Swingroove Review

February 2000



Various Artists "Celebrating The Music Of Weather Report" (Telarc Jazz)

 マイルス・ディヴィスをして「天才的なシンセサイザー・プログラマー」と言わしめた、マーカス・ミラーご用達シンセ・プログラマー/プレーヤー、ジェイソン・マイルスがプロデュース/アレンジを担当したウェザー・リポートへのトリビュート・アルバムが、テラーク・ジャズからリリースされました。
 主人公のジェイソン・マイルスですが、今までに2枚のリーダー作を残していますが、どれも自らの派手なソロを聴かすようなタイプの作品ではなく、フュージョン〜R&Bを基本としたセンスを感じさせるコンテンポラリーなもので、サウンド・クリエーター的な才能を発揮させた作品でした。今作も、その路線で、リーダーでありながら、裏方的な仕事を中心にこなし、派手な部分の役割はゲスト・ミュージシャンが担当しているようです。
 まぁ内容のレビューの前にとにかく驚くのが、参加ミュージシャンの凄さ!です。
 ヴィクター・ベイリー、ウィル・リー、ジョン・パティトゥッチ、マーカス・ミラー(b)オマー・ハキム、スティーヴ・ガッド、デニス・チェンバース、ヴィニー・カリウタ(ds)マイケル・ブレッカー、ジェイ・ベッケンシュタイン、デビッド・サンボーン(sax)チャック・ローブ、ディーン・ブラウン、ジョン・スコフィールド(g)ジェイソン・マイルス、トム・シューマン(key)ジョー・サンプル(p)ランディ・ブレッカー(tp)アンディ・ナレル(steel-pan)マーク・クィンノエス(perc)…。その組み合わせも、興味深いものばかりで、いくつか挙げると、5曲目のザヴィヌル作「キャノンボール」では、ヴィクター=オマーという後期ウェザーの最強リズムとサンボーンの共演や、11曲目のザヴィヌルとアルフォンソ・ジョンソンのナンバー「キューカンバー・スランバー」では、マーカス=デニ・チェンのリズムにジョン・スコがからみ、マーカスのスラップソロにジョン・スコのソロがこれまたからむという凄いものなどなど…。他にも、「エレガント・ピープル」でマイケル・ブレッカーがテナー吹いてたり、名曲「バードランド」では、テイク6のヴォーカルがサンプリングで使われてたり、ショーター作「ハーレクイン」でのジェイ・ベッケンシュタインとジョー・サンプルの共演など、書ききれないほどの聴きどころです。
 また収録されている曲ですが上で挙げた曲をはじめ11曲入っていますが、そのすべてがザヴィヌルかショーターの曲です。やはり「ティーン・タウン」などジャコ作のナンバーは、あまりにもジャコのイメージが強すぎて、さすがのジェイソン・マイルスもやはり敬遠したのでしょうか。
 さてそれらの曲の出来ですが、純粋にウェザー・リポートのトリビュート作品として考えると、その軽さとひねりの無さが気になります。やはり、当たり前のことですが、ウェザーの音楽というのは、ジョー・サヴィヌルとウェイン・ショーター、それにジャコなんかをはじめとする当時のメンバー全員が創りだしたある種奇跡のようなもので、その曲をただカヴァーしただけでは、その曲の魅力の100分の1も伝えるものではありません。マンハッタン・トランスファーが「バードランド」に歌詞をつけた名バージョン以外、ウェザー関連のカヴァーでろくなものはないはずです。この作品でも、アレンジなどは、普通の聴きやすいフュージョン・スタイルになっているため、原曲の格調高さやミステリアスさ、などを感じさせる部分は微塵もありませんから、その点では失格ですが、曲によって参加ミュージシャンが絶妙にセレクトされてますから、それぞれに、それなりの聴きどころがあり、約1時間弱の作品ですが、退屈することはないはずです。
 この作品は、ウェザー・リポートの音楽的な精神をトリビュートしたものではなく、ウェザーの演奏のハード的な部分にスポットを当て、そこに参加した超一流ミュージシャンの名人芸を楽しむといった作品ではないでしょうか。特に、フュージョン系で豪華なセッション・アルバムは少なかったので、個人的にはかなり楽しめた作品です。ただ間違っても決してウェザーのオリジナル・バージョンとは比較しないことです。そうすればなかなか楽しいフュージョンの好作と言える1枚だと思います。
2000 2.11 Update

★★★☆

Mark Turner "Ballad Session" (Warner)

 現在私が最も注目している若手テナー奏者、マーク・ターナーの新作がワーナーからリリースされました。
 マーク・ターナーは、1965年11月オハイオ生まれのテナー奏者です。カリフォルニアで育ったターナーは、一度カレッジでアートを専攻するも、音楽への興味が強くなり路線変更し、名門バークリーへ。その後NYへと移り、ジェームス・ムーディー(ts)ジミー・スミス(org)タナ=リード クインテット(アキラ・タナ:ds ルーファス・リード:b) 、そしてジョシュア・レッドマン(ts)らのサポートメンバーとして活躍するようになりました。そして1994年に、若手ミュージシャンの登龍門的な存在のCriss Cross Jazzより初リーダー作「ヤム・ヤム」を発表。ソロ・アーティストとしての道へと新たな第一歩を踏み出しました。
 黒人テナー奏者としてコルトレーンの影響を受けるのは、当然といえば当然ですが、彼のユニークな所は、白人テナー奏者で、トリスターノ派として知られるウォーン・マーシュの影響を受けている点ではないでしょうか?。この一見両極端とも思える2人のテナー奏者に影響を受けたというあたりが、彼のユニークなサウンドの源なんでしょうか。
 さてメジャーでの3作目にあたる新作「バラッド・セッション」は、タイトルどおりミディアム〜スロウなナンバーばかりを演奏したものですが、ムーディーなカクテル・ミュージック的作品ではありません。そのことは、参加メンバーをみれば明らかでしょう。
 カート・ローゼンウィンケル(g)ケヴィン・ヘイズ(p)ラリー・グレネイダー(b)ブライアン・ブレイド(ds)が参加しており、ピアノ入りカルテット3曲、ギター入りカルテットが4曲、ピアノとギターの両方参加したクインテットが2曲、サックス・トリオ1曲の全10曲入りというアルバム構成です。
 選曲ですが、これがまた興味をそそられるものとなっています。スタンダードのガーシュイン作「アイ・ラブ・ユー・ポーギー」から始まり、レナード・バーンスタイン作の「サム・アザー・タイム」(余談ながら、この曲をベースにビル・エヴァンスが「ピース・ピース」という曲を書き、それにまた影響を受けて作られた曲がマイルスの「フラメンコ・スケッチ」なんです。)そして何とマイルスの名演で知られるショーターの「ネフェルティティ」そしてホーギー・カーマイケルの「スカイラーク」が続く…、こんな流れ、普通の人なら絶対にやりません、というか出来ません。他にもボビー・ハッチャーソンの「ヴィジョンズ」やカーラ・ブレイの「ジーザス・マリア」など一筋縄では行きそうにないナンバーが並んでいます。
 演奏ですが、Criss Cross時代から、彼のジャズを聴きつづけてますが、正直、初めて大きな感銘を受けました。全体の雰囲気は、ピアノをヘイズからブラッド・メルドーに入れ替えた以外、今作とほぼ同じメンバーの前作「イン・ジス・ワールド」と共通するものですが、スロウテンポの曲中心ということで、演奏に深みが出ているようです。ピアノ入りのトラックでは、比較的コンサバな雰囲気ですが、ピアノレスでギターに、カート・ローゼンウィンケルが入った曲がやはり素晴らしいです。
 特に3曲目の「ネフェルティティ」は目から鱗状態です。サックスとギターが、同時に"あの"メロディーを演奏することなく、アドリブと"あの"メロディーが交錯しながら盛り上がってゆく、その演奏は、マイルスの解釈にも勝るとも劣らないものだと思います。カートのギターの良さについては、2月の彼の新作レビューでコメントしたかと思いますが、カートとターナーのサックスの相性の良さも、この作品を聴けばよくわかると思います。
 ターナーのテナーですが、かなり個性を発揮するようになってきていると思います。ジョー・ロバーノっぽく聞こえる部分も少なくなってきています。ただアグレッシヴに演奏する箇所では、コルトレーンばりの熱さと情熱を感じるのですが、クラシカルな雰囲気、特にサックス・トリオで演奏された「スカイラーク」や6曲目の「オール・オア・ナッシング・アット・オール」などでは、ウォーン・マーシュの影響なのか端正すぎるきらいがあり、その2つの要素がまだバラバラになっている印象を受けました。この2つが有機的にターナーの中でひとつになれば、21世紀のトレーンやショーターになれそうな期待をいだかせます。
 マイナー盤を含めアルバム4枚目にして早くも、そのとてつもない才能の片鱗をのぞかせたこのマーク・ターナー。ターナーの師匠のような存在らしいですが、最近、何がしたいのかよく分からないジョシュア・レッドマンよりも、マーク・ターナーのサウンドの方に私は惹かれます。21世紀を目前に控え、この男は絶対に何かヤル。このことを確信させてくれる新しいアコーステック・ジャズです。
2000 2.13 Update

★★★★☆

Eliane Elias "Everything I Love" (Blue Note)

 ランディ・ブレッカーの元カミさんでもある、ブラジル人ピアニスト、イリアーヌ・エライアスの新作が、輸入盤で到着しました。(国内盤は先行リリース。)
 98年リリースの前作「シングス・ジョビン」は、タイトルどおり全編ボサノヴァ・テイストなサウンドで、参加していたテナーのマイケル・ブレッカーをスタン・ゲッツに見立てた現代版「ゲッツ〜ジルベルト」といった雰囲気の作品でしたが、新作は、ボサノヴァ色をほとんど感じさせないジャズ作品となっています。
 1曲にギターのロドニー・ジョーンズが参加している他は、ピアノ・トリオによる演奏で、ここでは2つのトリオが編成されています。ひとつは、ジャック・ディジョネット(ds)=マーク・ジョンソン(b)。そしてもうひとつは、カール・アレン(ds)=クリスチャン・マクブライド(b)というものです。リズムで遊んだような、ややコンテンポラリーなスタイルの演奏は、ディジョネット=ジョンソン組に、またトラディショナルな雰囲気の強いトラックには、アレン=マクブライド組を起用している感じです。また「ザ・ベスト・オブ・マイ・ハート」や「アイ・フォール・イン・ラヴ・トゥ・イージリー」「ゼイ・セイ・イッツ・ワンダフル」という3曲には、イリアーヌのヴォーカルがフィーチャー(もちろん英語で。)されていますが、これが、なかなかいい雰囲気で、正統なジャズ・ヴォーカルというのには、少々無理があるとは思いますが、ボサノヴァのようにつぶやくように歌う彼女のアンニュイな歌は、硬派になりがちな作品の中のチェンジ・オブ・ペース的な役割を果たしているように感じました。
 さて今回の新作は、前作の全編ボサノヴァというコンセプトの反動か、全編ストレートなジャズというのがメインテーマのようです。イリアーヌ自身も、「セールスを考えればブラジル人である私にとって、ボサノヴァをやるのがいいかもしれないが、とにかく私はジャズ・ピアニスト。今回はジャズにこだわりたかった。」とインタビューで答えていますが、その通りの意気込みを十分に感じさせる作品となっています。数曲を除いては、タイトル曲をはじめ、「アイ・ラブ・ユー」「ウディン・ユー」「アローン・トゥゲザー」「枯葉」などスタンダード中心の選曲で、そこにもジャズの伝統の中に敢えて自らのピアノを置いて、そこから新しい何かにチャレンジするという姿勢がうかがえると思います。まぁそんな理屈は抜きにしても、特にタイトル曲「エヴリシング・アイ・ラブ」での楽しそうに弾けた演奏は、ジャズをプレイする喜び・楽しさに満ち溢れたものだと思います。
 演奏の中身ですが、上でもコメントしたとおり、1曲目に収録されている「Bowing to Bud」(バド・パウエルにお辞儀を)というオリジナルをはじめ、伝統を重んじる、言いかえればスウィング重視のトラックは、アレン=マクブライド組を使い、スタンダードの新しい解釈にトライするトラックでは、ディジョネット=ジョンソン組を使って演奏していますが、やはり面白いのは、長年、付き合いのあるディジョネット=ジョンソン組の方でしょう。クラシックの正式な教育も受けているイリアーヌの粒立ちの良いピアノと、変幻自在なディジョネットとのタイコとのコンビネーションは現代のジャズ・シーンのひとつの「定番」ものといえると思います。
 アルバム全体でもかなり良い出来の作品ですが、ベスト・トラックを挙げれば、アレン=マクブライド組では、アップテンポにスウィングする11曲目のガレスピーのナンバー「ウディン・ユー」を、ディジョネット=ジョンソン組では、やはりタイトル・ナンバーを特にレコメンドしておきたいと思います。
 80年代初頭に、ベーシスト、エディ・ゴメスとの出会いをきっかけに、NYのジャズ・シーンに登場したイリアーヌ・エライアスですが、「ブラジル人の女性」がジャズをやることに対しての聴き手の違和感のようなものと常に戦ってきたそうですが、この作品では、そんな違和感の欠片も感じられません。ただここにはクリエイティヴな素晴らしいピアニストが存在するだけです。
 そんな感じでこのイリアーヌの新作は、彼女の今までの作品の中でもベストともいえる内容かと思います。ボサノヴァを歌う彼女の雰囲気が好きな人には、敢えて薦められませんが、コンテンポラリーで活きの良いピアノ・トリオ作が好きな人には強くお薦めしたい好作です。
2000 2.16 Update

★★★★

Caribbean Jazz Project "New Horizons" (Concord Picante)

 元スパイロ・ジャイラのマレット・プレーヤー、ディヴ・サミュエルズ、フュージョン・フルート奏者の第一人者、ディヴ・バレンティン、そして、ブレッカー・ブラザースや、アイウィットネス・バンドでの活躍で知られるベテラン・ギタリスト、スティーヴ・カーンの3人によるラテン・ジャズ・プロジェクト「カリビアン・ジャズ・プロジェクト」のアルバムが、コンコード・レーベル内のラテン・ジャズ・ディヴィジョンであるコンコード・ピカンテからリリースされました。(ちなみに、普通のジャズが「コンコード・ジャズ」フュージョン/コンテンポラリー系は「コンコード・ヴィスタ」からのリリースとなってます。)
 参加ミュージシャンは、リーダー格の3人以外のベース・ドラム・打楽器は、ニューヨークで活動中のラテン系ミュージシャンとなっています。
 「カリビアン〜」というタイトルから想像すると、ラテン的な熱いサウンドというイメージですが、バレンティン以外は、どちらかと言うと知性派のミュージシャンなので、かなりジェントルなラテン・ジャズとなっています。雰囲気としては、スパイロ・ジャイラ在籍時にMCAやGRPからリリースしていたサミュエルズのリーダー作といった感じでしょうか。また、2〜3年前に発表したサミュエルズが中心となったカル・ジェイダーのトリビュート作の延長線上とも言えるサウンドです。メロディーラインが、ヴィヴラフォン=フルート=ギターのハーモニーで演奏されているため、ラテン的な熱さよりも、むしろクールさを感じてしまいます。ラテン・ジャズとして聴くと、正直、かなり中途半端なサウンドです。
 収録されている曲ですが、半数以上が、サミュエルズのオリジナルで、数曲がカーンのオリジナル、耳馴染みのナンバーは、ガレスピーの「チュニジアの夜」だけでというもので、同じようなミディアム・テンポの曲が延々と続いています。まぁ、その中で面白かったのは、スティーヴ・カーンのアイウィットネスあたりでもやりそうな曲での、カーンのよじれたギターソロくらいでしょうか。いつもなら陽気に弾けるバレンティンも、かなり地味な演奏に終始しています。サミュエルズとカーンのソロの雰囲気やフレーズがラテンとかけ離れたもので、サウンドのコンセプトから浮いている印象です。彼らは、ラテン音楽が好きだから、こんな企画をやったのでしょうが、好きなのと自ら演奏してリスナーを楽しませることとは違うと思います。
 まぁとにかく退屈なラテン・ジャズ作です。リーダー格の3人のよほどのファンの人以外は、堂々と通過して問題無い作品でしょう。
2000 2.17 Update

★★

Ronny Jordan "A Brighter Day" ( Blue Note〜Toshiba EMI)

 1991年に、マイルス・ディヴィスの名曲「ソー・ホワット」をアシッド・ジャズ化したバージョンで(93年のセカンド作収録のタニア・マリアのカヴァー「カム・ウィズ・ミー」もカッコ良かった!FMを中心にヒット。)、ジャズ/フュージョン・ファンからクラブDJまで、幅広く人気を集めたUKのギタリスト、ロニー・ジョーダンの米ブルーノート移籍第一弾となる新作が、何故か日本盤先行という形で、東芝EMIからリリースされました。
 ウェス直系のギターながら、ジャズの特別な教育を受けていないことが好を奏したようで、テクニックに頼らない自由でメロディアス、そしてまたグルーヴィーなそのサウンドは、耳よりも感覚でカッコ良いか、悪いかを判断する若いファン層にも大きくアピールするものでしょう。
 さてフルアルバムとしては、4枚目となる(ミニ・アルバム/リミックス作は除く)今作ですが、良い意味でのフュージョンとクラブ的な要素が融合していたファースト作「ジ・アンティドウト」(92年)やセカンド作「ザ・クワイエット・レヴォリューション」に近い雰囲気となっています。セールス的なことからか、DJスピナあたりのクラブ系のミュージシャンが参加!とプロモートしてますが、実際はその手の雰囲気を感じさせるものは、ラストに収録されているアルバム・タイトル曲「ア・ブライターディ」にラップのMos Defをフィーチャーしたナンバーくらいで、その他の曲は、良い意味での至極まっとうなグルーヴ系スムース・ジャズ・サウンドです。クラブ系?と胡散臭さを感じている方も多いと思いますが、その他の参加メンバーを聞けば、このロニー・ジョーダンというギタリストが、失礼ながら意外とまともな存在だと言うことが分かると思います。
 マーカス・ミラーご用達のプージー・ベル(ds)や、ウィントン・バンド出身のジェフ・ワッツ(ds)小曽根真のトリオで知られるクラレンス・ペン(ds)ジャズ・ファンクの先駆者ロイ・エアーズ(vib)チック・コリア・オリジンのスティーヴ・ウィルソン(fl)グラミー賞受賞バンドのラテン・ユニット、フォート・アパッチ・バンドのアンディ・ゴンザレス(b)ナベサダをはじめ数多くのジャズメンと共演歴をもつベテラン、オナージェ・アラン・ガームス(p)BNが売出し中の新人、ステフォン・ハリス(vib)ロバータ・フラック・バンド出身のカフェことエドソン・ダ・シルヴァ(perc)など…NYで活躍するマジもののジャズメンが参加していることからも、この作品のマジ度合いが分かると思います。
 アルバムの内容ですが、レイ・ヘイデンあたりの雰囲気にも通じる比較的UKジャズファンクっぽい曲がアルバム前半に、中盤以降には、生楽器を多く使ったラテン・フュージョン的なサウンドや、70年代フュージョン的なサウンド、それに、生楽器のリズムによるリアル・ジャズっぽいサウンドが登場する、といった感じです。前半では、3曲目のDJスピナがバックトラックを作った超クール&スムースなミディアム・グルーヴナンバー「マッキン」や5曲目の作者であるロイ・エアーズも参加したジャズ・ファンク・クラシック「ミステック・ボヤージ」。また後半では、アンディ・ゴンザレスが参加したリアルなラテン・テイストな9曲目のラテン・クラシック・ナンバー「マンボ・イン」や10曲目の70年代フュージョンっぽいブラジル風味の「リオ」それにケヴィン・ユーバンクスみたいなアコースティツク・ギターをフィーチャーした12曲目の「シーイング・イズ・ビリーヴィング」、ジェフ・ワッツやステフォン・ハリスが参加したなど13曲目のリアル・ジャズテイストな「5/8イン・フロウ」など…辛口な聴き方をしても、なかなか聴き応えのあるナンバーが15曲78分近く収録されています。
 今回の新作が米ブルーノートとの契約第一弾ということで、「ロニー・ジョーダン=クラブ系」というステレオ・タイプのイメージを払拭したいのか、かなり多面性のある作品に仕上がっているようです。以前の作品もアメリカでリリースされていたものの、ブルーノートとの契約により、改めてロニー・ジョーダンというギタリストを世に問うべく用意された名刺代わりの1枚ではないでしょうか。次作では、ディアンジェロやエリカ・バドゥ的なニューソウル・テイストを加えると渋いサウンドになるのではないでしょうか。とにかく何はともあれ、なかなかクールでヒップなサウンドです。特に「夜系」のスムース・ジャズ・ファンの人には大推薦の1枚です。
2000 2.20 Update

★★★★

Wayne Krantz "Greenwich Mean" (自主制作?)

 マイク ・スターンの嫁さんのギタリスト、レニ・スターンや、ヴィクター・ベイリー(b)のバンドで活動する白人ギタリスト、ウェイン・クランツのニューアルバムが、レコード会社のクレジット無し、CDナンバーのみ"005"という自主制作盤らしき形でリリースされました。(これが2月21日に大阪のタワレコ梅田店の店頭に並んでました。何故?。)
 ウェイン・クランツは、これまで、Enjaに3枚、Alchemyというインディーズに1枚の作品を残しており、今作は前作のレニ・スターンとのギター・デュオ作(Alchemy)から約3年振りの新作となります。あまり馴染みの少ないギタリストかと思いますが、ヴィクター・ベイリーの最新作にフィーチャーされているギタリストといえば、「あぁ、あの人か!」と思い出す方も多いと思います。
 さてこの作品は、彼がライブの本拠地としているNYの"The 55 Bar"(マイク・スターンやハイラム・ブロック、HARUこと高内春彦なんかが出演していることでも有名。あのジャコも飛び入りで出ていたらしい。)というライブ・スポットでの、DATによるノン・ミックスのダイレクト録音によるライブ作となっています。また録音は97年夏〜98年春にかけて行われたものです。ダイレクト録音といえば聞こえはいいですが、要はブートレグのオーディエンス録音みたいなものなので、臨場感はあるものの音は、お世辞にも良いとはいえず、音質はジャコのBig World盤「Live in NYC」シリーズみたいな感じです。
 また収録されている曲も、24曲70分近く入ってるのですが、7〜8分の曲も何曲かあるものの、ほとんど2〜3分のリフのような曲で、おまけに、頭が途切れていたり、急にカットアウトしたりしていたり、曲の途中に無音部分があったりと、さながらオルタナやパンクのチープなインディー作を聴いているような感じです。まぁこれが演出なのか、しょうがなくこんなものになったのか、ウェイン自身に聞かないと分かりませんが、正直、デタラメなCDやなぁ…と思う反面、好意的にとらえれば、有り余るエネルギーを実感できるものと言えなくもありません。
 参加ミュージシャンは、Wayne Krantzのギターに、Tim Lefebvreのベース、Keith Carlockのドラムというトリオが基本で、一部8曲に、Will Leeがベースで参加しています。
 ウェインのギターですが、ジャズ色はほとんど無く、オールミュージック・ガイドの超短いアーティスト紹介によると、ジミヘン・ライクなギターとありますが、ジミヘンほどの粘りや熱さは無く、そこそこのディストーションやオートワウをかけて、テレキャスをかき鳴らすそのサウンドは、R&Bの影響を受けたオルタナ系やハードロック系のギタリストの雰囲気です。演奏自体は、自分の庭のようなクラブでのギグなので、十二分にホットなんですが、ウェインのギターは、演奏がいくら熱くなっても、どこか知的でクールな感じがして「ひいた」印象を感じるのは、「お郷」がロックではなくジャズにあるからなのでしょうか。
 全体の雰囲気は、R&Bやジャズの要素を取りいれたハードコア系のロック・インストといった感じで、とにかく前ノリで突っ走るドラマーが特にロックを感じさせるものです。ロックとは言ってもお客やリスナーにこれっぽっちも媚を売る気配のないものですので、あんまりポップではないですし、万人向けでもありません。
 しかし、まぁ、評価に困る作品です。常識的に採点すれば、音質やデタラメな編集など…マイナス点の目立つ作品ですが、個人的には、このアナーキーな雰囲気やノリは嫌いではないので、下のポイントとなりました。が正直、普通のリスナーにはあんまり薦められないですが、「カッコ良いか悪いか」と聞かれれば、カッコ良いサウンドといえるものだと思います。「結局どっちやねん!」とつっこんだあなたは、とりあえずいっときましょう!。
2000 2.22 Update

★★★☆

Steely Dan "Two Against Nature"(Giant)

 1980年発表のアルバム「ガウチョ」以来、20年!!振りのオリジナル・アルバムとなったスティーリー・ダンの新作「トゥ・アゲンスト・ネイチャー(Two Against Nature)」がリリースされました。
 70年代初頭に、ドナルド・フェイゲン(p vo)ウォルター・ベッカー(b vo)そしてプロデューサーのゲイリー・カッツらによって作られたスティーリー・ダンは、ロックン・ロール、R&B、ジャズ、サイケなどの要素をパラノイア的なまで緻密にミックスさせたサウンドと、フェイゲンのシニカルで前衛的な詩の世界で、幅広い人気を集めてきました。特にジャズ/フュージョン系のファンには、バーナード・パーディー、チャック・レイニー、スティーヴ・ガッド、リー・リトナー、ラリー・カールトン、ジェイ・グレイドン、ドン・グロルニック…等などの人気ミュージシャンが大挙して参加していたことでも、お馴染みでしょう。その中でも、77年のアルバム「エイジャ」(「ジョージー」「ペグ」などが収録。)は、ロックの名盤としてのみならず、ジャズ/フュージョン系の名盤としても高い評価を集めています。
 さてスティーリー・ダンとしては、95年のライブアルバム「ライブ・イン・アメリカ」以来となる今回の新作ですが、基本的には、古くからのファンには「う〜ん、なるほど…」とうなずかせるような古くからのスティーリー・ダン・サウンドを継承したものとなっています。フェイゲンの93年のソロ作品「KAMAKIRIAD」と「ガウチョ」を足して2で割ったような感じでしょうか。メジャーとマイナーの中間みたいなメロディーに、相変わらず少々意味不明な歌詞、無彩色っぽいサウンドは、スティーリー・ダンのサウンド以外には考えられないものです。
 しかし、やはりというべきか、80年の「ガウチョ」以前の作品と較べてしまうと、インパクトが無いのもまた事実なんです。なぜインパクトが無いのか?とこの作品を何度も繰り返し聴いてみたのですが、要は印象的な曲が無いのが一番の要因じゃないかと思います。それに 、同じようなミディアム・テンポの曲が多すぎるのも、作品の印象をのっぺりとしたものにしている要因のひとつだと思います。
 サポート・ミュージシャンは、マイケル・ホワイト、ヴィニー・カリウタ、リッキー・ローソン(ds)ジョン・ヘリントン、ヒュー・マクラケン、ポール・ジャクソンJr.(g)トム・バーニー(b)クリス・ポッター(sax)などが参加しており、特にクリス・ポッターが、スティーリー・ダンの微妙な色彩のサウンドに合わせたなかなかユニークなソロを聴かせてくれています。
 ファンにとっては、「20年ぶりのオリジナル・アルバムが出た!」という事実は、確かに嬉しいことなんですが、聴いた後の正直な感想としては、このサウンドを今、敢えて発表する必然性をあんまり感じられないんです。フェイゲンとベッカーという天才肌の2人には、もっと孤高なサウンドを期待してしまいます。全盛期を焼きなおしたようなお手軽な作品を出すくらいなら、スティーリー・ダンというグループの存在を伝説のまま封印して欲しかったと思います。
 スティーリー・ダンを初めて聴く人は、絶対これから聴き始めてはいけません。スティーリー・ダンのサウンドというものはこんなチープなものじゃないんです…。
2000 2.28 Update

★★★

は1(最悪)〜5(最高)です。
感想を書きこんでいただければ幸いです。

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