Dear Friend 兄貴が彼女に出会った時に、すぐに恋に落ちたに違いないと思ったのは、俺が
初めて彼女に会った時だ。
彼女は年こそ違え、姿といい、雰囲気といい、性格といい、あの方にそっくりだ。
兄貴の初恋の人、公爵夫人であったグウィネヴィア。ふっ、少年の日の、俺達の思い出。
俺は城を出てから、いつも兄貴のことは、ばあやに聞いていた。
帝国軍が世界を支配しようと試み、多くの国は戦争に巻き込まれ、穏やかとはかけはなれた世の中であった。
フィガロは先代王が、帝国軍と同盟を結び、中立を取っていたので、少なからずとも、戦争には巻き込まれることがなかった。
しかし、常に信用しない帝国軍は、月1回ほどの割合で、フィガロの動きを探るのを目的とした会議をフィガロ城で行っていた。ガストラ皇帝の右腕でもある帝国一の魔導士、ケフカがそれをつとめていた。
最近ではケフカのお気に入りの、各地で実績を上げている女将軍、セリスを伴って来ることが多くなった。
「エドガー殿、貴殿は、機械の技術を独占しているのではないか?」
セリスは女性ながら、男勝りな口調で話す。
「まだ、研究段階であり、公表する時期ではない。まぁ、レディにはわからぬことだがな」
エドガーらしからぬ、言葉だった。
「私が女だと思って、なめているのか? だとしたら、許さないぞ!」
「レディーのお言葉とも思えませんね」
セリスの少し幼い表情を残した顔は、怒りで高潮していた。
二人のやり取りに、ケフカは突然高笑いをしだした。
「うぉーほほほほ! まぁまぁ。お馬鹿な二人だわい。仲良くケンカしてもらっても、困っちゃうよ〜〜。ところで、ガストラ皇帝はもう待てないと、言っていたぞ。このフィガロを守りたかったら、さっさと、技術を帝国に委ねるべきだね。知らないよ、知らないよ!」
フィガロは帝国軍と同盟を結んでいたが、その一方で、リターナ(反政府軍)とも手を組んでいた。
そもそも、今から10年前にケフカによって、偉大な父である前王を毒殺したと確信しているエドガーは、彼を許すことはできなかった。
それから、一週間後、ふいにセリス将軍の訪れがあった。帝国軍の動きにも焦りが見えてきたようだ。
「帝国軍は、ナルシェ炭坑都市を次のターゲットにした。帝国軍は気が長いほうではない。先代から早、11年待った。フィガロが次なるターゲットにされるのは、時間の問題だぞ」
エドガーは深く腰を掛けたまま、顎に手を置いた。
「レディー。それは、君が本当に望んでいることなのか?」
「何? 私は伝令に来ただけだ。それに、そもそもそのレディーと言われると、虫唾がはしる!」
セリスは大声で怒鳴った。
「ふふ、ならば、レディーに言いたい。君は帝国軍や、ケフカのやり方に不満を抱いている筈だ」
しかし、エドガーはあくまでも冷静に答える。
「失礼な! 何を根拠に!!」
「私には君が、自分の意志で行動しているようには思えない」
エドガーの言葉にセリスは動揺を隠し切れない様子だ。
「貴殿にそのような事を詮索される筋合いはない!! とにかく、あと一週間だけ待ってやるとの、皇帝からのお言葉だ。皇帝はフィガロが技術を隠していると、うすうす勘付いているのだぞ」
「承知したと伝えてくれ、レディー」
セリスは最後の言葉に相当な怒りを覚え、勢いよく立った。
「お帰りですか?」
「その旨、ガストラ皇帝に伝えておく」
セリスは将軍らしく力強い声で言った。
「レディーが、お帰りだ。お見送りを頼む」
エドガーは側の者に申し付けると、
「結構です!」
とセリスは言い放ち、足早に去っていった。
エドガーは足を組替えながら、苦笑いをした。
そこへ、パタンとドアの開く音がした。臣下にしては、ぶしつけな入り方だ。
「ロックか?」
「何んで、わかるんだい?」
「こそ泥のように、盗み聞きいたようだからな」
「こそ泥とは、失礼だな。俺はトレジャー・ハンターだって、何度も言ってんだろ!」
ロックは何度言ってもエドガーに泥棒と言われ、いつもすねるのだ。
エドガーはそんなロックを、いつもからかっていた。
「そうだったな、これは失礼した。しかし、お前も失礼だな、盗み聞きとは」
「い、いや、悪い。そんなつもりじゃあなかったんだ。それにしても、女将軍に対してのレディーの扱いが、やけにいつもと違うな」
「そうか? 俺はいつもレディーには優しく、いつもと変わらないが」
「ところで、いよいよやばくなってきたな」
ロックはリターナ組織とフィガロとの橋渡しをしている。
「次はナルシェだ」
エドガーは少し声を落として言った。
「あぁ、心配だから、これから、ジュンの家へ行ってみるよ」
「気をつけるんだぞ」
「お前こそな。それにしても、お前も少しは休め。ご自慢のお顔が台無しだぞ」
ロックもたまにエドガーをからかうのであった。
「大きなお世話だ」
それから一週間後、ロックは珍しい少女を連れてきた。
「例の魔導の力を持つといわれている彼女だが、帝国軍に操られていた。正気を取り戻し、奴らに追われていたんだ。とりあえず、しばらく、預かってくれないかな」
エドガーは威厳高く、王座から、その少女をまじまじと見下ろした。
少女の深い碧緑色の瞳は、少し怯えていた。
「エドガー!」
「あ、いや、失礼した。初対面のレディーにする態度ではなかったな」
「お前、相当、疲れてんな」
「そうでもないさ。心配はいらないよ」
エドガーは王座から、少女の元へと下りてきた。
そして、女性を口説くような甘い声で聞いた。
「レディー、お名前は?」
「ティナです」
ティナは鈴のような声をしている。
「ティナか。美しい名前だな。心配はいらないよ、ここは安全だ。疲れただろう、君の部屋を用意させるから、ゆっくり休みなさい」
「何故、私によくしてくれるの? 私の力が……」
ティナの瞳は悲しげであった。
「まずは、君の美しさが俺の心をとらえたからだ。次に君の好きなタイプが気にかかる」
「?」
ティナは怪訝そうな顔で突っ立っていた。
エドガーは立ち去ろうとして、思い出したかのように
「あ、そうだったな、君の力のことは、その次かな?」
と言って去っていった。
「全く、相変わらず、口減らずな男だな。まぁ、聞いていてこっちが恥ずかしくなるような口説き文句でも、アイツ言うと、絵になるから、仕方ないよな」
ククッとティナは、初めて笑った。
「なぁ、言ったとおり、優しい王様だろ? 安心してゆっくり休むんだぞ」
ロックもティナに対しては優しい口調だった。
まだ太陽も昇らぬ朝もやの中、ケフカの不意の訪れがあった。
エドガーは自ら、中門まで出迎えた。
「フィガロの王様は早起きなんだな」
ケフカの甲高い声は早朝には耳障りだ。
「世の中の情勢が、あやしくなてきたのでな。すでに3つの国を滅ぼしたそうだな」
「ふっ、お前らの知るところではない。それより、帝国軍の1人の娘がここに逃げ込んできたと、噂を聞きつけたのだが」
「貴族の者や、城の者、大勢のレディーが、毎日出入りしているが、私にはわからないが?」
冷静を装うエドガーにケフカは不満のようだった。
「エドガー、隠し事をすると、国の為にならんよ。知らないよ、知らないよ、早くその娘を差し出さないと、知らないぞーーー!」
ケフカは甲高い笑い声を出しながら、去っていった。
エドガーは意を決したように向き直り、さっそうと、城へ戻ろうとすると、心配そうにティナとロックが立っていた。
「ティナ、心配はいらないよ。君とずっと話しをしていたいが、私はこれから、大臣たちと今後の作戦をたてなければならないので、これで失礼するよ。ロック、ティナを例の部屋へ」
「オーケー」
夜もだいぶん更けた頃、エドガーはやっと自分の寝室の間へ来た。
寝室係のルイと髪結係のクレア二人が礼儀正しく挨拶をした。
「お疲れ様でした、エドガー様」
「うむ。いつも遅くなって、すまないね」
「いいえ、とんでもございません」
「今日は着替えはいらぬ、このままでいいから、2人とも早く休みなさい」
「あ、はい。おやすみなさいませ」
二人の女官がしずしずと去ろうとした時、エドガーに止められた。
エドガーは鏡の中に映る、自分の髪が乱れていることに気づいた。
「あ、すまぬ、クレア、髪だけもう一度、結びなおしてくれないか?」
エドガーは常に、その腰まで伸びた黄金色の髪の毛を気にするのだった。
女官たちが去り、疲れきったエドガーは、そのままベッドに入った。
浅い眠りにつきかけた頃、エドガーは城の不穏を悟った。
「もしや!」
勢いよく、寝室の間を出ようとした時、大臣がドアの外で、大きくノックをした。
「陛下! やはり、帝国軍が!」
「うむ。よし、例のものの準備をしておいてくれ」
「はっ」
「すまぬが、ほんの少し城を離れるが、頼むぞ」
「はっ、エドガー様こそお気をつけくださいませ」
城の者たちはさほど、取り乱している者はいなかった。作戦通りに速やかに行動している。
その中で、心もとない表情でティナが、エドガーの後をついてきた。
「エドガーさん、私のせいで」
「君のせいじゃないよ、ケフカはいずれは、このフィガロをつぶすつもりだったんだよ。」
エドガーはティナに子供をあやすように答えた。
「エドガーさん」
「ティナ、君に会って欲しい人がいるのだが」
「わ、私は…」
戸惑っているティナにロックも子供をあやすように、話かけた。
「わかっているさ。君は今まで自分の意志で行動していたわけじゃない。これからは、自分で決めるんだ」
「とりあえず、会ってくれるかね?」
ティナはこくりと頷いた。
「ティナを連れて、西の塔のあそこで待っていてくれ」
エドガーはそう言って、中門まで出向いていった。
帝国兵たちは辺りに火を放ち、その中でケフカが狂ったように笑っていた。父を毒殺し、このフィガロまでを滅ぼそうとしている冷酷な彼の行動には、もう我慢がならなかった。
「何をする!?」
「娘を出せ」
ケフカは傲慢な態度である。
「知らないと言っているだろう!」
「なら、ここで皆、焼け死ぬんだな、こんな城、滅びてしまえ! みんな死んじゃえー! ふぉーほっほっほっ」
ケフカの笑い声は不快を与えた。
ふいに、エドガーは下に待機しているチョコボに飛び移った。
「おやおや、王様は一人で、お逃げになるようですぞっ! ユカイだユカイ!」
「ケフカ、私も忙しい身でな、悪いが君の相手をするのもこれまでだ。失礼するよ」
エドガーもまた傲慢な態度をとった。
「なっ、なにぃ〜!」
慌てるケフカを背に、エドガーは西の塔へ向かい、ティナとロックが後ろのチョコボに乗り移ったのを確かめて、兵士たちに「よし、いいぞ、沈めろ!」と命令した。
ゴゴゴゴゴッーーーーーッという爆音とともに、フィガロ城は荒れた砂漠の中へと沈みはじめた。
「なななななな…何んだぁーーーー! コノヤロー! 逃がさんぞ! 追えぇーー」
喚き叫ぶケフカをよそに、巨大なフィガロ城は砂漠の中へと沈んでいった。
リターナの本部を訪れるには、コルツ山を登らなければならなかった。
険しい地形は修行の場とされていて、多くのモンクたちが訪れる山であった。
「俺も、外出するのは久しぶりだ」
エドガーは外の空気を楽しんでいるようだ。
「王様って、本当に自由じゃないのね」
ティナはそんなエドガーを見て、自分も自由じゃなかたことをふいに思い出した。
「そうだね……」
エドガーは外出できたことに喜びを感じているが、それよりも、この山に訪れたことに興味がわいていたようだ。
「エドガーさん!?」
「さん付けはしなくてもいいよ。エドガーって呼んでくれ」
「エドガーは王様だけど、俺にとってみれば、まぁ、友達みたいなもんだ。遠慮しなくてもいいぞ」とロック。
「さぁ、行くぞ」
やっとの思いで頂上まで辿りついた一行は、謎の大男に襲われた。その男はかなりの体力の持ち主で、3人が力尽きようとした時、幻覚か、もう一人の大男が現れた。
「バルガス、何故、息子であり、師匠の愛弟子である、お前が、師匠を殺したんだ! 俺はお前といえども、許さないぞ!」
「アイツは実の息子の俺を退けて、お前を一番弟子に、と言いやがった。俺の立場はねぇんだよ!」
バルガスは聞き分けがなかった。
「理由はあるかもしれないが、とにかく俺は許せない!」
大男は一瞬にして、バルガスというモンクを倒した。
「レ、レネーなのか?」
エドガーは大男の元へ駆け寄った。
「ロニ?」
大男はびっくりした様子だ。
「レネー!? ロニ」
「!?」
ロックとティナは、不思議そうにお互いの顔を見合わせている。
二人の怪訝そうな様子など、彼らの間には入る隙もなかった。
「10年ぶりだな。ふっ、お前が俺よりも逞しくなるなんて……。会いたかったよ、ずっと」
エドガーは感動のあまり、少し声が上ずっていた。
「兄貴こそ、立派なフィガロ王になったそうだな。評判いいぞ。俺こそ、会いたかったぜ」
大男の方もほんの少し声が震えていた。
「エドガーの噂の弟?」
二人の間にようやく入れたロック。
「そうだ。俺の双子の弟、マシアスだ」
「その名前はやめてくれよ、俺は自由の身を選んだんだぜ。マッシュでいいよ」
「彼は、リターナ組織との橋渡しをしてくれている、泥棒のロック」
「おい、エドガー、俺はトレジャー・ハンターだよって、何回も言っているのに! ロックだ。エドガーは君の話をいつも聞かせてくるよ」
「こちらのレディーは、元帝国軍の兵士、ティナだ」
「ご、ごめんなさい、私、大きなクマが出てきたのかと……」
ティナは少し物怖じしながら言った。
マッシュは頭を掻きながら、恥ずかしそうに笑った。どうやら、女性慣れはしていないようだ。
「いやぁ、よくクマに間違えられるんだよな、俺。ハハハッ」
ケフカのフィガロ城襲撃以来、フィガロは完全に反帝国となった。
リターナのリーダーの説得を受けて、ティナも仲間となった。
危険な時は潜伏できるフィガロ城を中心にエドガー達は、リターナとして日々作戦を練っていた。
マッシュが旅の途中で、ドマ城の武士カイエンと、野生児なるガウという少年を仲間にして、戻ってきた。
そして、ロックもまた一人の女性を仲間にしてフィガロ城に戻ってきた。
「エドガー、紹介する」
ロックの後ろに立っている、腰のあたりまで流れる金髪を持つ女性は、少しやつれてはいたが、まさしくセリス将軍だった。
エドガーは、驚きもせず、黙って彼女を見ていた。
「兄貴…!?」
マッシュはセリス将軍を見て驚いたようである。
「お主は、帝国軍のセリス将軍! 何故、ここにいる? お主なぞが、来るところではない!」
ドマの侍、カイエンも帝国軍に妻や子供、そして仲間達をみすみす殺されたのである。
「まぁ、みんな、聞いてくれ」
みんなの動揺を鎮めるように、ロックが口を開いた。
「俺がたまたま通りかかった屋敷の地下の通路に彼女は囚われていんだ。いつものように、盗み聞きをしていたら、彼女は、帝国軍の裏切り者で、拷問を受け、どうやら処刑されるところを、俺が連れ出した」
「私はもうあきらめていた。しかし、ロックが、その力をリターナとしてもう一度、役立ててはみないかと」
以前のセリスとは思えぬほど、弱々しい声だった。
「せ、拙者は信用できぬでござる」
カイエンは頑なにセリスを疑った。
「カイエン、みんな、ロックとセリス殿がロックと出会ったのも、何かの縁、一緒に行動を共にしてみようではないか。セリス殿が嘘をついているとも思えぬし。ここは一つ、ロックや、セリス殿を信用しよう」
エドガーは疑うこともなく、セリスを受け入れた。
「まぁ、エドガー殿がそうおっしゃるのなら、拙者も、文句は言いますまい」
エドガーの説得の強さにカイエンも折れるしかなかった。
「セリス殿、よろしく」
エドガーの方から、手を差し出されたのに、セリスは一瞬の躊躇を見せたが、すぐに握手を交わした。
「エドガー殿、私はもう将軍でもなんでもない。だから、殿などと呼ばないでくれ」
「注文の多い人だ…。それならば、俺にも殿をつけないでくれ、レディー」
エドガーの最後の言葉に、セリスはまた怒りを覚えた。
「レ、……そう呼ばれるのもあまり好かぬ! 失礼する」
セリスは走って去っていった。
「あーあ、エドガー、またセリスを怒らしちまったな」
と言いつつ、ロックはセリスの後を追いかけた。
マッシュは驚きながらも、二人のやり取りに微笑んでいた。
「兄貴は、レディーには優しいんじゃなかったか?」
「俺はいつだって、レディーには優しいさ」
「何だかセリスにだけ、態度が違うな……」
とマッシュはニヤリとした。
「そうよ、エドガー。私や他の女性には優しいのに。どうして、セリスには冷たいの? 仲間になったばかりなのに、可哀想だわ」
純粋なティナはいつも本気だった。
「そんなことはないんだよ、ティナ。セリスとは以前から、顔見知りでね、 お互い職務上の会話に慣れていたんだ。ましてや、つい最近まで、この国のいわば敵国の将軍だったからね」
ティナに説明をしているエドガーを見ながらマッシュは、笑顔で頷いていた。
その含みのあるマッシュの表情に気付いたエドガーは、
「何だ、マッシュ? 俺の顔に何かついてるか?」ととぼける。
「いや、兄貴も変わってないな…と思ってさ」
「悪いが、俺は、今日は疲れたから、先に休ませてもらうよ。マッシュ達も疲れてるだろ、早く休んだ方がいいぞ」
エドガーはそう言って足早に部屋を出た。
エドガー達は飛空挺で自由に空を駆け巡るギャンブラー、セッツァーの噂を耳にした。
今の仲間にどうしてもセッツァーが必要であった。そこで、彼らは、オペラ劇場に出るマリアという人気女優を、セッツァーが今宵さらおうとしているという情報を得た。
エドガー達は、その女優にそっくりなセリスを囮にした。
セリスは当初、頑なに拒んでいたが、楽屋へ行ってみると、満更でもなさそうである。
セリスは純白に絢爛豪華な金糸で刺繍を施してあるデコルテ調のドレスに身を包み、腰までの髪の毛を、格調高い紺のリボンで2箇所縛った。
セリスは鏡に映る自分の姿を見て、まるで別人を見るように見入っていた。
様子を身に来たロックは
「セリス、綺麗だよ、やっぱり、セリスも女の子だな」と褒め称えた。
「馬子にも衣装かな……。失礼、ノックをしたが、聞こえなかったみたいで」
と言い、エドガーがドアの側に立っていた。
「何で、セリスにはそういう言い方なんだよ〜。セリスが男みたいだからか? いつもだったら、〜美しいよ、レディー〜、とかなんとか言うくせに!」
ロックは苛立たしそうに言った。
「セリス、君にこれを渡しておこうと思ってな」
と言って、エドガーは金のコインをセリスに渡した。
「セッツァーはギャンブラーだ。強引にされそうになったら、このコインで賭けをすれば助かると思う。役に立つようだったら、使ってくれ」
セリスは渡されたコインを見たが、何の変哲もない、フィガロの金貨だった。
「今日の舞台楽しみにしているぞ、みんなも。まぁ、台詞くらいはもう少しレディーらしい口調で歌ってほしいな」
エドガーはそう言い放って、楽屋を後にした。
セリスとロックは不思議そうにエドガーから渡されたコインを見た。
セリスの掌にのっているコインを裏返して見ると、さっきの表と同じ絵柄であった。
「ふっ、さすが、エドガーだな、粋なことしやがって!」
ロックはエドガーのそういったところが好きだった。
「……エドガー…」
セリスはそのコインを大事に自分の髪の毛の中に埋め込んだ。
セッツァーを仲間にすることができた一行は、飛空挺で帝国軍首都ベクタへ向かった
エドガー達は、帝国軍が何体もの幻獣を捕らえ、魔法の力を吸い上げる研究をしている魔導工場へ乗りこむ作戦をたてていた。
「工場の内部は、セリスが詳しいから安心だな」
と、ロック。
「そこへは、何度か行ったことがあるので、案内はできる」
と言うセリスに、エドガーは少し間を置いて言った。
「ならば、セリス、簡単な内部の地図を書いてはくれないか?」
エドガーの発言に一行は唖然とした。
「エドガー、セリスを連れていったほうがいいじゃないか!」
セリスの顔の表情が変わって、彼女が口を開く前にロックが代弁した。
「私を信用してないのか?」
「仕方がないでござる、セリス殿」
カイエンは今もなお、セリスを信用しない。
「君は、元帝国軍の将軍だった。しかし、自分の腕を過信するんじゃない」
エドガーらしからぬ強い口調である。
「過信しているわけではない! ただ、私もみんなに協力したいのだ」
「こちら側に寝返った君は、帝国軍の内部ではあまりにも目立ちすぎる」
「足手まといだというのか!?」
「…悪いが、今回はそういうことだ」
「エドガー!」
二人のやり取りに耐え切れなくなったティナが、 口を挟もうとするが、ロックに止められる。
「失礼させてもらう!」
セリスの瞳は怒りを超え、少し潤んでいた。
「兄貴、言いすぎだよ。俺、様子見てくる」
マッシュはセリスの後を追いかけた。
セリスは甲板で心地よい風にあたりながら、怒りを押さえようとしていた。
「エドガーは私のこと、まだ信用していないのね。仕方がないけど」
マッシュがやって来たのに気付いた。
「私が将軍だった時から、エドガーとはいっつも言い合いになるのよね」
セリスの怒りはおさまったが、少し気落ちしていた。
「兄貴は君のことが心配なんだ。裏切り者だった君をみすみす、敵地へ送るのは危険だと思ったからであって」
「マッシュ、それはわかる。しかし、私は今までしてきたことの償いとしても、みんなの役に立ちたいし、一緒に戦っていきたいのだ。」
「兄貴は君を大切に思っているんだ」
「え?」
セリスは不思議そうに背の高いマッシュを見上げた。
「兄貴は、昔からそうさ、気に入った女性には態度が悪いんだ。変だろ? 普段は女性に優しいのにさ。気になった女性に対しては不器用なんだ」
「……ありがとう、マッシュ。私もわかってはいる。何だかんだ言って、エドガーは気を使ってくれている、けれど、すぐに言い合いになるのよね」
「それは、君が男勝りだからだよ。でも兄貴は君のそういうところが気に入ってるのかもな……」
少年の頃、エドガーが公爵夫人のグウィネヴィアに恋をしていたことを思い出した。
マッシュは遠い日の思いでを青い空に描いて見ていた。
「変わってないな、兄貴……」