Dear Friend エドガー達の懸命な努力の甲斐なく、ケフカは乱心してしまい、ついに世界は崩壊してしまった。世界は美しい緑をなくし、多くの人々が命を落とした。
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終わり
聞きなれた三人の声がかすかに聞こえる。エドガーは静かに目を開けた。見慣れた寝室。
物心ついたときから、毎日繰り返していたように、近衛兵が起床の時刻を告げに来る前にベッドから起きあがろうとしたその時、背中や手足に激しい痛みを覚えた。
「うぅ……」
「兄貴!」
その声を聞きつけたマッシュとロックとティナは、慌てて駆け寄り、エドガーを覗き込んだ。
エドガーはその痛みとともに、鮮明に記憶を取り戻した。
「………みんな無事だったのか?」
エドガーの問いにティナは冴えない表情をした。
「一応、ここにいる四人だけだ。みんな生きていたら、フィガロ城を尋ねてくるだろうと信じて、待ちつづけて、半年たった……」
ロックの声は絶望そのものだった。
「俺はあれから、半年も意識がなかったのか?」
「正確に言うと、10ヶ月ほどらしい」
「俺とロックはたまたま、北西の小さな小島で、意識を取り戻した。なぁに、俺はこの通り、殆ど無傷だったが、ロックが、足をひどく悪くしていて…」
皆が絶望的な時でも、マッシュはいつも明るく振舞うのであった。
「マッシュは、俺のことは放っておいていいから、お前の兄貴や他の奴を探せと言ったんだが、俺がある程度歩けるようになるまで、看病してくれたんだ」
「みんなと離れ離れになってから、四ヶ月程が過ぎてやっと、この城に辿りつけた。城の者たちが、俺達の無事をびっくりしながら、迎えてくれたが、同時に兄貴が、重症を負っていると聞かされたんだ」
「マッシュ、城の者は無事か? 町の者は?」
エドガーは居ても立ってもいられない様子だった。
「おい、まだ病み上がりなのに、王様に戻るなよ」
ロックは痛みをこらえて起きあがろうとするエドガーの肩をそっと押さえた。
「亡き父上が、建て直されたおかげで、フィガロ城は大した痛手を負っていないよ、城の者達はみんな無事だ」
「そうか、それを聞いて安心した」
「しかし、町や村はかなりの損傷だ」
ロックは仲間の情報を得ようと付近の町などを探索していたのである。
「ティナ…。レディーにこのような姿を見られるのは忍びないが……。ティナも無事だったんだね」
エドガーは身支度の女官以外の女性を、この寝室には絶対に通さなかった。
「私がここに着いたのは6日前。それまで記憶をなくしていて、大人がほとんど犠牲になった小さな村で、子供達と過ごしていたの」
ティナは記憶を取り戻し、仲間の無事を確かめるために、フィガロ城へやってきた。
エドガーが意識を取り戻したので、またその村へ戻らなければならないことを言った。
「いろいろあっただろうけど、とにかく無事でよかった。ありがとう、俺の看病をしてくれて。みんな疲れただろう、少し休んだほうがいい。俺はもう大丈夫だ」
「わかった、でも兄貴を今一人にしておくと、無理に起きあがって何をするか、わからないからな。交代でここにいるよ」
「何だ、マッシュ。俺を子供扱いして」
エドガーはようやく元気を取り戻したようだが、まだ起き上がれる状態のようではなかった。
「俺はまだ大丈夫だ、ティナとロックは先に休んでくれ」
「そうか、じゃ、頼むぞ」
ロックはマッシュの気遣いを、素直に受け入れ、ティナを連れて部屋を出た。
「レネー」
エドガーはマッシュと二人きりになると、子供の頃からそう呼んでいたミドルネームで呼ぶのである。
マッシュもまたそうであった。
「何だ?」
「俺たち四人と、フィガロは無事だったが、みんなは……」
エドガーにしては自棄になったような言い方だった。
「みんなも無事だよ、きっと。いろいろティナのように事情があって、来れないんだ。セッツァーなんか、今ごろ、飛空挺が壊れて、文句言いながら、修理してるぜ」
子供の時から、どちらか片方が落ち込むと、嘘をついてでも、明るく振舞っていた。
エドガーは大人になっても、子供の時と全く変わらないマッシュが今はせめてもの救いだった。
「そうだな。カイエンは俺がやらねばならぬでござる、とか言って、一人で、国を建て直そうとしているかもな……」
「リルムとストラスゴラスも村へ戻っているかも」
「うん、シャドーはきっとインターセプターを探しているんだな」
「ガウは、…。ガウは大丈夫かなぁ? あいつ野生児だから、無事だろうけど、言葉がしゃべれないからなぁ…。こんなことなら、もっとちゃんと言葉を教えてあげるべきだった」
エドガーはようやく明るさを取り戻したが、マッシュには敢えて、彼がセリスのことを口に出さないのをわかっていた。
エドガーは何でも、自分が一番気がかりに思うことや、自分にとって大切なことは、後まわしだった。
まず自分自身のことよりも、周りを気遣う事が先だった。それは生まれた時から王位継承者であるエドガーを自覚でそうさせたのである。
「なぁ、ロニ……。セリスの事を考えているんだろ?」
「もちろんだ、セリスも仲間だからな」
エドガーはマッシュから目をそらした。
マッシュは、体が思い通りに動かず、乱れた髪の毛を気にかけていたエドガーの髪を、枕の上に置いてある黒塗りの箱にきれいに収めてあげた。砂漠の国フィガロでは長い黄金の髪は、王たる者の象徴であり、神聖なものであった。
「そういう意味じゃなくて、セリスは特別に思っているだろ?」
「どういう意味だ、レネー」
「水臭いじゃないかぁ! 俺に隠したって、無駄だよ。俺、ロックがセリスを連れてきたときびっくりしたよ」
「……やっぱりレネーもそう思ったのか?」
とエドガーはふっと笑った。マッシュの前でだけ見せる、素顔のエドガーだ。
「ケフカが初めてセリスをここへ連れてきたとき、俺もびっくりしたよ。さらに話してみて……。あの男勝りな口調……」
エドガーの碧い瞳は少年の日を思い出していた。
「あの公爵夫人にそっくりだな」
マッシュもエドガーと同じ時間に戻っていた。
「セリスとは会えば、言い合いばかり…。セリスが仲間になってはじめて気付いた。俺はあの頃とちっとも変わってないなって」
「ロニは気になる女性には優しくないからな。俺にはすぐわかるよ」
「お前だって、不器用だろ?」
二人は一瞬顔を見合わせ、悪戯な視線を交し合い大笑いした。崩壊後、めずらしく明るい声が響き渡った、フィガロ城であった。
「また、三人になってしまったな。もうみんなは戦う意志がなくなったのかもな」
ロックはティナが去っていったことを寂しく思っていた。ティナは戦う力を失ったことを告げ、子供達のいる小さな村へと戻って行った。
エドガーの具合も一向に回復はしなかった。殆ど寝たきりの状態に苛立ちを感じはじめていた。毎朝女官のルイが清潔な白いシルクの寝巻きを運んでくるが、自分自身では着替えができず、マッシュとロックに手伝ってもらうのであった。
「あと二週間もすれば、自分で着替えられるようになるさ」
マッシュは痛いほどエドガーの苛立ちを感じていた。
「そうだな。お前が子供の頃、病弱でよく寝たきりになっていたが、今にしてようやく気持ちがわかったよ」
コン、コンとドアをノックする音が聞こえた。この時間は近衛兵のキューイであろう。いつもエドガーの身支度が整う時間を見計らって、本日の予定を告げに来るのである。
「キューイか、入ってよいぞ」
「いえ、陛下、今しがた、セリス殿がお見えになりました。いかがいたしましょう?」
と告げる近衛兵の思いも寄らぬ知らせに、エドガー達は嬉しさを露にした。
「うむ。控えの間で待っていてもらってくれ」
「はっ」
ドア越しに立ち去ろうとするキューイを、エドガーは思い出したかのように呼びとめた。
「あ、それと、髪結師のクレアを呼んでくるか」
「はっ」
「おい、そんな体で…、まさか、支度をして会うというのか?」
ロックは馬鹿げているという表情。
「失礼いたします」
と、髪結師のクレアが入ってきた。
「すまないね。クレア…。近頃は毎日君に会えなくて、寂しく思うよ」
エドガーのお決まりの言葉にクレアは
「陛下、とんでもございません」
と言いながら、慣れた手つきで手際よく準備を始めた。
「ロック、手伝ってくれ」
「お、おい、ほんとかよ…」
ロックは半ばあきれながら、マッシュを手伝ってエドガーを静かに起こした。
「兄貴は、よほどでない限り、髪結師のクレアと寝室係のルイ以外の女性はこの部屋には、絶対に通さないんだ。まぁ、こんな状態だから、セリスをここへ通すのも仕方がないが、せめて髪ぐらいは……、なぁ、兄貴」
「こんな情けない姿、レディーに見せるのは失礼だろう?」
エドガーはすっかり元気を取り戻していた。
「無理しやがって、色男」
「あがりました、陛下」
「うむ。いつもありがとう」
「失礼いたします」
クレアが去ってしばらくすると、キューイがセリスを案内してきた。
ドアの前に立っていたセリスは相変わらず、どことなく淋しげな瞳をしていた。
「私がやっとここまで、辿り着いたというのに、ずいぶん待たせるではないか! エドガー」
そして相変わらずのセリスの口調だ。
「お生憎様さ、色男エドガーはいくら床に伏せっている身でも、身だしなみを整えないと、レディーには会えないのさ」
ロックはあまりの嬉しさに皮肉を言ってみた。
「セリス、女性で、ここへ通してもらえるなんて、珍しいことなんだぞ」
マッシュも皮肉を言ってみる。
エドガーのその蒼碧な瞳は、セリスの蒼い目を捕らえて離さなかった。
エドガーのあまりにもの直視にセリスは、一瞬目を反らす。
「おかえり、セリス」
エドガーはさきほどの浮き立った声ではなく、静かに言った。
「めずらしいのね、エドガーにしては…。私におかえり、などと言ってくれるとは!」
「おいおい、お二人さん、せっかく、無事で再会したのに、いきなり喧嘩腰はないだろう?」
ロックはずっとあきれっぱなしだ。
「それも、そうだな……。控えの間で待っている間、近衛兵殿から聞きました。
エドガーはかなりの痛手を負っていると……。」
「この通りさ、セリス。情けない姿を見せたくはなかったが……。しかし、君も無事でよかった。なかなかここへ辿り着けなかった理由は、君にもティナのようにいろいろ事情があったのだろう?」
エドガーは何よりも早くその事情を聞きたがっているようであった。
「シドを覚えてる?」
「……俺達を魔導研究所から、逃してくれた人だな?」
「ええ、彼が傷を負った私の看病をしてくれていたのだ。シドは私が物心ついた時から、私のめんどうをいつも見てくれていた。私が意識を取り戻すと、今度はシドが、疲れ果てて病にかかった。…………私の看病の甲斐なく、シドは………」
セリスの白い肌に小さなものが流れたのを、見逃さなかった。
セリスは、素早くそれを左手で拭き取った。
皆が一部始終見ているのはわかっていたが、相変わらずエドガーの蒼碧色の瞳からは、何も感情が見えないような気がした。
「セリス、とにかく無事でここに辿り着けてよかった。暫く、この城でゆっくりと休むがいい。俺も、もう暫くの休息が必要なようだ……」
エドガーはセリスに優しかった。傷ついたセリスの心は、彼の優しさを受け入れた。
「ありがとう、エドガー、マッシュ、ロック」
セリスが来てからも、何の変化もなく10日が過ぎた。エドガー達は毎日、仲間の帰りを待ち、何の変哲もない日々を送っていた。
セリスが来てからエドガーは、昼間はベッドの上で、起き上がれるようにまで回復した。
エドガーは皆がこの寝室を離れると、窓の外の月を見るのが日課になっていた。普段は職務に追われ、月を見る余裕などなかったが、静かに月を眺めるのも悪くはないと思っていた。月は穏やかな光を放っていて、そんな月を眺めていると、決して穏やかならぬ今のこの世の中が、そして自身の融通のきかない体が、エドガーには余計に歯がゆく思うのであった。
蒼白い月の光が一層、黒塗りの箱の中に綺麗に収めてあるエドガーの黄金色の髪の毛を引きたてていた。
月明かりで影となった人影が、長い剣をエドガーの左の胸を狙って振り上げられた。
カキッ! 鈍い音がした。
「エドガー! 何故!?」
聞きなれた男勝りな女の声。
エドガーがその剣を降り交わした、青光りのする剣、アルテマウェポンは、その女の剣に食い込んでいた。
「セリス、君が俺を狙いに来るのは、わかっていた。だから、君がここへ来た日から、ルイに頼んでこれをここへ忍ばせておいたんだよ」
「わかっていながら、なぜ、マッシュや、ロックに言わない!」
セリスは動揺を隠し切れなかった。
「君が何故そうなったのか、わからない。だから、彼らには言わなかった。セリス……俺が聞きたい、何故だ。何故、変わった? ここへ戻って来た時、君の瞳を見て、すぐにわかったよ。俺はごまかせなかったな」
「だが、エドガー、貴方は過った。その不自由な体では、私のこの剣を跳ね返したのが精一杯。私の剣をかわし、私にとどめを刺すことはできないだろう」
「確かにそうだ。今の俺の体は無能だ。君の好きにできる……。しかし、俺は俺自身であると同時に、このフィガロの王だ。そう無闇には自分の命を落とすわけにはいかないのだ。セリス話し合えるものなら、話してはくれないか?」
エドガーの落ち着きのある声に、セリスの剣を持つ手は一瞬弱まった。
「私とて、あなた自身を恨んでいるわけではない。あなたの父君のなさった行いで、私はこのフィガロを恨むようになった! そして、あなたがこのフィガロの王というだけで、私はあなたに復讐する意外は、成すすべを持たぬ!」
セリスの口調は力強いが、声は震えていた。
「父上が……?」
「あなたの父君が、私の母を殺した!」
静寂な寝室の中、セリスの息遣いだけが荒く聞こえる。
「君は、ロザンナの子なのか?」
「そうだ」
「ロザンナは俺の母が一番可愛がっていた、侍女だったらしいよ。母は俺達を産むと同時に他界したが、母が可愛がっていたロザンナは父も可愛がっていた。幼い頃、彼女は俺達ともよく遊んでくれたが、いつの間にか、彼女の行方がわからなくなった」
「私の母は、特殊な力を持っていて、それを忌み嫌うフィガロ王は、母を抹殺したのだ!」
「どういう理由だかは、知らぬが、父は決してロザンナを殺したりはしない、父はそんな人ではない!」
エドガーは父を誇りに思っており、その父を侮辱されると誰といえども許せなかった。
「偽善者! 何も知らぬ温室育ちには、私達、下々のことまで何がわかる!」
セリスは弱々しく交しているエドガーのアルティマウェポンを勢いよく払いのけた。
天井高く振りかざした剣は、蒼い月の光で不気味に反射した。セリスの瞳はエドガーの悲壮的な瞳を捕らえた。
エドガーの瞳にその哀しさの中に勇ましさを見たセリスの手は一瞬の迷いを見せたが、静かにその剣は真っ直ぐ下に振り下ろされた。
鈍い音とともに、エドガーの左手は生暖かいものを感じていた。
「セリス、……早まらないでくれ!」
エドガーの薄れ行く視力で見たものは、エリスの頬につたう、一粒の光だった。
目を覚ますと、永遠に続くかのように、繰り返される、何の変哲もない寝室。
マッシュはエドガーが目を覚ますと、一番に視界に入る位置に居た。
「レネー」
「ロニ……!?」
エドガーの口元は少し笑ったような気がした。
「……セリスは、……俺にとどめを刺せないとわかった。だから、セリスの気が済むようにしてやりたかったんだ」
エドガーは左腹の刺し傷をかばったが、颯爽と、起き上がった。
「ロニ!」
驚いたのはマッシュであった。
「すまない、隠していて。……セリスがここへ忍び込んだ時は、きっとセリスの剣を交せるほどに回復していたはずだ」
マッシュはエドガーの行動を判りきっているかのようにふっと、笑った。
「バカだよ、ロニは……。セリスを信用したんだな?」
エドガーは余裕の表情で頷いた。
「しかし、無茶はしないでくれよ……。いくら信用していたといっても……。ロニはロニだけの体じゃあないんだ、父上の期待のフィガロの後継者だからな」
「レネー……」
「俺は、決して、国をロニに押しつけたわけじゃないからな! あの頃は子供だったから、自由になりたい一身で、……そう、兄貴の気遣いさえも鈍い俺は気付いてなかったさ。……けれど、俺も、もうあの頃とは違う! 俺は俺なりに、国を支えてくれる、兄貴の力になれれば……と思っているんだ! いや、ダンカン師匠の元で修行をして、俺の目的が見えてきたのだ。…それなのに、今回は、守りきれなかったことを悔いるぜ」
「すまない、心配かけて」
「一体、何があったんだ?」
エドガーにも理解できなかった。ただ、セリスがこの城に戻って来た時に、エドガーは気付いた。以前のセリスではなかったことを。
「セリスは?」
マッシュは微かに横に首を振った。
「自分の首を掻き切った。お前より重症だ……。ロックがつきっきりで看病してくれているよ」
エドガーは額に手をあて、うな垂れた。彼らしくない表情だ。
「セリスはロザンナの娘だ。セリスは自分の母親を、俺らの父上に殺されたと言っていた」
「バカな! それで、セリスはお前に復讐をしようとしたのか? ……バカだよ、セリスは! その上自分の命も無駄にしようとして」
マッシュは怒りをおさえきれず、自分の手を拳でたたいた。
「レネー、お前何か知っているのか?」
「ああ、ロザンナのことなら、俺、子供の頃、ばあやから聞いたよ」
病弱で床に伏せがちだったマッシュは、よく神官長のばあやから、 いろんな話を聞いていた。
「ロザンナは少し、魔法の力を持っていた。それを聞きつけた帝国軍は魔導研究の者を偵察に何度か、このフィガロに遣わせた。その者とロザンナは恋に落ち、彼女は身ごもったらしい」
「シドか?」
「おそらく……。シドは何とか帝国軍から彼女を逃してやろうとしていた。その甲斐なく、ロザンナは帝国軍にさらわれた。父上は、母上の大事な侍女であった、ロザンナを何度も、返してもらおうと、帝国軍に直訴していたが、聞いてはくれなかった。………そして、ここからの話は俺がもう少し大人になって、父上から直接聞いた話だが……。ロザンナは無事娘を出産したが、その娘の方が強い魔力を持っていることを知った当時のケフカはあっさりと母親を殺してしまい、そんなにロザンナを返してほしいのなら、返してやる、と言って、彼女は死人となって、このフィガロに帰ってきたんだ」
エドガーは自分が知らなかった事実にショックを隠し切れない様子だった。
「あの父上が、ケフカの狂気にはその当時から、恐れていたよ」
マッシュはその当時、少年ながらケフカに恐怖を抱いていた。
「セリスは、ケフカに踊らされていたんだな。俺を殺すために。……俺が何も知らなかった為に、セリスを傷つけてしまった、セリスにきちんと説明してやれなかった。……一国の主として、失格だな。この城に仕えていた者の消息も知らなかったとは……」
「ロニ、自分を責めないでくれよ、お前は、立派なフィガロの国王さ、俺が誇りに思っている、父上もそう思っているさ!」
「ありがとう、レネー。しかし、俺はセリスに謝らなければな、セリスの誤解を解くためにも。すまないが、ルイとクレアを呼んでくれないか?」
「ロニ、まだ……」
「この通り、もう大丈夫さ、セリスに刺された傷が、多少は痛むが、やっと、自分で、着替えもできるようになったぞ」
エドガーは責任感が強く、言い出したら聞かない。まだ心配ではあったが、マッシュもエドガーが起き上がれるほどまでに、回復したことを喜んでいた。
セリスは人形のような白い顔色で、ベッドに横たわっていた。その横で、半ば意識が遠のきそうになっているロックがいた。
「ロック、すまなかったな」
「エドガー!」
ロックは、エドガーの予想外の回復に驚いた。 半年以上も床に伏せたきりのエドガーを見ていたので、きちんと髪を整え、王の装束をまとっているエドガーを見るのは久しぶりであった。
「俺はもう大丈夫だ、お前はもう疲れ果てただろう? 今度はゆっくり休んでくれ、いや、……俺にセリスの看病をさせてくれ」
「エドガー……」
マッシュはロックに軽くウィンクで知らせた。
「わかった、じゃ、休ませてもらうよ」
「兄貴、辛くなったら、すぐに言ってくれよ」
エドガーもマッシュに軽くウィンクをかわした。
二人がこの部屋を去った後、セリスの寝息だけが、微かに聞こえた。
エドガーはロックが座っていた、ベッド付近の椅子に左腹の傷をかばいながら、腰を下ろした。
永遠とも思えるほどの時間が過ぎたのであろうか? セリスはもちろんのこと、エドガーもまるで、化石になったように動かなかった。
交代で、マッシュやロックが様子を伺いにきてくれるが、エドガーは「大丈夫だ、悪いが二人だけにしておいてくれないか」と言って、彼らの心配もよそに追い返していた。
エドガーは女性らしい細いセリスの手を取って、自分の頬へ寄せた。もう何日も目覚めぬことに焦燥感を抱き始めていた。
「セリス…頼む、目を覚ましてくれ」
明かりも灯らぬ部屋。セリスがエドガーの寝室に忍び込んできた夜のように、見事な蒼白い月明かりがこの屋を照らしていた。
光の加減であろうか、セリスの流れるような髪が一瞬揺れたように見えた。さらに次の瞬間、頬に寄せたセリスの手に力が入った。
「セリス!」
セリスはゆっくりと目を開ると、エドガーの高貴な優しい顔を確かめ、その頬に自分の手の感触を感じたことを恥じて、素早く顔を伏せた。
「私は、何故、生きているのだ! あなたにとどめを刺すこともできず、自らの命も絶てず!」
「セリス、自分を責めるんじゃない、悪いのは、ケフカだ!」
「ケフカ? 今さら何を言う、エドガー!」
セリスは怒りとともに、エドガーに握られていた手を払いのけた。
「セリス、君とは誤解ばかりだった。君が俺の命を狙ってきたのも、誤解だとわかっていたが、その理由を説明できなかったばかりに、君をこんな目に合わせてしまった。許してくれ、セリス」
「エドガー、いったい何を言っているのだ!?」
「セリス、俺は君のお母さんのことを何も知らなかった。俺もマッシュから聞いて驚いていた事実だ。これから話すことを君が信用するか、どうかは君自身で考えてくれ」
セリスはエドガーから衝撃的な事実を聞いて絶句し、動揺した。
「……そんな話、どうやって信じろと言うのだ! それにシドは私の父親!? そんな……シドは何も言わなかったわ!」
「シドのことは俺にもわからない。だが、ロザンナを守りきれなかったことを悔やんだに違いない。その償いとして、君を影ならが守ってきたのではないか?」
「そんな! そんな!」
セリスは聞きたくないかのように耳を両手で押さえた。
「……セリス、信じてくれないのは仕方がない。……だが、俺はセリスを大切に思う、だから、もうこんな危険なことはしないでくれ!」
「……エドガー、私は……」
セリスは涙を堪えて、唇を噛んだ。
エドガーの後ろで、バタンとドアの開く音がした。
「セリス、そろそろ素直になれよ……。セリスは兄貴を恨むことなんて出来ないさ。ましてや、殺すことなんて。だから、兄貴を殺そうとしたが急所を外した。…そして自らはそんな自分を責めて、命を絶とうとしたんだろ?」
「あ、すまない、つい盗み聞きしてしまって……」
と、マッシュの後ろにロックが立っていた。
「ロック、それを言うなら立ち聞きだろ? 二人とも入れよ」
と、あきれ気味のエドガー。
ロックは頭を掻きながらマッシュの後ろからついてきた。
「セリス、兄貴は…」
マッシュの続けようとしたら、エドガーは左手で止めた。
セリスはすでに、途方に暮れた表情だった。
「マッシュ、母上に会いにいこうか? もう二人では随分会いに行ってないしな。それに、子供の頃から、疑問に思っていた墓標がある。確かめに行かないか?」
「兄貴……!? そうだな、行こうか!」
「お、おい、何だよ、こんなときに! どこへ行くんだよ」
ロックは怪訝な表情だった。
「王家の墓だよ。コーリンゲンの近くだから、この城を動かせば、兄貴もセリスも負担がかからないだろう」
「セリス、君にもぜひ来てほしい」
エドガーの真剣な眼差しにセリスは自然に首を縦に下ろした。
王家の墓は地底に埋もれた頑丈な造りで、フィガロ城同様、崩壊後もびくともせず、静かな佇まいであった。
その中は墓地という名に相応しくなく、石の宮殿であった。代々の王の墓が一つの部屋になっていた。
エドガーは行き慣れた部屋の扉を開けた。奥行きのある広い部屋は、一つの教会のように、天井には大天使の巨大な絵が描かれている。
真正面の一番奥の祭壇に王と王妃の墓標があった。
エドガーとマッシュはその前に跪き、敬意を表した。ロックとセリスは二人の後ろで、慌てて彼らを真似た。
「本来ここは、王と王妃の血筋の者しか入れないのだが、父上のご意向で、お二人が最も大切に思われていた人たちも一緒にここで眠っている。代々の王の墓で、ここだけだ」
エドガーは父と母の墓標を見上げながら言った。
エドガーとマッシュは立ち上がり、王妃側の脇に並ぶ一つの墓標の前に来た。
「子供の頃、俺はロザンナがいなくなって、いつここへ来たのか疑問だった。マッシュはそれをばあやに聞いたんだな」
「ああ、俺は子供の頃、よく床に伏せっていて、退屈だったから、ばあやにいろんな話しを聞いていたんだ」
「セリス……」
後ろで、ロックの声がした。
セリスは崩れ落ちそうなほど、肩を震わせていた。
セリスはその墓標に刻まれた文字を、涙で霞んだ目で確かめた。
Dear Friend
Rosanna Forlani
セリスは嗚咽をかき消そうとして、さらに強く肩を上下に震わせた。
「母上は、父上以外に頼れる人もいなかったそうだが、 母上と一緒に来たロザンナは唯一の親友だったらしいな」
「父上は、母上の形見とも言える、ロザンナが帝国軍から見るも無残な形で、帰ってきたことを非常に無念に思っていたよ」
マッシュは強く拳をにぎりしめた。
「なんてことだ…」
ロックは哀感した。
「ケフカは若い頃から狂気な奴だ。父上も……、父上もケフカに毒殺された」
「あぁ!」
セリスはエドガーの静かだが、強い憎悪を含んだ声を聞いて崩れ落ちた。
「……私は、……私は、ケフカに……躍らされていた! 愚かだ!」
エドガーはセリスの横に片膝をつき、そっとセリスの肩に手を置いた。セリスの濡れた青い瞳はエドガーの気高い蒼碧な瞳をとらえた。
「エドガー……、私は…」
「前王ではあったが、俺とマッシュにとっては、セリスの母と変わらぬ、ただ一人の父だ。俺達は、この世で唯一の人をケフカによって失った。しかし、それはもう、俺達の問題ではないのだ。カイエンもそうだ! ティファが親代わりになっている子供たちもみんな、世界中の多くの人たちが俺達と同じく大切な人を失っている!」
「エドガー……、やるのか?」
ロックは久しぶりに輝く眼をした。
エドガーはロックに強く頷き、マッシュにだけ判るように軽くウィンクをした。
セリスの肩がほんの少し震えているのをエドガーは両手に感じていた。
「セリス、君は君の無念を晴らす時ではないか? そして、君の無念以上に、世界の人々が思っている矛盾を感じるのなら……。そして、もし君がこれからの戦いに俺達と来たいのなら、今回ばかりは止めはしないよ」
「……ありがとう、エドガー……。私、ケフカにずっと操られていたのね。自信ないけど、みんな、私も是非連れて行って」
「大丈夫だ、セリス。俺が必ず守ってやるさ」
セリスはエドガーの方へ向き直り、初めて笑顔を見せた。
「よし! そうと決まったら、まず、みんなを探しに行こうぜ! 見てろ、ケフカ! 俺の本当の拳を見せてやるぜ!」
マッシュは筋肉を強調した。
「まずは、セッツァーだな。コーリンゲンの村で、それらしい情報を聞いたぜ」
と、情報の早いロック。
「よし、みんな、行こう!」
エドガーの声は力強く、石の宮殿に響き渡った。
セリスは三人の生気に満ちた瞳に、自分の心も湧き立った。
「私、……生きていてよかった」
「もう、これ以上誰も死なせやしないさ!」
エドガーは強く願った。
世界は見る影もなく、緑を失っていた。
ケフカを倒して世界が元の姿に戻るまで、この先何百年、いや何千年かかるかはエドガーたちにもわからなかったが、彼らの子孫のためにもまた、美しい世界を取り戻すべく戦うのであった。