飛翔



Chapter 1 <origin>



俺が今立っている地は

この手で砂を掬うと

間からこぼれ落ちるように儚い

幾多も戦争を繰り返し

全てを焼き払い灼熱の中に生きる物

これが幻なら

どんなにいいだろうか

見えない現実がやってくる

『All living things must die』

どんなものにも必ず死はやってくる

生物に与えられた法則

死を克服することができるものがいたら

不老不死という存在

循環に従ってサイクルするしかない

するしかないのか?

そんなはずはないんだ!





「さて、ちょっと休憩しようかな」
修行のためにコルツ山を降りたマッシュは、帰城途中にオアシスを訪ねた
太陽が反射して、湖が鏡と化す
雲ひとつない碧空
光のシャワーが降り注ぐ
「お、悪いな・・・シャルロ。水浴びでもするか?」
愛用のチョコボ、シャルロを湖に入れると
自分も飛び込みジャンプ
白銀の中に生きる白が印象で、父親が送ってくれたチョコボ
嫌いなもの・・・胡椒だ
くしゃみがでるのが嫌いらしい
マッシュが物心つく頃から育てられていたのだが
自分には記憶すらないらしい
新しいことだけ張り付けられて、古風は取り出されるといった
文化が変わっていくのと同じような頭なのだ
「ク、クエー!」
「コラ!やめろ!痛い」
嘴で身体を容赦なく突いてくる
いつもの挨拶ということだが
「シャルロ!城についたら果物やるから、上がってくれよ」
マッシュの頼みにきちんと答えるのも
仲のよい証拠だ
マッシュからすれば、もう兄弟なのだから・・・
「さあ、城に帰るぞ!」
ピシッ 短い手持ちの鞭を叩くと鮮やかに空中ジャンプする
次第に加速され、リズムが速くなっていく
華麗に舞う風の誘い
甘い砂の匂いが、スピードを上げているのかもしれない
どちらにしろ、速くなっているということだ
マッシュは腰にかけていた袋から林檎を出すと
思いっきり齧ってみせた
甘い物が周りにありすぎてくらくらするが
シャルロの地を蹴る音が銃発よりも激しくて
目が覚める
「お、見えた。仕事ほったらかしたままだったな・・・大臣きっとカンカンだな」
大臣の大声は国中有名話で
説教の嫌いなマッシュに何度も愚痴口言うのである
今となっては、これが当たり前の生活なのだが・・・
城に着くと、神官長が飛び出て
「マッシュ・・・大臣から何か言われなかった?」
「いや、まだ何も・・・怒ってたか?」
「機嫌がいいみたいで、何もないかもね」
「それの方がありがたいな・・・」
神官長に手を振ってわかれると図書室に本を取りに行った
フィガロ国の王宮史の本に手を触れると
「ああ、そうか・・・あの日から十年か・・・」
不意に呟く
「そういえば、まだ監禁の倉は開けていなかったな。何か残ってるのかな
あの本もまだ見てなかったしなあ・・・」
仕事の事で頭いっぱいのはずが、前から開けたかった倉へと足を進めた
倉の中は、かつて王位継承者の物品が保存されている
品から推測すると、フィガロが千年くらい前からあったというのは分かるが
それ以前は物品が残っていないために分からない
「何だこれ・・・琴かな?いや三味線か?」
ガラスケースに彩りよく飾られている楽器が目に付く
マッシュは音楽というのはからっきしなので
区別がつけられないが・・・
陶芸品等も飾られている
手で汚れを落としてみると、堅い土の匂いがする
凝縮された塊が、一つの型として成しているのだから
「こりゃすごいなあ。俺だったらこんな木目細かな文様は作れないな」
なかにはフィガロの文様が掘られている皿まである
「あ、これだこれだ」
棚の文庫の中から一冊手に取る
真新しい本だ
『Diary』・・・つまりは日記帳
「悪いな・・・見せてもらうぜ」 そう言うと自室に戻り、最初のページをゆっくりと開いた


『窓を開くと、広い荒野が見えるよ』





二月十日

私がいつものように机に向かって書類に目を通していると
廊下にいた兵が
「彼が来ていますが、いかがなさいますか?」
と訊ねてきた
ああ、あいつね!と即座に判った私は彼を招きいれるように言う
今日もなにか良い情報でも提供してくれるのかと期待した
「よ、変わらねえな。お前の生活は」
「慣れたよ・・・もう十年もしてればね。お前こそお宝はどうなんだ?見つかったか?」
「ああ、この間隠し扉を見つけてな。その中にガーネットやターコイズやらが
たくさん出てきたさ。もちろん売ったけど」
彼、ロック・コールは私の無二の親友で、お互いに助けあってきた
トレジャーハンターの生活で各国を廻り
お宝を探し求めると同時に情報まで入手するエキスパートだ
私はロックの情報で各国の状況を知ることができた
それとは逆に私は、精神面での手助けをしているのだ
「そういえば耳より情報だ。二ケアの町長さんが帝国から重要な情報をゲットしたらしい
フィガロは最近アルブルクからの物資が届かなくなったと聞いたけど・・・」
「二ケアとアルブルクは貿易の始点でもあるし、フィガロにも物資が届いている
ここで摩擦が起こってしまうとこちらにも物資が届かなくなってしまう」
なんとか策を考えなければと思うものの、私の左手は常に動いている
ロックはこの光景に慣れているらしい
何も言ってこないからという私の思い込みかもしれないが・・・
「で、今夜空いてる?大人になったら酒が飲めるってのはいいよな
もっとも、お前の方が年上だけど」
「二歳しかかわらないだろう。今宵は満月だと聞いた。気晴らしにもいいな。付き合うよ」
「よっしゃあ。今夜にまた来るぜ。話すことが沢山あるんだよ」
彼はそう言い残してその場を去った
しかし、本当に困ったものだ
最近帝国の動きが活発になったのも何かの予兆かもしれないな
この日記を書いている時の私も、頭の中は経済の事でいっぱいだ
何も起こらなければいいが・・・
魔導を取り出して強化された人間もいるわけだし
現に皇帝直属の魔導士ケフカや常勝将軍セリスは何度もフィガロの観察に来ている
まあ、同盟を組んでいれば被害は受けないのだが
考えしだいで変わるのが人間だからな


夜は約束通りロックと酒を交わした
城の屋上で満月の光を浴びながら、今後の対策を練った
真冬はやはり砂漠でも針を刺すような寒さがやってくる
酒を飲んでいれば体があったまるのでたいしたことはないのだが・・・
「そういやさあ、ちょっと訊きたい事あるんだけどさ」
ロックが酒でホロ酔いになっている私に訊ねてきた
「なんだ?」
「お前って十七の時から王さんやってるけどさあ、たしか弟がいたんだろう?
弟はどうしたんだよ?」
ハッと我に返った
その言葉がロックの口から出るとは思ってもいなかった
お前はどこからそんな情報を手に入れるんだと言いたいくらいだ
どっちにせよ、隠し事は駄目ということだろう
だが、どうなったかなんて消息もつかめていないし、どうしようもない
私は酒を飲むのを止めた。終いにこう言った
「弟は・・・分からない。どこで・・・何をしているのかも」
「どういうことだ?」
「弟には・・・翼が生えたんだよ。自由という翼がね。
今言えるのは、どんな姿になっていてもかまわない
ありのままでいてくれればいいということかな」
「お前も俺と同じような辛い過去ってのがあるわけか・・・」
「まあ、過去形なのだから、切り捨てなければこの先はやっていけないさ
どの国も戦争続きで、だんだん帝国に支配されていく世の中だからな」
「そうだな・・・もうあんなことは御免だね」
ロックも私と同じように帝国を憎んでいるのは事実だ
大事な人、レイチェルを失った彼が今立ち向かおうとしている
そのことだけは実感できる
ああ、私と似ているな・・・リターナーに組しているということは
私も表で帝国と同盟を結んでいても、裏でリターナーと結んでいてはいずればれてしまうだろう
『帝国に逆らっている』ということが、だ
行動を・・・革命を起こせとでもいっているようにも感じる
今は・・・おとなしく帝国の犬として働くしかないが
私は絶対にこのまま引き下がらない
国を預かる身としてやはり帝国と戦わなければならないだろう
今の状態では破滅を招くに決まっている
今宵がなんとも大切になったのは、きっとロックが誘わなかったらこうはならなかった
今日はロックとゆっくり酒を交わすことで、満足感を覚えたと思う





二月十八日

書類に目を通してとりあえず仕事終えた私は、今この日記を書いているわけだが
ロックと酒を交わした日からどうも左肩が痛む
古傷が痛むのはなぜだろうか
そもそもこの傷は自分が傷つけたものなのだが
そんなことを書いているとちょっと昔の事を思い出してしまう


私と弟のマッシュが十歳くらいかその前かくらいのときだったと思う
その日は確か雷が激しくて眠れなかった日だった
廊下で弟と会話をしていた時に父上に
「どうした?二人とも眠れないか?」
と声をかけられて素直に首を縦に振ったと思う
正直言うと私はかなりのワンパク児だったので、説教は大嫌いな人間だ
説教が嫌いなのはマッシュも同じだが
生まれつき病弱だったマッシュにワンパクは無かった。おとなしい弟だった
私は勉強もサボっていたし、唯一好きなのは音楽だったな
だからその当時は、後継ぎとかはかなり迷ったのだろうなと思う
「自然の力を甘く見るととんでもないことになるぞ」
脅しのつもりだろう
父上には悪いが、その時は全く信じていなかったと思う
だけど、自然の力というのがとても恐ろしいというのが今はよくわかる
砂嵐とかを見ればわかるからだ
砂漠では砂嵐は定番だから、城も対策に備えてあるのだ
「兄さん!雷が落ちたよ!」
突然雷が青紫の曲線みたいに落ちて
そのあとはよく分からない
辺りが急に真っ白になっていろんなものが脳を行き来していた気がする
どうも、自分の持っていた短剣を左肩にさして唸っていたらしいということは聞いた
私の中の記憶には、そのようなことはインプットされていないんだ
父上が介護してくれたらしく、私が目を覚ました時も
「本当に覚えていないのか?」
何度も訊ねてきた
「兄さん!!大丈夫?」
マッシュもマッシュで私に気をつかうから、どうしたらいいかわからなかった
そのあと弟は心配性のせいか、熱まで出した
だけど本当に私は覚えていない
私が自分の左肩を刺した時、髪が銀色になっていたと言うのだ
そんな馬鹿なと思いたい
疑うしかなかった


それからか・・・私が自分に疑問を抱いたのは・・・
父上や弟の言うことが嘘を言っているように思えない
周りも疑いの目だし、言葉にできなかった
毎日鏡を見ても変化がない私
やっぱりそんなことあるはず無いんだと思うだけ
それから二年経ったくらいか、私はみんなと違うと感じ始めたのは・・・
気分転換に森へ遊びに行ったときだった
チョコボを走らせ、湖畔の辺りで腰を下ろしていた
湖が天の青と同じようにはっきり見えた
弟と出かけるのは久しぶりだった。病弱生活から抜け出せていなかったのだ
弟が病弱を克服できたら、どうだったかな
彼は彼なりに私を気遣ってくれているというのは、心配させたくないからという思想だろう
よく、私は寝込んだ弟の傍で看病していた
弟の傍で兄としているのではなく
ただ、『力になりたい』だけだった
「わあ、魚がいる!捕りたいなあ」
「釣ってみる?糸もあるし・・・入ったらダメだよ。風邪引くよ」
「わかってるよ」
木の枝で竿を作ってやると、マッシュははしゃいで釣り針を湖に沈めた
あの時のマッシュはとても輝いていて、今までにない笑顔を見せてくれた
「わあ、やった!釣れたぞ」
マッシュが釣り糸を沈めた即座に、魚が引っ掛かった
こういうのも悪くないと思う
「・・・何か聞こえない?大きい音がした・・・」
「うん。なんだろう?もしかして、モンスターかな・・・」
竿を持ったまま振り向くと、その音がだんだん近づいて
音楽記号でいうと、クレッシェンドしていく感じだった
私とマッシュはとりあえずここを離れようとチョコボを走らせたのだが
前と背後からドラゴンが襲ってきた
かわしようもない素早さに、一瞬で土を破壊する力には
到底かなうはずもなかった
マッシュは跪くしか術(すべ)はないと考えていたのかもしれない
私は・・・違う!
弟を守らなければいけないんだ。理由など無いが、とにかく守りたかった
さっきの笑顔をなくしてはいけない、と・・・
私はその時までに剣術と槍術を学んでいた
弟よりは戦い慣れしていたかな
ドラゴンのように堅い皮膚は、よほどの力がなければ刃物は通らないから
当時十二くらいの私には、無駄に等しいと思う
「兄さん!どうするの?歯が立たないよ」
「・・・やるしかない」
「あれを相手にするの?無茶だよ!」
「・・・頼みがあるんだ。僕がなんとか道をつくるから、城へ行って援護を・・・頼んだよ!」
あの後にマッシュが何か喋っていたみたいだが、聞こえなかったな
手持ちの槍を一本投げると、ドラゴンが挑発にのってきた
私の方に目掛けてタックルしてきた
「今だよ!今なら・・・!」
右か左かは覚えていないが、確かに道はつくった
マッシュもそこから駆け出してくれて、援護を呼んでくれると確信した
その間に、私はドラゴンのタックルで足を捻ってしまった
立てない私に容赦なく襲い掛かってくる
「やめてー!」
多分そう叫んだと記憶している
ああ、死ぬんだな・・・それしか思うことはなかった
前後左右からクレッシェンドする尻尾の振り払う音
その時の私は、頭が白紙の状態に等しかった
極限状態に追い詰められ、声も出しにくかったと思う
助けを呼ぼうとしても無駄だとわかりきっていた
だが、私が次に見た光景は・・・
私が死んだのではなく、ドラゴンが倒れていた
私を見つめる柔らかな瞳が、何かに怯えているようだった
「『僕』がやったのか?
熱い・・・熱いよ
どうなっちゃったの?どうしてそんなに怯えるの?
『僕』がやったから?
そうなんだね
そう・・・なんだ・・・ね・・・
う・・・うう・・・う、うわああああああーーーーーー!!!
僕、どうしちゃったんだろう。涙も出ない
どうして?どうしてなの?」
私は自分の手を汚している紅い液体を顔に塗りつけた
信じられなかったんだ
私の中にドス黒いものが入り込んで・・・
支配されているのかと思った
「もういやだ・・・い・・やだ」
こんなことを言ってたらしい。もっとも、私はそんなことは記憶していないが・・・
「いやだあーーーーーーーーー!!」
これは自分でしたことなのだが、手を機械のように同じ箇所を何度も何度も刺していた
右手の平だったな。刺したのは・・・
誰もが、私を疑う
援護を呼んだときは、無事でよかったということだけで済まされたが
帰城した際に父上は目を離さなかった
きっと、あの時と同じだと確信したのだろう
この事件以来から、『僕はみんなと違う』というのがはっきりした
今でもあの出来事は理解できないが、それでもとにかく自分をもっと知りたいという念が強まった
私が倉の隠し場所を知ったのは十七歳の時で
その中には、直系血族の名が記されていた。もちろん、私の名も・・・
百冊以上ある記録紙から、私は一冊を手に取り全てを確認する
わかっているのは、マッシュが受精してから約三ヵ月後に受精したということくらいだ
卵が同じなので顔は瓜二つだが、同時に生まれた存在ではない
こう思うとなんだか悲しくなってくる
母上の胎内から出たとき、私がたまたま先に産まれただけで
実のところはマッシュの方が兄に当たるのだろうと今でも思う
私がしっかりしなければいけないんだ!


『守らなければ。もうあんな思いはさせたくない』




「兄さん・・・って叫んだんだよ。兄貴」
仕事をほったらかしにしていたマッシュが、誰にむかってでもなくそう呟いた
「知っていたのか・・・俺はあの日まで全然知らされなかったけど
・・・俺は、知らなければいけなかったのに、自分で避けていたのかもな
さて、続きは後にしてコイツを片付けるかな」
机に向かってペンを動かし始めた
つながっていた何かがブチッと切れる


月明かりに照らされた夢は

果てしなく広がり

永地へと運ばれてゆく

硬い袋を破り

この黒い地に降り注げば

きっと見えてくる

希望という雫が生まれる瞬間が

人はどこからやってきて、どこへ行くのだろうか

その道筋を示してくれる希望という名の雫が

どこかで雲隠れしているのだろう

今こそ私に

暖かな手を

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