Swingroove Review

July


Kenny G  "Classics In The Key Of G"

 噂されていたケニーGのスタンダード集が到着しました。
 国内盤も発売され、インフォメーションも多い作品なので、T流の○と×を気がつくままに…。(実はあんまり書くことないんです)
 ○:ボサノヴァ・ナンバーへのチャレンジ「デサフィナード」「イパネマの娘」。美しいウォルター・アファナシエフのサウンドワーク。ネイザン・イースト=リッキー・ローソンの歌モノバック・コンビのシュアーなリズム。相変わらず美しいソプラノ・サックス。
 ×:3曲目のサッチモとの仮想デュオ「ホワット・ア・ワンダフル・ワールド」、サッチモとケニーGは水と油、、サッチモに失礼、話題先行内容なし、ナタリー&ナット・キング・コールの「アンフォーゲッタブル」だけにして欲しい。ポール・モーリアやリチャード・クレイダーマンと紙一重の退屈さ。
 ジャズ嫌いにアピールするインストゥルメンタル・ポップ。

★★★

Various "Double Scale"

 今やスムース・ジャズ界の頂点を極めた感のあるウィンダム・ヒル・ジャズの新譜です。
 ジャケットだけ見るとコンピュレーション作品かと思いがちですが、全曲新曲です。この作品のプロデュースは、ルーサー・ヴァンドロス・バンドのギタリスト出身で、何枚ものリーダー作を発表しているドク・パウエル。ただドク・パウエル名義の作品では無い為か、あまりギターを弾いておらず、キーボード中心の参加で、サウンドコーディネーター的な裏方に徹しているようです。
 参加ミュージシャンも豪華で、サックスにエヴァレット・ハープ、トム・スコット、トランペットに、チャック・マンジョーネ(懐かしい!)オスカー・ブラッシャー、キーボードに、ボビー・ライル、パトリース・ラッシェン、ジョー・サンプル、ベースにマーカス・ミラー、セクー・バンチ、バイロン・ミラー、ドラムにリッキー・ローソン、ヴォーカルにティム・オーエンス、ゲイリー・テイラー、パーカッションにスティーヴ・クルーンらが参加。
 サウンドの方も、参加ミュージシャンからも伺えるような、ブラコン風味(古い?!)のスムース・ジャズで、それぞれのゲストが1曲ずつフィーチャーされているような構成となっています。収録曲は、ドク・パウエルのオリジナルによるグルーヴ感溢れるもので、1曲、シカゴのナンバー「イフ・ユー・リーヴ・ミー・ナウ」も入っています。
 この中でのベスト・トラックはマーカス・ミラー&ジョー・サンプル参加のTrHでしょう。
 際立ったものはないものの、全体のバランスのとれた好作です。

★★★

Philip Bailey "Dreams"

 前作が、日本のエイベックスから、そして今作が、アメリカのスムースジャズ系のインディーズ、ヘッズ・アップからのリリースと、アメリカのメジャーからは悲しいかな見放された感のあるEW&Fのリードシンガー、フィリップ・ベイリー。
 フィル・コリンズとのデュエット「イージー・ラヴァー」の頃が懐かしくはありますが、気を取りなおしてレビュー。この新作「ドリームス」なんですが、短刀直入に言いますと「かなりいいんです」。マイナー・レーベルからのリリースにもかかわらず、参加ミュージシャンが豪華です。ジェラルド・アルブライト、ロバート・ブルッキンス、ジョージ・デューク、カーク・ウェイラム、エヴァレット・ハープあたりは想像できるんですが、グローヴァー・ワシントンJr.や何とパット・メセニー!までが参加しているんです。
 おまけに、パットの参加曲は、パットのアルバム「ウィ・リヴ・ヒア」収録の「サムシング・トゥ・リマインド・ユー」にベイリーが歌詞を付けたナンバーという凄いことになってます。このバージョン、意外とはまってます。パットとの関係でいえば、彼のバンドにも在籍したマーク・レッドフォードに通じるものがあるのかもしれません。
 その他の曲も、レーベルや参加ミュージシャンから想像出来る通り、スムースジャズ風味のラテン調の曲やバラードが多く、前作にあったヒップホップスタイルや、ディスコ調のナンバーは陰を潜めています。そのために、さらっと聴くと地味な印象を持つかもしれませんが、じっくり聴くと本当に良く作り込まれたアーバン・コンテンポラリー作であるということが実感できるはずです。
 EW&Fの全盛期から約20年。「イージー・ラヴァー」の大ヒットからでも約15年が経った今、もうそろそろその呪縛から開放してあげたらどうでしょうか?。それらのイメージを引きずって聴くと、何かもの足りなく思うかもしれませんが、一人の実力派のシンガーの作品として聴けば満足度120%のはずです。
 新しいフィリップ・ベイリーの船出に相応しい好作です。生粋のソウルファンはもちろん、スムース・ジャズ・ファンにも強く推薦したい高品質のアーバン・コンテンポラリーです。

★★★★

Marion Meadows "Another Side Of Midnight"

 ノーマン・コナーズのスターシップ・オーケストラ出身のサックス奏者、マリオン・メドゥズの新作が、フィリップ・ベイリーと同じヘッズ・アップ・レーベルからリリースされました。
 NYで制作されたこの作品は、キーボード奏者マイケル・ベアデンとボブ・ボールドウィンがプロデュースを担当し、アルバム・タイトルそのまま!と言った感じの夜をイメージさせるグルーヴィーなスムース・ジャズとなっています。
 主役のマリオンは、これまで、ノーバスやシャナキーなどから何枚もリーダー作をリリースしている中堅のサックス奏者で、メインはソプラノです。ケニーGとグローヴァー・ワシントンの中間といったスタイルのプレイは、正直、たいしたことはありません。しかし、バックのサウンドが丁寧に作られているため、全体的には、チープ感はなく、高品質なスムーズ・ジャズをアピール出来ています。1曲1曲は、あまり印象に残りませんが、アルバム全体で聴けば、後味に、心地よいメロウさや、グルーヴを残してくれます。
 トム・ブラウン、オマー・ハキム、マーク・アントワーヌ、ノーマン・ブラウン、ロン・ローレンス、ディヴ・サミュエルズら、実力派ミュージシャンの参加も、今作のクオリティー・アップに貢献してます。
 何かと使い勝手のいいナイトキャップ・ミュージックをお探しの方へ。

★★★

Richard Elliot "Chill Factor"

 今やベテランの域に近づきつつあるサックス奏者リチャード・エリオットの新作「チル・ファクター」が、ブルーノート!!のレーベルを付けて到着しました。マイナーのインティマからメジャーに昇格してからは、EMI傘下のマンハッタン・レーベルやメトロブルー・レーベルからのリリースだったのですが、今作は伝統のブルーノートから。70年代の品番”BNLA”〜と同じと考えればいいのでしょうか?
 リチャード・エリオットは、タワー・オブ・パワーやヒューイ・ルイスのバックバンドに参加していましたが、日本で馴染み深いのは、ボビー・コールドウェルのバックでメロウ&ファンキーなサックスをプレイしていた姿でしょう。なんでボビーの話を出したかと言えば、エリオットやディヴ・コーズなどの後をうけて、当時ジム・オッペンハイムという本名でバンドに参加し、現在ではスムース・ジャズ界の大スターとなったボニー・ジェイムスのサウンドに酷似しているからなんです。
 前作「ジャンピン・オフ」は、ボニー・ジェイムスを育てたプロデューサーであるポール・ブラウンの制作だったので、似ているのは当然なんですが、今作はエリオット自身のプロデュースながら、似ているというのは、70年代〜80年代のフュージョン・サックスのスタンダードがサンボーンだったように、現在のスタンダードがボニー・ジェイムスということなんでしょうか?
 エリオットはもともと、ちょっぴり下品に音を濁らせながらブロウするスタイルだったんですが、前作あたりから、スムーズでセクシーなスタイルに変えつつあるようです。バックのサウンドもキレの良いスムーズ&メロウなもので、前作よりスラップ・ベースにリードされるようなグルーヴ・ナンバーが多くなった感じがします。
 またティム・ハインツ、ミッチェル・フォアマン(key)ワーワー・ワトソン、ポール・ジャクソンJr.、トニー・メイデン、ロビー・ネヴィル(g)アレックス・アル(b)、リル・ジョン・ロバーツ(ds)、レニー・カストロ(Perc)、といったトップ・セッション・メンがサイドを固めています。
 1曲ヴォーカルものが収録されており、それには、クインシー・ジョーンズの秘蔵っ子で、UKのジャズ・ファンク・バンド、ブラン・ニュー・ヘヴィーズに参加してファンを驚かせたサイーダ・ギャレットがリード・ヴォーカルで参加し、AORテイストもあるミディアム・テンポのクールなナンバーを聴かせてくれてます。元歌伴奏者、エリオットの本領発揮とばかりに、ヴォーカルに寄り添ったセクシーなプレイを聴かせてくれます。
 その他、マービン・ゲイの「エイント・ナッシング・ザ・リアル・シング」やサラ・マクラクランのカヴァーなんかも収録されてます。
 安心して聴けるスムース・ジャズの佳作。7.14 Update

★★★★

Genai "Heaven On Earth"

 "Zhane"(ジャネイ)という女性グループがモータウンにいますが、こちらは、"Genai"(ジェナイ)というギタリストとヴォーカリストのユニットのデビューアルバム「ヘヴン・オン・アース」。
 ジョージ・デュークらと共演していたというオリヴァー・ウェンデルというギターやベース、キーボードを操るマルチ・プレイヤーとハワイ出身の女性ヴォーカリスト、ジェナイ・K・ジョンストンが1996年に出会い温めていたプロジェクトがこの"Genai"です。
 このデビュー作は6月23日に国内先行発売されており、音楽雑誌にはレビューも掲載されていますが、その中によく書かれていたのが、ケヴィン・レトーやセルジオ・メンデス グループ出身の日本人アーティストであるYUTAKAこと横倉裕のサウンドを思わせる、ということです。特にブラジル音楽の雰囲気を感じるナンバーを聴くと、そのことを顕著に感じます。全体の雰囲気は、AOR〜スムース・ジャズ系のものでソウルの雰囲気は希薄です。
 収録曲の半分以上は、カヴァーで、TOTOの「アフリカ」やアンブロージアの「ビゲスト・パート・オブ・ミー」、キャロル・キングの「イッツ・トゥ・レイト」、マイケル・ジャクソンの「ヒューマン・ネイチャー」など有名曲ばかりです。普通、最近のアルバムではカヴァー曲が良くて、オリジナルの印象が薄いというのが一般的ですが、このアルバムの場合は全くその反対。カヴァーはオリジナルのイメージを重視しすぎてカラオケ状態。特に「アフリカ」や「ヒューマン・ネイチャー」などそのままです。に対して、ブラジルやアーバン・ソウルの良い部分ばかりを取り入れたようなシルキーでクールなオリヴァー・ウェンデルのペンによるオリジナル・ナンバーは魅力十分です。特にアルバム・タイトル曲は夏らしいクールでスムースな気持ちいいナンバーです。次作では、そのオリジナル・ナンバーでの勝負を希望します。
 ジェナイのヴォーカルは声量は無いものの、クールでキュートなもので、曲によっての雰囲気の出し方はなかなかです。声の質や感じは違うものの、同じハワイ出身のシーウィンドのポーリン・ウィルソンの魅力に近いものを持っているように思いました。
 昨今、「ガツン」と言わさないと世間が動かない時代に、このさりげないクールなサウンドは残念ながら大受けすることは無いと思いますが、Tは個人的に大切にしたい雰囲気のアルバムです。70年代後半から80年代初期のフュージョンやAORファンには、この夏一押しのサウンドです。7.17 Update

★★★★

David Hazeltine=Joe Locke Quartet 
"Mutual Adomiration Society"

 今Tが個人的に一押しのピアニスト、ディヴィッド・ヘイゼルタインとスティープル・チェイスなどから何枚もリーダー作を発表している中堅ヴァイヴ奏者、ジョー・ロックの双頭コンボのアルバムが、ニュージャージーの新進ジャズ・レーベル、シャープ9からリリースされました。
 ピアノとヴァイヴの2人に、ジャズ・メッセンジャーズ出身のベーシスト、エシエット・オコン・エシエットとビリー・ドラモンドのドラムというカルテットによるこのアルバム。リズム・セクション良し、ピアノもゴキゲンなヘイゼルタインと聴く前から、その期待は高まったのですが、聴くと…えらい淡白なジャズなんです。
 ピアノトリオやホーンとの相性は抜群のヘイゼルタインのピアノも、ヴァイヴとのコンビネーションはいまいちのようで、お互いに魅力をスポイルしているような印象を受けました。ロックのヴァイヴも、他のセッションで、ちょこっと参加している時はいいんですが、この作品のように全編でフィーチャーされると、少々実力不足な所が露呈してしまうようです。そう考えると、もともと淡白な楽器であるヴァイヴを十二分に聞かせる、ゲイリー・バートンやマイク・マイニエリ、ボビー・ハッチャーソンらはやっぱり凄いと思います。
 また本来グルーヴィーな感覚が魅力のはずのヘイゼルタインですが、収録曲がミディアム〜バラード中心なので、随分地味な印象を受けてしまいますが、バラードでのちょっとブルージーでキラッときらめくプレイはやっぱりカッコイイものがあります。
 正直に言えば、ロックのヴァイブの淡白さが、作品全体を退屈なものにしている気がします。やはり、ピアノとヴァイブのコンビネーションはチック・コリア=ゲイリー・バートンに任せておいた方が良いみたいです。でも平均点は余裕で超えてる作品なので、ジェントルでクールなジャズが好きな方とヘイゼルタインのファンには買いのアルバムでしょう。7.17 Update

★★★

Jim Sneidero "The Music Of Joe Henderson"

 NYをベースに活動する中堅アルト奏者ジム・スネイデロの新作が、上の「シャープ9」とともに、コンテンポラリーなイースト・コーストの良質なハードバップ作を順調にリリースしているレーベル「ダブルタイム」からリリースされました。
 参加メンバーは、スネイデロのアルト・サックスに、ジョー・マグナレリのトランペット、コンラッド・ハービッグのトロンボーン、ディヴィッド・ヘイゼルタインのピアノ、デニス・アーウィンのベース、ケニー・ワシントンのドラムスというセクステット。
 そしてアルバムのテーマがタイトルの通り、ジョー・ヘンダーソンです。ジョー・ヘンダーソンのコンポーズした曲を、このセクステットで演奏しているもので、アレンジ過多にならず、編成がやや大きいにもかかわらずフリー・ブローウィングなセッション・スタイルのジャズに仕上がっている点は好感が持てます。テナー奏者のナンバーをアルトでパフォームするということで、特にワンホーンでトライした「インナー・アージ」などを聴くと若干の違和感はありますが、全体的には、筋の通ったきりっとしたハード・バップとなっています。
 アーウィン=ワシントンのリズムは、NYで1、2を争うトップ・リズム・セクションですし、ヘイゼルタイン、マグナレリらのサイドメンも、期待を裏切らないい仕事をしています。また収録がNJのヴァンゲルダー・スタジオで、録音はもちろん、ルディ・ヴァンゲルダーですから、思いっきり「ジャズ」な音を楽しむことが出来ます。
 NYのジャズ・クラブの日常を切り取ったような良い意味での「普通」のジャズ。私はこんなジャズが一番好きです。7.17 Update

★★★★

Mike LeDonne "Then&Now"

 ブルージーな魅力の中堅ピアニスト、マイク・ルドーンの新作が前作同様「ダブル・タイム」からリリースされました。
 前作はピアノ・トリオによるいものでしたが、今作は、エリック・アレキザンダー(Ts)ジム・ロトンディ(Tp)ピーター・ワシントン(b)ジョー・ファンスワース(ds)という面子を従えたクインテット作となっています。この面子を見てお気好きの方もいらっしゃると思いますが、そうなんです、ピアニスト以外はアリ・アレが中心となって、「シャープ9」レーベルより作品をリリースしているグループ「ワン・フォー・オール」そのものなんです。(「ワン・フォー・オール」のピアニストはディヴィッド・ヘイゼルタイン)
 その今NYでもっとも活きの良いジャズ・メンを率いてのこの新作ですが、ルドンの重厚でブルージーなピアノと、実力派若手ホーン奏者との対決がなかなかスリリングです。特にエリ・アレのテナーは、コルトレーンを強く意識したもので、いつものデクスター・ゴードンあたりの影響を感じさせる雰囲気とは一味違った鋭さを加えたプレイとなっています。
 ルドンのピアノも、オルガンもプレイするだけあって、その黒さとパワーは相当なもので、ホーンとの対決にもけっしてひけをとりません。ハンコックのナンバー「ソーサラー」が聴きものです。
 日本での一般的な人気はまだまだですが、NYで、特に、同業者からはかなり尊敬される存在のようで、この新作でも、ベニー・ゴルソンやビル・シャーラップが賛辞を述べています。50年代の重厚さと安定感、それに90年代のキレを併せ持った素晴らしいピアニスト、マイク・ルドン。21世紀をスイングさせてくれる貴重な人材です。7.17 Update

★★★★

黄色のCDがBest Buy!です。

は1(最悪)〜5(最高)です。
感想を書きこんでいただければ幸いです。

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