クジャ誕生 『青の鏡像より』


ボクノ 
ソンザイッテ 
ナニ?
ボクハ 
ナンノタメニ 
イキテルノ?
ボクノ ソンザイ

 一体僕はいつから歯車が狂ったのであろう?  そう、きっと“彼”の出現がこの僕の心を穏やかならぬものとした……。
 歯車が狂った? 何を僕はバカな事を……!
 狂ったのではなく、これは運命(さだめ)だったのだ…そう、この僕が真の覚醒をするためのね!
 僕はここ(テラ)が嫌いだ。
 テラは美しい。だがこの美しすぎる蒼い光が僕の心を乱す。
 金色の肩までの髪、ここの光と同じ色の蒼い瞳…そして何よりも許せないのは、この長い尻尾!! あまりにも醜い!! 
 この同じ容姿をしたガーランドにより創られた者達は精気を感じさせぬ。その腑抜けの“器”(ジェノムと言うらしい)で蒼い光、いつまでも留まっている蒼い水…それらをまるで時を忘れたかのように朧げに眺めている。
 しかし、僕はこの者達とは違う。そう、僕は“選ばれし者”なのだから。
 僕と同じ者はここ(テラ)にはそういるものではない。まるで存在感のない“テラの種族”の中でひときわ目立っている者を見つけるのもたいして苦労はしないのさ。
 見た目はここの腑抜けと同じだが、ただ水を眺めているだけでなく、何とそれと戯れているではないか!!
 僕は今までに見たことのない、その“器”の行動に暫し見とれていたのかもしれない。いや、そうでないな…きっと、その“器”だけでない“彼”自身が僕の感情をゆるがせたのだと思うよ。
「君…この水面(みなも)に何か見えるのかい?」
 僕よりほんの少し背丈が小さい彼の目線に合わせて僕は問う。
「うん、見えるよ…ほら! とっても綺麗な色の小さな“生き物”が流れているよ」
 僕の質問に答える無邪気な彼の瞳は僕と同じ蒼い色をしていた。
「そうなのだよ…ここは本当に美しい…けれど、ここにいる皆はそれを感じることすらできないんだよ…」
 僕はいつもの癖で少し大げさに両手を広げる仕草をした。
「ねぇ、君にはちゃんと見えてるの?」
「僕にも見えているよ。いや、きっとあの彼らにも見えているとは思うが…“関心”を示さないんだろうね……」
「ふぅーん。僕にはよくわからないよ…だって、こんなに綺麗なのにさぁ」
 彼は両手を広げ、僕と似たポーズをとった。
 僕と同じ金の肩までの髪、同じ色の瞳、そして尻尾…どれをとっても、ここ(テラ)の“器”と変わらぬ容姿だけれども、その蒼い瞳が、そう…僕と同じものを思わせたのだ。
「君はジタン?」
「うん……。あっ! もしかして君はクジャなの?」
 やはり、“彼”であった!
「そうだよ、僕はクジャ。どうして僕の名を?」
「ガーランド様がクジャと僕は兄弟のようなものだから、仲良くするんだよって」
 と言ったジタンは微笑む。僕はこの同じ容姿をした器がこんな表情をしたのを始めてみたのだ。
「そうだね、じゃぁ、僕と仲良くしよう……」
 咄嗟に口をついた言葉は僕のものだったのか? わからない……。
「うん!!」
 元気よく答えたジタンは両手を後ろに組み、大袈裟な仕草で僕を下から眺めた。
「君が初めてで嬉しいんだ! ここにいる皆ってさぁ、僕たちと同じ尻尾生えてて、金色の髪の毛をしているのにさぁ、
僕が話し掛けても、なぁーんにも答えてくれないんだもんなぁ…クジャが始めてだよ、ちゃんと思った事が“話し合える”のってさ」
 彼、ジタンは輝いていた。まだまだ力は殆どなかったが、僕や僕の前の適任者や、ガーランドの中に見るような瞳…。ここ(テラ)の腑抜けの“器”とは明らかにに違う輝きを!! 
 僕は僕じゃない…僕の声を聞いた。



『ジタンは…君を超えるよ…そう、アカーシャを超えたクジャ…君と同じようにね!』
『クジャ…愛しい私の僕(しもべ)よ! 何と強い力を秘める適任者が誕生したことか! 君はアカーシャを超えるだろう』



 フッ…愚かな支配者よ…そして愚かな過去の僕…。
 僕は、いや、僕と同じ容姿をしたここ(テラ)の者達はガーランドの意のままに創造された。
 アカーシャ。僕たちと同じ“器”なのに“魂”があり、“意思”があり、“力”もある。僕の先の適任者だった。
 まるで僕たちとは違っていた。同じ“器”なのに、その三要素がそう思わせたのだろうね。
 まぁ、尤も“他の器”では、そのオーラさえも気付くことなく、ただ生存しているだけに過ぎないがね。
 僕はアカーシャの素晴らしさを感じていたよ。そう、だって僕はここにいる“腑抜けの器”とは違う存在だったからね。
 僕はアカーシャの後継者なのさ!! フフッ! ガーランドに認められた適任者…。
 僕は“腑抜けの器”とは違うんだ…一緒ではない…一緒にはされたくない…!
“僕という存在”の自我の始まりは、きっとガーランドが“僕という人形”を自身の意のままに力をつけさせようという“浅はかな古き者の手”だったね!
 どこからみてもここにいる“腑抜けの器”とは違っていたアカーシャの後継者…そして彼女を超える存在……!!
 ガーランドにそう言われ、洗脳され続けてきた僕は奮起しないわけがないだろう?
 そして僕はガーランドの期待通り、彼を喜ばせるように着々と力をつけ、成長してきたのさ。
 しかしガーランド…! 僕はお前の思い通りの“器”にならなかった。いや…本当は長い時を経て、“器”を創りつづけ、そしてその中から、適任者を育てていた…その繰り返しをしていたお前には解かっていたはずだよ。
 例えお前だけの計画のために創られた我々にも生きる意志、存在があるのさ!
 長い時を経てもそれを妨げることはできないよ、ガーランド…貴方が一番よく解かっていることだよね?
 だから、アカーシャを処分した…。いや、アカーシャだけでないさ。彼女の前もその前も…その前も…。
貴方はどれだけ時を刻んでも、自身で生み出した操り人形を完全に思い通りにはできないと…その理由を知っているのさ!
 アカーシャが死んだ? 嘘。力をつけすぎたから破棄されたんだ、ガーランドにね。
 破棄? 僕たち適任者も使い捨てなのか?
「どうしたの? クジャ…」
 変わらず愛らしい微笑を僕に向ける“何も知らない”ジタン。
「ねぇ、クジャらしくないよ。そうやって、ぼーっとここの水を眺めていると、他の皆とかわらないよ」
 僕は微かに眉間をひそめる。
「フッ…そうだね。僕達は皆より賢いし、考える事ができるけど、でも君も僕もそれがなければ、ここの皆と同じだからね」
 僕は水面に映る“器”を眺めていた。
 嫌いだ! この髪の色も、尻尾も!! 皆と同じ…同じ…許せない。
「ねぇ、どうしたの? さっきから黙って、水を眺めてさ。いつものように、いろいろとお話しようよ」
「今日は気分が優れないんだ。悪いけど一人にしてくれない?」
 いつの頃からだろう。ジタンを見ると無意識に感じるようになったこの思い。この透き通った笑顔が僕を不安にさせる。そして不愉快に。理由のない焦燥感……。焦燥感? フッ…馬鹿な…この僕がジタンを恐れているというのか? アカーシャも僕にそんな事を感じていたのだろうか? 最初の覚醒。
 ガーランド…貴方はこの僕を“ただの器”ではないんだ…そう僕に思わせてくれた最初のきっかけを与えてくれた。
 僕がいつの頃からか“皆とは違うんだ”と言っていた事を貴方は馬鹿にしていたが、そんな台詞が僕の口をついて出てくるきっかけとなったのは他でもない貴方なのだ。
 フフフ…。
 貴方にとっては操り人形に過ぎない僕達も自我、覚醒、意志を持って存在し続ける事ができるって事だよ。創造主の人形だけで終らない僕達がいる…。
第二の覚醒
 ガーランドの手でアカーシャを葬られたとき。初めての恐怖を感じた。いつか…そう、いつか僕もアカーシャと同じ運命を辿るのだと。
 しかし…“そうはならないよ…”恐怖との紙一重に僕には自信があったのさ。
 そして……
 “そうなる筈がない” 
 “アカーシャを超える力に目覚めるからさっ!” 
 “僕は『特別』なんだ”



『ジタンよ、お前は優秀な我が子だ。素晴らしい力を秘めている。その力きっとクジャを超えるであろうな』



「!!」
 僕はガーランドの声を聞いてしまった。目に浮かぶんだ。ジタンにガイアの世界を見せて、そう囁く。僕にそうしたのと同じようにね!
 この時だった。僕は今までにない、増大な憎悪や怒りの感情を覚えたのは。
 お願いだ。僕はもうジタンを見たくない。僕の前から消えてくれ。目障りなんだ!!
「あっ! クジャ。いたんだ。僕ね、今、ガーランド様に誉められたんだよ! この調子でもっとがんばらなくちゃね! そして早く、クジャのようになりたいよ」
 ジタンは無邪気に微笑んだ。
 僕は何時の間にかガーランドの居城、パンデモニウムへ通じる入り口の前にいたようだ。
「フフフッ……僕たち適任者である器達が通った道と同じだよ。ガーランド様の前で優等生でありたい…。そう、僕も君も…そして、僕の前もその前も!!! 愚かな! 僕は僕なんだ!」
 何故君は君じゃないんだ? 僕は君を哀れに思うよ。君のその無邪気な笑み、僕は好きだよ。けれどジタン、僕はもう君を直視できないよ。君が鬱陶しいんだよ!
 僕はいろんな悔しさが混じり唇の端を強く噛んだ。
「だって僕達ってガーランド様が創ってくださったから、僕たちがあるんでしょう?」
「馬鹿な!! 例えガーランド様の道具として創られたかもしれないけれども、少なくとも僕はそうは思わないよ! そうは思わない!! 僕は……僕にだって、この世に存在する価値があるんだ! 僕にだって“クジャ”という僕の個性があって、生きる意味があるんだよ!! 決して操り人形なんかではないさ! 僕は日に日にそれを感じるよ! フフフ…君もきっと、“ジタン”という自我にめざめるよ! 君は道具なんかじゃないのさ、もちろんこの僕もね!!」
 僕は例えようのない怒りに体が震えていたのだ。
「この世に存在する価値? ジタン? 僕という自我? 僕? 僕は道具じゃないの? 僕の存在の意味? クジャ………」
 ジタンは経験のしたことのない“感情”が胸をつき息苦しさを感じたのだろう。僕は彼の心が痛いほどわかるんだ。何故なら僕も同じ経験をしたからね!
「気に入らない…気に入らない、この髪!!」
 僕は鏡の前で何度も何度も激しく頭(こうべ)を振った。
「こんな髪は僕じゃないよーーー!!」
 僕はそう叫びながら腰を折った。
「!!」
 そして何か新たな今までに感じたことのない不思議な感情、漲(みなぎ)る想い。どこからともなく押し寄せてくる力。
 そう、更なる強大な力が身についたときに起こった症状なのさ。
「フフフッ!」
 僕は鏡に映る僕の変貌を遂げた結果を予想しながらゆっくりと体を起こした。
「な、なんと!」
 鏡の中の僕は、僕の想像以上だった。“器”と同じ金色の髪はもうどこにもない。絹糸のように繊細で柔らかい腰まで伸びた、その髪は美麗な鈍い色を放ったプラチナ色をしていた。
「う、美しい! 綺麗だよ!!」
 僕は嬉しさのあまり、何度も何度もその髪に手櫛を入れたよ。僕の理想、いやそれ以上だ! そう、やはり僕は皆とは違うんだ!!
 次に僕は腰まで伸びたこの美しい髪を堪能したく、背後を鏡に映した。
「!!」
 しかし、僕の甘美な感情はすぐに消えた。腰まで伸びた銀髪のすぐ下に揺れ動く長い尻尾そう、僕はこれが一番嫌いだったのだ!! 尻尾!!
「何て、何て、何て、醜いんだっ!!!」
 僕は崩れ落ちた。
 いやだ…いやだ…いやだっ! この尻尾さえなければ…そう、この尻尾さえ!
 僕は皆と違うんだ。そう、だから、この尻尾は必要ないんだ。
「そうさ、こんなものはいらないんだよ」
 僕は無意識に手に剣を持っていた。
「そうだよ! こんなもの、僕には必要ないのさ…こんなもの! こんなものっ!!」
 僕は背後の“それ”に剣を下ろした。
「うっ! うぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっーーーーーーー!」
 痛み? 痛みは皆無に等しい。でも、この、この込み上げてくるものは何? 何? 何?
 僕は気が狂ったように暴れていたと思う。
「クジャ! クジャ、どうしたんだよ! 何をしたの? 大丈夫なの?」
 ジタンの声で冷静さを取り戻した僕は、左手に握っている尻尾を投げ捨てた。
 切り離した痕からは赤く生暖かい液体がどくどくと流れていた。
「クックックッ! 力だ…力が! 僕の力!! あぁ…体が熱いよ!!」
 僕はこの上ない喜びを噛みしめた。
「ク…クジャ……」
 ……僕の至福の時を妨げるのは誰?
 目の前に脅威を感じたジタンがいた。
「ど、どうしたの? クジャじゃ…クジャじゃないみたいだよ」
 フフフッ…怯えた可愛い子猫ちゃん……君はまだ、なぁーんにも解かってないんだね。
「僕は僕さっ! これが本当の僕なのさ!」
「う、嘘! 嘘だよ!! クジャは…こんなんじゃない!!」
 赤子のように泣き叫ぶジタン。もう用はない、消えてもらおう!
「ジタン…君はもう用なしなんだよ。僕の力があれば、僕一人で充分さ。悪いけど、君には消えてもらうよ」
 ジタンは無抵抗でただ僕の前で怯え、小さくなっていた。
 僕は胸の前で手をクロスにすると精神を集中した。簡単な事だった。僕の思念でジタンごときを自由に操れるのは。
「さぁ、お行き!!」
 僕の両手が大きく開くと、一瞬にして僕の目の前からジタンの姿が影も形もなくなった。
 これで、一つ目障りなものを破棄できたよ!
『クジャ! そなた…一体ジタンをどうしたのだ』
 ガーランドの声だ。
 フッ…僕を見ていたのだな。
「心配はいらないよ。貴方の望み通り一足先にガイアに行ってもらっただけさ。テラでの記憶を抹消してね」
『お前は……!』
「想像を越えた僕の成長に驚いたかい?」
 僕は、今この時、何をも恐れぬ感情に酔いしれていた! でも、まだ始まったばかりなんだ! そう、始まったばかりさっ!!
『……お前の“想像”でどんなに容姿が変化しようとも、どんなに“力”をつけようとも、クジャ…お前も“ただのジェノム”なのだ』
「僕は皆とは違う!! 僕は“ジェノム”ではない!! この通り、僕の真の姿、容姿が、力が目覚めたではないかっ!!」
 そう、僕は生まれ変わったのだ…いや、違うな……僕は“覚醒したのだ”
『愚かな奴めっ!!』
 ガーランドの声はそこで途切れた。しかし僕はこの空(テラ)に、ガーランドに、すべてのジェノムに…そして何より自身に語りかけた。感情が収まらなかった! 僕は必要以上に大袈裟な動きでそれを解消しようとしたのである。
「僕は僕なんだ!! 僕と同じ存在なんているものかっ!! そう、これが僕さっ」
 鏡に映る僕は今までとは明らかに違った“僕”だった。
「フッ……創られた完璧な生物なんているものかっ! ガーランド! お前の打算は…創られし者にも“自我がある”って事なんだよ。思い通りになんてできやしないさっ! いかに僕達を創造した生みの親でもね!! だから、例えお前でも、僕の…僕自身の意思に従った行動を止めることはできないだろうね……!!」
 僕の独り言にすぎなかった。しかし、ガーランド、あいつはどこかで僕を監視している。そう、僕の思考を読んでいるのさ! まぁいい……それはそれで都合が良いだろう。
(ガーランド…もう、僕を止められないよ!!)
 この込み上げて来る思いは何? 一体……
 体が迸る!!!
「アッハハハハハハハハハハハーーーーーー!!」
 僕の心底から出てくるこの叫笑を止められるものはいないだろうね?
 そう、この星中のジェノムが僕を歓迎してくれているよ!! 僕…僕…クジャ……! そう、僕は僕!! 僕にはやらなければいけない事が!!
「ハハハハハハハハッ!!! ガーランド! お前にはもう止められまい!」
 傍から見ると、僕は気がふれたような舞をしていのかもしれないね。しかし、幸い、ここの“腑抜け”どもは何も感じないのさ!
 想い……僕の存在……力……
 こうして“僕”は誕生した。


あとがき
クジャは、どうやって銀髪になり、尻尾を隠したのか?
(ガーランドが彼はジェノムということを隠していると言っていた)
髪の色は染めたのか? 尻尾は隠した? どこに?
(あの小さな洋服の中にどうしても尻尾は収まらないでしょう(爆))
なぁーんて想像から書き始めました(苦笑)
2000.7.23 Louis

♪クジャのテーマ

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