とけない氷



1月31日AM6:30

じりりりりりーーー
「うるせーな。どこのどいつが目覚しなんかかけてんだよ」
微かな輝(ひかり)が目に映し出された。
気がつくと6時30分。バルト殿下起床時間。
じりりりりりーーー
「あ…俺だった…」
自慢の手の長さに誇らしげ。
個室内の小さな窓は、淵が白に埋めつくれていた。明かりも中央に1つ、満足なほど照らしてはいない。
むしろ切れかかっているのにも気づかなかった。



AM7:00

艦内は極寒の中にあった。
先ほどまで射していた明かりは、暗闇に閉じ込められていた。
風が艦体内に入り込んでくる。

「若!大事件です!!ユグドラが雪で覆われています!」 副長シグルドもまた、極寒の中にいた。
「どうりで寒いと思ったぜ。なんかやばいのか?」
「どうにもこうにも、出入りも不可能なくらい…。キスレブ領の近くに、こんな豪雪降る場所ありましたか? 今、フェイ君とシタンに除雪作業にまわってもらっておりますが…」
こうしている間にも、ユグドラシルは豪雪に埋もれつつある。
頭の中ではわかっているつもりのバルト。
「水かけたら溶けるかなあ。お湯という手もあるけど…スプリンクラーの機能つけときゃよかったなあ
 手が空いてる奴はみんな除雪作業にまわせ!俺たちも参加するぞ」



AM8:00

  ――――雪…雪、いつみただろうか?

風も漸く緩み、雪は雨に姿を変えた。
近く調査が済み次第キスレブから離れる予定だったが、わざと艦体を隠すために山岳を選んだ。
これが拙かったらしい。
「若君、何を考えてるのですか?」
「いや…雪なんてはじめてみたかな…と思って」
バルトは手を休める。ドサッと地面に突き刺さる氷柱は、僅かながら輝(ひかり)を放っていた。
「俺はラハン村にいたから、子供達とよく遊んでたし」
フェイの手も休んでいる。
「雪でどうやって遊ぶんだよ?」
「え…?こうやって団子を作って、当てあうんだよ」
フェイの作った雪団子は、バルトの顔面に直撃!
「フェイーーーーーーーー」
「これが雪合戦だ。やるのか?」
「うけて立つ!!おりゃあーーーこんなもんぼこぼこにしてやる!!」
ついに二人は、シグルドもシタンも止められないほどに投げ合いを開始。

「あれでいいのだろうか?」
シグルドの顔は呆れ顔に変わる。
「いいんじゃないですか?今日位子供に戻ったって…特別な日なのに」
シタンの大人げな口調に、シグルドは手がつけられなかった。
この場に立って共に楽しむ事こそ、今を楽しむ価値がある…。
「ヒュウガ…お前は…雪は好きか?」
「どうしてそう思うのです?」
靴跡を辿り、ユグドラシル降板に出た。
掻き消された記憶も、脳裏に移れば鮮明に蘇ることもある。
知っていながらあえて口には出さなかった。
「あの日も…こんな雪の日だったな」
「乗ってたのでしょう?わかってますよ…あの二人には知らなくてもいいことなんですから」
―――――――――そうなんだ

思い出しますね…ソラリスにいた時は、雪だって見なかったでしょう?
あそこは…心の廃墟です。

カールが羨ましかった。雪を見たって自慢してたな。
時々思うことがある。

何を…ですか?

ココにいていいのか?ってことだ。若は本当のことなど知らないのだしな。
このまま、ユグドラの副長として…

シグ…あなたはこれでいいと思っていますか?

さあな。ソラリスにいた頃は、こんなこと思ってもいなかったのにな。
自分を避けるだけで、罅が入る。この痛みは俺にもわからん。

だったらいいじゃないですか。あなたはそうして立っているのなら、 分という姿があるんですよ。
よく言いますよね。自分が人間だ!という証明をするには、他の人間に認めてもらう。
それを連鎖させているだけだと…。初めから人間なんていないんですよ。固有名詞のような『名』です。
それも『人間』とつけられた者が勝手に作った名ですから、仕方ないですけどねえ。
あなたは若君に必要とされているから、ココにいるんじゃないですか?
それとも、あなたの意志ですか?

あの時、お前は知っているはずだ。実験体には下衆だって選ばれる。
俺は塵扱いだった。少なくとも俺にはそう感じた。
――――生きたい!!!!!!
その思考だけは秀才な奴も消せなかったらしい。
あの後、考えてた。孤独な箱の中にいながら
――――生きるってなんだ?
考えるだけで、ギクシャクしていた。塵だったからかもしれん。

だったらあなたの意志ですよ。生きたいって考えたのが真(まこと)だからこそあなたはココにいるのではないのですか?
呼んでいたのですよ。遥かなる高みから…。
それこそ若君だったりするのでは?

お前の言う事は難しくて理解できん。ただ、今生きていることだけはわかるらしいな。

それがわかっているなら、あなたは…

――――塵じゃないんですよ。誰だって塵な人なんていません。


「シグって不思議だよな…」
いつの間にか、二人の拙戦は幕を閉じていた。
「若?何が…?」
「お前ってこの氷みたいなんだ。地面に叩きつけたんだけどさ、割れないんだよ。誰にも負けない…そうだな。『とけない氷』みたいな考え方してんだ。俺もそんな考え方持ってみたいもんだな」
バルトは左手で照れくさそうに、頭を掻いた。同時に溶ける笑み。
「もう一回雪合戦しようぜ!!今度はシグも先生も参加してくれよ。フェイは武術で弾を弾き返しちゃうんだよ」
「ちょっと待て!!それって3対1か?それは無しだぜ」
フェイはさすがにそれはきつい!と付け足した。

どうです?今の気持ち…。

ああ…なんだろうな…これが癒しっていうものなのか



PM6:30

開始を告げる時刻。
「何が始まるんだ?」
フェイには理解不能であった。ユグドラシル内での宴会の根拠は…。
「ああ…お前は初めてなんだよな。今日1月31日はファティマ城建国記念日なんだぜ記念すべき500周年にもなれば、宴会も盛り上がるってわけだ」
「ところでバルト、お酒飲んで大丈夫なのか?」
「これくらいはな。お前もグ一ッといけよ」

シグルドの視線は1つのガラス氷に向けられていた。
互い違いのグラスに注がれた氷色は、白く優しい雪結晶に似ている。
「どうしたんですか?浮かない顔して…そういえばシグはお酒飲めませんでしたねえ」
「この場に先輩(ジェシー)がいたら、俺はきっと死んでるだろうな」
隣りに遠慮がちに座るシタン。
「中身はなんですか?」
「カルピス…大人でもこれだけはつらい」
「原液はやめてくださいよ…これだったらお酒のほうがマシでしょう?」
からかうように笑みを零す。
(こういうのも、1つの楽しみなんですよ)



PM10:00

ブリッジ中央から、大の字で寝そべるバルト。
「若…お酒飲みましたね」
「ああ、これでもけっこう加減したつもりだったけどな。逆だったみたいだ」
バルトの目先は、赤く熱したギアに呼応していた。
「若に1つお聞きしたい事があります。私は…
―――――塵ですか?
「はあ?何言ってんだよ?お前が塵だったら、俺は原型もないな・・・」
「なぜそう言い切れるのですか?」
「塵だろうが、そんなの俺には関係無いぜ。塵になろうがお前がお前であれば同じことだろ?」
力尽きたのか、シグルドはその場に座り込む。
居座るっているのは…自分だと直感していた。
「若は今日、私のことを『とけない氷』とおっしゃいましたが、そのように見えるのですか?」
「いや、俺にもわからねえけど、シグは俺よりずっとしっかりしてる…。放任の生活してても、シグは俺をどこかで見てるって分かるんだってわかってるし、ああ!こういうのって以心伝心じゃないのかな」
(溶けない…もの。私の意志の強弱…)
「一杯位飲んでも大丈夫だろ?折角の建国記念日なんだぜ。
ついでにシャーカーンをぶちのめす気合も入りそうだ」
「そうですね…二杯までなら大丈夫かと…」

―――――若、その言葉、大切に預かります。



PM11:00

「とけない氷…か…」
静夜…問われることのない無限の空間。
確かめられる意志と鼓動。
バルトの行き先は既に夢の中だが、仕事際に束上の書類を重ねたシグルドは間際に机の写真に文字を書き込んた。

取り戻す事が怖くても、嫌で逃げていても、先を見なくては進めない。
私の心はとけない氷…貫いた意志に、希望が見えなくとも…やってくるものだと悟る。
ここに、輝かしい賛辞を送ろう。


HappyBirthday Castle Fatima

The End

ルイ様、ファティマ城一周年おめでとうございます!
お祝いがこんなよくわからない小説ですみません(汗)本人もわかってない(滝汗)
初めて書いたゼノ小説…これでいいのだろうか…と思ってしまうのですが…。
こんなヘッポコな小説でよければ、貰ってやってください。返品付き(爆)。
私から、心をこめて祝させてください。

2002 1・31 さっきー

さっきー様のサイトはこちらです→N.S Network@EX-CROSS




ゼノ小説の初書きが運悪く?(爆)
ファティマ城の一周年記念のお祝いに書いてくださいまして
申し訳なく、でも、とても嬉しいです!!
シグとヒュウガの大人なしっとしとした会話に
ぐいぐいと引っ張られました。
この二人は近頃、私も大変興味のある二人です〜
シグはとけない氷のように、本当に強い人です
雪合戦の無邪気な若が尚一層シグを強い人にしているのでしょうか?w
それとファティマ城の記念もかけてストーリーに
折り込んでくださり、ありがとうございました!!(嬉)
へっぽこだなんてとんでもないです、有難く頂戴いたしましたm(__)m
余談ですが、シグとヒュウガも雪合戦って、どんなんだろうって
ちょっと想像して一人で受けてしまいました(^^ゞ
さっきー様ステキなSSありがとうございました。

 2002.1.31 ルイマリー=ヨゼフィーネ=ダイム
 

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