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Tony Maiden "Back To Basics" |
元ルーファスのギタリスト、トニー・メイデンの初ソロ作が、何故か今頃到着しました。 ルーファスといえば70年代にチャカ・カーンが在籍してたグループとして知られていますが、そのルーファスは、チャカが参加するずっと前の70年代初頭から活動していたファンク・グループということで、トニー・メイデンというギタリストのベテラン振りがうかがえると思います。 初のソロということで、Tはルーファス風のサウンドか、はたまた、チャカ・カーンみたいなサウンドか、歌も歌えるということで、ブラコン調か、と想像力を膨らませましたが、そのサウンドは?。気の抜けそうなスムース・ジャズ作でした…。 プロデュースは、LAの人気ベーシスト、フレディ・ワシントンとミスター・スムース・ジャズ、ポール・ブラウン。ミディアム・テンポのグルーヴの夜を思わせるセクシーなナンバーが多く収録されています。 トニーのギターも、ポール・ジャクソンJr.やドク・パウエル、ノーマン・ブラウンを思わせるスタイルとなっています。ルーファス時にはもう少しロック色が強かったような気がします。また何曲かでは、ルーファス当時から披露していたヴォーカルもフィーチャーされています。 バックミュージシャンは、秋に新作リリースが予定されているブライアン・カルバートソンや、懐かしいニール・ラーセンがキーボード、フレディ・ワシントンのベース、リッキー・ローソンのドラム、ディヴ・コーズのサックスなどとなっています。特にニール・ラーセンがオルガンで渋い仕事をしてます。 チャカとルーファスのラストライブの時のようなファンキーでヤンチャな姿は残念ながらここにはないですが、サウンドの端々で聴かせてくれる本物のファンクネスは、やはり元ルーファスならではのものです。ちょっと骨太なスムース・ジャズ。 8.5 Update |
★★★ |
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Simon Phillips "Out Of The Blue" |
すっかりTOTOのレギュラー・ドラマーにはまった感のあるサイモン・フィリップスのライブ盤が6月23日にリリースされていました。すっかり忘れていてゲットしたのが8月なのでここで強引?にレビュー。 フィル・マンザネラからザ・フー、マイケル・シェンカー、果てはジューダス・プリーストといったヘヴィメタルのバンドから、スタン・クラークやアル・ディメオラといったジャズ・フィールドまで、様々なサウンドのセッションに参加しているその姿は、究極のスタジオ・ミュージシャンといった所でしょう。 ただ特にハードロック、ヘヴィ・メタルのファンの評判はすごぶる悪く、面白くない退屈なドラマーというレッテルが張られているようです。そのことは、ジャズ的な見方からすれば、上手すぎる、器用過ぎる、ということの裏返しのような気がします。 このアルバムは、97年にリリースしたトニー・ウィリアムスに捧げたアルバム「アナザー・ライフタイム」のヨーロッパでのカヴァーツアーを収録したもので、収録曲も、「アナザー〜」や95年の「シンバイオス」からのものが中心となっています。 90年代前半にプロトコルという自己のグループを結成して活動するようになって(アンソニー・ジャクソン、レイ・ラッセルら参加)のサウンドは、ロックやジャズ、ファンクなどのリズムが複雑に交錯するテクニカル・フュージョンといったものですが、このライブ盤でもそんなサウンドがライブの勢いとともにパワフルに展開しています。今回のツアーには、プロトコルや「アナザー〜」にも参加していたアンソニー・ジャクソンが不参加なのは残念ですが、ジェリー・ワッツJr.(b)やアンディ・ティモンズ(g)といった中堅どころのミュージシャンがバックのためサウンドのまとまりはいい感じです。 ロックとジャズを行き来するドラマーといえば、ジャーニーのスティーヴ・スミスあたりがそうですが、彼なんかのサウンドは分かりやすいけどどこか垢抜けない田舎臭さを感じますが、サイモン・フィリップスのサウンドは、そんなに難解でもないしポップな要素もたくさんあるのに、どこか1クラス上の感じがするんです。やっぱりイギリス出身というサイモンの生い立ちも関係しているんでしょうか?。 ちょっと毛色は違いますが、スコット・ヘンダーソンのトライバル・テックのようなサウンドが好きなフュージョン・ファンはいける音だと思います。スムース・ジャズ全盛の今日、テク優先のこんなフュージョンは冷遇される傾向にあるので、個人的には好きなので大切にしたいタイプの音楽です。 8.5 Update |
★★★ |
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David Hazeltine "After Hours" |
最近アクティヴなリリースは続いているミルウォーキー出身のピアニスト、ディヴィッド・ヘイゼルタイン。 今回のリリースは、一時日本でも活発なセールス活動をしていたベン・シドランが主宰するレーベルであるGo Jazzからです。5月のヴィーナス盤に続いて早くも新作発売か!と思ったのですが、そうではないようです。 1988年と1991年にミネアポリス(プリンスやテリー・ルイス&ジミー・ジャムの故郷です。)にライブ・ギグで訪れた際、その時にレコーディングしていた音源が、何故か今になってリリースされたもののようです。全編、ヘイゼルタインの魅力が一番伝わるトリオで、バックメンバーもミネアポリスのローカル・ミュージシャンとなっており、
ベースには、ベン・シドランとの共演で知られ、リッキー・ピーターソンの兄でもあるビリー・ピーターソン、ドラムはケニー・ホーストです。 収録曲は、ハバードの「ハッピー・タイムス」やスタンダードの「グッドバイ」「アイ・ゲット・ア・キック・アウト・オブ・ユー」エリントンの「キャラバン」そして
ヘイゼルタインのオリジナルなど全13曲収録されており、バド・パウエル〜バリー・ハリス路線の正統派の堂々としたバップ・ピアノを披露してくれています。 この作品の大きな意義は、ミルウォーキーでのローカル・ミュージシャンだった時代の演奏がトリオ演奏として記録されていたことです。今までSharp9やCrissCrossなどから発表されていた彼のリーダー作は、1992年にニューヨークへ進出してからの演奏ばかりでしたが、この演奏を聞くと、良い意味で垢抜けない自然体のヘイゼルタインの魅力を改めて実感出来ます。 この作品のタイトルは「アフターアワーズ」と名付けられてる通り、録音はライブ・ギグが終わった後の深夜2時〜5時あたりに収録されたもので、ライブの後のテンションの高鳴りとリラックス感がミックスされたジャズらしいジャズといえるサウンドになっています。 年齢的にはそんなに若くないピアニストですが、過去のこんな作品まで発表される所を見ると、現在のNYのジャズ・シーンではかなり注目されてる存在のようで、ひょっとしたらメジャー・デビューも遠くないのかもしれません。 チャールス・マクファーソン、フレディ・ハバード、ソニー・スティット、ペッパー・アダムス、チェット・ベイカー、スタンリー・タレンタイン、マリーナ・ショウ…そしてエリック・アレキサンダーと彼と共演したジャズ・メン達は枚挙にいとまがありませんが、彼らジャズ・ジャイアンツ達が認めた遅れて来たジャズ・ピアノのニュー・スター、ディヴィッド・ヘイゼルタイン。今作を含め自信を持ってお勧めしたいピアニストの新星です。 8.8 Update |
★★★★★ |
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David Hazeltine "A World For Her" |
上に続いてまた、ヘイゼルタインのニューCDが今度はCrissCrossから到着しました。今回の作品は、昨年の5月と12月に録音されたブラン・ニューCDとなっています。 今回はヘイゼルタインのピアノに、ペーター・ワシントンのベース、ルイス・ヘイズのドラム(3曲でジョン・ファンスワース)というトリオに、ジャヴォン・ジャクソンのテナーを加えたカルテットが中心で、一部はトリオとヴァイブのスティーヴ・ネルソンを加えた編成になっています。 選曲ですが、日本のヴィーナス盤でエヴァンス集をやった影響か「マイ・フーリッシュ・ハート」をやっていたり、コルトレーン・ナンバー「モーメンツ・ノーティス」(ピアノ・トリオでやってます)をやっていたりするあたりが目新しいところです。 ホーン入りといえばエリック・アレキサンダーとの共演が印象的なヘイゼルタインですが、今回のジャボンとの相性は、意外にも悪くない感じがしますヘイゼルタインのバピッシュなピアノを引き立たせる意味で良い仕事をしています。上ではトリオが一番と書きましたが、ホーン入りとなると、ソリッドなバップ感が強調されるようです。 最近本当にリリースが活発になったヘイゼルタインですが、ストレート1本勝負だった初期に較べて、投げる球種も増え、緩急が付けられるようになった気がします。特に約10年前の上の作品と聞き比べると、そのことが顕著に感じられるはずです。ただ直球の凄くいいピッチャーのようなキャラクターのピアニストなので、変に気をまわしすぎて、変な方向にだけはいかないようにしてもらいたいです。 CrissCrossらしい良質の現代のハード・バップ作。 8.11 Update |
★★★★ |
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David Kikoski "The Maze" |
ロイ・へインズのバンドのピアニストとして知られるNYをベースに活動する中堅ピアニスト、ディヴィッド・キコスキーの新作が、前作同様CrissCrossよりリリースされました。 前作「インナー・トラスト」はトリオ編成でしたが、今回はスコット・コリー(b)ジェフ・ワッツ(ds)にシーマス・ブレイク(Ts)を加えたカルテットとなっています。 ベースのスコット・コリーやシーマス・ブレイクは最近結構アグレッシヴな非スウィング系ジャズをやったりするミュージシャンで、収録曲もすべて、キコスキーのオリジナルということで、そんなサウンドかなと聴く前には危惧していたのですが、CrissCrossとしてはやや左よりのサウンドながら、60年代のモーダルなジャズを今にフィード・バックしたような作品となっています。 キコスキーのピアノは、マッコイやハンコック、コリアといった60年代以降のピアニストの影響を均等に受けたようなスタイルの持ち主で、小賢しいテクニックに頼らず力で押していけるタイプのピアニストです。今作のポイントはドラムのジェフ・ワッツで、彼のくせのあるパワフルなドラムが、キコスキーのパワー志向の側面ひきだしています。また、若手のブレイクもトレーン派丸だしのプレイながら、力負けしていない堂々としたブロウは聴きどころのひとつです。 60年代のモーダルなサウンドを追及すれば、とかく、テクニックと小技やアレンジに凝りつまらない作品(好意的なひとはクリエイティヴなジャズと呼ぶそうですが…)になりがちですが、このキコスキー盤は、ジェフ・ワッツのおかげで、パワフルないいジャズとなっています。9月にリリース予定のワッツの初ソロ作が楽しみになります。 8.11 Update |
★★★ |
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Rodney Whitaker "The Brookilyn Session〜Ballads And Blues" |
ウィントン・マーサリスやロイ・ハーグローヴ、日本の大西順子らとの共演で知られるベーシスト、ロドニー・ウィテカーのリーダー作がCrissCrossから到着しました。 ファースト作とセカンド作を発表したDIW盤に続く3枚目の作品となる(ますまさんご指摘有難う御座いました)今作はまず、「The Brookilyn Session〜Ballads And Blues」というタイトルからしてかっこよくないですか?。サウンドも50年代のジャズを彷彿とさせる力強くスウィングするもので、ロドニーのコントラバスも、ポール・チェンバースを思わせる安定感とパワーを感じさせます。 メンバーは、ウィテカー(b)ロン・ブレイク(Ts、Ss)ワイクリフ・ゴードン(Tb)ステフォン・ハリス(Vib)エリック・リード(p)カール・アレン(ds)で、特にウイントン・マーサリスのピアニスト、エリック・リードと、カール・アレンのドラムが
印象的です。エリック・リードのピアノは50年代な伝統的な部分と、バラードで見せるモーダルアプローチが高次元でバランスされた素晴らしいピアニストに成長しています。カール・アレンとウィテカーのリズムは忘れかけていた本当の4ビートジャズの魅力を思い出させてくれます。 アップテンポではスウィンギーに、バラードでは繊細に、ブルースでは、どっしりとしたリズムを、というジャズでは当たり前のことが、薄っぺらい目新しさやアグレッシヴさばかりに耳目が集まる最近のジャズの世界ではとかく忘れがちです。 そんなジャズの魅力がいっぱいの90年代ハード・バップの名盤誕生といったところです。 ベーシストどうしで比較しても、派手さはないですが、どっしりとした重みのある4ビートを聴かせてくれるという意味で、クリス・マクブライドなんかよりも上だと思います。現代のポール・チェンバースともいうべき、ロドニー・ウィテカーの新作ずばりお勧め盤です!。 8.11 Update |
★★★★ |
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Norman Brown "Celebration" |
1992年にモータウン・レコードのジャズ・ディヴィジョンとして作られたレーベルMoJazzから華々しくデビューしたギタリスト、ノーマン・ブラウン。 鳴り物入りで設立されたMoJazzも活動休止となり、所属アーティストであったノーマンもどうするのかな、と思っていると、ラッキーにもワーナーとの契約に成功したようで、このほど、ワーナー移籍第一弾となる新作が到着しました。 96年にMoJazzでのラスト作となった「ベター・ディズ・アヘッド」以来約3年ぶりとなるこの新作では、メイン・プロデューサーに、ボニー・ジェイムスを手掛け大成功をおさめたスムース・ジャズを代表するプロデューサー、ポール・ブラウンを起用し売れ線スムース・ジャズの王道を行くようなサウンドとなりました。 ノーマンのギターは、他のジャズ〜フュージョンの黒人ギタリストの多くと同様、ウェス〜ベンソン・ライクなギタリストで、おまけに、スキャットとギターのユニゾンやリードヴォーカルもとる、ということで、そのまんま、ジョージ・ベンソンです。ただ、ベンソンほど音の太さは無いので、良い意味では聴きやすく、悪く言えば軽い、ギターなので、サウンド全体の出来不出来は、作曲やアレンジなどにかかって来るわけですが、この作品に限っていえば、それもイマイチなんです。 ほとんどの曲をノーマン自身が買いているのですが、どれもミディアムテンポのメロウ・グルーヴなサウンドで、どれも同じような曲なのでインパクトがありません。インパクトといえば、スタイリスティックスの「ユー・メイク・ミー・フィール・ブラン・ニュー」をノーマンのヴォーカル入りでカヴァーしている位です。MoJazz時代はもう少し、良い意味での無骨さやゴツゴツ感があり、それが、他のベンソン・フォロワーとの差になっていたのですが、今作では、あまりにもスムース・ジャズ・チャートを意識しすぎるあまり、サウンド全体が去勢された印象があります。 サポート・メンバーには、ラリー・キンペル(b)ハーマン・ジャクソン、ティム・ハインツ(key)レイフォード・グリフィン、リル・ジョン・ロバーツ(ds)リック・ブラウン(Tp)ジェリー・ヘイ(Horn)レニー・カストロ(Perc)といった西海岸のファースト・コール達が参加してますが、目立ったところはありません。 要はスムース・ジャズのサンプルといった感じの匿名性の高いサウンドなので、ノーマン・ブラウンというギタリストの個性や実力は半分も出しきれてません。次作は、ヒップホップなり、ジャズなりのもっと「ガツン」とくるサウンドを期待します。
そろそろ、「金太郎飴」状態のポール・ブラウンのプロデュース作には飽きがきました。 8.14 Update |
★★★ |
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Ray Obiedo "Modern World" |
ハービー・ハンコックやステイール・パン奏者アンディ・ナレルといったジャズ〜フュージョン・シーンから、ウィスパーズのプロデュースといったR&Bシーンまで幅広く活動するサンフランシスコのギタリスト、レイ・オビエドの新作が、マイナーレーベルのDOMOから届きました。 長年アンディ・ナレルとともにウィンダム・ヒル・ジャズの看板アーティストとしてリリースを重ねてきたオビエドですが、ウィンダム・ヒル・ジャズがメジャーになりつつある今日に、移籍してマイナーからのリリースというのは何か皮肉なものです。 結果的にウィンダムヒルのラスト作となった「スウィート・サマー・ディズ」から約2年振りとなる新作は、前作を踏襲したサウンドで、彼の打ちこみをベースに、ラテンの風味を効かせた、クールなスムース・ジャズとなっています。前作に較べて、少しライブっぽいラテンナンバーが多くなったような気がします。 「スウィート〜」のピーボ・ブライソンのような大物ゲストは無いものの、サンフランシスコのジャス・シーンのベテランらしく、ディヴィッド・ガリバルディ(タワー・オブ・パワー、ds)ネルソン・ブラクストン(ブラクストン・ブラザース、b)アンディ・ナレル(Steele‐ds)ボブ・ミンツァー(sax)トゥーツ・シールマンス(Harmonica)など、今作も豪華なゲストが参加しています。特に1曲のみの参加ながら、ハーモニカのトゥーツ・シールマンスが、クールな哀愁?ともいうべき絶妙なソロを聴かせてくれます。 オビエドのギターは、昔からそうなのですが、ブルージーさや熱さなどとは無縁のクールで無機的な雰囲気がするもので、それが彼のソロ・アルバムの個性となっているようです。一般的にこの種のスムース・ジャズは夜が似合うものが多いのですが、このオビエド盤は朝〜昼にかけても聴ける1枚のはずです。 日本のフュージョン・ファンにはほとんど無名の存在かもしれませんが、知名度以上の実力は確実にあるギタリストとして、記憶しておきても損はありません。サマー・スムース・ジャズの佳作。 8.14 Update |
★★★☆ |