第一章 再開

−1−

 ニサン大聖堂客人の寝室。
 そこに眠るアヴェの若き王、バルトロメイは外の喧騒に目を覚ます。
「陛下……」
「ヒュウガか……。入れ……」
 バルトロメイの側近、近衛連隊長のヒュウガ・リクドウは只ならぬ表情である。
「どうした?!」
「ガングラーズが法皇府を進攻しようとしています」
「なんだって!?」
“ガングラーズ”とはエカテリーナ帝国の特設外務省の事である。
「なんだって、ニサンをっ!!」
 エカテリーナ帝国は近年、バルトロメイの国、アヴェを侵攻していたのである。いや正確には国を、、)ではなく、バルトロメイの家を、、)なのだが。まぁこれについては後程語るとしよう。
「ヒュウガ、出るぞ!!」
 バルトロメイはベッドから出ると、大きな扉を開け、廊下へと繰り出す。
「陛下! 眼帯は!」
「そんなもん、着けてる暇はねぇ!」
「しかしっ!」
 薄手の白い夜具に、腰まである金の長い髪を振り乱したバルトロメイは鞭を片手に先を急ぐ。他国へ訪問中のヒュウガは火急に備えて、常に出動態勢にある。よって、既に身だしなみの整った彼は腰に剣を下げ、バルトロメイの後を追う。
 緊急事態を聞きつけたバルトロメイのもう一人の側近、ラカンもこれに加わる。バルトロメイと幼馴染で同年の若い彼も、この騒ぎの直前まで深い眠りに就いていた事を思わせる姿であった。
 長い廊下を駆け、ようやく階下へ降り立つ三人に行く手を阻む者がいた。
「陛下……」
 バルトロメイは慌てて左眼を閉じる。
 アヴェ王、ファティマ家では800年の昔から受け継がれている、古い仕来りがいくつかあった。
 その一つ、生まれたばかりの王子、姫は片眼を取り除く儀式が行われるのである。しかし、それはあくまでも儀式であって、実際に取り除く事はないのだが、当主は眼帯等で片目を隠し、生涯隻眼の人となるのである。真実は身内と、ごく僅かな側近にしか知らされていない。
「ご安心下さい、僕です」
 バルトロメイの又従妹にあたるニサン正教大教母の夫である司教であった。
「しかし……眼帯も着けず、アヴェ国王たる御方が、髪を振り乱し、夜具のままのお姿で法皇府へ出向かれるのは……いかがかと思いますが……」
 司教とは言ってもバルトロメイの一つ年下、まだ17歳の少年であるが、妙に落ち着きがあるのが彼の気に食わぬ所である。
「あのなぁ、お前の頭はおめでたいのか?! ここ(ニサン)の法皇府が攻められているんだぞ! 国民達の安全を考えるのが第一だろうが!!」
 バルトロメイは怒りを顕にする。
「僕が出ます!」
 彼は銃の使い手である。司教とは言え戦力になるのはバルトロメイも熟知している。
「ここは俺が出る! 奴等の目的はこの俺なんだ!! いいか、ビリー、ここを守るのがお前の役目だろ!」
「でも……」
 ビリーは頑なに道を開けようとしない。
「若を行かせてあげて下さい」
「ソフィ!」
 大教母ソフィアも夜具の上にガウンを羽織っただけという軽装で、急ぎ掛けつけたと見られる。
「若…法皇符を頼みます」
 ソフィアとバルトロメイは幼馴染である。バルトロメイが王太子であった頃、側近に“若”と呼ばれていた事から、彼女だけが未だにそう呼ぶのであった。
「……悪いな…俺の所為で迷惑かけちまって」
 ソフィアは大教母らしく静厳な瞳をバルトロメイに向ける。
「行くぜ、ヒュウガ、ラカン!」
「せめて……これでも羽織って行って下さい」
 ビリーは自身の羽織っていたガウンを肩から滑らすと、バルトロメイに差し出す。
「ありがとよ」


 蒼月は西へと傾いていた。
 静夜。
 法皇符は普段と変わらぬ閑静な佇まいである。
「やけに静かだな……」
 トーンを落としたバルトロメイの声が夜のしじまに消える。
「陛下…。私は、あちらを見て参ります」
「あぁ……」
 そう言ってヒュウガは居住区へと赴いて行った。
「バルト、俺達は商業区へ……」
「……」
「バルト?!」
「しっ!」
 バルトロメイのトパーズブルーの瞳はゆっくりと背後を窺う。
「ラカン……聞こえないか?」
「……?!」
「奴の心臓の音だよ!」
 バルトロメイの洞見力はラカンを寄付けぬほどである。


 血が流れるおと)
 それを追うように重なり合う、もう一つのおと)


 バルトロメイの背中に戦慄が走る。
(奴が近くにいる!!)
 瞬きよりも速く視界を過る影。
「……!」
 存在すら確かめる事のできない薄っぺらい風が、バルトロメイの後れ毛を揺らす。その風が去るよりも速く、バルトロメイは屈む。
 バルトロメイの頭上で黒い鞭の先が空気を掴んで虚しく揺れた。
「そこにいるのはわかっている!」
 バルトロメイの視線はラカンには映らない宿敵の姿に向っていた。
「いい加減姿を現しやがれ、シグルド!!」



−2−

「流石……ですね。バルトロメイ陛下……」
 褐色の肌に背中で波打つ銀の髪、そして右目を覆う眼帯。姿を現した長身のシグルド(敵)はバルトロメイを見下ろす。
「それに……日々成長なさっておられるようだ」
「当たり前だっ! 俺はなぁ……俺は……お前のせい、、)で……」
「それは面白い……。私は貴方のお役に立てているのですね……」
「き、貴様ぁーー!!」
 バルトロメイの鞭を握る手に力が漲る。


「やめて! もうやめてよーーッ!」
 金髪の少年、バルトロメイの叫びも虚しく掻き消される、渇いた音。
 ピシッ! ピシッ!
「父上!! 父上ッ!!」
 目前の父の苦痛に歪む姿。
 その距離はほんの僅か。だがそれを隔てている鉄格子。
「強情なお方ですね。早く吐いてしまえば楽になるものを……」
 父王に振り下ろされる鞭。
 また一つ渇いた音がバルトロメイの耳に焼き付く。
「ぐふっ……」
 その鞭を振り翳しているブルーの瞳を持つ銀髪の少年の隻眼は冷血そのものであった。
「……例え死のうとも……私はこの口を開く事はない!」
「私の拷問に耐えられるというのか……」
 銀髪の少年は何度も何度も鞭を振り下ろした。
 バルトロメイは小さな肩を奮わせる。
 宙に舞う鞭と、風に靡く父と同じ色の銀の髪。それらは幼い王子の悔恨となる。
「バルト……」
 ブラウンの髪を持つ幼馴染のラカンがその肩を抱く。
「……王妃様……しっかり……」
 ラカンの母ミリアは、ショックで意識が朦朧としている主を抱きかかえる。
 渇いた音は永遠に鳴り止まぬかのようであった。
「シグルド……気絶しているではないか」
 象牙色の髪の青年がシグルドの鞭を振りまわす手を止める。
「カール!」
 カールと呼ばれた青年は額にかかる少し長めの髪をかきあげる。
「そろそろ自白剤投与……だな……。少し休め」
「……あぁ……」
 シグルドの額の汗が彼の銀の前髪を濡らしていた。


 二人は部屋を後にした。
 シグルドは隣室に入るなり、ぐったりと椅子に身体を預ける。
「俺達は奴の口を割らせるだけだ…最初から自白剤を使えばいい。何故そこまで拘る…? あの国王に」
 カールも手近な椅子に腰を下ろした。
 シグルドの瞳がカールの猫目石の瞳を捉えた。その瞳に宿るものはとても17歳のものとは思えぬほどであった。
「……俺の故郷は……国王アイツ)に滅ぼされた……」
 シグルドが幼少時代過ごした小さな国は、アヴェの東方に位置する小さな国であった。アヴェの文献によると、その国ノルンの壊滅は謎のままである。
 ノルンは砂漠のオアシスに浮かぶ美しい小国である。
「俺は今でも忘れない……。父や母や、国の人々を惨殺する兵士達の鎧に刻まれていたアヴェの紋章を……」
「小さなお前は、たった一人っきりで同胞を懸命に弔っていたな」
 当時カールは任務の為、ノルンを訪れていたのだ。
「俺はお前に感謝している……。天涯孤独となった俺の能力を認め、ガングラーズへと導いてくれたのを」
 ガングラーズ……。
 エカテリーナ帝国の特設外務省は本来、純粋なエカテリーナ人でしか採用は認められない。だが稀にその基準が適用しない事もあるのだ。例え地上人でも有能な人物はカールによって登用されるのである。
「俺は、たまたまお前を“発掘”しただけだ。お前には元々優れた素質がある」
「総司令官のお前にそう言われるのは嬉しい事だ」
「僅か17歳にして、俺の右腕、副司令官になるとは大した奴だ……だが……」
 カールの脳裏に浮かんだ長い黒髪が美しく聡明な顔をした少年。
「ヒュウガがいたら、どっちが副司令官になっていたかな……と」
 半年程前に出奔したシグルドと同年の少年は彼の良きライバルでもあった。
「政府の機密組織である帝室法院の重要な情報データ)を盗み出し、
 法院の使命手配だ。……俺はヒュウガには敵わないな」


「父上! 父上!!」
 小さな身体と手で力いっぱい鉄格子を揺するバルトロメイとラカン。それも虚しく、ぐったりと倒れている目前の父との間を隔てている鉄の塊。
 王子の背後では恐怖の余り、正気を失いかけている母が、侍女であるラカンの母に抱かれ小刻みに震えている。
 アヴェ王朝ファティマ家は、長年に渡ってエカテリーナ帝国に襲撃されていた。それも)ではなく、ファティマ家の当主、国王や嫡子にそのターゲットは向けられていた。そしてある至宝を守る為に自らを犠牲とした国王も少なくはなかった。
 現国王の代ではバルトロメイが生まれる十数年前にも襲撃を受け、前王妃が犠牲となった。それ以来二度目の侵攻であったが、敵国は新たな情報入手に血眼になっていたのである。
「……バルト…ロメイ……よく……聞け……」
 息も絶え絶えな国王はようやく、嫡子バルトロメイに声をかける。
「ファティマの……誇りと……護るべき…ものを……命にかえても……まもって……くれ……」
 幼いバルトロメイは父王にただ無言で力強く頷く。
「…ファティマ家の……使命として……お前に……託す……」
 僅か6歳にしかならない王子は、漠然と物心ついた時から聞かされていたファティマ家の至宝を護るのは使命である事は熟知している。ファティマの碧玉、、、、、、、、)をだ。
 しかし父王が訴える真摯の隻眼。普段の優しい父の眼差しとは打って変わっていたのに気付かぬ王子ではなかった。
 父王は逝こうとしている。碧玉の他に命にかえても護らなければいけない、王子の知らない何かがあるのだ。
「…ぼ、僕は……ファティマのへきぎょく、、、、、、、、、、、)を…まもります……」
「……バルト……すまない……私は……最期のこの時期とき)まで…アヴェ国王としてでしか……お前に……接することはない……かもしれ……ないが………」
 バルトロメイは下唇を噛み、かぶり)を左右に激しく揺する。懸命に涙を堪えるその姿は既に6歳の少年のものでなく、アヴェの後継者としての風格であった。
「ち…!」
 バタンッ!!
 正面ではない、、、、、、)扉が開かれ、バルトロメイの声が掻き消される。
 扉の前に立つ大柄な男は銀の短い髪を振り乱し、顔や手に血痕があった。その右手には銃。明らかに人殺をした模様。
 その男は国王に近付くと、拘束されている手首の縄を荒々しく解く。
「誰…だ……?」
「話している暇はない。王子を助ける。俺はジェサイア。ジェサイア・ハーコートだ!」



−3−

 遠くの廊下での喧騒が、ここ静厳な国王の寝室からも、主には微かに届いていた。しかしそれらは、血塗れで粗雑な男の声に遠のく。
「ジェサイア・ハーコートだ!」
「ジェ……? ハーコート!!」
 既に光を失いつつある国王の隻眼は最期の輝きを放つ。
「ハーコート! お主!?」
「詳しく話している暇はないようだな…奴等が来る……」
 血生臭い大柄の男、ジェサイア・ハーコートは廊下の騒ぎをを察知する。彼と同じく残された僅かな時間を受け入れる国王。
 鉄格子向こうの王子と王子付きのラカン、幼い二人は血塗れの武人に凍りつく。彼は何者なのか!? 彼等にとって悪しき者ではなさそうなのは、王子たちにも何となくわかっていた。
「アヴェ国王……。一つ聞く……」
 ジェサイアは幼き王子を見る。
「あの王子(小僧)は……知らぬ、、、)のだな?」
 国王の隻眼も息子を捕らえた。
「ジェサイア……それが、我が子の為だ……。もう私の代までで良いだろう? ファティマ家で二つの秘宝を護って行くのには限界がある」
 ジェサイアは国王の言わんとしている事を掌握していた。
「我が子バルトロメイは……命にかえても碧玉を護るであろう。……そして……。ジェサイア……もしや時が訪れるかもしれぬ」
 最早、虫の息である国王は彼の最期の使命を果たそうとしていた。
「……だから……ハーコート殿……」
「それを聞いて安心したぜ。頼まれなくても、こっちはハーコート家の誇りを持って護るからな」
「忝い……。あれ(息子)はまだ幼いが、我がファティマ家の誇りだ!」
 小さな手で鉄格子を握り締める幼き王子、バルトロメイは漠然とこの二人(大人)の意志を受け入れていたのである。隣にいた同年のラカンには主の瞳に6歳の少年ではない使命の宿った光を垣間見た。
「あぁ……。あんたこそ、尊いファティマ家の人だ! ……覚悟はしているのだな?」
「奴等が私に自白剤を含ませる前に……頼む……」
 ジェサイアは袖口から小さな包装を取り出す。
「父上……!」
 バルトロメイの鉄格子を握る手に力は入るが、どう足掻いても避けれぬ現実が待っていたのだ。幼い彼には重すぎる現実と使命が刻一刻と迫る。
「王子と後の事は任せておけ!」
 ジェサイアは小包の中身を国王の口に含むと、その後は無駄のない動きで手際良かった。
 廊下に蔓延するガングラーズ軍の兵士を殺傷後に得た小さな鍵で王子達の不自由を解く。
「バルトロメイ殿下、さぁ、こちらへ!」
 ジェサイアは片膝を付いてバルトロメイと同じ視線に立つ。
 バルトロメイはジェサイアの背後にある、父のトパーズブルーの瞳を見る。
 押し寄せてくる小さな玉の雫は片方の眼帯で受け止められる。しかし眼帯で覆われていない方の瞳からは堪えきれず、一粒を流した。
(父上……)
 王子の声なき声は父の元へと届いたのであろうか?
 バルトロメイが蒼い瞳の中の最期に見たものは、誇り高きファティマの国王と、そして息子を愛する父であった。
「……うん……」
 バルトロメイはジェサイアの大きな手に抱かれる。憂いの隻眼は偉大な父王から離れる事はない。幼い王子はその運命を委ねるかのように、ジェサイアに小さな身を預ける。
 ジェサイアがこの部屋を後にしようとしたその時である。
「陛下ッ!!」
 半狂乱の王妃が列を乱した。
「ハーコートと名乗る御方! 
 このような危機に晒されている陛下を置き去りにするとは、何たる事ですか!?」
「王妃様!」
 不安の色を隠せない、王妃付きの侍女ミリア。
 数日前、突如ガングラーズの捕虜となってしまったファティマ一家。そして主の拷問を目の当たりに幽閉された国王一家。
 王妃マリアナは精神的ショックから僅か半日にして失語症となる。
 十数年前、アヴェ国王はガングラーズ軍の進撃により、前王妃を亡くしていた。傷心の王は以後十年、独身を通す。しかし世継ぎのない国王はファティマ家存続の為、側近に強く推されアヴェ南西にある小国の主の一人娘、マリアナを娶る事になった。
 16歳の少女マリアナは色白で見事な黄金色の髪と青瞳を持つ華奢な姫であった。
 ファティマ城での孤独な少女が頼れるのは年の離れた夫、国王だけである。だが国王は未だに前王妃を忘れずにいた。国王はマリアナを愛し大事にしたが、その愛は前王妃を越える事はないと気付いていた王妃であった。それでもマリアナは夫を愛し、尊敬していたのであった。
 愛する夫の最期の危機に於いて、王妃は強い想いの故か、瞬時に失語症を克服したのである。
「すまぬ……マリア……ナ……」
「陛下!!」
「王妃様! 早くッ!」
 崩れ落ちるマリアナの手を取るミリア。
 バタンッ。
 隻眼の男と象牙色の髪を持つ男は荒々しくドアを開く。
「しまった!」
 既に国王に意識がないのを知る。
「王子を逃すな!!」
「クッ!!」
 王子を抱えたジェサイアは踵を返す。
「ハーコート殿、王妃様! 早く!!」
 ミリアは震えながらガングラーズ総司令官の前に立つ。
「どけッ、女!」
 輝く金の剣。
 その先端が天上を仰いだ刹那、ラカンの肌は斑に生温かいものを感じた。
「か……あさん……」
 ラカンの瞳に映る空は真紅に染まっていた。



−4−

「ラカンッ!!」
 バルトロメイはジェサイアの肩越しに手を伸ばす。
「いやぁ―――ッ」
 ラカンと同じく、側にいた王妃は侍女の返り血を浴び悲鳴をあげる。
「……うっ…」
 涙を堪えて立ち尽くすラカンの後姿に悔しさを隠しきれないバルトロメイ。
「……ラ…カン…早く……王妃様と…殿下を……はや……く……」
 ラカンの母ミリアは床に崩れ落ちる。
 ラカンもまた唯一の肉親の最期を哀しむ時間さえ与えられることはない。
「きさまら……ゆるさないッ!!」
 少年は母を殺した男が持つ猫目石へと憎悪の瞳で見上げた。
 バルトロメイとラカンの幼い二人が向けた激昂の眼差しは、悪党である大人達の動きをほんの一瞬止めるに値した。
「さぁ、おうひさま!」
 ミリアの傍らで半狂乱の王妃の手を強引に取るラカン。
「ラカン、母上! はやくッ!」
 ジェサイアの腕の中で何もできないバルトロメイは悔しく思う。だが今、自分に与えられた使命は、何としても彼らから逃れることなのだ。
「小僧……。これ以上犠牲を出したくなければ、お前の主(王子)を差し出すのだな」
 ラカンはまだ生温かい血が滴り落ちる母を斬りつけた剣先を向けられる。
「……そうはさせないよ! いって、バルトッ!!」
「ラカンッ! ラカン!!」
(もうやめてよ! ぼくひとりのために、みんながしんでいくなんてイヤだよ!! ぼくが、ぼくがいくよッ!!)
 バルトロメイは心の中で叫んだ。
 自分の為に大切な人達が死んで行くのを見るに堪えかねない。だが彼等が命に変えても護ろうとした、ファティマの碧玉。それを持っているバルトロメイは今、逃げ切るの事が最優先である。幼い彼が受け入れる現実はあまりにも過酷なものである。しかし彼は一人の少年である前に、ファティマの王子である。バルトロメイの小さな頭は、これらの残虐な現実に混迷する。
 そしてまた一人家族と同じ程大切なラカンが自分の為に命を投げ出そうとしているが、彼を助けるよりも逃げる事を選択しなければならない小さな王子であった。
 ジェサイアの肩に、バルトロメイの小さな爪が深く突き刺さる。厚手の外套をも引き裂きそうな力であった。
「ちきしょう…。貴様等……こんな子供達までに!!」
 ジェサイアはバルトロメイを抱えていない方の手で銃を構えたが……その時。
 あまり聞きなれていない、“シュ―――”という音が、この場にいた者の耳に届いた刹那、目の前が白い煙に包まれる。
 バルトロメイを抱えたジェサイアとラカンは背中に衝撃を感じ取り、闇の空間へと滑り出した。その直後に背後で聞えた爆音。闇の空間を猛スピードで滑って行く3人は無事に陽が当たる処へ出られるのを願うのみであった。
 ようやく光が見えたところで、ジェサイアとラカンは玉突きとなり、暫くしてラカンの背中にも大きな衝動を感じた。
「いてっ!」
 淡いランプの灯りが黴臭い通路をぼんやりと照らしている。それを最初に目にしたのはジェサイアとバルトロメイであった。
「…王子様よ…。どうやら助かったようだな」
 ジェサイアは王子を下ろし、自身の背中にぶつかったラカンの手を取って通路に立たせた。
 そして、ラカンの背後に王妃を抱えた見知らぬ男。
「やぁ、助かったぜ! さっきの煙……」
 ジェサイアは見知らぬ男に向って礼を言う。
 男は意識のない王妃を静かに下ろして立ちあがった。
「少し手荒な真似を致しましたが、あの場では仕方がありませんでした。ここへ抜ける通路への扉は、破壊しておきましたので、我々を発見するのには少しの時間が必要でしょう」
 色白で眼鏡をかけ聡明な顔を持つ男は、淡々と語る。青年のように落ち付いた態度であるが、どこかに少年らしさをも持ち合わせる不思議な人物である。
「ハーコート殿!!」
 通路先からは品のある初老の男が現われた。
「貴方は?」
 老紳士は見知らぬ少年に気付く。
「メイソン子爵殿であらせられますか? ヒュウガ・リクドウと申します」
 名を名乗った少年は深々と頭を下げる。
「…リクドウ……。もしやリクドウ公爵殿?!」
「孫にございます。メイソン殿やファティマ王家の事は祖父から伺っておりました」
「な、何と……! リクドウ公爵殿が生きておられたのか」
「はい。しかし今は話している間はございません」
「そうですね。しかし心配には及びません。既に罪人達は兵士達に捕らわれている事でしょう」
 このような危機に於いて取り乱すこともなく冷静な二人に安堵するジェサイアであった。
「さすが、ファティマ家だ。これで安心したぜ。おい、ヒュウガとやら、小僧達と王妃を預けたぜ!」
「ハーコート殿!?」
「兵士達に易々とっ捕まるような奴等ではないだろう。恐らくあの二人は既に脱出してるだろうな。だが、国王の遺体にちょっと気にかかるところがあるから、見に行ってくるぜ」
 ジェサイアは言うなり姿を消した。
「爺……。父上が……ミリアも……」
 バルトロメイの必至で堪えていた涙がようやく溢れ出す。
「若っ……ラカン殿……何ともおいたわしい……」
 メイソンは二人の身体を抱きしめ、悔しさに彼等の小さな胸に顔を埋めた。
 少年時代から現在まで片時も離れず仕えてきた主を救うことができず、この少年達に合わせる顔のない彼の深い哀しみと悔しさの慟哭は、静かにヒュウガにも届いていたようであった。


 バルトロメイの鞭を握る手が震えている。
「そう…ですか……。貴方達はあの時の事を……」
 銀髪の男シグルドの左瞳から人間らしさを初めて垣間見るバルトロメイ。しかし彼はシグルドの端正な唇の片端が微かに上がったのも見逃さなかった。
 嘗て見た事のないその隻眼に、見なれた残忍な微笑はバルトロメイを困惑させる。
「……な……なんだよ……」
 バルトロメイがそう言った刹那、シグルドはいつもの彼へと戻っていた。
「…まぁ良いでしょう…・。貴方のその情熱的な怒り、、)が私を興奮させてくれますからね……」
 シグルドの威圧感は真夜中のニサン上空の空気を塗り替えそうなほどであった。
「……」
「……バルト……こいつ…狂っている……」
 ラカンに言われなくともバルトロメイは、シグルドの異常なる快楽を体感していたのであった。



−5−

「…シグルドはどうした?」
 特設外務省、通称ガングラーズ、、、、、、)の総司令官、カーラン=ラムサスはモニターから目を離さず、助手に尋ねる。
「…はっ…」
 助手が口を開きかけようとした時、シュンという機械音とともにドアが開かれる。
「…ミァン…様…!」
 助手は入口に立つ、濃い紫色をした長い髪と瞳を持つ長身の女性に敬礼を払う。
「…何の用だ?」
「相変わらずぞんざいな態度ね……」
 背を向けたままのカールに投げかけるミァンは大して気にも留めずに、皮肉を言う。
「…今の君は…こことは関係のない人間だ」
「そうね…でも、シグルドの所在を知らせに来ただけよ」
 カールには自身の背後でミァンが微笑んでいる様が容易に想像できる。
「彼はまた…ファティマの王様のところよ…」
 カールは依然として振り返ることはなかったが、キーを打つ手が瞬時止まったのは誰の目にも明らかである。
「随分とご熱心ねシグルドは……あの坊やに…」
 ミァンが言い終わった後、カールは吐息とも取れぬ息を洩らした。
「暫く頼む…」
 助手にそう告げ席を立ったカールは「報告ご苦労」とミァンに言い放つとドアへと直進する。
「…相変わらずシグルドの事となると…貴方もご熱心ね……」
 背後のミァンの言葉にカールのドアを開ける手は止まった。
「ガングラーズは現在、碧玉のロック解除地域と、謎の人物、ジェサイア・ハーコートを調査中。碧玉捕獲計画よりも最優先との司令のはずよ」
「私の直属の部下であるシグルドの勝手な行動を諌めるのも私の務めだ」
「その必要はないわ、カール」
 ドアを開けようとしたカールの右手に重なり合う白く長い指。
「私が行くわ」
 カールの項あたりで息の掛かったミァンの声、背中に戦慄が走る。
「あの二人の様子を見に行けと……教皇様のご命令ですから」
 エカテリーナ帝国の最高権力者である教皇、、)の命とあらば、異端児と名高いカールでも矢も盾もたまらない。ドアを開けようとする手が止まる。
「ふふっ……」
 背後のミァンは得意の微笑でカールの項にかかる金糸を微かに揺らした。
「シグルドとあの坊やは敵同士だけど……。いずれ……仲良くもしてもらわないとね……」
 そう言ったミァンはカールの手を払い除けると、颯爽と研究室を後にした。
(……教皇はいったい何を……企んでいる!?)


「てめぇ、何のつもりで、ここ(ニサン)に!! 俺の目ん玉欲しいんだったら、何もここじゃなくてもいいだろッ!」
 バルトロメイの金とシグルドの銀、そしてラカンの茶、それぞれの長い髪は優しい風に流されている。
「静かな夜ですね。アヴェでは騒がしくて、貴方とゆっくり話ができませんから」
「なッ!?」
「そのお姿からすると……寝ていたにも関わらず、早々に私の元へ来て下さったようだ」
 シグルドのあまり感情の映さない蒼い隻眼と冷静且つ低い声は、バルトロメイの怒りの域を超してしまう。
「お前の暇つぶしに付き合ってられる程、こっちは暇じゃあねぇんだよ」
「バルト…やっちまおうぜ」
 ラカンは拳を握る。
「ラカン…君…と言ったかな? 君の相手は私ではないだろう? 生憎君の母親を殺したカールは一緒ではない」
(何だ…この空気は……)
 ラカンは態勢こそ崩さないが、その戦意が薄れたかのように立ち尽くす。
「バルトロメイ陛下、貴方に聞きたい事があります……」
 シグルドのバルトロメイに対する言葉は、その残忍な行動とは対極に至って礼儀正しい。
「ビリー・リー・ニサーナ……。ニサン(ここ)の若くして司教であられる御方。司教のお父上の名を伺いたい」
「ふーっ」
 バルトロメイは大きく息を吐き、片手でやや乱暴に頭を掻く。
「そんなこたぁ、わざわざ俺を呼び出して聞く事かよ! 孤児院で育ったあいつの親父の事まで俺は知らないぜ。だがよ、例え知っててもお前に答える義理はねぇよ」
 半ば呆れ顔のバルトロメイ。 
 かわってシグルドはバルトロメイの言葉が耳に届いていないかのように、一点に集中している。バルトロメイの閉じていない方の瞳に。
 片方ずつのトパーズブルーの瞳が交差し合う。お互い宿敵とする相手の瞳が偶然にも同じ色というのも皮肉なものだ。
「貴方は……本当に知らないようですね…」
 シグルドは感情のない声に戻った。
「ならば、本人に直接聞くのみです」
 シグルドはバルトロメイに背を向け、一歩踏み出したが、「待てッ!!」と背後のバルトロメイの声に次に踏み出した足が止まる。
「……邪魔をするのなら、容赦しません」
 シグルドは闇へ笑みを放つと同時に、振り返らず背後の獲物に向けて大円を描いた。
 鞭で空中に描いた円の中心から掻き集められた粒子が、風の刃と化して二人に直撃しようとしていた。
「! バルトッ!!」
「伏せろッ、ラカン!」
 バルトロメイが振りまわす、クロスに切った鞭からの追加効果にて風の刃は相殺した。
「なかなか面白い……私と同じ技で効果を無効にするとは…」
 シグルドは口端を上げた。
 この星では、バルトロメイやラカン達のように特殊な能力を生まれ持つ者は、努力や修行次第では未知なる力を得ることができるのだ。しかしそのようなヒトはわずかで、まして過酷な試練で力をつけるヒトはさらにふるい)にかけられるほど、希有な事である。
「けれど…今の貴方は私の攻撃を避けるのが精一杯……」
 シグルドは容赦なく風の刃をバルトロメイに向けた。
 バルトロメイも同じ動きで刃を避ける。シグルドの言う通りであった。バルトロメイはシグルドに一撃も与えられず、ただ彼からの攻撃を交すのみである。だがラカンから見れば二人の行動はまるで無駄がない。
 やがて砂煙が舞い、バルトロメイはシグルドの位置を見失う。
 だが、次に彼が見たものは…。
「ッ!!」
 両眼、、)を見開いたバルトロメイのトパーズブルーに映したものは、自身の鼻先とシグルドの鼻先が今にも重なり合いそうなほどの空間であった。
 右手首に強く縛られる感覚がようやくバルトロメイを現実に戻す。風の刃を消すことに集中していた彼は、鞭の方への注意を怠っていた。
「…それは…!?」
 しかし驚いたのはバルトロメイだけではなかった。
「碧玉が……揃っている……」
 バルトロメイは眼帯を着けずに来たのを今更後悔はしたが、遅かった。この現状を脳で理解した時には、閉じていた筈の左眼は既に開かれていたのだ。
「くッ!!」
 鞭で固定されたバルトロメイの右手はびくとも動かない。
「……これは驚いた……。我々エカテリーナ帝国がこんな小細工に騙されていたとは…!」
「……ちきしょう……」
 無念の低い声は微かにバルトロメイの吐息とともにシグルドの耳へと届いた。



−6−

「笑いが止まらない…。こうして二つ揃った碧玉を改めて見ると、何と美しい!」
 シグルドの冷酷な瞳が少年のように耀き出す。
「……は…いかねぇ…よ」
 バルトロメイの声は微かにシグルドに届いた。
 この世に二つとない揃ったバルトロメイの碧玉は銀の月光に照らされ煌く。
「そうは…いかねぇよ!」
 シグルドはバルトロメイに腰に差してある短剣を抜かれた刹那、その先端は彼の左眼を貫いた。
「…!!」
「バルトッ!!」
「! ……何て事を……!!」
 シグルドの見開いた隻眼は驚倒している。
「……同じ色でも……お前のように汚れては……いねぇんだよ……」
 対極にあるバルトロメイの隻眼はシグルドを射抜く。
「…お前等なんかに……死んでも……碧玉を渡すもんかッ!」
 微風に流されたバルトロメイの低い呻き声。
「うぁーーーーーーーーーー!」
 美しい水晶体を無残に貫いている短剣が抜かれるとシグルドは左頬に彼の生温かい返り血を感じ取った。
 美しき碧い水晶体からどくどくと流れ落ちる血。バルトロメイの頬に紅雨が流れる。
 シグルドは言葉をなくした。そして自身でも気付ない程の言いようのない感情が零れ出した。
「……てめぇ!」
 次の瞬間シグルドは鳩尾に烈しい痛みを食らう。
 いつになく動揺していたシグルドの一瞬のスキを狙ったラカンの攻撃を受けていたのだ。しかしシグルドがそれに気付き、反撃しようとしたのも束の間、新に彼を乱す声が聞えた。
「…陛下!」
 シグルドにとっては懐かしい声でもあった。
「……ヒュウガ……」
 嘗ての仲間であり良きライバルでもあった男の姿を確認するまでもなく、口をついて出てきたその名。
「……シグルド……」
 小道から姿を現したヒュウガの姿に、シグルドは困惑を隠しきれず、込み上げる思いに押し潰されそうになった。
「……ふっ……俺は幻を見ているのか? 揃った碧玉……。
 その至宝を俺の過ちで壊してしまい……嘗ての仲間が敵側にいたとはな!」
 シグルドは笑いとも泣きとも取れぬほどに狂喜する。
 ヒュウガは目にも止まらぬ速さで剣を振り翳し、バルトロメイが繋がれていた手首の鞭を切り裂いた。
「シグルド……貴方もこんな馬鹿げた事は辞めた方が良いですよ……」
 ヒュウガは狂笑のシグルドを憐れむ。そしてシグルドの足元に捨てられたかのように横たわる主を抱きかかえる。
「……ヒュウ……ガ……」
「陛下……。すみません……来るのが遅くなりました……」
 硬直のシグルドをまるで無視したかのように、血塗れの主を抱きかかえ、去ろうとするヒュウガ。
「そいつは渡さん!」
「それはどうですかね、シグルド……」
 シグルドの声を背で聞いたヒュウガは剣を持つ右手で下から上へと空気を裂いた。
「……」
 シグルドの左眼を剣先が走った刹那、はらりと眼帯が落ちた。左のトパーズブルーとは打って変わって、見開かれた右眼は黒醜を曝け出した。眼球を持たない回りの筋肉は中心へと集まり、それらで埋めた空洞が痛々しい。
「フッ……ヒュウガ……。これは何の真似なのだ? 既に潰れている俺の眼を傷つける事なく、醜い眼を隠している、これ(眼帯)だけを切り裂くとはな……」
「……貴方への忠告ですよ、シグルド。こんな馬鹿げた事はもうやめて欲しいのです。貴方は碧玉を捕獲するのと同時に、バルトロメイ陛下との戦いを愉しんでいます。何故そんな事を……」
 振り返らず背後のシグルドに告げるヒュウガの言動は恐ろしく鎮安であった。
「愉しむ……。確かにお前の言う通りかもな。だがな、ヒュウガ……俺にも戦う理由があるんだ。邪魔しないでほしい」
「残念です…シグルド……」
「俺も残念だ、ヒュウガ…。親友であり、ライバルであったお前が敵側にいたとあらば、お前との戦いは避けれぬようだな」
 シグルドはヒュウガによって壊された鞭を持つ手を振り上げようとしたが、その手は冷たく白い指に止められる。
「ヒュウガの言う通りよ、シグルド…」
「ミァン……」
 手首を抑えたミァンは力こそないが、シグルドの戦意を消失させる程の威圧を与えた。
「こんな馬鹿な事はやめた方がいいわ。貴方が勝手な行動をとったから、二つとない碧玉を一つ失う事になってしまったよの」
「……」
 ミァンに抑えられたシグルドの右手は千切れんばかりに拳を握る。確かに彼女の言った事は正しい。自身が早まらなければ、碧玉の一つを失う事はなかったのだ。
 封印されていた碧玉。二つ揃った美しき碧玉を見たのも束の間のシグルドは、ミァンの言葉にその浅はかな自身の行動を後悔した。
「ここは引き上げるべき。貴方の上官がご機嫌ななめよ、シグルド」
 ミァンに掴まれたシグルドは、無抵抗で完全に戦意が失せていた。左瞳のトパーズブルーが映したものは目前のヒュウガでも、ニサン法皇府の暗い街並みでもなかった。
「……シグルド……」
 ヒュウガの声は闇に消される。それを覆うように掻き消したミァン。
「ヒュウガ……やはり貴方はここに居たのね。元々貴方の祖父はアヴェの騎士でしたものね。戻って当然でしょう。でも、あれ、、)を持ち出した罪は重いわよ。いずれ貴方にも裏切った罪を償ってもらうわ。行きましょう、シグルド」
 ミァンは腑抜になってしまったシグルドを支えながら彼等の前から姿を消した。


「……ウガ……」
 自身で傷つけた左眼に既に痛みさえも感じる事のない程、意識が遠ざかるバルトロメイは何かを求めるようにヒュウガの腕を力なく掴む。
「法皇府に……警戒体制をはってくれ……アヴェより……援軍を……」
「解りました。では早急に。ラカン、陛下を頼みましたよ」
 常に冷静なヒュウガはバルトロメイをラカンに預けると早速にアヴェへと向った。
「バルト……。ごめん…俺が無力で……こんな事になって……。だが後は俺達に任せておけよ」
 ヒュウガやラカンに多大な信頼を持っているバルトロメイは頷くとラカンの腕の中で意識を失った。
 バルトロメイは強敵シグルドを前に自身を傷つける事で、その至宝碧玉を護りぬいた。ファティマ家に生まれた者の運命さだめ)。誰もそれを恨む事も出来ない。バルトロメイもまた命にかえても碧玉を護らねばならなかったのだ。
 ヒュウガもラカンもその事実にはあまりにも痛々しかった。だが彼等は主の碧玉が失われた事に嘆いている時間さえも与えられないのだ。
 残酷な試練は容赦なく彼等を待ち受けていた。
 そして、再開、、)してしまった事を、彼等はまだ知ることもなかったのだ。

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