7 姉妹


 時間は遡る。
 ザイードの後を追って飛び出したバレット達だったが、たちまち闇の中で、虚しく敵を見失い、立ち尽くした。
「バレット、これ……!!」
 ティファは、黙って怒りに震える夫に、一片の紙片を手渡した。そこには、明朝7時にウォーレス夫妻にコスタ・デル・ソルの某所にあるしかじかの場所までお出向きいただきたい、との旨が記されており、署名は「古代種を支える者アスク」となっていた。
「古代種……!」
と言えば、恐らく今は1人しかいない。
「……ってえこたあ、あの女の仲間か!やりやがったな!!」
 と、そこへ騒ぎを聞きつけた町の者達が駆けつけてきた。
「おやっさん!!」
「一体何事だ!?」
 バレットは振り返ると、怒りを声にぶつけて投げつけるように喚いた。
「マリンがさらわれた!!神羅の陰険女の仕業だ!!」
「何だと!?」
 その後を引き取ったのはティファだった。
「神羅でクーデターが起こったの。あのプレジデントの姪という人が、リーブ氏を失脚させて、私達にも自分に従えって……!」
 それ以上の説明は無用だった。コレルの男達は、たちまち怒りの声を上げると、
「町の入り口を封鎖しろ!」
「まだ近くにいるかも知れねえ!捜せ!!」
などと叫びながら、たちまち散らばっていった。
「行くしかないな。どうせ罠だろうが。」
 ヴィンセントが言った。
「罠くれぇ何でい!ケッ、よくよくけったくそ悪ぃお嬢様だぜ!」
 シドが吐き捨てた。
「おうよ!!……チキショウ、ティファ、支度しやがれ!!」
「ええ!!」
 ティファは下の娘2人とメルのことを、日頃親しくしている隣家の主婦に頼んだ。いかにも炭鉱町の肝っ玉おかみという風情の隣家の主婦は、
「まかしときな!こちとら神羅の奴らなんかに負けちゃいないよ!!」
と請合ってくれ、ティファは礼を述べると慌しく夫や仲間達と共にバギーに飛び乗った。
と言っても、途中の道中を警戒して、バレットはユフィやヴィンセントと、そしてティファはシドやケット・シーと共に2台のバギーに分乗する。
 コレルは山脈の中にある炭鉱町で、道はゴンガガ方面へ抜ける道と、コスタ・デル・ソルへ続く道の2本しか無い。無論、一同はコスタ・デル・ソル方向への道をひた走ったが、やがてそれは起こった。
 突如、轟音と共に襲ってきた衝撃波がティファの背後をかすめたのである。
 はっとして振り返ると、そこには上半身を失った、巨大なぬいぐるみの残骸だけがあった。
「ケット・シー!!」
 叫ぶと同時にシドがけたたましい音を立ててブレーキを踏み込んだ。車はスピンしながら、狭い切通しの山道を塞ぐ形で止まり、飛び降りたティファとシドは、素早く車と切り立った崖の間に回りこんで身を伏せた。
 と、その狭い空間に、崖の陰の上から何かが降ってきた。
 いや、飛び降りてきたというべきか。
「!!」
 その風と衝撃を感じたティファは慌てて飛び退ったが、相手はすぐさまそんな彼女に掴みかかってくる。それを、ティファは強烈な蹴りで弾いたが、狭い所で戦う不自由さに歯軋りした。
「ティファ!」
 シドが叫んだ。だが、その彼の側にもソルジャーが降り立ち、慌ててスピアをふるって応戦する。異変に気付いた先行車が止まり、夫が喚き散らしながらバギーから飛び降りてきたが、答えている暇など無い。そうこうしている内に、3人目の気配が、風切り音と衝撃と共に、彼らとティファを分断する位置に降り立った。
 ティファが息を呑んだのは次の瞬間だった。点けっぱなしのバギーのライトの明かりに、目の前の相手の瞳が、禍々しい碧色に反射したのである。
(ソルジャー!!)
 道理で高い崖の上から飛び降りても平気なはずである。
ソルジャーとの戦いは無論初めてではないが、あの時にはクラウドがいた。クラウドやヴィンセントが、ソルジャーを引き受けるか、或いは動きを封じてくれていた。だが今クラウドはおらず、ここにいるヴィンセントも、今にわかにはどうしようもない。
 ティファは数度目の蹴りを相手に叩き込んだが、相手はもうびくともしなかった。魔法も使えないわけではないが、人工的に普通の人間よりも魔力を強くしているソルジャーに、ティファの魔法がどこまで通用するのか、疑問だった。
「お静かに。我々はお出迎えに上がったまでです。」
 シドの側にいたソルジャーが言った。
「ケッ!いきなり花火ブッ放して、仲間の頭吹っ飛ばしてくれたクセに、よく言うぜ!」
「我々はぬいぐるみを狙ったつもりだったのですが。」
 ティファの蹴りを受けたもう1人のソルジャーが言った。
「失礼な奴ぅ。」
 ユフィが不機嫌に言った。
「とにかく、平和に話し合う気はねえってことだな!」
 バレットが呻いた。
「事は急を要するのです。星の命運が分からない今、我々に出来ることは限られているのですから。」
 3人目のソルジャーが言った。
「だからって、マリンには何の罪も無いのに!」
 ティファは抗議したが案の定、
「ご心配なく、お嬢様は交渉を早く終わらせるために、大事な客人としてご招待しただけです。」
と相手は罪の意識も無く切り返した。
「ヘッ、随分荒っぽいお迎えじゃねえか。言っとくがなあ!あいつはオレ達のかわいい娘だ、ぞんざいな扱いする奴なんかに任せちゃおけねえんだよ!」
 バレットが喚いたが、相手は意に介しなかった。
「お話は後で伺いましょう。ここではなんのおもてなしもできませんし。」
 丁寧な侮蔑の言葉に一同はわなないた。
 と、その時だった。
 突然、空気がびりびりと帯電したような気配と共に、白い衝撃波が飛んできた。衝撃波は正確に、バレット達の前に立ち塞がっていたソルジャーを絡めとり、ソルジャーははっとした表情のまま、凍りついた。
 そしてその隙を逃すヴィンセントではなかった。
 ヴィンセントの銃が咆哮した。
 そして、白い衝撃波は続けざまに2人のソルジャーを直撃した。これはティファとシドによって打ち倒された後、バレットとユフィに止めをさされた。
「ふ、ふう……アセらせやがって。」
「でも、一体……。」
 ティファは衝撃波の飛んできた方向を見た。それは、コスタ・デル・ソルとは反対方向、コレルの方向からだったが、コレルから誰か援護に来た気配はない。ただ深い闇が切通しの向こうに広がり、かすかにそこから吹き抜けてくる、山あいの風の流れが感じられるだけだった。
 その無音の風の流れに混ざって、
「あの……」
という少女の声が聞こえてきた時、ティファは一瞬、山風の生み出す幻聴かと思った。そのくらい、その声は控えめで、夜の闇のように静かだった。
 だが、続けて軽やかな着地音と共に、声の主が崖から飛び降りてきた。
 すわ新手か!!と身構えたバレット達に、ティファは、
「待って!」
と制止の声を上げた。まだ幼さの残る少女の、静かだけれども底に芯の通った声に、ティファの心が何かを告げていた。
 この人物は、敵ではない。
 相手は、こちらの警戒を悟ってか、闇の中にじっと佇んだまま、それ以上近づいては来なかった。その代わり、こちらから何か言う前に、相手は再び口を開いた。
「あの、マリンさん、コレル山中の、神羅の研究所に連れて行かれたんです。」
「何!?」
 バレットが、相手に皆まで言わせずに大声を上げたが、ティファの予想とは裏腹に、少女はやはり確固たる静かさを湛えてそのまま黙ってこちらを見ているようだった。闇の中で、恐らく熱い憤怒の表情でいるだろう夫とは対照的な、水のような静かさだった。
「だけど、ソルジャーが、まだ、コレルに向かっています。すぐに戻らないと。」
 この少女の言葉に、全員が恐怖感から凄まじい緊張に囚われた。やはり、マルグリットはただ引き下がりはしなかったのだ。
「まだ間に合う!?」
 ティファは咳き込むように尋ねた。まだほんの少女の相手に、この時ティファはすがりつきたい気持ちだった。
「多分。……それに、わたしも、コレルに行きます。あの、妹が、コレルにいるんです。メル・ランドっていうんですけど……。」
「メルって……じゃあアンタメルの!?」
「はい。あの、わたし、ファル・ランドっていいます。あの、妹が……」
 闇の中で少女は答え、ティファは手を打ち鳴らした。
「良かった!メル、私のうちにいるのよ!」
 すると、ファル・ランドと名乗った少女は体重を感じさせない、軽やかな動作でようやくバギーの光の届く所に現れた。
 瞳はジェノバの碧。ブロンドの髪を2本のおさげにして垂らしているのが、いかにもまだ幼い女の子のようだったが、その表情は大人びて、物静かな印象を与える。
 その静かさと、そしてその顔立ちに、アバランチの面々は何故か一瞬はっとさせられたのだが、その時はどうしてなのか、深く考えている暇など無かった。
「私はファルとコレルに戻るわ。みんなは先に行っててちょうだい。」
 ティファは言った。
「行けったってよ、一体その研究所とやらはどこなんでい?」
 シドが尋ねると、ファルはキュロットスカートのポケットから何かを取り出すと、口に当てた。静かな闇の中に、不思議な音色が細く響き渡り、荒々しい岩肌にこだまする。だが、ほどなく一同は、覚えのある独特の足音が、固い山道に響き、こちらに向かってきたことを悟った。
「ギサールの笛!」
 ティファは小さく呟いた。やがて、愛嬌のある、チョコボの鳴き声が闇を陽気に震わせた。
「研究所までは、あの子が道を知っています。後を追って下さい。」
「よっしゃあ!!行くぜ!!」
「あ、おいまちやがれ!!」
 だが、シドの叫びも虚しく、バレットとユフィ、そしてヴィンセントの3人は前に止めていたバギーに飛び乗ると、雄叫びを上げて猛然と走り出したチョコボの後を追って行ってしまった。
「クソッタレが!仕方ねえ、おめえらとっとと乗りやがれ、このシド様がコレルまで付き合ってぶっ飛ばしてやる!!」
 その言葉通り、シドは少々無茶なくらいのスピードで、今来た山道を引き返し始めた。
 夜風が激しく耳元で鳴る中、ティファは尋ねた。
「あなた達のお父さんやお母さんは無事なの!?」
「ええ……まだ今のところは。」
「まだって……。」
「今はまだ、あの人達、私達に手出し出来ていないから。でも、もう近くでうろうろしているから、それでメルは……。」
 ティファは悟った。マルグリットの魔の手は、やはりメル達のすぐ側に及んでいたのである。
「……大丈夫だよ。私達があなた達を守るから。」
「有難うございます。」
 ファルは穏やかに答えた。その声に、嬉しい微笑が少し含まれているのを感じて、ティファもほんの少しだけ、明るい気持ちを思い出した。
 だが、ティファもシドも知らなかった。彼らの去ったその後で、倒れていたソルジャー達の体に、異変が起こっていたことを。
 3人は、細い山道の傍らにそのまま置き去りにされたのだが、辺りに何の気配もしなくなった後、3人の両脚はずぶずぶと、まるでそこが泥沼になったかの様に沈み始めたのである。
そして、大腿部まで沈み込んだ時、劇的な変化が起こった。
まだ沈み込んでいない部分が、次第に細い影の束へと変わっていったのである。いや、それは影などではなく、実体を伴っていた。そして、まるで天に向かって枝を伸ばす柳の若枝のように、しなやかに闇の中へ起き上がった。
後には、夜風にさやさやと音を立てる葉擦れの音だけが、再び闇に満ちた切通しに漂い、日が昇った後、それは緑の葉を太陽にきらめかせた。
 そしてそれと同じ現象を、やがてティファは、コレルの町外れで見ることになる。
 今まさに、コレルの町に侵入しようとしていた4人のソルジャーが、やはり同じようにファルの魔法によって体の自由を失い、小さな潅木へと変わってしまったのである。
「これでやっと……星に還れたの。」
 ファルの疲れたような呟きに、ティファとシドは凝然と目を見張り、言葉を失った。



 さて、独房に入れられたエルは、慌てず騒がず、妹を呼び出した。
(メル、聞こえる?)
 末っ子のメルは、一家の中ではアイドル的存在で、みんなからかわいがられていた。無論、エルにとってもかわいい妹だった。離れていても、こうして心で話すことは出来たけれど、やはり早く会いたい。まだあんなに小さいのに、怖い人達に出会って、さらわれて閉じ込められてしまった、かわいそうな妹の側に早く行きたい。
(うん。)
 メルの答えと同時に、今彼女の目の前の光景が浮んだ。
 ファルが、小さな妹を抱き締めていた。そして、涙ぐむティファ母子と、やはりしんみりとしつつも、どこか浮かない表情のシド。エルは既に、彼らの顔を知っていた。エルの中のジェノバ細胞が、メルの知覚したものを読み取るのだ。
 しかもメルは、兄妹達の中でも1、2を争う優れたジェノバだった。
 いや、それは正確ではない。恐らく、メルはかつてのセフィロス、そしてクラウドに匹敵するジェノバなのかもしれない。母はそう言っていた。父も同じ事は感じてはいるだろうが、口に出しては何も言わない。それは、メルがただならざる運命のもとに生まれてきたことを示しているからだ。しかもメルは……。
(あのね、エル姉捕まっちゃった。)
(うん。)
 メルは頷いた。
(でもね、おにいちゃんが、きてって。)
(お兄ちゃんが?)
 エルはちょっとしかめっ面になった。メルにとっての「おにいちゃん」は2人いるが、この場合は、今も母の森で気丈に留守番をしているだろう6才の弟のことではなく、抜群に強くて頼れるが、あまりに長男意識が強くて時々妙に大人ぶるのが小憎らしい、エルやファルよりも1つ年上の兄である。
(仕方無いなあ。)
 言いながら、エルは意識をメルに同調させた。
 メルはファルと、再びバギーに乗ってバレット達の後を追うティファ達に同行することになったらしい。その有様が、まるで手に取るように分かったが、間もなく後部座席でメルと一緒にファルも目を閉じた。
(あれ?ファルも?)
 だが、メルからは返事が無かった。
 メルは、2人の姉達の意識を、別の場所に転送するのが忙しかったのである。
 転送先は、ジェノバ化した森の、2本の木だった。
 ジェノバの能力の1つに、他人の記憶を読み取り、その通りに化身するというのがあるが、植物でもその能力には変わりない。
 メルは、2本の木を姉達とそっくりに化身させると、その偽の体の五感を、姉達に同調させようとしているのである。
 エルは側に立っているファルを見た。無論、このファルも偽物だが、それでもこうして姉妹2人で瞳を見返せば、なんだか怖いものが無いような気になってくる。2人は微笑すると、森の中を見回した。
そこから、さほど遠くない場所に、小さなテントがしつらえられている。その前で、1人の男が消えた焚き火の跡を見ながら、じっと座り込んでいる。
2人が近づいて行くと、男は姉妹を見上げた。
「お前達か。」
 エルは答えた。
「うん。……だけど、あたし達、捕まっちゃった。」
「あの連中は?」
「一緒だよ。……それに、あの人も。」
「ならば大丈夫だ。あの連中に叶う相手はそうそういない。彼らは、厳重警備の中から何度でも逃げおおせたのだからな。」
 ファルはやや腑に落ちないようだったが、エルはにっこりと笑った。
「で、おにいちゃんは?」
「レイはここにはいない。……それよりも、中を頼む。」
「頼むって……。」
「私より、お前達の方が彼女は安心だろう。」
 私もファルも、ずっとはこうしてはいられないんだけど、と思いつつ、エルはそっとテントの中を覗き込んだ。
 そこには、毛布にくるまったマリンが横たわっていたが、2人が覗き込むと同時にテントの中に差し込んだ朝日が、その白い瞼を直撃し、身動ぎした。
「あ……。」
「目、覚めた?」
 エルは尋ねた。マリンは状況が把握できず、何度か瞬きを繰り返してからはっと起き上がった。
 それを慌てて手で制しつつ、エルは言った。
「あ、心配しないで!私達、お姉さんが神羅に捕まっていたんで、助けてここまで連れて来たの!」
「助けてって……。」
 その時、マリンは自分を覗き込んでいる無邪気な瞳が、ジェノバの碧に輝いていることに気が付いたようだった。
 だが、相手が妹くらいの年の、無邪気そうな少女だったせいか、警戒はほどなくゆるんだ。おにいちゃんがあたし達に来いって言ったのはこのためだろう。エルは思ったが、その兄の姿は無い。
「あなたが、助けてくれたの?」
「うーん、正確に言うと、ウチのおにいちゃんと……」
 エルはそう言いつつ、ファルがより一層広げて見せた入口の外を指差した。
「ツォンさんとね。」
 マリンはテントから這い出し、3人をまじまじと見た。
「……何だか、お世話になったみたいで……。」
 そう言って頭を下げるマリンに、ツォンは言った。
「大したことはしていない。それに、君が礼を言うべきは彼らだ。」
 だが、そう言ったツォンの視線の先にあるのは、緑の森の木々達ばかりで、誰の姿も無かった。
 戸惑うマリンに、ファルがコーヒーを勧め、妹が世話になったことの礼を控えめに述べた。
「妹?」
「メルだよ。」
「メルの!」
 マリンは驚き、次いでメルの家族の無事を我が事のように喜んだ。
 いい人達だ。エルは思った。みんな、見ず知らずのメルを保護して、心からの思いやりを向けてくれている。さすがは“アバランチ”の人達だ。
 だが、そんな彼らにマルグリットは目をつけた。神羅の名を使い、セトラの名を使って力を手に入れてきた彼女が、今度は「星を救った英雄達」の名を利用して、全ての勢力を自分の味方につけようとしている。
 星を、救うために……。
「俺達のやろうとしていることは、みんなから反発を買い、もしかしたら憎まれることになるかもしれない。……だけど、やらなくちゃならないことなんだ。」
 父の言葉が、エルの脳裏に甦った。
 3人は、今までのおよその状況を語った。
 さらわれたマリンを追って、“アバランチ”のメンバー達が動き始めたこと。
 その彼らを狙って、マルグリット神羅率いるソルジャー達が動いていること。
 そして、コレル山中の研究所で、バレット、ユフィ、ヴィンセント、そしてザイードが捕まってしまったこと。
「ザイードが……!」
 マリンは驚いた。父達は無論だが、彼がマリンのために動いたことに、明らかに動揺しているらしい。
「あたしもね、実はこの体、ジェノバなんだ。本体は、ザイード達と一緒に捕まっているの。」
 エルは白状した。
 マリンは一瞬呆気に取られたが、ジェノバについては彼女も無知ではない。
「そんな……何とかならないの!?」
と言って、ツォンを見た。
「今話していたところだが、君の父上や母上は無敵だ。何も心配すことは無い。」
「でも……!」
「それよりも、まず君のことだ。マルグリットは君を狙っている。君が安全だと分かれば、父上母上も動きやすくなる。」
「でも、それならコレルの妹達も……!」
 だが、ツォンはあっさりと首を振った。
「そのことなら心配いらない。ソルジャー達が君の妹達を守ってくれる。」
「え……?」
 意外な言葉に、マリンは瞬きした。
「ソルジャーはジェノバ化された人間……いわば彼女らの仲間達だ。」
そう言って、ツォンは愛らしい双子の少女達を示してみせた。
「そのザイードという男も、君も知っているヴィンセントもそうだろう?ジェノバは、確かにかつては神羅の尖兵となり、そしてあのセフィロスを生み出した。だが、あのクラウドも、セフィロスを倒してこの星を救った男もまたジェノバだった。」
それは奇しくも、彼女の母がマルグリットの協力要請を謝絶した時の言葉と同じだった。
「ジェノバは、なるほどこの星に災厄をもたらした。空から来た災厄……セトラ達がそう呼んだのも無理は無い。だが、その災厄から星を救う希望もまた、その災厄から生まれた。……そしてもはや、ジェノバは私達の敵ではない。君もそう思わないか?」
 マリンの目の前に、懐かしいコレルの家が浮んだ。マリンと妹達の部屋の前には、あの小さな花が植えられている。
最初は、ほんの小さな花の苗だった。一見冷たくて怖そうな人だったのに、その花を差し出された瞬間、彼が本当は優しい人なのだと悟った瞬間は、おぼろな記憶の中で、それでもマリンの中で今も生きている。
(クラウド……。)
父も母も、その名を辛い記憶に封じ込めてしまった。
だが、マリンはその時、素直に信じることが出来た。
もうあの時から、ジェノバは敵ではなかったのだと。

TO BE CONTINUED

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