The moon-light night of desert

「兄貴、本当にこんな所にあるのか?」
「ご先祖様のお宝の地図にかいてあったんだ」
 エドガーは4代前の国王が機械マニアだったことを知った。その情報を聞いた彼は昔の機械を発掘して改造しようと大掛かりな計画を考える。
 そしてその発掘に付き合わされたのがマッシュである。
 エドガーは機械の事に関して言い出したら聞かない。一人で行かせるのには危険だと感じたマッシュはそれに付き合うことになった。
 二人は以前発見したコーリンゲン地方の砂漠の地下にあった古代の城のさらに奥深い地下にいた。
 薄暗く湿った洞窟の奥へと物凄いスピードで突き進むエドガーの後を追うマッシュ。
「マッシュ! あれを見ろ!」と突然立ち止まるエドガー。
「いてっ」勢い余ってエドガーの背中に突進してしまったマッシュ。
 マッシュは突進されて態勢を崩したエドガーの肩を掴んで起こしてあげる。
「すまない、兄貴」
「いや、いいんだ。それより、ほら!」
 暗い洞窟の先にエメラルド色に光るものを見る。
「何だ…あれは!!」
 二人は一瞬見合わせたが躊躇なくその光へと向かう。
 二人が近付くとその光はますます輝き出す。
「一体…」
 そう言ってさらに一歩近付いたエドガーとマッシュは激しい閃光に包まれた。
「!!!」
「レネーーーーーー!」と同時にエドガーの声が遠のく…。
「兄貴ぃーーーー!」マッシュは慌ててエドガーの消えた方へと後を追った。


 暗闇…遠くで先ほど見た碧色の光が小さくなってゆく。
 確実にどこかへ落ちて行く…。深い深い谷底へと。
 ヒューーーーーーーーーーーーーーーーンッ。
 ドサッ!!
「いってぇーー!」
「いってぇーー!」
 暗い洞窟に響き渡るマッシュの声と、もう一人の男の声?!
「あ、兄貴、大丈夫か!!」マッシュはうつ伏せに倒れているエドガーの元へと駆け寄る。
「大丈夫だ……それより、一体何が起こったのだ? ここは??」
 エドガーは起き上がって青いマントや長い髪についた埃を落とす。
「さぁ…な…。とんだ洞窟に落ちたようだな」とマッシュ。
「さて、どうするか…」腕を組むエドガー。
「やいやい! さっきから黙って聞いていると、随分じゃねぇかっ! 俺はあと一歩でこの洞窟から地上へと出られるところだったのによぉ、いきなりあんた達が落ちてきて、またふりだしに戻っちまったじゃねぇか!! それを俺様に謝りの一言もないなんて失礼だな奴らだなっ!!」
 エドガーとマッシュの後ろには、長いブロンドの髪を三つ編みにした、エドガーと同じ位の背丈、それに加えて片目の威勢の良い青年が立っていた。
「いや、これは失礼した、私達のために…」エドガーは青年に軽く頭を下げた。
「あぁ、せっかくあと一歩だったのによぉ! ま、いいぜっ! こっちゃぁ、ちゃんと謝ってくれればよぉ。どうやら、あんた達も落ちてきたらしいな」
 青年は言葉遣いこそ悪いが威勢が良くどことなく品があった。
「俺についてきな! 地上まで連れてってやるからよ。ところで、この洞窟は獰猛なモンスターがうじゃうじゃいるが、平気だろうな?」
「おぅ! 俺にまかせとけって!!」マッシュは得意のポーズを披露する。
「お、おぅ! あんたがいれば間違いないな!」マッシュを見上げる青年。
「すまない、助かった。エドガーだ」と青年に手を差し出す。
「バルトだ」
「俺はエドガーの双子の弟マッシュだ」
「通りで、似ていると思ったぜ! それにしても兄貴とは随分体型が違うな、格闘家なのか?」
 バサッ!!
 早速行く手を阻むモンスターが3人を襲う。5体で襲ってきた。
 オートボウガン! 敵全体に強力なダメージを与えるエドガー。
 ドスッ! ドカッ! 敵単体をあっという間に倒すマッシュ。
「シャーッ! オリャ! トリャ、ソー――レっ!」
と掛け声をかけながら、華麗なダンスの如く鞭を敵単体に食らわし、あっという間に倒すバルト。
 3人を目前にあっけなく底をつくモンスター5体であった。
「オートボウガンしか持ってきていなかったのは、失敗だったな。次は剣でいくか」
「俺は、しょぼい敵なんで手加減したぜ! まだまだ究極の必殺技は出さねぇぜ!」
「お、おい! お前ら、なかなかやるじゃねぇか! 只者じゃねぇな!」
 どうやらバルトは二人の実力に感心した様子である。
「お前ら、フィガロ人……だよな」
「当ったり前だろう? 兄貴と俺の砂漠のオアシスと言わんばかりの澄んだ蒼い瞳&太陽のように輝く黄金色の髪の毛を見りゃ、解るだろう? 若造!」
 10歳程も年の離れたバルトに粋がるマッシュ。
「だよなぁ…」と不服を洩らす事なく同意するバルト。
「そういう君こそ、純潔なフィガロ人だな?  私達と同じ蒼い瞳、太陽の如く黄金色の髪の持ち主だな」
「そうさっ! 俺は一応砂漠の海賊の頭領だがよ、生粋のフィガロ人だっ!」
「何だか私に雰囲気が似ているな」エドガーはバルトを隅から隅まで見回す。
「お、おい、兄貴! こんな野郎とは似ても似つかないぜ!」
「な、なんだと! こんな野郎で悪かったな! そういえば、似ているかもな……」
 そう言ったバルトは何やら片手を顎に置き、その肘をもう片方の手に乗せるという、考える姿勢に入る。
「??? こいつと俺が似てる…? 確かに……まさか…!? いや、有りうるな。何せあのシグが何と実は俺の兄貴だったからな…。もしかしてこいつらも俺の?! 
 うーん、もしそうだったとしたら、俺のオヤジって意外と手が早いな…ブツブツ…ブツブツ…」
「おい、バルト! 何をブツブツ言ってるんだよ」呆れ顔のマッシュ。
「そうだな、顔はエドガーに似ているし、ムカツクけど、性格はこいつに似てるかな? ブツブツ…」
「な、何だよ! その“ムカツクけど”は! 性格が俺に似てるだと!」
「いや、何でもないさ。ま、そんな事ぁどうでもいいんだが、同じフィガロ人として協力し合おうぜ!」
と手を差し伸べるバルト。
「よろしく!」エドガーはそれに応じる。
「だがよぉ、お前らヘンテコな格好してやがんなぁ。それにエドガー、気取った口の聞き方しやがってよぉ!」
「お前いちいち、うるせぇんだよ! 兄貴に文句言うなっ! 兄貴は生まれながらに気品があるんだよっ! それに兄貴の言うことには間違いないんだっ! 覚えておけ、若造!」
 マッシュはバルトに食ってかかる。
「はぁん? お前、兄貴信仰者か??」
「な、何ぃー!」
 バルトの予想通り、容姿はエドガーとそっくりであるが、どうやら性格はマッシュと似ているようである。
「ま、まってくれ! ここで言い争っても仕方がないじゃないか! 同じフィガロ人同士協力し合おうって、君が言ったはずだよ」
 エドガーは常に冷静である。
「けっ、そうだったな! お前ら、ちょっと気に食わねぇとこあっけどよ、今んとこは許してやるぜ」


 三人の力をあわせ、難なく奇妙な洞窟から抜け出せたようだ。
 しかしその上は果てしなき黄金の砂が続いている。
「まいったなぁ…俺達はフィガロの砂漠をウロウロしたことはなかったからなぁ…広大なんだよなぁ…」
とマッシュは少し疲れを見せる。
「この辺りはいったい…!?」
 エドガーもわからなかった。辺りを見回してもフィガロ城らしき建物は見当たらない。
「ここは、ノース・フィガロ付近ってとこだな。なーに、心配するな! 俺の艦がそろそろ迎えに来てくれるぜ! 俺が砂漠で迷子になったら、この辺りで合流することになってるからよ」
 バルトが自信有りげにそう言うと、彼の言う“艦”が、砂煙と共に三人の前に現われる。
 その船はエドガーもマッシュも見た事のない、セッツァーの飛空挺よりも素晴らしい技術が搭載されていると思われる、“きかい”であった。
 二人は圧巻し、立ち尽くす。
「おうおう! 噂をすれば来たぜ! 俺の艦、“ユグドラシル”だ」


「若、お帰りが遅いので心配しておりました」
 バルトの側近らしき者、彼とは逆の目にアイパッチをしている片目の銀髪の男。
 年はエドガー達と同じ位であろう。なかなか落ち着き、こちらもまた品がある。
「奇妙なこいつらのお陰で、上に戻るのが梃子摺ったって訳さ。だがよ、シグ、こいつら妙に強いんだぜ! 俺の客だ、丁重におもてなししてくれ、エドガーとマッシュだ」
「了解、若! この船の副長を務めております、シグルドと申します。何なりとお申しつけ下さい」
「ありがとう。それにしても、この艦…ユグドラシルといったかな? これは素晴らしいな。私はこんなものを見た事がなかったぞ」
 エドガーはこの巨大な船に既に興味を示し、蒼い瞳は大きな機械のおもちゃを見るような少年のものへと変わっていた。
「お、おい、兄貴! ここは一体どこなんだよ! な、何だか、俺達浮いてないか?」
と不安なマッシュの声も耳に入らぬエドガーである。
 シャーン。ブリッジのドアが開かれる。
「若! ご無事で何よりでした!」
「おぉ、爺、当ったり前だろ? この俺様がすぐにくたばるかって! 紹介するぜ。俺の珍客だ」
 爺と呼ばれた白髪の老人はエドガーとマッシュの前で深く頭を垂れた。
「執事のメイソンと申します。若のご無礼を平にご容赦下さいませ」
と言ったメイソンはとても紳士な老人であった。
「いや、メイソン、頭をあげてくれ。私達の方がバルトのお陰で助かったんだよ。エドガーだ。こいつはマッシュ、私の双子の……」
「!!」
 エドガーが言い終わらぬうちに、メイソンは只ならぬ様子でエドガーを隈なく見回す。
 そして「おぉ! こ、これは…ま、まさか!」とその場に跪く。
「お、おい、爺、何だよ!」
 普段は冷静なメイソンの異様な行動に驚くバルトとシグルドである。
「あ、貴方様は、もしや……エドガー・ロニ・フィガロ様でございますか? そしてこちらはマシアス・レネー・フィガロ様!! どおりでお姿が…し、信じられません」
「何だ、兄貴、バレてんじゃねぇか!」とマッシュ。
「うん、そのようだな」とエドガー。
 だがしかし、
「はぁ? フィガロ??? も、もしや! 爺! もしやこいつらも俺の兄貴だって言うんじゃないだろうな!」
とバルトは洞窟でぶつぶつ言っていた事を懸念していた。
「こ、これ若っ! このお方達に何と無礼な!」メイソンは興奮状態のようである。
「爺、落ち着け! こいつらは、一体何者なんだ?」
「私にも信じられません。ですが、第○○代フィガロ王、エドガー陛下にございます。  陛下と殿下は邪悪な魔法を利用し、全てを滅ぼそうとした悪から、世界をお救いになった勇者様でもあらせられます。フィガロではお二人の活躍ぶりはあまりにも有名。未だに語り継がれております。若にもフィガロの歴史はお教えしたと思いますが」
「あ、兄貴!」と驚愕するマッシュ。
「メイソン、付け加えておこう。世界を救ったのは私達二人だけではない、この星を愛し、この星のために闘った仲間がいることを」
 エドガーはメイソンの説明で全てを察したようである。
「レネー、どうやら、未来へ来てしまったようだな。そしてこの威勢の良いバルトは私達の子孫のようだ」
「お、おぅ! な、何だ…俺の御先祖様か…(ほっ)。そ、そうだな、爺、思い出したぜ! エドガーとマッシュ…。どおりで、ヘンテコなかっこうをしてやがると思ったぜ! そうだ、それに品があるヤツだと思ったぜ」
「わ、若! なんという口の聞き方を」冷や汗をかくメイソン。
「な、なんだい! 俺の兄貴に気取ったヤツだなぁ…って言ってたくせによぉ!」
と食って掛かろうとするマッシュ。
 しかしそれを冷静に制したエドガーである。
「メイソン、どうやら私の子孫は粋の良い青年で、安心したぞ」
「はっ! 陛下」平伏すメイソン。
「お、おいっ! ちょっと待てよ! 爺、何でこいつらがエドガーとマッシュ……いや、俺のご先祖様だとわかったんだ?」
 一つ一つの事象を明確に理解しなければ気の済まないバルトのようだ。
「若は、小さくて覚えてらっしゃらないかもしれませんが、若のお父上、先代王のお部屋にエドガー様とマシアス様の肖像画が飾られてあります。
 今はシャーカーンの部屋となっているそうですが。私の記憶にございます、陛下の肖像画と若のお姿はよく似ておいでです。しかしどうやら、性格は似ておいでではなさそうですが」
 穏やかなメイソンも言う時は言う。
「爺もそりゃ、ないだろ? どうやら俺の性格はマッシュに似てるようだな」


 メイソン自慢のティーを前にして一向はゲストルームの大きなテーブルへと落ち着く。
「ところで、何故に私の子孫であるバルトは砂漠で海賊をしておるのだ?」
「そ、それは……」メイソンは言葉を詰まらせる。
 暫時沈黙……。
「陛下! 若…バルトロメイ殿下は陛下直系のフィガロの正統な後継ぎでございます。しかし、先代王の側近でありました、貪欲なシャーカーンなる者が謀反を起こし、先代王や王妃を抹殺した上にわずか、6歳の王太子であらせられた若に拷問監禁し、フィガロを略奪しました。
 我々は辛うじてメイソン卿と力を合わせて若とお従妹のマルグレーテ様を何とか救出することは出来ましたが。
それ以来シャーカーンは自分の私腹を肥やす為に国民にかなりの負担をかけております。また彼は争い事を好み、他国への侵略を試みております。
このままでは陛下達がお築きになられました、この平和な星がまた、戦場となるのは時間の問題であります」
 言葉を発することの出来ぬメイソンに代わり説明するシグルドであった。
「な、何て事をしやがるんだっ! そのヤツは!!」と怒りを露にするマッシュ。
「だろっ! 許さねぇんだっ! あのハゲ頭のクソじじいめっ!」
「おぅ! ハゲ頭のクソじじいかっ! 俺も許さねぇぞっ!」
 息投合のマッシュとバルト。
「我々では、まだシャカーン率いる兵に敵いません。しかし、いつか、若を…」
 シグルドの拳に力が入る。
「その為の兵力になる物資を探しに砂漠の海賊となっていたのだな」とエドガー。
「おぅ! 流石に察しがいいな。ま、そんなとこだな。海賊生活も悪かぁねぇけどなー!」
「そりゃ、フィガロ家に縛られるよりは、楽しいだろうな!」と目を輝かせるマッシュ。
「ご、ごほんっ!」メイソン。
 シャーン。
「若! 若の新しいお友達が来たって!! ボクにも紹介してよ」
 入り口に立つあどけない少女。
「これはこれは…、男所帯だとばかり思っていたこの艦にも、愛らしいレディがいたんだね」
 エドガーは素早く入口に立つ者の手を取ってキスをする。
「レ、レディだなんて、いやだな。ボクそんな事言われたの初めてだよ。マルーだよ」
「私はエドガーだ。美しい君に会えて嬉しいよ」
「お、おい、エドガー! 俺の従妹を口説くんじゃねぇ!」動揺するバルト。
「わ、若っ!!」メイソンとシグルド。
「レディに優しく…ってのは世界の常識なんだよ、バルト」
「そ、そりゃ、俺だってそんなこったぁ、知ってるさっ! オヤジに教わったからな。フィガロ家の代々に伝わるマナーだってよ」
 バルトの粋の良さを気に入ったエドガーは微笑する。
「さて、シグルド、私達が協力すれば、すぐにでもフィガロ城を攻め込むことはできるのかな?」
「な、……お前ら協力してくれるのか?!」バルトの目が輝く。
「こ、これ! 何と言う口の聞き方!」制するメイソン。
「おぅ! 当たり前だ! フィガロをそのハゲ頭のクソ爺なんかに任せられねぇぜ! それに、俺達が未来に迷い込んできたのは、偶然とは言えないしな」
「そ、それでは、陛下、殿下、我等に協力をして下さると! 何と心強い」
 シグルドは未来が開けたとばかりに喜んだ。


「シグはエドガーとマッシュの3人で正門から攻め込み、城内の兵力を弱めてくれ。その間に俺はシャカーンの部屋を一気にめざす」
「現在もその道を通れるかどうかわからないが、フィガロ城地下へ侵入できるルートがある。サウスフィガロへの洞窟にある回復の泉だ。そこに生息する亀に乗って向こう岸へ移ると城の地下に出られる。あの時の亀の子孫がいるだろうと思う。念のため調べてくれないか?」とエドガー。
「な、なんと、そんなルートがあったとは! 早速、調べに参ります」
 メイソンはエドガーに敬礼すると作戦司令室を後にした。
「よし! その抜け道の確認後、城へ向かおう! 善は急げだ」
 バルトの瞳は希望の光の如く限りなく深いブルーに輝く。
「城には反シャーカーン派の兵士や近衛兵達が未だにたくさんいる。シグ、彼等と争う事なく、抵抗してくる兵士だけに的を絞ってくれ。くれぐれも無駄に血をながすなよ!」
「若、ご安心を」
「若造なのに、なかなかの心情の持ち主だな。頼もしいフィガロの子孫だぜ!」
 マッシュはバルトに弟のような感情を持ち始めていた。


 エドガー一向のフィガロ城門での苦戦はなかった。
 フィガロ家直属の後継者バルトロメイ王太子が生きていて、今まさにシャーカーンの手から取り戻す旨を告げると無抵抗になる兵士が多かったのはシグルドの予想以上である。
 一方バルトの方も難なくシャーカーンの部屋へと辿りつく。何かおかしい。いくら何でもこんなに警備が薄手のはずはないのだが…。
 しかしバルトはシャーカーンの部屋へ入ると同時に高い天上に近い壁の肖像画に気を引かれる。
(これが爺の言っていたエドガーとマッシュか……! 何と……)
 バルトがその肖像画に見入っていたのも束の間であった。
「さすがはバルトロメイ殿下。だがこれまでだな」
 赤く派手な衣装を身に纏ったシャーカーンの声がどこからともなく聞こえると、バルトは既に彼の兵士によって身動きできなかった。
「くっ!」
「残念だろうが、私はあらゆる手段を使って情報を手に入れるのは容易いことだ。ま、フィガロ王家の最後の生き残りの君がわざわざ殺されにきたのだから、手間が省けたと言うことだな」
 シャーカーンはマイクのスイッチを入れる。
「城門にいるねずみ共よ、バルトロメイは私の手中にある。お前達も捕らえられたくなくば速やかに退出するがいい。
 バルトロメイ・フィガロは謀反を起こした者として、明後日シャーカーンの広場にて公開処刑を行う」
「やいっ! 何がシャーカーンの広場だっ! あそこは元々親父の…エドバルトW世の広場だったんだっ! あの広場は平和の広場…代々国王の名が付けられている。お前みたいなこそ泥に神聖な広場の名前を汚されたくないね! 明日にはバルトロメイの広場になるっ! 覚悟しとけっ!」
「おやおや、往生際の悪い若造だね」
「うるせぇい! シグ! シグ聞いてるか? よく聞け。俺がダメでも諦めるなっ。お前がまだいる! お前もフィガロ家の血をひいている者だ。必ずフィガロ家を取り戻すんだぞ!」


「若っ!」
 シグルドの鞭を持った手の拳に力が入る。しかし首はうな垂れ茫然自失となる。
『ハゲ頭のクソ爺、明日からはシグルドの広場になる、覚えておけっ! ……こらっ! いてぇじゃねぇかっ、乱暴に扱う…』ブチッとマイクの音が切れる。
「おいっ、シグルドっ、しっかりしろっ! まだ諦めたわけじゃないぜっ!」
 マッシュは大きな手でシグルドの背中をバシッっと叩く。
 よろけるシグルド。マッシュと同じ程の背丈のシグルドだが、さすがにマッシュの豪腕な平手打ちはこたえたらしい。
「マッシュ、手加減しろ」とエドガー。
「あっ、すまない、シグルド…ついつい力が入ってしまった」
 しかしシグルドはマッシュの平手打ちのお蔭で冷静さを取り戻す。
「…いえ…。ありがとうございます。そうですね。殿下のおっしゃる通りです。まだ諦めるわけにはいきません。若の為にも」
「よし。シグルド、マッシュひとまず、ユグドラシルへ戻って作戦を立て直そう」


 シグルド、メイソン、エドガー、マッシュの四人はバルトのギアと一緒にバルト達のアジトにある彼の部屋へと移動する。
「どうやら、シャカーンのスパイがいたようですね。ここなら安全です。若以外にこの部屋へ入れるのは緊急時の為の合鍵を持っているメイソン卿と私だけです」
 さすがに作戦失敗したシグルドは用心深くなっていた。
「ユグドラシルの者達は…? 今頃シャーカーンが我々の動向を食い止めようと、ユグドラシルへ敵兵を回しているのでは?」
 四人とバルトのギア以外の全てをユグドラシルに置いて来た事にエドガーは懸念する。
「ご心配には及びません。念のため艦にはスパイが潜伏していると思いますので、現在ユグドラシルの乗組員には誰一人我々の動向について知らせておりません。
また艦の中でも信頼のおけるごく僅かな者しか実はこのアジトを知り得ません。
そして我々ユグドラシルの者は日頃訓練されております。 シャーカーンが遣わせるギアにも充分立ち向かえる人力は揃っておりますので、返って囮となってくれましょう!」
やはり戦略に関してはシグルドは頼りになる男であった。何事にも手際良い。それ故に彼はバルトが囚われてしまうという失態をしてしまった事に自責の念に駆られていた。
「ところで、その“ギア”とは何なのか?」
 エドガー、マッシュ、メイソンの3人はサンドバギーで、そしてシグルドはバルトの“ギア”に搭乗し、アジトへ向った。
 エドガーがシグルドが搭乗していたバルトの赤い“ギア”に興味を示さない訳はない。
「ヒトの形を表現した巨大な機体でございます。訓練された、またはその機体に同調する者により操縦されて初めて“ギア”は動き出します。
我々の世界ではしばしば、争い事にはこの“ギア”をメインに闘っております。
“ギア”はその機体の性能も去る事ながら搭乗者の持って生まれた“器”にも左右されます。つまり、その能力が高いほど、“ギア”の未知なる力を発揮してくれます」
「何と!! 魔導アーマーに似ているが、それを遥かに超える性能だな…。私がまさしく設計していたものだ。だが、それが実現したとは…!」
 エドガーは魔導アーマーを基にバルト達の世界の“ギア”の初期段階の「機械」を設計しつつあった。
「まさしく、陛下の初期段階の設計が基になっております」
「……そうなのか……!! そして時を経て、このように成長したのだな……」
 エドガーの喜びは天上よりも高く超越したであろう。機械を開発する者としてこれほどの喜びがろうものか。 
「エドガー…陛下は私達の世界では、勇者だけではなく、“ギア”に置いても伝説の人であらせられるのです……そんなお方が、この…私達と…!」
 そう説明するシグルドも、その“伝説の王”を目の前にしている事実に改めて驚きを隠せないでいたのである。
 だが、エドガーの表情は急に曇る。
「争い事にギアが避けれない……それは、私が設計したものが『悪』への手助けもしていたとは!!」
「元はその“ギア”は人間では到底出来ないような作業に使われておりました。主に土地開発等に。
しかし、いつの世にも『悪』が存在します。“ギア”はたまたまその『悪』に利用される事となったのでございます」
 メイソンの淡々と語る口調から、彼の若かりし頃はまだそうではなかったと伺えた。
「兄貴! それより、この“今”はバルトを救出してフィガロを奪回する事が先決じゃないか?」
と、マッシュは思考回路を転換する。
 マッシュは知っていた。エドガーがシグルドに聞かされた内容について、表面にこそ出さないが酷く傷ついた事を。
「う……うん…そうだったな。すまない、余計な事を聞いて」
 マッシュの導きによって軌道を正すエドガー。
「ところで、シグルド、君はバルトのギアを乗りこなせるのか?」
「…私には無理でございます。このギアは若の気性でなくては到底扱えません。私はただ動かすのが精一杯でございます」
「よし、このギアも同調する搭乗者でなくては悲しむだろう。その為には何としてもバルトを救いだすぞ!」
 エドガーの蒼い瞳は輝き始めた。
「それにしても、君がバルトの兄貴だったとはな、驚きだぜっ。不思議だな、背丈は俺と似ているが、性格は俺の兄貴と似ているな。容姿は俺の兄貴とバルトは似てるけど…うーん、ややこしい…。
 つまり、何だな。フィガロ家は代々、兄貴と弟の性格は引き継がれているようだな」
 マッシュなりに解析する。
「いろいろと事情があるのであろう。だが、兄弟が助け合ってフィガロ家、フィガロという国を支えていこうという意志が私達の子孫に受け継がれているのには、私も嬉しく思う。現に私も随分と弟に支えられている…マッシュがいなければ私は国王としての大きな任務を背負えなかったかもしれないからな」
「兄貴…!」
「バルトはまだ若いが、君が側にいて協力し合えば立派に国を再建してくれるだろう」
「陛下…!」
 側で聞いていたメイソンの目頭が熱くなる。
 シグルドは言葉には出さなかったが、エドガーのその言葉を堅く肝に銘じた。
 エドガーもそんな彼の態度に優しく頷いた。
「さて、我々には時間の猶予はない。処刑は明後日、公開にて行われる…。これを利用しよう」
「と言いますと…」不安を隠しきれないメイソンである。
「国民はシャーカーンの悪政によって不満が高まっていると思う。今から明日にかけて出きるだけ早く下準備をする。
 なるだけ国民にフィガロ家直系の後継者バルトロメイ王太子が生きていた事、そして現在シャーカーンに囚われていて明後日、シャーカーンの広場で公開処刑が行われようとしている事、それらの情報を流そう。
 メイソンは民衆に紛れて処刑台へと向かう。マッシュは東の塔で待機しているであろう鉄砲隊の排除を頼む。
 私とシグルドは城を目指し、シャーカーンが立つであろうバルコニーに先回りをする。何分城の警備は手薄になっているから私達3人でも充分城への潜入は可能だと思う。」
 こうしてエドガーの戦略により一向は早速作戦を開始する。

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