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John Tropea "Something Old,New,Borrowed and Blues" |
今ではフュージョン全盛期を知る数少ないギタリストとなったNYを拠点に活躍するジョン・トロペイの新作が、今作もベーシスト、ウィル・リーとのコラボレーションという形でリリースされました。 約1年半前にリリースされた前作「チェンジ・ザ・ワールド」同様ウィル・リーとの共同プロデュースで、スティーヴ・ガッド、リック・マロッタ、チャーリー・ドレイトン(ds)リッキー・ピーターソン、ボブ・ジェームス、レオン・ペンダーヴィス(key)ロニー・キューバー(sax)レイラ・ハサウェイ(Vo)らが参加しています。 収録曲は今作も「レッツ・ゲット・イット・オン」「ロング・アンド・ワインディング・ロード」またパーカーのナンバー「ドナ・リー」などのカヴァーナンバーが多く入っており、特にロバータ・フラック&ダニー・ハサウェイの最後のデュエットとなった「ユー・アー・マイ・ヘブン」が聴きものです。ウェスをかなり意識したようなトロペイのギターをバックにレイラとウィルが歌ってるんですが、レイラのヴォーカルを聴いていると、お父さんの声がオーバーラップして聞こえる感じなんです。今までは意識的にか、父親であるダニー・ハサウェイの関係するナンバーを避けてきていた感じがしたレイラでしたが、ここでは、思いっきり父親に対するオマージュを感じさせるヴォーカルとなっています。またちょっと線が細いけど、ソウルフルなウィルのヴォーカルも、ルックス同様のカッコ良さです。レイラは「ロング〜」でもリードヴォーカルをとっています。 何かレイラ・ハサウェイのアルバムのレビューみたいになってきましたが、レイラ&ウィルの「ユー・アー〜」を聴くだけでもこのアルバムを買う価値は十分あると思います。その他の曲も、R&B感覚に溢れたレイドバックした良い曲ばかりで、スリルやテンションは無いですが、安心して聴ける高品質なものです。 SJ誌のレビューに「トロペイがリーダーである必然性が無い…」などとタコな評論家が書いてましたが、そんなことはどうでもいいんです。リチャード・ティーもエリック・ゲイルもこの世にいない中、往年のNYフュージョンの立役者が集まって、R&B風味のグルーヴィーなインストをやってくれる。もうそれだけで、誰がリーダーでもいいんです。こんな音を出してくれれば…。 トロペイのファンはもちろん、ウィルのファン、レイラのファン必聴の手作り感覚いっぱいの「フュージョン」作(スムース・ジャズにあらず)です。 7.21 Update |
★★★★ |
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Gregg Bissonette "Gregg Bissonette" |
昨年にリリースの作品なんですが、リクエストがあったためにここでレビューします。 一般的には、ディヴ・リー・ロス・バンドのドラマーとしてロック方面で特に評価の高いドラマー、グレッグ・ビソネットのリーダー作です。 ただもともとは、メイナード・ファーガスンやブランダン・フィールズなどジャズ/フュージョンの人達ともセッションしていたという、オールラウンドなドラマーです。最近では、昨年暮れのラリー・カールトン&スティーヴ・ルカサーのジョイント・ツアーにも同行し、Tも大阪ブルーノートで見ましたが、テクニックとパワー、センスのバランスが高次元でとれた凄いドラマー、タイプ的にはジェフ・ポーカロを思わせるものがありました。 このリーダー作は、グレッグのタイコと兄弟のマット・ビソネットのベースというリズムに、ギタリストが参加するという企画で、参加しているギタリストがもうすごいことになっているんです。スティーヴ・ヴァイ、ポール・ギルバート、アンディ・サマーズといったロック系から、スティーヴ・ルカサー、マイケル・トンプソンのLAスタジオ系、それに、スコット・ヘンダーソン、マイク・ミラーのジャズ/フュージョン系まで、そうそうたるメンバーが参加し、期待通りのプレイを披露しています。 リズムがロックのため収録曲は8ビート中心で、フュージョンというよりもロック・インストといったものなので、フュージョンの嫌いな楽器マニア系ロック・ファンにもお勧めです。 個人的には、Mr.Bigのポール・ギルバートとスティーヴ・ルカサーの参加ナンバーが気に入りました。 やっぱりジェフ・ポーカロっぽいなと思いながら、グレッグについての資料を眺めていると、ジェフ・ポーカロの死後、TOTOのトラもやってたとのこと。そうですよね。サイモン・フィリップスよりも、彼の方が適任だと思います。 7.21 Update |
★★★ |
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Charles Earland "Cookin' with the Mighty Burner" |
MUSEレーベルに近作を残していたオルガン奏者チャールス・アーランドの新作(といっても録音は97年5月)が、そのMUSEの流れを汲むHighNoteからリリースされました。 参加メンバーはアーランドのB3に、ヘタウマなソウル・ジャズ・ギターの重鎮メルヴィン・スパークスのギター、ボビー・ダーハムのドラム、エリック・アレキザンダーのテナー、エリ・アレの盟友ジム・ロトンディのトランペットに、ゲイリー・フリッツというパーカッションというもの。 オルガン・トリオに、テナーとトランペットのフロント・ラインという普通の編成に、収録曲もマイルスの「マイルストーンズ」シルヴァーの「シスター・サーディ」クインシーの「キラー・ジョー」スタンダードの「ステラ・バイ・スターライト」とまた普通。聴く前にだいたい雰囲気がわかる作品なんですが、実際に聴いても想像どおりのサウンド。一言で言えばスイング&グルーヴィーなB級オルガンジャズといったところなんですが、何故かこれがまた「いいんです!(c)川平英慈」。 アーランドのオルガンが、ジミー・スミスやジャック・マクダフあたりに較べて、コテコテ度が低く、しつこくなく、良い意味でシンプルなプレイに徹しており、また、スパークスもソロはメロディ重視、バッキングはグルーヴ優先というソウルジャズの鉄則を守った職人的なプレイで好感がもてます。 一方、フロント・ラインですが、このリズム・セクションに、ヒューストン・パーソンやスタンリー・タレンタインあたりが来ると「そのままやん」的になるんですが、若手の有望株のエリ・アレとロトンディということで、コテコテな所に、クールさやちょっとモーダルなカッコ良さをプラスしています。 夏にぴったりな暑苦しくないソウル・ジャズ。エリ・アレ・ファンは要チェック。ちなみにMUSEでのアーランドの旧作にもエリ・アレ参加。 7.25 Update |
★★★ |
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Chuck Loeb "Listen" |
80年代初頭から、スタン・ゲッツのグループやステップス・アヘッドに参加し、その後は、日本のジャズ・シティ・レーベルに初リーダー作を残し、以降はdmpレーベルにリーダー作をコンスタントに発表してきたギタリスト、チャック・ローブ。 Shanachieレーベル移籍3作目にあたる新作「リッスン」が到着しました。 dmp時代は、ちょっとフォーキーで無骨なフュージョン作といったローブのリーダー作でしたが、Shanachie移籍後の作品は、スムース・ジャズ路線を邁進し、そのブームとともにソロ・アーティストとしてのポジションは急上昇。今やスムース・ジャズ界の中心人物の一人として、ソロ作だけでなく、マイケル・フランクスやスパイロ・ジャイラなどベテラン勢のプロデュースも手掛けるなどアーティストとしての、一つの頂点を極めつつあるチャック・ローブの新作ですが、今作も高品質なスムース・ジャズを展開。目新しいポイントは無いものの、Shanachie移籍後のクリアなグルーヴにのせてローブのメロウなセミアコが歌い上げるというスタイルを、プロデューサーとしての目でもう一度自らのサウンドを煮詰めなおしたような、丁寧な仕事振りが実感できるサウンドとなっています。 参加メンバーは、スパイロ・ジャイラのジェイ・ベッケンシュタインやレーベル・メイトのキム・ウォータース、ウォルター・ヴィーズリーがサックス、ボブ・ジェームス、ミッチェル・フォアマン、ジム・ビアードがキーボード、ベースに、元デファンクトのロン・ジェンキンスやジョン・パティトゥッチ、ドラムにウルフガング・ハフナー、トランペットに、話題のドイツ人トランペッター、ティル・ブレナー、ヴォーカルに奥方のカーメン・クエスタらとなっています。 スムース・ジャズの優劣のポイントは、演奏者のプレイの力量もさることながら、より作曲やアレンジ、ミックスなどのサウンド周辺の要素に左右されると思います。4分位で、心地よく聴かせ印象を残しつつ、過剰に刺激はしない。これはCM音楽やTVやラジオ番組のジングルなどと共通するものだと思うんです。そういえば、ローブは、80年代中期のステップス・アヘッドに参加してた頃、CNNのジングルの制作もやっていたそうで、やはりその才能が、スムース・ジャズ全盛の今日、彼のサウンドをクローズアップさせる原動力になっているのかもしれません。 スムース・ジャズのお約束のカヴァーものは、マイケル・ジャクソンの「ロック・ウィズ・ユー」(ロッド・テンパートン作)が
収録されてますが、グルーヴィーでかなりのものでした。スムース・ジャズのリファレンス・ブック的な1枚。 7.28 Update 音声ファイル7.30追加 |
★★★★ |
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Earl Klugh "Peculier Situation" |
アール・クルーのウィンダム・ヒル・ジャズ移籍第一弾となる新作「Peculiar Situation」が到着しました。 移籍第1作目ということで、大きな仕掛けやコンセプトの変化があるのかと思ったのですが、ヴォーカルにロバータ・フラックが参加したナンバーが1曲収録されているのみで、基本的なサウンドの路線は、70年代半ばにブルーノート!よりソロ・デビューした当時から変化してないようです。今作も歌モノに出来そうなメロディアスなナンバーをあの優しいアコースティック・ギターが奏でるおなじみのサウンドが詰まっています。 まぁあえていつもとの違いを言えば、ほぼ全曲でレニー・プライスという人のサックスがフィーチャーされてるくらいですが、このサックスも可も無く不可も無くと言った印象で、主役はあくまでもクルーのギターです。ロバータ・フラックのヴォーカルでさえも、クルーのギターの前では、印象が薄くなるほどですから、やはりアール・クルーのアコギはワン&オンリーなものです。 ただクルーの名盤は、いつも他人のプロデュース作品なんですよね。例えば初リーダー作のディヴ・グルーシン、共演作もリリースしたボブ・ジェームスやディヴ・マシューズなど。芸風が固定化して久しいクルーなので、次作あたりは、強力なプロデューサーを迎えた力の入った作品を期待します。気持ち良いですが、そろそろ飽きがきてます。正直なところ…。 7.28 Update |
★★★ |
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Javon Jackson "Pleasant Valley" |
ジャズ・メッセンジャーズ出身のテナー奏者ジャボン・ジャクソンの新作が登場しました。 前作がアメリカン・ルーツ・ミュージックにスポットを当てたもので一般的な評価も高かった(T的にはつまらなかった…)だけに、次作への期待も高まっていましたが、今作はオルガンものでした。 今が旬な、ラリー・ゴールディングス(Org)スティープル・チェイスなどに多くのリーダー作を残しているデイヴ・ストライカー(g)ビリー・ドラモンド(ds)というオルガントリオを従えた60年代後半感覚のソウル風味のジャズとなっています。4ビートもの以外にも、スティーヴィー・ワンダーの「ドント・ユー・ウォーリー・バウト・ア・シング」やアル・グリーンの「ラブ・アンド・ハピネス」がカヴァーされていて8ビートでグルーヴィーに料理されてるなど、それなりにカッコイイ作品となっています。特に、ゴールディングスとストライカーが大活躍で、回顧趣味に陥りそうな企画に、エッジがプラスされてます。 がしかし!、肝心のジャボン・ジャクソンのサックスは相変わらずヘロヘロ。焦点の定まらない夢遊病のようなソロは相変わらずです。まぁそれが味といえば味なんでしょうが、それはそれでもう少しプレイに緩急をつけられないものでしょうか? ただ今作が60年代後半の胡散臭いソウル・ジャズ的な企画なので、それなりにジャボンの亡羊としたサックスがはまっていることは事実ですが。 何でジャボン・ジャクソンのテナーにここまで辛口かといえば、メジャーのBNへ移籍前、クリスクロス・レーベルでの、エルヴィン・ジョーンズらと競演した作品では「ガツン」としたプレイを効かせてくれた人だけに、これで終わってもらっては困る人だからなんです。多分気の多いミュージシャンなんでしょうね。いろいろやりたいけど、どれも中途半端。この芸風はブランフォード・マーサリスなんかにも共通するものです。次作あたりでは、サイドにベテランを集め、逃げられないようなシチュエーションをつくった上でのガチンコ勝負の骨太なリアル・ジャズを期待します。もしそうじゃなければ…。その時ははっきりと見切りをつけたいと思います。 作品自体はカッコイイですから、3つ星ですが、ジャボンのサックスは不合格です。サイドメンに足を向けて寝れない1枚。ゴールディングスとストライカーのファンは絶対買いです。 7.28 Update |
★★★ |