誰にも触れさせない

この愛は誰も触れさせない
それが神に背く事であろうと

ある歌のこの詩から浮かんだSSです。


「キュウイ大尉を呼んでくれないか?」
病床のエドガーは大臣に告げる。
「しかし……」
国王の寝室。神聖な空間。
大臣と薬師、身支度をする女官しか入ることは禁じられている。
大臣は眉を顰めた。その王の言葉が何を意味したかを悟る。
「はっ……ただ今」
エドガーの少年時代から彼を支えてきた忠実な騎士、
キュウイ近衛連隊長は駆けつける。
「私をあそこへ運んでくれないか? ここ(国王の寝室)じゃ、眠れなくてね……」
「陛下……」
大柄なキュウイは儚いエドガーの体を抱き起こす。
大臣はガウンを肩にかける。震える両手で金糸を出してやる。
「陛下……」
大臣の声は静寂に消された。
「マシアスの息子、エドワードはまだ幼い。後の事はしかと頼んだぞ」
「はっ! お任せ下さい」
大臣はエドガーの背後で敬礼した。
「今まで……ありがとう」
キュウイがエドガーを抱きかかえる。
寝室に残された大臣は頭を垂れたまま佇んだ。



王子の寝室。
そのベッドは国王のベッドと何ら変わりはないが、
エドガーの最も落ち着く場所であった。
キュウイは厳かにエドガーの体をベッドに下ろす。
「お前の事は…私の兄のように思っていたよ……」
「陛下……」
キュウイのエメラルドグリーンの瞳が潤んで輝く。
「ありがとう…。私は…少し眠るよ」
頭を上げたキュウイは涙で濡れていた。
エドガーはゆっくりと頷いた。



カタン……。
双子の王子が描かれている肖像画。
隠し扉が開いた音がした。
黄色い光の中でエドガーの金の糸が煌煌としている。マッシュの眼に最初に映った。
「…待っていたよ…」
「俺も…きっと兄貴がここにいるんじゃないかと……」
マッシュは扉を後ろ手て閉じ、その場所に固った。
マッシュの呼吸が力強く響き渡る。
「レネ……こっちへ来て…髪を拭いてくれないか? 汚してしまったよ」
マッシュからは後ろを向いているエドガーのその顔は見えない。
おもむろにベッドに近づくマッシュ。
兄の顔を見て、目を背けた。
「!!」
胸が締め付けられる。
マッシュのオアシスは見る見る内に溢れ出した。
まだ生暖かい紅雪が、白い絹を染めていた。
ブロンドの上で弾かれる小さな血の玉。
マッシュはそれらを取り除き、エドガーの口元も拭いてやる。
エドガーは弱々しい腕でシーツを持ち上げた。
それは何を意味するか? 
幼少の頃、このベッドで寝ていたことのあった二人。
毎夜マッシュは隠し扉を開いて、ここへやって来た。
エドガーはシーツを持ち上げ、弟が来るのを待った。
マッシュは精一杯笑って、兄の床へと入った。
エドガーのオアシスは揺れていた。
マッシュの大きな手はエドガーの夜具を裂いて、彼の心の臓にあてる。
その昔とは違う、今に永遠に止まってしまいそうな、その響(おと)。
「兄貴!!」
マッシュは荒々しくエドガーの身体を抱き寄せた。
金の髪からは血の匂いが漂う。
「あの日…」
エドガーは言葉を切る。
「10年前だよ。世界が崩壊して…城を浮上させた…あの日……」
その日二人は繋がった。たった一度だけ……。
「神に背く…道……。俺、親父に会う勇気ないよ…レネー」
エドガーは苦笑した。
「俺の中の神はロニだ!! 後悔したのか?」
エドガーは横に首を振った。
マッシュはエドガーの金糸を何度も撫でる。
「生涯をかけて愛したヤツが弟だなんてな……こんなにもレディにもてた俺が……」
「誰にも触れさせないさ…俺達の心は……」
エドガーの背中が苦しそうに動く。
「兄貴!?」
その美しい顔が歪む。
「うっ」
苦悶の声。
「我慢するな…ロニ……」
マッシュは両手でエドガーの顔を持ち上げ、白い唇に自身を重ねた。
鉄の味がする生暖かいものがマッシュの口内に流れ出す。
舌先で丁寧に拭ってやった。
僅かに零れ落ちたものがエドガーの唇を桜色に染める。
肩で懸命に息をする…エドガー。
エドガーのオアシスが永久(とわ)に枯れようとしていた。
終焉の刻が間近に迫る。
それはマッシュにとってもだ。
神に背いた、たった一つの罰。
それはエドガーを病で苦しめた。
そしてマッシュにはじきに長い別れが訪れる。
遠くから忍び寄るその足音は次第に大音響となる。
「……レネー…さよならだ…俺は……そろそろ…逝くよ……」
オアシスから光が消えようとしていた。
「いやだ!! いやだ!! 俺を置いて逝かないでくれよ!!」
エドガーのオアシスとは対照的にマッシュのオアシスは溢れ出して止まない。
「これが…俺と……お前に…与えられた…罰さ……親父……からの……」
マッシュの腕の中の神が軽くなる。
何かが音をたてて壊れた………
「……レネー……それでも…愛している……これからも…永遠に」
「兄貴――――――――――――――――!!」

♪Chopin:Waltz No.10 op.69-2


あとがき
近頃、陛下を殺してしまうネタに
はまってしまっているよ(苦笑)
やっぱ、マッシュには熱くなってもらわないとね!
兄貴命だから。
因みにこのMIDIはショパンのワルツの中でも
すごく好きな曲で、昔『ラマン』(愛人(笑))という映画
(私はあんまし面白くない映画だなぁ…と思って観てました)
のラストにこの曲が流れます。
あ! 私の好きな曲!! ってそれだけなんですけど(苦笑)

2001.1.13 Louis

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