ダイ・アナザー・デイ |
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原題:DIE ANOTHER DAY | |
監督:リー・タマホリ | |
製作:2003年 | |
007シリーズ20作目にして40周年に当る作品。ブロスナンになって少しずつ作品のクオリティが上がってきたので今作にも期待していたのだが、少々期待外れだったか。少なくともメモリアル作品(例えば私を愛したスパイ)としての重厚さは感じられなかった。 劇場で観たときはまあまあ面白いかなと思ったのだが、劇場の大スクリーン大音響という厚化粧を剥がすと、これと言って特徴のないアクション映画になってしまう。冒頭のホバークラフトチェイスなど劇場で観たときは結構迫力があったのだが、改めて家庭用テレビで見ると、特筆すべきアイディアが盛り込まれているわけでもなく、いたって普通のカーチェイスになってしまっている。 敵を北朝鮮にしたのは、タイムリーで007シリーズらしいやり方だ。驚いたのは、敵の1人が北朝鮮人とかいったレベルではなく、北朝鮮の国家そのものが敵として描かれているとことろ。もちろん理屈上では1将校のクーデターに過ぎないのだが、オクトパシーのオーロフ将軍とは格が違う。北朝鮮がクレームを付けたというのも、少しだけ納得できる。 監督はリー・タマホリ。私は知らなかった。アジアっぽい名前だが、ニュージーランド人。正直に言って彼の起用は失敗では?スローモーションと早回しを駆使したマトリックスっぽい今風のカメラワークが鼻につく。人物の描き方も今ひとつに思う。 主演は4回目の登板、ピアース・ブロスナン。若かっただけあって、年を取るのも早い。もう十分おっさんだ。それでいて風格や貫禄があるかと言うと、う〜ん。ボンドガールはアカデミー賞女優ハル・ベリー、シリーズ初の黒人のメインボンドガールだ。別に悪くもないが良くもない、ザコっぽい感じ。初登場の海から出てくるシーン、ほとんどギャグだ。本人らは初代ボンドガールへのオマージュということで真面目なんだろうが・・・。最初のベッドシーンも唐突で違和感がある。整形医師を射殺してたけど何で?悪女のほうはロザムンド・パイク。もうちょっと若かったらかなりイケてたかも。ラストの肉弾戦はシリーズとしては新しい試みで面白い。露出度の高い衣装も大サービス。 悪役はトビー・スティーブンスとウィル・ユン・リーの二人一役?グスタフ・グレーブスは、貴族っぽい容貌がいい感じで、知性と肉体がいい按配にバランスしたいいキャスティングだ。ムーン大佐のほうは、最初の方しか出てこないためか印象薄い。ラスボスのくせに、フルネームが出てこない安いキャラだ。腹心のザオは、かなり外観が怖い。でも見掛け倒しという感じも。別に普通の顔でも良かったのでは?それにとっととダイヤ取れって。 新Q、前作ではお笑いキャラという感じで印象が悪かったのだが、今作ではちゃんと真面目なキャラという感じで悪くない。これからどうやって独自性を出していくのか、楽しみなキャラだ。M役は相変わらずジュディ・デンチ。早く代われ!バーナード・リーの頃は、嫌味を言いながらも007に信頼を置いているのが感じられて「理想の上司」といった趣だが、この新Mのクソっぷりったら。ボンドが生還して病院での再会シーン、マジで腹立った。それからNSAの長官、ファルコ。これもかなり無能で失敗キャラでは。ペッパー保安官並みのダメキャラ。 映画の冒頭、いつものガンバレルシーン。今回は007の撃った弾丸が飛んでくるヒネリがある。13日の金曜日6のパロディーですか(逆だ)。それからサーフィンシーン。なかなかかっこいい幕開けではないだろうか。しかしこれ絶対ハワイだよと思ったら、案の定ロケ地はハワイ。前述のホバークラフトチェイスのあと、なんと007が北朝鮮に捕縛されて、1年以上拷問を受けるという驚きの展開。しかしタイトルバックにボンドの拷問シーンを重ねるというのは少々悪趣味では?北朝鮮の将軍(これがかなりかっこいい役)は裏切り者を吐かせるために拷問させたらしいが、そんなの無駄。なぜなら007だって裏切り者の存在を知らなかったのだから。 それからずっと中だるみがあって、次はCGバリバリのパラサーフィン。劇場ではみんな失笑していた。まあ家庭用テレビではそれほどCGがあからさまには見えないのが救い。次の氷上のカーチェイス。かなりすごいシーンではあるものの、お互い武器に頼りすぎ。お互いにミサイルを撃って、中間で相殺して爆発するなんてギャグか?それになにより、光学迷彩で透明になるってなんだ。いくらなんでもやりすぎだろう。ラストは輸送機内での肉弾戦。ボンドとラスボス、ボンドガール2人のバトルが並行して描かれるというのは007シリーズとしては初の試みで面白い。ラスボス、かっこいいんだけどあのパワードスーツはいただけない。ファミコンのパワーグローブかいな。ラストにマニーペニーのコメディーシークエンスがあるのだが、必要なかったのでは。それにマニーペニーおばさんで嫌。 主題歌はマドンナ。はっきり言ってかなり盛り上がらない曲だが、それなりにヒットしたらしいので、今はこういう曲が流行るのだろうか。マドンナは劇中にカメオ出演しているらしいが、何度か観たがどこだか分からない。 全般的に、シナリオがダメ、キャスティングの良否にムラがある、演出が失敗、とあまり褒められた出来ではない。シナリオに関して、不自然なところが多すぎではないだろうか。それに太陽光線を使った衛星兵器なんていまさら・・・。夜になったら使えないじゃんか〜。 |
カジノロワイヤル |
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原題:CASINO ROYALE | |
監督:マーティン・キャンベル | |
製作:2006年 | |
新作「スペクター」を劇場で見てきた記念に、まだ書いていなかった作品のレビューを書いてみました。以下の作品は劇場およびブルーレイで鑑賞しています。 ブロスナンからダニエル・クレイグにボンドが代わった1作目。 下馬評では賛否両論、むしろ否定派の多かったダニエルボンドだが、映画が公開されるととたんに絶賛の嵐が巻き起こったのが本作の出来の良さを物語っている。 ダニエル・グレイグ、確かにロシアの殺し屋みたいだとかプーチン大統領みたいだという意見ももっともではある。しかしそのマッチョな肉体を活かした新生肉体派アクションは、従前のどのボンドにも見られなかったものだ。 何より序盤の高層アクションがものすごい。ジャッキー・チェンの最盛期をさらにパワーアップしたかのような巨大クレーン上のアクションは、たとえ家庭用テレビでも十分手に汗を握らせてくれる。パルクールというらしいが、敵役の軽業師のような身のこなしも素晴らしい。 次に空港でのカーチェイス。単に車の追跡劇ではなくて、タンクローリーに飛び乗ったりしがみついたりと、ここでも肉体を前面に押し出したアクションを見せてくれる。ジェットエンジンの風圧で車が吹っ飛ぶシーンがあるが、CGに頼らずに実際に車をクレーンでぶっ飛ばしているところなど、さすがボンドシリーズだと思わせてくれる。 一瞬のシーンではあるが、アストンマーチンの大横転も見ごたえのあるスタントだ。 主題歌の「You Know My Name」は久しぶりに男性が歌うロック曲で、映画に合ったハードなかっこいい曲だ。サウンドガーデンは同時期の他のグランジバンドに比べるとパッしなかったような気がするが、ともかく本作はクリス・カーネルのボーカルがバッチリ決まっている。本作公開時にカラオケで歌おうと思ったが、ビートルズの方しか出てこなかった・・・。タイトルバックのCGアニメも秀逸で、敵を倒すとハートマークに砕け散ったりと、カジノに合わせた演出がにくい。いつもは女体が出ないと文句を言うタイトルバックだが、本作は十分満足できた。 ボンド映画の面白さは悪役も大きなキーポイントだが、本作のル・シッフルがいい感じ。知略に長けていて悪どくて、しかも小者っぽさも残してる面白いキャラだ。顔に傷があって、血の涙を流すという設定もキャラのハク付けに役立っている(涙目のルカみたいだ)。 最初に出てきた人妻ボンドガール役のカテリーナ・ムラーノがお色気ムンムンで好感度高し。それからメインのボンドガール、ヴェスパー役のエヴァ・グリーン。名前からしていつまでも新鮮な感じがするが、とても綺麗な女優さんだ。普段は目の回りを必要以上に濃く化粧しているが、カジノ勝負前に見せる薄化粧姿は本当に女神のようだ。ただ、脚本が悪いせいか、行動が意味不明で馬鹿女にしか思えないのが残念。あとちょっと垂れてそうなのが・・・。 映画レビュー読むと誰もが好感を得ているマティス役が美味しいキャラだ。次作で使い捨てられるのが残念。ホワイトもいかにも悪そうでいいキャストだ。 Qやマニーペニーが出てこないのが残念だが、キャストはどれもピタリとはまっていていい感じだ。ただしMは除かせていただく。何で唯一続投なんだろうか? 本作はボンド映画の中でもベスト5に入る良作だと思うが、やっぱりケチをつけさせてもらう。 まずタイトルにもなっているカジノのシーンだが、結局何の策もなく駆け引きもなく、カードの良さで普通に勝っちゃうってどういうこと?途中毒を盛られ危機一髪というサスペンスもあったが、もっと何かあっと驚くような仕掛けやどんでん返しが欲しかったところ。脚本家にはジョジョとかカイジ、今では嘘喰いあたりを読んでトリックの面白さを勉強して欲しいところ。 それから本作の一番の弱点は、ラストのアクションシーン。仕掛けが大掛かりなのはメイキングで分かったが、しかしそれが面白さにつながっていない。撃ち合うだけじゃなくて、もっと何か見せ場になるシーンが欲しかった。そもそも、ラスボスであるはずのル・シッフルがさっさと始末されてしまっていて、ぱっと出の眼帯男を倒してもちっともカタルシスが無い。ここは普通に、シッフルと配下のスキンヘッド男、露出度の高いネーチャンと最後の戦いをすべきだったろう。ちなみに劇場で見たときは、眼帯男を見て「あれ?シッフル生きてたの?」と混乱してしまった。顔は全然似ていないが、最大の肉体的特徴の「左目から血の涙を流す」に通じる左眼帯の男を出す必要があったのだろうか。昔と違って劇場は総入れ替え製で一回しか見れないので、無意味に特徴をかぶらせて困らせないで欲しい。 尺が長くて後半だれるのだが、前述の3つのアクションだけで十分元が取れる。新旧の007ファンにあまねくお勧めできる良作だ。 |
慰めの報酬 |
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原題:QUANTUM OF SOLACE | |
監督:マーク・フォスター | |
製作:2008年 | |
ダニエル・クレイグ2本目にして、失敗作。 いや、アクションは見事な部分もある。アバンタイトルのカーチェイス、やっていることは凄い。一般車で渋滞したトンネル内での高速のカーチェイスなど、少なくとも私は見たことのない見ごたえのあるアクションだ。しかし、この慌しい編集はどうにかならないものか。カット割が短すぎて、何がなんだか全く理解できないうちに勝手にシーンが進んでしまう。当時流行ったボーンシリーズに倣った(スタッフが同じそうだが)スピーディーなカット割ということだが、ここは一つ一つのカットをしっかりと見せて、観客に状況を理解できる間を与えるべきだ。折角カット割でごまかす必要のない見事なアクションなのに、すべてを台無しにしてしまっている。さらに、ボンドカーも敵の車も同じような色の同じような型の車で、わけのわからなさに拍車をかけている。例えば、敵車がトラックに正面衝突したとき、「えっ、ボンドがクラッシュ?」と混乱しているうちにシーンは進み、敵を倒したカタルシスを得るチャンスをふいにしてしまっている。ボンドカーが黒(灰色らしいが)なら敵は白や赤など区別しやすくするべきだった。 次のアクションの、鐘楼?での1対1のぶら下がりバトルも手に汗握るシーン。二人で揉みあいながらガラスをぶち割って落下するシーンなど見事(メイキングでCGとばらしているが)。だが、ボンドも敵も背格好や服装が似ているので、今ボンドがピンチなんだかチャンスなんだかよく分からないうちに決着がついてしまう。ボンドがダークスーツなら敵は白や赤など区別しやすくするべきだった。追跡劇の最中に競馬のカットを短く挟むのも、スカした演出で正直ウザイ。 それからボートチェイス。なぜボンドがカミーユを助けようとするのか意味不明で、頭の中に「?」が浮かんでいるうちに終わってしまう。そもそもそんなに大したアクションでもないし。 それから輸送機と戦闘機のドッグチェイス。いまどきプロペラ機同士のチェイスというのはアナクロでボンドシリーズらしいシャレが利いているとは思うが、やってることはただ飛行機を飛ばしてるだけで、特殊効果で銃撃しているように見せているというのがなんとなく分かってしまう。007お得意のミニチュア爆破シーンも無し。パラシュート無しのダイブもゴールデンアイの冒頭並みのショボい特撮。ムーンレイカーで見せてくれたあの凄まじい空中スタントの心意気はどこへ? ラストの炎上するホテルでの対決も全く面白み無し。ラスボスとの決着もカタルシス無し。 とにかく全体的に説明不足で分かりにくい作風は意図的なものなのか?鐘楼でのアクションの後、ボンドがハイチに飛んだら見知らぬ男が襲ってきて、そいつを殺したらカミーユの車に乗って、バイクの男が付けてきて、車から降りてバイクを奪って、カミーユが敵ボスと話すと海に男が沈んでいて、カミーユがボートに乗ったらボンドがしゃしゃり出てきて・・・。正直、劇場の初見で展開を理解できた観客がいるのだろうか。 キャラクターもイマイチ。何よりボスのグリーンがショボい。今までもショボ目のボスはいたが(ダイヤモンドのブロフェルドとかカナンガとかクリスタトスとか)、それはそれで味わいがあったりリアリティーがあったりした。本作のボスはただひたすらショボくてキモい。配下のヅラ野郎もキモくてショボい。 ボンドガールのオルガ・キュリレンコも、イマイチ可愛くもなければ色気も無い。特殊能力があるわけでもなく活躍もせず、ヒロインとして魅力薄。もう一人のフィールズもパッとしない。と思ったら特典映像でのキュリレンコもアーマートンもすごく綺麗で魅力的だった。監督が女性を撮るのが下手なのだろうか。前作で美味しいところを持っていったマティス。本作では「何で出てきたの?」と言いたいぐらいに使い捨てられる。死んだら現金を盗んでゴミ箱にポイ、とかスカした演出も気に入らない。 敵の幹部がオペラ上映中に会議をするというスカした演出も気に入らない。トスカなんて「動物のお医者さん」でしか知らねー。ボンドの乱入に次々と席を立つ敵幹部に比べて、ホワイトは冷静に対処する。この演出はホワイトの有能さが感じられていい。 ラストの、エヴァが愛した男というのがただのスケコマシだったのもガッカリ。てっきり幼馴染で将来を誓い合った仲かと思っていたよ。そうじゃなきゃエヴァがただの世間知らずのアホみたいじゃないか。うん、私の中では本作の設定は無かったことにしよう。 あとは主題歌。シリーズ初のデュエットなんだが、だから何?という感じ。ラップみたいな曲調で、耳には残るが盛り上がりには乏しい。歌ってる二人(特に男)が気持ち悪いのもマイナス。バックの映像は久しぶりに女体度が高くてマル。ブルーレイの特典映像は短いけどなかなかに興奮モノ。 劇場で見終わったときは、「あ〜退屈で長かった、今までで一番長いんじゃないの?」などと思ったものだが、実はなんとドクターノオに次ぐ短さだった(106分という007には珍しい2時間アンダー)。 あと細かいことだが、最後の戦いの舞台は秘密基地ではなく普通のホテルのはず。ならば、一般の従業員が爆発から逃げ出すシーンを入れて欲しかったところ(消されたライセンスみたいに)。悪役にヤラレそうになったお姉さんが無事だったのかも気になる。なんだかそういうところ、雑な感じがしてマイナスポイントだ。 本作でひとつ気に入ったのが、クオンタムという悪の組織。一見ただの企業連合のようで、実は世界の政府組織に根を張り、経済活動を通して世界を牛耳ろうとする・・・。今風でいい設定だと思う。スペクターみたいな悪の秘密結社なんてのはもはや時代遅れで陳腐、次回からクオンタムとの頭脳戦が楽しめるのか・・・と思ったらスペクター復活ですよ、なんじゃそりゃ。 |
スカイフォール |
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原題:SKYFALL | |
監督:サム・メンデス | |
製作:2012年 | |
評論家や映画マニアにはわりと評判のいい本作だが、私的にはイマイチ。 恒例のプレシークエンスアクションはシリーズ中屈指の出来。混雑した市場でのカーチェイスから始まって、屋根の上のバイクチェイス、列車に飛び降りての格闘(バイクごと列車に飛び降りるスタントは見事!)、ショベルカーに乗ってバリバリとド派手なアクション、狙撃のサスペンス(take the bloody shot! シビレル!)、鉄橋からのこれも見事な落下スタントと、息もつかせぬままに次から次へと手に汗握るアクションの連続で、完成度は非常に高い。 しかし!アクションの見せ場は冒頭10数分でほぼ終わってしまう。他に目を引くアクションシーンは、地下鉄の脱線、ラストの洋館での銃撃戦、といったところ。 確かに地下鉄が突っ込んでくるところは劇場では度肝を抜かれたが、展開の前後のつながりがイマイチで派手なわりには効果が薄い。 ラストの銃撃戦は、なんというか全体的にいまひとつ。館の大爆発シーンとかスペクタクルもあるのだが、正直劇場で見たときは退屈だった。 ブルーレイで何度も観ていると、小技が効いていて印象も変わってくるが、ともかく劇場での初見は「冒頭以降は退屈な映画」という感想だった。 多くの人が言うように、画は非常に綺麗。上海やマカオ、ロンドンの夜景。スコットランドの開けた圏谷。またはラストでボンドがたたずむロンドンの風景。どれも非常に綺麗で印象的な画作りで、今までのボンドシリーズにはなかった本作の特徴だ。が、私がボンド映画に期待するのは美麗なビジュアルではない。血沸き、肉踊るアクションだ。 それから、肝心要の敵キャラ。慰めのボスはショボイと何度も書いたが、本作のボスはキモイのである。シルヴァ初登場時の長回しとか入れ歯を外す奇怪なシーンなど見所もあるものの、ともかくキモイのだ。不自然な金髪はともかく、ボンドにホモ的な揺さぶりをかけるところなど心底キモイ。そしてなにより、ラストでMと心中したがるところなどラスボスの威厳の欠片もない。ラストになっていきなり歪んだ愛情表現なんかされて唖然としてしまった。ここはひとつ、Mに強烈な憎しみを抱いていて、シャークガンを飲ませて吹っ飛ばそうとするぐらいでよかった。いやむしろふっ飛ばしてくれてもよかったのに。ナイフ一発であっけなく片がついてしまうのも拍子抜け。本作ではオッドジョブ役のキャラはいない。ならば、シルヴァ自身が知略と暴力を兼ね備えていてもよかったのでは。ボンドに背中を刺されつつ、ボンドを圧倒する大暴れをするべきだった。敵は強くてカッコ良いほど映画は面白くなる。キモイキモイと言うと、「キモイ演技をしてるんだから当たり前だ」と言う人もいるかもしれない。ほら、やっぱりキモイんでしょ。前作で、クオンタムという魅力的な謎の秘密結社が出てきた。当然本作のボスもクオンタムの一員として描かれると思ったが、なぜか一匹狼の天才ハッカーみたいな設定になっている。と思いきや続編では(クオンタムの上部組織である)スペクターの一員という扱い。適当すぎるだろ。 新キャラ、Q。私は相当気に入った。オタクっぽい風貌で、ボンドを馬鹿にする新世代。スタッフも思い切った英断をしたものだと思う。ダイアナザーデイの新Qは正直パッとしなかったが、本作のQはこれからの活躍が楽しみだ。 マニーペニー。これも新機軸で、意図は悪くはないし、演じるナオミ・ハリスもチャーミングだ。ラストでイブがマニーペニーだと明かされるオチも楽しい。が、やっぱりマニーペニーはボンドに想いを寄せる深窓の令嬢でいてほしいなあと。 新M。いいんだけど、少し若くて貫禄が足りないか。ダニエルが老け顔なので、上司と部下の関係にあまり見えない。 旧M。ゴールデンアイからずっと出ずっぱり。正直、なんでボンドやスタッフたちや映画ファンがこのMに愛着を持っているのかわからない。本作でいきなり深い絆が描かれたけど、ゴールデンアイのころから前作まで一貫していがみ合ってたよ? ダニエル・クレイグ。初出がダブルオーになりたてのルーキーで、続編はその直後の話。そして3作目にしていきなりロートル扱い。役柄に合わせて、髪を短く刈り込んでスティーブ・マックイーンのような容貌。むしろ続編のほうが若く見える。 ボンドガールのベレニス・マーロウ。化粧濃くて好みじゃない。上海で出てきたときは、物語の核を握る重要人物かと思ったら、ほとんど意味もなく殺されて、あんた何のために出てきたの状態。男性観客全員の代弁をさせてもらえれば、シャワーシーンのガラス曇りすぎ!正直彼女の出番とあまり見せ場のないマカオのシーンを全部カットしたら、尺が短くなってテンポが良くなるし、製作費も節約できたのではないだろうか。 主題歌は気に入った。アップテンポなロック調のカジノロワイヤルの主題歌も良かったが、やっぱりボンドシリーズは女性ボーカルの雄大な曲が良く似合う。タイトルバックは執拗にボンドの死を暗示している。それはいいんだけど、CGのドラゴンとか踊らせてないで他に見せるモノがあるだろ、あん? で、タイトルの「スカイフォール」。そもそも007シリーズのタイトルに「サンダーボールってなんだ?」「リビングデイライツってどういう意味だ?」「美しき獲物たちって誰だよ」とか深く考えたりしない(いや、リビングデイライツの意味は今でも知りたいが)。本作の「スカイフォール」。普段だったら当然気にしないところだが、劇中の心理試験でボンドがその言葉にキレるシーンがある。そこで観客は「なるほど、スカイフォールという言葉に深い意味があるのだな」と思うだろう。で、何かと言えばただのボンドの生家の名前。「お、おう・・・」みたいな微妙なリアクションしかできないよ。このスカイフォール館、ボンドが今でも嫌っていたり、両親が死んだとき隠し通路に2日間篭っていたという描写がある。私はてっきり、「なるほど、ボンドが小さな頃、両親がここで襲撃にあって殺されたのだな」と思い込んでいた。ところがスペクターを観たら、両親が登山事故で死んだことになっていてビックリ。ところが、本作の監督やプロデューサーのコメンタリーでも、両親が登山で死んだ設定が生きていたと知ってまたもやビックリ。 ラスト近くの氷の湖の中での格闘、短いシーンだがダニエルボンドらしいハードな仕上がりが好感。三角締めみたいな技で敵を倒すが、2chで「マッスルスパーク」と書いてる人がいて言い得て妙。照明弾を奪って脱出するアイディアはいいのだが、予め敵が照明弾を持っている描写がなかったので、劇場で見たときは「?」となった。照明弾で氷の割れ目が照らされるシーンも説明不足。アクション映画は一度観れば誰でもわかる単純明快さこそが肝要。正直監督もその他スタッフ・キャストも、Mとの死別とかボンドの心情とか、007的にどうでもいいところばかりに注意が向いている。そこいらが評論家の評価が高く、私的に退屈と思ってしまう理由だろう。 |
スペクター |
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原題:SPECTRE | |
監督:サム・メンデス | |
製作:2015年 | |
007の宿敵、スペクターが満を持して(権利を取得して)登場!シリーズ記念超大作!のはずなんだけど、なんとも言えない奇妙な仕上がりになってしまった。 アクションは見所が多い。恒例のプレシークエンスでのヘリスタントは、どこまでCGを援用しているか分からないが、劇場で見たときは本当に度肝を抜かされるスリリングなアクションだった。007シリーズのスタントの殿堂にまた一つ名場面が追加されたと言っていいだろう。ローマでのスーパーカー2台のカーチェイスも、オチが少々残念だが、007らしいケレン味のあるスタイリッシュなシーンに仕上がっている。次の雪山での飛行機と車のチェイスも、ド派手で本作のカラーに合った目を引くアクションだ(冷静に考えればなにやってんの?となるが)。それから列車内の格闘も、敵が強そうな分、ただの肉弾戦でも手に汗を握る。 とまあ、アクションだけ見れば十分優秀な本作。でも全体としての印象は「なんとも言えない奇妙な仕上がり」としか言いようがない。 まず誰もが指摘するところだとは思うが、敵がショボイ。ショボすぎる。カジノ/慰め/スカイフォールのすべての敵キャラを裏で操っていたという後付け感満載の最強のラスボスが、こいつ?そもそもボンドの義兄弟って設定が必要だったのか?「2度死ぬ」で初めて顔を合わせたブロフェルドが唐突に「I ,am your father」とか言いだしたらドッチラケると思うが、それをやってしまったのが本作だ。ボンドを秘密基地に招待して以降、何をやりたかったのかワケワカランし、最後はヘリを撃墜されて這いつくばってるとか、ラスボスの威厳の欠片もないヘボさだ。 ところで映画を観ても理解できなかったのだが、スカイフォールは生家で、実の両親は登山事故で死亡。養子になるが、養父と義兄は雪崩で死亡(と思ったら義兄は生きていて単身で犯罪組織を設立)。であってる?なんで義兄の写真がスカイフォールにあったんだ?養父が死んだあとスカイフォールで一人暮らししてたのかな?大体、両親が登山事故で義父が雪崩で死亡って、何でわざわざ似たような設定にするかな。例えるなら、両親はモチを喉に詰まらせて死んで、義父はこんにゃくゼリーを喉に詰まらせて死んだようなものだ。不自然すぎるだろ・・・。 ヒロインのレア・セドゥ。女性の好みは人それぞれだが、私の感覚から言わせてもらえば、不細工な部類。デリヘルで来てもチェンジだな。そもそも、愛した女性を殺した敵の娘と愛し合うってどういうこと?私だったらホワイトの前であんなことやらこんなことやらしちゃうね。そもそもホワイトがいい人みたいになってるのが不満。ホワイトも、「アメリカンを探せ」なんて言ってないで敵基地の場所教えろよ。 久々に出てきたオッドジョブ役(ヒンクス)の役者は、元プロレスラーらしい。悪くはないんだけど、外観がいい人っぽく見えちゃうのがマイナス。極悪非道の殺し屋か、ちょっぴりユーモラスな憎めない敵か、どちらかにはっきりすべきだと思う。登場時の仲間粛清はいらなかったのでは。列車から放り出されたぐらいで退場してしまうのはもったいなかったと思う。 敵基地に着いてからの展開は、意味不明な拷問と安易な脱出、安直な大爆発、そして意図不明なロンドンでの決着と、まるで思いつきで撮ったダイジェスト版を見ているよう。ダニエル・グレイグが怪我したとか制作費が底をついたとか脚本家がトチ狂ったとか、何か理由があるのかもしれない。が、そんなことは観客には関係ないこと。もしもボンドが敵基地で大立ち回りを演じ、ヒンクスが再登場して決着をつけ、納得のいく方法で基地を大爆発させ、そして瓦礫の下から顔面に傷がついたブロフェルドがぬっと顔を出す、という展開だったら拍手喝采だったのになあ、と夢想してみる。 主題歌は、サム・スミス。今の時代こんなことを言ったら差別と言われてしまうが、カマっぽい裏声があんまり好きになれない。と思ったら本人は本物だそうで。タイトルバックは触手と女体。う〜ん、思ったほどエロくないです。スタッフはうろつき童子でも観て勉強してください。ダニエルの乳首は見えるけど、そんなものを見たいんじゃない!!! |