Swingroove Review

October 2000



Title/Musicians/Revel

 "The Long Haul" One 4 All (Criss Cross Jazz)

Who?

 エリック・アレキサンダー(ts)が中心となって結成されたユニット。ベース以外のメンバーは不動。50年代的なホット&ストレートなハード・バップを聴かせてくれる好ユニット。シャープ・ナインやクリス・クロスに3枚の作品を残す。

With?

 エリック・アレキサンダー(ts) ジム・ロトンディ(tp) スティーヴ・ディヴィス(tb) デイヴィッド・ヘイゼルタイン(p) レイ・ドラモンド(b)ジョー・ファーンスワース(ds)

Reflection?

 1曲目のファーンスワースのオリジナルのイントロでのエリ・アレのテナーを聴いて「至上の愛、かいな?…」とツッこんでしまいましたが、後は、いつもの安心印?のハード・バップです。ベースが、ピーター・ワシントンから、レイ・ドラモンドにチェンジしてる他は、不動の面子。収録曲は、1曲スタンダードの「グッド・ライフ」がある他は、メンバーのオリジナル。こちらもいつも同様、いわゆる「ジャズらしい」ナンバーばかり。3曲目のディヴィスのオリジナルのボサノヴァ調の曲や、7曲目のヘイゼルタイン作の8ビートっぽいグルーヴィーな曲、それに「ワン・フォー・オール」作曲のクレジットとなっている、8曲目のラストに収録されてる急速4ビートのジャム・セッションぽい曲あたりが、面白いところでしょうか。前作あたりから、フリー・ブロウィング的な要素が減り、ホーンのアンサンブルやソロとの対比など、アレンジ面を強化し、サウンド全体で、「ワン・フォー・オール」を表現して行こうとしている感じがしますが、今作もその延長線上にあるようです。ただファンの中には、「若いんだから、落ちつかずもっとヤレや!」という意見もあるようで、そんな人のために8曲目が用意されてるんでしょうか。参加メンバーでは、チック・コリアのオリジンにも参加し、8月には、チックのストレッチ・レーベルよりリーダー作も発表した、トロンボーンのスティーヴ・ディヴィスの成長が目立ちます。自作曲での表現力豊かなソロは、素晴らしいです。エリ・アレのテナーは、今回はややトレーン風の印象。ウネウネとしたソロは、重厚感の増したホーンとの対比させながら、より全体のサウンドに融け込ませようとしている感じです。このあたりも、質の高いグループサウンドを目指した「ワン・フォー・オール」なプレイなのでしょう。録音は、今年の5月30日。バリバリの新録です。

etc…

 メンバー全員が、いまやリーダークラスとなっているにも関らず、ちゃんとレギュラー活動できているのは素晴らしいことです。このあたりは、このユニットが、ビジネス主導ではなく「やりたいから演る」みたいな自然発生的なものだからでしょう。ですから、このユニットのジャズが悪かろうはずがないんです。
10.17 Update

Points?

★★★☆



Title/Musicians/Revel

 "Viva Brazil" Tania Maria (Concord Picante)

Who?

 ブラジル出身のピアニスト/ヴォーカリスト。80年代の彼女の作品「ファンキー・タンボリン」や「カム・ウィズ・ミー」は、ジャズ・ファンク・クラシックとして有名。

With?

 マーク・バートルー、カルロス・ワーネック(b) ステファン・ハッチャード、ルイズ・アウグスト・カヴァーニ(ds) カカオ(sax)…

Reflection?

 この所、いろいろなレーベルからコンスタントなリリースを続けているタニア・マリアだが、今作は、80年代の出世作を多くリリースしたコンコードへのカムバック作となる新作。タイトル通り、彼女のルーツであるブラジルへのオマージュがテーマとなっている作品。したがって、80年代の「ファンキー・タンボリン」的なファンキーなジャズ・ファンクの要素は少なく、母国語のポルトガル語によるヴォーカルをフィーチャーしたボサ・ノーヴァ調のしっとりとしたナンバーが中心です。個人的には、ファンキー・ディーヴァ的な熱い演奏が好きなので、この点は少し残念です。そんな中、気に入ったのは、7曲目のジョビンのボサ・クラシック「ワン・ノート・サンバ」。しっとりとしたジャジーな雰囲気からのドラマティックな展開が素敵。また9曲目収録のクレイジー系?サンバ。彼女のトレード・マークのひとつであるピアノとユニゾンさせたスキャットが炸裂してます。9曲目にしてやっと「待ってました!」という感じ。やっぱり、これを聴かないと、タニア・マリアを聴いた気がしません。でも、こんな熱い曲はこの1曲だけというのは、やっぱり残念…。

etc…

 ジャズ〜ファンク方面のファンは、数年前発売された、アンソニー・ジャクソン(b)やスティーヴ・ガッド(ds)をフィーチャーしたライヴ盤の方が、やっぱり面白いです。タニア・マリアが、MPBにチャレンジした作品として聴けば、まぁそれなりに楽しめそうですが…。
10.17 Update

Points?

★★☆



Title/Musicians/Revel

 "Unconditional" Kirk Whalum (Warner Bros.)

Who?

 ボブ・ジェイムスの84年の作品「12」にフィーチャーされ一躍有名となったサックス奏者。ポップ・シーンでの活躍も目立ち、特に、ホイットニー・ヒューストンとは、ツアーやレコーディングで共演し、大ヒット・ナンバー「アイ・ウィル・オールウェイズ・ラヴ・ユー」のソロは、歴史に残る名演。CBSやワーナーにリーダー作を多数残す。故スタンリー・タレンタインばりの太くソウルフルにブロウするテナーが魅力。

With?

 グレッグ・フィリンゲインズ、ティム・ハインツ、グレッグ・クールキス(key) ポール・ジャクソンJr、トニー・メイデン(g) ピーター・ホワイト(ac-g) ロベルト・バリー、アレックス・アル(b) リル・ジョン・ロバート、テディ・キャンベル(ds) ルイス・コンテ(perc) シャイ、ウェンディ・モートン(vo) ジェリー・ヘイ(arrangement) ポール・ブラウン(prpgramming)…

Reflection?

 前作同様、ボニー・ジェイムスなどのプロデューサーとしても知られるポール・ブラウンをプロデュースに迎えたスムース作ながら、打ちこみ中心の甘くスムースだけのサウンドとは、一味違うサウンドとなっています。バックトラックそのものは、少し古めのブラコン・フュージョンの典型という感じのものですが、ウェイラムのサックスにソウルフルな迫力が増しているために、凡庸なスムース・ジャズとは、一線を画する印象を与えているのでしょう。この種のサウンドには、今や「お約束」とも言えるヴォーカルものですが、ヴォーカル・グループのシャイと、ウェンディ・モートンがフィーチャーされています。個人的には、シャイのナンバーの「キャン・ユー・ストップ・ザ・レイン」という5曲目のミディアム・スロウ・ナンバーが、クールなシャイのヴォーカルと、ソウルフルなウェイラムのテナーが絶妙な雰囲気をかもしだしていて気に入りました。ヴォーカル・ナンバーは2曲だけながら、全曲ヴォーカル・フィーチャーのような感じで聴けてしまうのは、それだけウェイラムのサックスに歌心とR&B的な迫力を感じさせるからでしょう。また2曲目のグローヴァー・ワシントンJrにインスパイアされたようなタイトルをもつフュージョンテイストなファンキー・ナンバーでの、グルーヴィーにたたみかける豪快なテナーのブロウも、ウェイラムならではの魅力のひとつでしょう。

etc…

 2000年の9月に、60年代より、インパルス、ブルーノート、CTIなどで大活躍した、ソウルフルなテナー奏者、スタンリー・タレンタインが、残念ながら亡くなってしまいましたが、カーク・ウェイラムは、彼の継承者としての資質を十二分に備えていると思います。ウェイラムの次なる目標は、タレンタインの「シュガー」に相当するみたいな、アーティストとしてのシンボル的作品を創りだすことでしょう。ジャズ/フュージョン、ファンク、ブラコン、ゴスペル、果てはカントリーまで…幅広い音楽性を身に付けている彼なら、きっとそれができるはずです。
 10.22 Update

Points?

★★★★



Title/Musicians/Revel

 "Homage To Count Basie" Bob Mintzer Big Band (dmp)

Who?

 80年代初期、ジャコ・パストリアスのビッグ・バンドへの参加で知名度を上げたコルトレーン派白人テナー/ソプラノ奏者。ジャコのビッグバンドでは、ビッグバンドのアレンジメントも担当。「ワード・オヴ・マウス」バンドのスコアは、基本的には、ミンツァーのペンによるもの。ジャコの「バースディ・コンサート」収録の「インヴィテイション」での、マイケル・ブレッカーとのテナー・バトルは、今や歴史的名演のひとつ。近年では、ラッセル・フェランテ率いるイエロー・ジャケッツにも参加。予算的にも維持の難しい自らのビッグバンドでも、継続的に活動。dmpレーベルに、多数、コンテンポラリーなビッグ・バンド作の好作を残す。NYのコンテンポラリー・ジャズ・シーンには、無くてはならない存在。ソロ作品も、80年代初期に日本のポニー・キャニオン系のアガルタ・レーベルより初リーダー作(ジャコも参加したフュージョン作)を発表して以来、dmpレーベルを中心に多数残している。

With?

 ローレンス・フェルドマン、ピート・イェリン(as, fl,cl) スコット・ロビンソン(ts) ロジャー・ローゼンバーグ(bs) ボブ・ミリカン、バイロン・ストライプリング、スコット・ウェンドホルト、マイケル・フィリップ・モスマン(tp) マイケル・ディヴィス、キース・オクイーン、ラリー・ファレル、ディヴ・テイラー(tb) フィル・マコーヴィッツ(p) デニス・アーウィン(b) ジェイムス・チリーロ(g) ジョン・ライリー(ds)

Reflection?

 クインシー・ジョーンズも、往年のベイシー・バンドのアレンジャー、サミー・ニスティコと組んでビッグバンド作品を発表するなど、にわかにベイシー・ブームとなった2000年秋。ボブ・ミンツァーからも、ベイシー関連の作品が発表されました。もともと、リーダーのミンツァーは、コンテンポラリー系のアーティストながら、彼のビッグ・バンドは、気をてらった所のない比較的オーソドックスなものなので、彼らが、ベイシーものをやるのは、当然という感じで、また、ビッグ・バンドのアレンジも、ベイシーの大きな影響を受けているようです。収録曲は、「ワン・オクロック・ジャンプ」「シャイニー・ストッキングス」等のベイシーゆかりのナンバー中心で、2曲、ベイシーにインスパイアされて作ったミンツァーのオリジナルとなっています。まぁベイシーを含めて、トラディショナルなビッグ・バンド・ジャズは、そんなに熱心に聴いてる方ではないので、この作品の評価にも困るのですが、聴いた所、普通のビッグ・バンド・ジャズという感想しかありません。参加メンバーのソロも、リーダーのミンツァー以上にフィーチャーされてるものの、個性的なものは無く、サウンドにメリハリをつけるレベルではありません。唯一、7曲目のミンツァー・オリジナルの8ビートっぽいナンバーでの、ファンキーなミンツァーのテナーが耳に残っているくらいです。そんなに個性的なソリストを抱えたビッグ・バンドではないので、もっと積極的にミンツァーがソロをとる必要があるのではないでしょうか。録音は、2000年5月。エンジニアは、dmpといえば当然、トム・ヤング。ダイレクト2チャンネル・デジタル・レコーディングによる、そのビッグ・バンドの音の良さや迫力は、やはり特筆ものでしょう。

etc…

 ビッグ・バンド・ジャズをやる上で、カウント・ベイシーは、やはり特別な存在なのでしょう。普段は、もっと自由で勢いのあるミンツァーのビッグ・バンドですが、テーマがテーマだけに、ちゃんとやろうという意識が強く、少しスケールが小さくなってしまった感じです。だったら、こんなコピーものを聴かなくても、オリジナルを…と思ってしまいます。ミンツァーでなければ出来ないベイシーを聴きたかったです。(このことは、クインシーものにも言えることです。)大学のジャズ研で、ちょっとコンテンポラリーなベイシーをやりたい、という人達のお手本CDとしては有意義なものでしょうが…。
10.23 Update

Points?

★★★



Title/Musicians/Revel

 "Life In The Tropics" The Rippingtons (Peak/Concord)

Who?

 アメリカのスムース・ジャズ界を代表する人気グループ。リーダーは、ギタリストのラス・フリーマン。

With?

 リッピントンズ〜ラス・フリーマン(g,key) キム・ストーン(b) ディヴ・プーパー(ds) ラモーン・イスラス(perc)
 ゲスト・ミュージシャン〜エリック・マリエンサル、ディヴ・コーズ、ポール・テイラー(sax) ピーター・ホワイト(g) ボブ・ジェイムス(key) ハワード・ヒューイット、デイジー・ローデス・ヴィラ(vo) ジェリー・ヘイ、ゲイリー・グラント、ビル・リーセンバック(horn)…

Reflection?

 GRPから移籍したウィンダム・ヒル・ジャズが、突然閉鎖となり、発売レーベルが決まらず、ファンをやきもきさせてましたが、結局、ラス・フリーマンのプライヴェイト・レーベル「ピーク」ごと、コンコードへの移籍が決まり、めでたく新作が発表されました。ちなみに、同時進行で制作されていたライブ盤の方は、来年1月コンコード/ピークより発売予定。さてサウンドですが、タイトル通り、南の海を思わせる爽やかなサウンドで、ファンとしてはまずひと安心。ここ1、2作は、ネイティヴ・アメリカンなサウンドを取り入れたりして、アコースティック寄りの新しいサウンドを指向していた感じのリッピントンズですが、今作では、再び「ツーリスト・イン・パラダイス」的なサウンドに回帰した感じです。そんな中、今作でのポイントは、ラテン、それもサルサ〜キューバ的なフレーバーでしょうか。バタバタと騒ぎ立てるだけのラテンではなく、マイナー調の陰影感を感じさせる「哀愁」なラテンです。5曲目のホーンとヴォーカルを前面にフィーチャーした曲なんぞ、モロそんな感じ。ただ全編そんな感じでもなく、元シャラマーのハワード・ヒューイットのヴォーカルをフィーチャーしたアーバンなミディアム・スロウ・ナンバーがあったり、ボブ・ジェイムスのカッコ良いエレピ・ソロをフィーチャーしたグルーヴィーなフュージョン・ナンバーがあったり…と作品を通して聴いても最後まで飽きさせません。まぁ全体的には、脳天気な明るさというよりも、ミディアム・テンポ中心のやや落ち着いた感じのサウンドに仕上がってる印象です。リッピントンズといえば、サックスのサウンドが欠かせませんが、現在レギュラーのプレイヤーは決めず、曲ごとに面子を変えているようです。この作品を聴く限り、元チックのエレクトリック・バンド出身のエリック・マリエンサルが一番ハマってるみたいです。ブランダン・フィールズみたいですけど…。

etc…

 87年に、当時パスポート・ジャズから発売されてたLP盤!「キリマンジェロ」が私のリッピントンズ初体験です。確か当時は、サックスにケニーG、ピアノにディヴィッド・ベノワなんかも参加してたはずです。その頃、彼らの音楽を聴いてウキウキした気持ちが、13年ほどたった現在、この新作を聴いても、まだ、そんな感じが残っています。いつも、スムース系のレビューでは、コメントしてるのですが、スムース・ジャズは、「センス」が勝負なんです。ラス・フリーマンには、そのセンスが才能としてしっかりと維持されているから、10年以上もシーンをリードし続けられるんでしょう。
 10.25 Update

Points?

★★★☆



Title/Musicians/Revel

 "Nightshift" Gregg Karukas (N-Coded Music)

Who?

 LAのスムース系ピアニスト。80年代、ドリ・カイミのバンドに参加し知名度を上げた。インディーのポジティヴ・ミュージックやリー・リトナーが主宰したieミュージックなどに、リーダー作を残している。

With?

 パット・ケリー、マイク・オニール、ポール・ジャクソンJr、リカルド・シルヴェイラ(g) リッキー・ローソン、レイフォード・グリフィン(ds) キース・ジョーンズ、ラリー・キンペル、ゲイリー・グレインジャー(b) ジミー・リード、ブランダン・フィールズ(sax) ウォルト・ファウラー(tp) ルイス・コンテ(perc) ジョナサン・バトラー(vo)…

Reflection?

 グレック・カルカスと発音するのではなく、「クールキス」と呼んで欲しいと彼の作品には、すべてそんな注意書き?がありますが、まぁ音楽には、全然関係無いので、早速レビューを…。彼の名前がLAのフュージョン・シーンで、語られるようになったきっかけが、ブラジル人ミュージシャンのドリ・カイミとの共演だったので、ブラジル系のミュージシャンと思っている人も多いみたいですが、そうではありません。しかし、彼の清涼感あふれるタッチのピアノやキーボードを聴いていると、そう勘違いしてもしかたがないかな?と思います。初期の作品などは、夏の浜辺で聴きたいクール・ブリーズな雰囲気でしたが、前作のieミュージック盤あたりから、現在のスムース・ジャズのトレンドに合わせたような夜型?なグルーヴ感のある雰囲気に変わってきた感じですが、この新作も、基本的にはその流れにそったものとなっています。ただデビュー以来変わらないのが、「エアリー」な雰囲気のピアノ&キーボードのタッチです。空気をいっぱいに含んだような軽さが心地いい、彼のメロディアスなピアノ&エレピは、個人的には結構ハマっています。今作でも、そのタッチの心地よさもさることながら、音色の使い方も素晴らしく、アコースティック・ピアノや、フェンダーローズ的な音、ヴィンテージなムーグの音…などを上手く使い分けています。サウンド全体の雰囲気は、ミディアム・テンポのメロウで「エアリー」なサウンド中心で、クールキスのキーボードにサックスやギターが心地よくからんでゆく展開です。パット・ケリーやマイク・オニールのギターが、モロLAフュージョンしてて気持ちいいです。

etc…

 サウンド自体は、流行のスムース・ジャズの定石にのっとったもので、正直、そんなに個性的だとは思いませんが、なにか懐かしいLAフュージョンの匂いを強く感じます。もちろんLAのトップ・ミュージシャンが多数参加していることもあるでしょうが、なによりも、クールキスのキーボードやサウンドが醸し出す少しレイド・バックした「エアリー」な雰囲気が、そう感じさせるのかもしれません。
10.25 Update

Points?

★★★☆



Title/Musicians/Revel

 "No Room For Argument" Wallace Roney (Stretch)

Who?

 マイルス・ディヴィスの愛弟子だったトランペッター。1960年フィラデルフィア産まれ。80年代後半から、ジャズ・ メッセンジャーズやトニー・ウィリアムス・クインテットで活躍。マイルスの死の約2ヶ月前の91年7月、モントルー・ジャズ・フェスティバルで行われた「マイルス&クインシー」のステージで、マイルスに寄り添うように、演奏していた姿が印象的。MUSEやワーナーに多数のリーダー作を残す。

With?

 スティーヴ・ホール、アントワーヌ・ルーニー(ts,ss.bass-cl) ジェリ・アレン(p,el-p,synth) アダム・ホルツマン(el-p,org,synth) バスター・ウィリアムス(b) レニー・ホワイト(ds) ヴァル・ゲルダー・ジーンティー(sample programming)

Reflection?

 タイトルは、訳すと「議論の余地ない」だそうですが、自らの評価に対する議論も、これまでにしてくれ!というような意気込みも感じさせるような力作です。ウォレス・ルーニーというトランペッターの評価は、マイルスのクローンというのが、一般的で、「あんたの個性はどこにあんの?」みたいな批判も多かったと思います。これまでの自らのリーダー作では、60年代マイルスを真摯に追求した作品が中心で、あまりにも、ストイックにマイルスを追求するあまり、自らの音楽的主張の前に、マイルスを探求することの方が優先していたような気もします。マイルスに憧れ、探求し、その結果、マイルスと同じステージに立って、マイルスの影となってトランペットを吹けたり、マイルス没後は、ハンコック=カーター=ウィリアムス=ショーターのマイルス・トリビュートのスペシャル・ユニットで、マイルスの代役をつとめたり、と1990年過ぎには、マイルス研究の目標が完結してしまったのではないかと思います、そして90年代には、ワーナーより、3枚のリーダー作を発表したものの、いまいち焦点の定まらない作品のように感じました。さてのこの新作ですが、初めてウォレス・ルーニーというジャズ・メンが、自分の音楽的主張をきちんとした形で表現した作品ではないかと思います。サウンドの下敷きというかルーツは、当然マイルス。それも60年代中期〜70年代初期。怪しげなムードを醸し出すバス・クラリネットの響きや、バスター・ウィリアムスのコントラバスとレニー・ホワイトの重量感のあるドラムによる、跳ねずに沈み込むようなファンク・ビートなど、特に、70年前後のマイルスや、ハンコックのムワンデシィ時代の影響を受けたようなサウンドです。「あの頃」みたいな音色で弾く、ホルツマンのオルガンやシンセ類、アレンのフェンダー・ローズなども、「あの頃」の怪しいムードを上手く表現していると思います。じゃ〜また今回もマイルスの物まね?と思われそうですが、表面上は確かにそう聞こえるかもしれません。しかし、その中身は、物まねではなく、ウォレス・ルーニーのカッコ良いと感じるジャズをやったら結果的にこうなったというもので、これがウォレスの考える2000年のジャズなんだと思います。特に、2曲目のコルトレーンの「至上の愛」のリズムに、マイルスの「キリマンジャロの娘」のハーモニーをオーバーラップさせるセンスは、「今」のヒップ・ホップ的なサンプリングのセンスを感じさせるものですし、9曲目のヘヴィーなファンク調のリズムを持つ曲では、晩年のファンク・マイルスのライブの定番曲「リンクル」のフレーズを連発するなど、マイルスの影響を正面から受け入れ「これが今の俺のジャズだ」と言わんばかりの自身に満ち溢れた演奏ぶりです。また日本盤のみのボーナス・トラックとなっている、マイルスの「TUTU」収録の「ポーシア」のカヴァーも聴き所です。現代版の「ブルー・イン・グリーン」と言った雰囲気を持つマーカス・ミラーのスロウ・ナンバーですが、マイルスの耽美的な解釈とは一味違う、スケールの大きさを感じさせるオープンなパフォーマンスで聴かせてくれます。ジェリ・アレンのピアノのサポートも、漆黒の黒真珠を思わせる美しいものです。サイドメンでは、サックスのアントワーヌのショーター的な演奏や、マイルス・バンドの卒業生ホルツマンの空間を活かしたエレクトリック・キーボードなどの活躍が、印象的でした。

etc…

 以前のウォレス・ルーニーは、マイルスの幻影と常に戦っていた感じでしたが、今作でやっと、その呪縛から開放されたようです。その呪縛から解き放たれたからこそ、マイルス的なサウンドを素直な形で自分のサウンドにできたのだと思います。この作品の中には、自分のジャズを懸命に創ろうとしている「無心」のウォレス・ルーニーのトランペットが、力強く、また美しく響いています。彼の評価については、確かにもう議論の余地はないはずです。
10.27 Update

Points?

★★★★☆



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