DESIRE 14 ケフカとの決戦から、一週間が過ぎた。 更に3日後、マッシュが訪ねてきた。 「セリス。」 「バカだな、王様。」
1
セリスは、いつも私のそばから離れなかったが、
表情は時折交わす言葉に笑んでみせるだけで、空虚だった。
他の皆は、元居たところに帰っていった。
ティナは、モブリスの村に。
マッシュは、”おっしょーさま”の所に。(毎日カイエンの所に遊びに行っているらしいが。)
そのカイエンは、無人城となったドマ城に。
ガウは、カイエンの養子となって、同じくドマ城に。
ストラゴスとリルムは仲良くサマサの村に。
セッツァーは、ファルコンと空を旅しているらしい。
そしてロックは・・・どこに住んでいるのだか、時折姿を見せに来ては、いつの間にか消えている。
「エドガーがセリスを泣かせていないか確かめに来てるんだ。」
ロックはそう言った。何処か寂しげな様子で。
そんなロックに、セリスは空虚な表情を崩し、笑顔で応えていた。
無論、私も前のように目くじらを立てたりはしなかったが・・・。
「何を考えているの?」
不意にセリスが問う。
「みんなのことだよ。」
そう答えると、セリスは何もない空間を見る。
「まだ・・・一週間しか経っていないのね。」
セリスは、そう言うと小さな溜息をつく。
ガタッという音がした。
セリスはパッと顔を上げる。
「またロックだな。」
私は、苦笑混じりにそう言った。案の定、私達の目の前に、ロックが現れた。
「よ。お二人さん。元気か?」
ロックは陽気な笑顔でそう言った。
無理して・・・とまではいかなくても、何処か作ったような笑顔に見えた。
「貴方は元気そうね。」
セリスが言った。
「まあ・・・な。」
ロックが曖昧に頷く。
「また、セリスの様子を見に来たのか?」
「いや、今日はナルシェに行くついでに寄っただけだ。」
「そうか。」
少しの間沈黙が走る。
「あ、あのさ。オレ、もう行かなきゃ。じゃーな。」
ロックはそう言うと大して急いでも居ないくせに、急ぐフリをして出ていく。
「相変わらず・・・騒がしいわね。」
セリスはそう言いながら楽しそうに笑った。
空虚な表情のかけらもない笑顔で・・・。
2
「マッシュ、元気か?」
「十日ぶりだっけ?兄貴。」
たわいのない挨拶から始まる・・・が、マッシュの表情から何か深刻な話だと察っする。
「どうした?マッシュ。」
マッシュを自室に通し、二人きりにしてもらった。
「兄貴さ・・・、いつセリスと結婚するつもりなんだ?」
セリスと話すときも避けていた話題・・・。マッシュはそんなことは知らないのだろうが・・・。
「するんなら、さっさとした方がいいよ。セリスの噂スゴイって・・・。カイエンとか、おっしょーさまが言ってたぞ。」
マッシュは深刻な面もちでそう言った。
「噂?」
「ああ。フィガロ王が、かの有名な”帝国の常勝将軍セリス”をかこってるって・・・。
いや、みんなセリスが何かするかもしれないって疑ってるわけじゃなくてさ。”美しいセリス将軍を、女好きなフィガロ王が、弄んでる”こうなってるわけだ。」
マッシュは、時折言いにくそうに目をそらした。
セリスが、有名になるとは思わなかったが・・・。そう言われてもおかしくはないな・・・。
「また、何でセリスはそんな有名人になっちゃったんだい?」
私が問うと、マッシュは頭を掻いて言った。
「オペラ女優マリアにうり二つのセリス将軍。あの時のオペラ見てた人多くてさ・・・。あそこで、セリスをずっとマリアって言ってたら良かったんだけど・・・。ロック、”セリス”って言っちゃっただろ?」
私は深い溜息をついた。
世界が平和になったと思ったら・・・そんなくだらないことで、
盛り上がれるものなんだな。つい最近までは、皆ケフカの影に怯えていたくせに・・・。
「兄貴の悪い噂が広がらないウチにさ、結婚しちゃえよ。」
結婚・・・か。
ケフカは、セリスの幸せを願っていると言った。
セリスが幸せになれるほうを選べと言った。
あそこでセリスは迷っていた。
それなのに?
セリスは、嫌がらないだろうが・・・。
それが本心でなかったら・・・。
「考えておくよ。」
私は、それだけ答えて、その場はそれでおさまった。
3
私が呼ぶと、セリスは笑顔で振り向いた。
「何?エドガー。」
「ちょっと真面目な話がしたいんだけど。」
私の言葉に何を思ったか、セリスは深刻な顔をする。
「わかった。」
それだけ言って、セリスは私の横に腰を下ろした。私も続いて、腰を下ろす。
「ねぇ、セリス。セリスは僕のこと好き?」
突然の問いに、セリスは呆気に捉えていたが、やがて笑むと、
「当たり前でしょ。大好きよ。」
と答えた。
「そう・・・。」
「それが何?」
セリスは私の顔を覗き込む。
「私は、セリスを愛してるよ。」
セリスの目を真っ直ぐ見つめてそう言った。
セリスの頬は、薄く赤色に染まる。
「だから・・・。」
セリスは黙って、次の私の言葉を待つ。
「別れよう。」
腹から絞り出した声が、少し震えているのがわかった。
セリスは、何を言われているのか解らないと言った表情で私を見る。
「エドガー?何・・・言ってるの?」
セリスの声も震えていた。
「ケフカが、君の幸せを願っているんだ。」
「それと、どう関係があるの?」
「セッツァーの言ったとおり・・・僕じゃ君を幸せに出来ないかもしれない。」
「フィガロの王様だから?」
私を見つめるセリスの目が潤む。
私は黙って俯いた。
「でも・・・エドガーは、私を愛してるって言ったじゃない。たった今。」
「だから・・・だよ。」
私は、立ち上がってセリスに背を向けた。
「嘘。私が嫌になったんでしょ?自分勝手だもんね。それでもエドガーは私を傷つけないようにって・・・嘘をつくの?」
セリスも立ち上がり、私のマントを引き剥がすかのように引っ張る。
「違うよ。セリスは僕と居るより、ロックと居た方が幸せになれるって・・・。そう思っただけ。」
不自然にならないように腹から声を振り絞る。
「どうして・・・ロックなの?」
セリスの声が、いつもより低く聞こえた。
私はセリスの方に向き直った。
「ロックが来たら、君は僕には見せないほどの笑顔を見せるじゃないか。」
セリスは、怒ったような表情をする。
「ロックなんて関係ないんでしょ?わかってるよ。最近エドガー冷たかったもんね。私とあんまり喋ってくれなかった。
隣にいるのに、視界にも入れてくれなかった。『愛してる』なんて、嘘つかなくて良いから、はっきり言えば?
『セリスが嫌いになった』って。それとも・・・元からそうだったの?」
セリスの両眼から涙がこぼれる。
「はっきり言えば、君はロックの所に戻るか?」
そう問うと、セリスは体を強張らせたが、やがてしっかり頷いた。
「君の言うとおりだよ。私のクセを知っているだろう?女性と見れば、誰彼構わず手を出すと。
たまたま、セリスが少し好みだったし・・・慌てるロックの顔が可笑しかったから、一緒にいたけど、ロックも慌てなくなったし、そろそろ他の女性が恋しいし・・・。
それに、しつこくつきまとう君は不愉快だからね。ロックのとこに帰ってくれないか?」
セリスは、意識を失ったように私の腕の中へ倒れ込む。
「エドガー・・・非道いのね。」
嘲笑気味にセリスはそう呟いた。
「本当は、レディにこんなコト言いたくなかったんだけど。」
私がそう言うと、セリスは、私の顔を見上げた。
無表情・・・。かつて見た常勝将軍セリスの顔とよく似ていた。
「そう。わかった。」
セリスは、そう言って、部屋を出た。
セリスが部屋を出てしばらくして、今まで流したこともないくらいの涙が頬を伝う。
「セリス・・・。」
ケフカと同様・・・セリスの幸せを願っている。
そして・・・苦しめたロックへの罪滅ぼしにもなるだろうか?
これで・・・セリスが幸せになれるなら、私の涙くらい安いモノだ。
4
不意に後ろから声をかけられる。
まだ涙のかれない顔で振り向くと、セッツァーが立っていた。
「セッツァー?どうして・・・私の部屋に?」
「ロックに入り方教えてもらったんだ。いや、そんなことはどうでもいい。一部始終見せて貰ったぞ。」
セッツァーは皮肉な笑い方をするだろうと思っていたら、
その表情は、真面目で怒気が含まれていた。
「本当に、バカだな。お前。」
セッツァーは、もう一度繰り返す。
「何を言っている。」
「まぁ・・・そんな無様な王様の姿も見ていて愉快だが。」
セッツァーは、嘲笑した。
「何をしに来た?」
「当初の目的は違ったが・・・今は、バカな王様に朗報だ。」
「朗報?」
私が問うと、セッツァーは私に歩み寄った。
「セリスのことだ。以前、オレはセリスに”エドガーは、フィガロの王だから、セリスなんか嫁に出来ない”みたいなことを言ったんだ。もちろん、その後セリスを頂くつもりで。」
セッツァーはニヤッと笑う。
「セリスなんて言ったと思う?”エドガーなら絶対大丈夫。愛してくれるし・・・私もきっと愛せる。”って言うんだ。さすがにアレには参った。
ティナもだが、セリスも『愛』なんて言葉、平気で使うんだな。そんな人間、ティナとお前くらいかと思ってたよ。それで・・・だ。
セリスが納得しているならと思って、身を退いたんだが。・・・オレは、ロックにセリスをやった覚えはないぞ。」
セッツァーは、また怒気を含んだ表情を作る。
「まぁ・・・王様の勝手か。」
セッツァーはそう言うと、元来たところから消えていった。
「セリス・・・。」
今更ながら、セリスにロックの所へ行けと言ったことを後悔した。
何を弱気になっていたのか・・・。
ロックなら、セリスを幸せに出来るだろう。
それは、間違いない。
だが・・・私なら、それ以上にセリスを幸せにしてやれるじゃないか。
だが・・・もう遅いな。
今更セリスに戻ってこいと言っても戻ってきてはくれない。
あんなに非道いことを言われて、戻ってくる奴は居ない。
バカだな・・・私は。
セッツァーの言うとおりだ。
もう・・・何もかも本当に遅い。