのお礼というわけではないが、周りの山々の名を教えてあげた。
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| スズ竹が広がり主尾根が近づく |
赤谷山山頂へ |
「氷ノ山の右にうすーく見えるのが、たぶん三川山。あれが蘇武岳で、その横が妙見山。上が長くてでこぼこしているのが須留ヶ峰で、その右で少し近いところにあるのが藤無山。山の上がすーっと平らなのが段ヶ峰で、その横の台形が千町ヶ峰。そこから少しこっちに回って、あそこが暁晴山。よく見たら、鉄塔のようなものが見える……。あれが、黒尾山。そこからぐるっとこっちに来て、あの窓のようなところから見えるのが、たぶん日名倉山かな?あそこに近く見えるのが三室山で、そこの大きいのが東山……」
アカゲラがキョッ、キョッと鳴き、ときどきドラミングの音も聞こえた。
いつの間にか空はくもって、全天を高層雲がおおっていた。その下で、重なる山並みは、遠くなるほど白く薄くなって、その先は空の白に消えていた。
山頂より氷ノ山を望む
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山行日:2010年4月18日
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| 戸倉スキー場〜通信塔(Ca.880mコブ)〜県境尾根合流点(Ca.1180m)〜赤谷山〜1143mピーク〜戸倉峠〜旧戸倉トンネル前広場=(自転車)=戸倉スキー場 |
赤谷山は、東の戸倉スキー場からと北の戸倉峠から、尾根に沿って切り開かれている。今回は、戸倉スキー場から上り、戸倉峠へと下った。切り開きはまだ新しくはっきりしているので、ていねいにたどれば迷うことはない。
戸倉峠へは、正面に氷ノ山を仰ぎながら下ることができる。 |
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| 山頂の岩石 後期白亜紀 生野層群 流紋岩質溶結火山礫凝灰岩 |
尾根には露頭がほとんどなく、地質の観察には適していなかった。しかし、赤谷山山頂の北、約450m地点のCa.1170mピークに小さな露頭があって岩石を観察することができた。
岩石は風化の進んだ溶結火山礫凝灰岩である。溶結構造は明瞭で、軽石がつぶされたレンズが多く含まれている。結晶片として長石と石英を含んでいる。また、岩片として多量の黒色頁岩と少量の砂岩やチャートを含んでいる。 |
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