Swingroove Review

February 2000



D'Anjero "Voodoo"(Virgin USA)

 もはやこのキーワードも古くなった感もありますが、ニューソウルで90年代後半のR&Bシーンをリードしたディアンジェロの約4年ぶりの新作がリリースされました。
 タワレコやヴァージン、HMVなどの輸入盤店では、他にめぼしいR&B系の新譜がないことから?大々的に新作をプロモートしているので、試聴機などですでにお聴きになった方も多いと思います。
 さてこのディアンジェロやマックスウェルなんかが、カテゴライズされる「ニューソウル」ですが、個人的にはあまりいい印象を持っていません。所詮70年代初期〜中期のカーティス・メイフィールドやダニー・ハサウェイのコピーなんです。そこには、レトロな気持ち良さこそあれ、新しさや未来へとつながる何かを見出すことは出来ません。当然ながら、コピーを聴くくらいなら、カーティスやダニーなんかのオリジナルを聴いた方が、100倍いや1000倍ましな気がします。それくらいカーティスやダニーのソウルは、格調高い素晴らしい音楽なんです。
 さてこのディアンジェロの新作ですが、バリバリのニューソウルといった感じのファースト作と比較するとヒップホップの要素が強くなっている感じがします。ジャケットのシールにも「ゲストにDJプレミアやレッドマン参加!」と大きく宣伝されています。個人的には、その手の雰囲気のR&Bにはあまり興味がなので、ジャズ系のゲストを探して見ると、ロイ・ハーグローヴ(tp)チャーリー・ハンター(g)ピノ・パラディーノ(b)あたりの参加に興味を引きます。特にロイ・ハーグローヴのホーンの効果は大きくその雰囲気は、70年代初期のカーティス・メイフィールドを彷彿とさせるものです。
 ヒップホップ風のナンバーは正直それなりの出来ですが、個人的に気に入ったのは、ミディアム〜スロウのナンバーです。特に、アルバム終盤にポツンと収録されてる、ロバータ・フラックの大ヒットで知られるユージン・マクダニエル作のナンバー「フィール・ライク・メイキン・ラブ」です。このメロウに、そして、横にゆれるグルーヴは、まさに「ヴァイヴ」というもので、この「ヴァイブ」は、30年代のデューク・エリントンの音楽から始まりマイルスが引継ぎ、後にR&Bという形で熟成された本物のソウル・ミュージックにしか無いものだと思います。
 最近のジャズやR&Bを聴いても、この「ヴァイブ」を感じる作品少ないですが、これはまさに久々本物を感じさせる作品です。ジャズは4ビートしかだめ、みたいな人はダメでしょうが、ジャズやR&Bを含めたソウル・ミュージック・ファンに強くお勧めしたい1枚です。ここにジャズを含めたソウル・ミュージックの未来があるはずです。ジャズ・ファンには、ここでその「ヴァイヴ」を体験したトランペッター、ロイ・ハーグローヴが、どのように、彼自身の作品に反映させてゆくのか、またここも気になる所ではないでしょうか。
 先ごろ亡くなったカーティス・メイフィールドの「ヴァイブ〜スピリット」がミレニアムのストリートでリ・ボーンしたような超ヒップでクールな好作です。
2000 2.3 Update

★★★★

Herlin Riley "Watch,What You're Doing"(Criss Cross Jazz)

 ウィントン・マーサリスのグループのドラマーとして知られるニューオリンズ出身のハーリン・ライリーの42歳にしての初リーダーアルバムが、コンテンポラリー・ハード・バップの良心ともいえるレーベルCriss Cross Jazzからリリースされました。
 ウィントンのグループ以外にも、アーマッド・ジャマル(p)やウィントンからみのリンカーン・ジャズ・オーケストラでも活躍しているという、ハーリン・ライリーですが、ウィントンのセクステットなどでは、グループ全体のサウンドの中に埋没している感じのドラマーで、特別彼のタイコを意識して聴くことはありませんでした。
 さてこの初リーダー作ですが、ワイクリフ・ゴードン(tb)ヴィクター・ゴーインズ(sax,cl)ロドニー・ウィテカー(b)といったウィントンがらみのメンバーを中心に、ウィントン役?の若手白人トランペッター、ライアン・カイザーやファリド・バロンのピアノ(無名ながらなかなかカッコ良いピアノ)を加えたメンバーによって録音された作品です。
 この作品で、正直初めて彼のタイコを意識的に聴きましたが、結論から先に言えば、素晴らしいの一言に尽きます。ニューオリンズの伝統的なリズムである「セカンド・ライン」などの要素を随所に入れながら躍動するリズムは、コンテンポラリーでありながら、ジャズの故郷であるニューオリンズ出身ならではのプリミティヴな感覚をも持ち合わせた個性的なものです。
 3曲目の「ジョン・ルイス」というアルコ・ソロをフィーチャーした、ウィテカー作のスロウ・ナンバー以外は、すべてライリー自身のペンによるオリジナルなんですが、無機的な曲は無く、彼のドラムを際立たせる良い曲を書いてます。
 4曲目や5曲目に収録されているナンバーなどは、もろウィントンのセクステット的なナンバーですが、1曲目のセカンドラインのリズムをベースにしたブルージー&ファンキーなナンバーや、2曲目のアップ・テンポのハードバピッシュなナンバーなどでは、ウィントン的な演奏では感じることの少ないタイトなカッコ良さを実感できます。
 サイドメンでは、どっしりと真っ黒のベースでボトムを支えるウィテカーと、ウィントンのセクステットでのストレスを発散?させるかのようにトレーンばりのブロウを聴かせてくれるゴーインズ、それにウィントンのセクステットにも参加しているエリック・リードを髣髴とさせるピアノのバロンのパフォーマンスが印象に残りました。
 42歳にしての初リーダー作となったこのハーリン・ライリー。一応バンド・リーダーとしては、新人?という風に考えると、「遅れてきたニュースター誕生」といっていいほどのインパクトを持った作品だと思います。まぁウィントン・マーサリスのジャズが嫌いという人には、あんまり薦められないかもしれませんが、個人的にはかなり気に入った作品です。ウィントン的なサウンドはあるものの、ウィントンの生真面目なディレクションが入ってないので、その分ラフでぶっちゃけた?ジャズになっていると思います。
 トニー・ウィリアムスしかり、ジャック・デジョネットしかり、このライリーしかり、良い曲を書けるドラマーのリーダー作には、ほんとクオリティの高い作品が多いと思いませんか?。
2000.2.4 Update

★★★★

Alex Bugnon  "・・・as promised"(Narada Jazz)

 80年代中期に、フレディ・ジャクソンでひとヤマ当てた?ポール・ローレンス率いるクワイエット・ストーム・サウンドを得意としたプロダクション「ハッシュ」からデビューした白人キーボード奏者アレックス・ブニオン(ローマ字読み?でアレックス・バグノンとカタカナ表記してる間抜けなCD屋もありますが、ブニオンが正解。フランス系?かな)の久しぶりの新作が、最近ラムゼイ・ルイスも移籍してきて、ジャズ/フュージョンにも力をいれつつある、ニューエイジ系レーベル、ナラダからリリースされました。
 彼の音楽は、一貫してクワイエット・ストーム・テイストなメロウ&グルーヴィーなもので、今回の新作でもそのポリシーは貫かれてます。
 ただこの新作で、とにかく凄い!と思わせるのが、サポート・ミュージシャン/シンガーの豪華さです。 ミュージシャンでは、ヴィクター・べイリー、アンソニー・ジャクソン(b)プージー・ベル(ds)マイク・キャンベル、レイ・フラー(g)ディヴ・デローム(key)ジェラルド・アルブライト、ブランフォード・マーサリス、ヴィンセント・ヘンリー(sax)バシリ・ジョンソン(perc)…。またシンガーでは、クリストファー・ウィリアムス、レイラ・ハサウェイ、アンジー・ストーン(ディアンジェロのカミさんでアルバムもヒット中!)など…。特に、ブラコン系のプロダクションでの仕事が多いためか、参加シンガーの豪華さが特に目立ちます。
 サウンドの方は、以前のような打ち込みメインではなく、ヴィクター・ベイリー=プージー・ベルという横方面にうねるリズムを中心にしたグルーヴィーなもので、ブニオンのピアノはほどほどに、サックスやヴォーカル、コーラスがふんだんに絡むというもので、フュージョン/スムース・ジャズ ファンのみならず、ブラコン/R&Bファンにも広くアピールしそうな感じです。
 特に、渋いクリストファー・ウィリアムスのヴォーカルをフィーチャーした、ローリン・ヒルの「オール・ザット・アイ・キャン・セイ」やアンジー・ストーンのリードヴォーカルが光る「ウォント・ビー・ア・フール」などは、アダルト系R&Bファンにも強くアピールするサウンドではないでしょうか?。  またジャズファンには、アンソニー・ジャクソン=プージー・ベルといういわゆるフュージョン系のリズムセクションとの久々の共演となるブランフォード・マーサリスのソプラノ・サックスも気になる所です。ミディアムテンポのヒップなナンバーで、ブランフォードも、スティング時代を思わせるなかなかの演奏です。
 またアルバムラストに収録されているコンテンポラリーでセクシーなアレンジが施されたコルトレーンの名曲「ネイマ」も聴きどころです。ヴィンテージっぽいフェンダー・ローズで聴くコンテンポラリーな「ネイマ」もシブシブです。
 ゲスト関係で盛り上がってしまいましたが、主人公のブニオンのキーボードですが、個性は薄いものの、全体のサウンドを考えながら印象的なフレーズを少ない音数で表現するスタイルには、キラリと光るセンスを感じます。
 最近のフュージョンものといえば、打ち込みや小人数のサウンドが中心で、ライナーのクレジットを見ながら、「〜のベースかっこええな」「〜のヴォーカルはまってんなぁ」みたいな聴き方の出来る豪華な作品は少なくなりましたが、このアレックス・ブニオンの新譜は、そんな感動を久々に体験できた作品です。
 フュージョン/スムース・ジャズファンは必聴。クワイエット・ストーム系のソウルファンにもお薦めできるグルーヴィー&メロウな好作です。
2000.2.4 Update

★★★★

MTB "Consenting Adults"(Criss Cross Jazz)

 MTB?なんやそれ?マウンテンバイクか?みたいなユニット名の作品がクリスクロス・ジャズからリリースされました。ジャケットには、Brad Mehdau,Mark Turner,Peter Bernstein,Larry Greneadier,Leon Parkerの名前が!。これは買わずにはいれらません。という感じに盛り上がって購入したこの盤ですが、さてその内容は?。
 このMTBというユニットは、レギュラー活動していたものではなく、このレコーディング・セッションの為に組まれたスペシャルなもので、「MTB」なるユニット名もどうやら、"Mehdau""Turner""Bernstein"の頭文字をとっただけという安直なもののようです。従ってリーダー格は、その3人で、ベースのグレナディアーとドラムのパーカーがサポートメンバーということになります。
 この作品は、未発表のものながら、録音が1994年の12月ということで、メルドーやターナーの演奏が今のものと少し違いを感じます。特にメルドーのピアノですが、凄くいいんです。最近の鬱の入った陰気なものではなく、50年代後半のビル・エヴァンスの精神を90年代にフィードバックしたようなモダンで新鮮なピアノを聴かせてくれています。本来はこんな良いピアノを弾ける人なのに…。このメルドーというピアニストは躁鬱病で、最近はその鬱状態なのかな?と思わせるほどで、ここでは操状態の素晴らしいピアノを披露しています。ターナーのテナーに関しては、メルドーと反対に、まだまだ青い印象で、「お前はジョー・ロヴァーノか?!」とツッコミたい所があったりしますが、勢いに任せて一筋にハードバップしてる姿には好感を持てます。バーンスタインのギターはこんな結構コンテンポラリーな連中の中でも、グラント・グリーン・ライクなスタイルで我が道を行ってます。まぁ普通のバーンスタインのギターが、この作品の安定感につながっているのかもしれません。
 サポート・メンバーのリズム・セクションですが、これがまたいいんです。後にパットのトリオに抜擢されることになるグレナディアーの硬質なベースや、リーダー作になると妙な作品を出してしまうパーカーですが、サポートに徹したここでのドラムは伝統とモダンさが調和した良い感じのもので、リズム的にも、口うるさい小姑的なジャズ・ファン(私のような…)をも納得させるものだと思います。
 選曲ですが、メンバーのオリジナルと、マクリーンの「リトル・メロネェ」ショーターの「リンボ」シルヴァーの「ピース」などのジャズメン・オリジナルを組み合わせたものでバランスのとれたものです。全体的には、60年代中期のモーダルなジャズを、90年代の勢いで演奏した感じでしょうか。
 21世紀のジャズを牽引していく(いってもらわなくては困る!)精鋭ジャズ・メン達の次世代へとステップしてゆく上での助走のような作品でしょうか。特に最近のメルドーやターナーのジャズはようわからん、みたいに感じてる人にもお薦め出来る至極まっとうなジャズです。妙な企画や主張がないことが功を奏した爽快感のある90年型ハードバップの佳作です。
2000.2.5 Update

★★★★

John Patitucci "Imprint"(Concord Jazz)

 80年代中期に、チック・コリア・エレクトリック・バンドから彗星の如くデビューしたベーシスト、ジョン・パティトゥッチ。4弦〜5弦のベースで、バキバキ・ベンベン、弦をスラップで弾いたかと思えば、当時まだまだ一般的ではなかった6弦ベース(当時は確かケン・スミス製のアンソニー・ジャクソン・モデルだったか?)でギターのような幻想的なソロも披露する、おまけにアコースティック・ベース(コントラバス)も上手い、と驚きの100連発!のような存在で、同じチックのグループ、リターン・トゥ・フォーエバー出身のスタンリー・クラークの再来を思わせるものでした。
 そんな感じで、その頃から私は彼の熱烈なファンで、1988年にGRPよりリリースした初リーダー作以来すべての彼のソロワークを聴き続けてますが、この新作で早や、9作目となるようです。
 GRP時代(1988〜1995)は、エレベがメインでコントラバスをアクセント的に使ったサウンドでしたが、97年にコンコード・ジャズに移籍してからのサウンドは、コントラバスが中心のアコーステックなもので、GRP時代とは逆に6弦のエレベをギターのように使ってアクセントにするサウンドに変化したようです。そのサウンドもかなり内省的なもので、GRP時代のはじけるような躍動感溢れるサウンドを知る人には、…なジャズだったように思います。
 コンコード2作目にあたる98年リリースの前作「Now」は、ジョン・スコフィールド(g)マイク・ブレッカー(ts)などをゲストに迎えた硬派なジャズものでしたが、コンコード移籍3作目にあたる今回の新譜は、ラテン・ジャズがテーマとなっているようです。
 参加メンバーは、ジョン・ビーズリー、ダニーロ・ペレース(p)ジャック・デジョネット、オラシオ・エルナンデス(ds)クリス・ポッター、マーク・ターナー(ts,ss)ジョバンニ・ヒダルゴ(perc)サチ・パッティトゥッチ(kalimba)。
 ラテン・ジャズが テーマと書きましたが、正確には、エルナンデスのタイコとヒダルゴの参加したラテン・ジャズと、ディジョネット参加の内省的なアコーステック・ジャズ作の2本立てといった感じの作品です。ディジョネット参加のジャズ・トラックの方は、コンコード移籍後のパティトッッチの芸風そのままといった感じの、アレンジ/構成重視の陰気系で、パティトゥッチ=ディジョネットの濃密なリズム・セクションには感心するものの、やはりいまいち入りこめません。逆に面白かったのが、ラテンジャズのトラックで、GRP時代には、アフリカンやブラジリアンな作品をリリースしていただけに、ラテン的演奏のツボも心得ているようで、内省的なサウンドが多いなかでの、動きの役割りを果たしているようです。
 パティトゥッチのコントラバスですが、私はチックのアコースティック・バンドでの演奏が一番好きです。アコーステック・バンドでの、アクロバテックなソロを含むフットワークの軽さを活かしたコントラバスは、軽快感のあるジャズでは活かされますが、コンコード時代のような重い感じのジャズにおいては、パティトゥッチのコントラバスにやや重さや味に欠けるような気がします。このあたりでは、ディブ・ホランドやジョージ・ムラーツの領域までに到達するに至っていません。ここらへんが、彼のコントラバス中心のジャズにいまいち乗りきれない部分ではないかと思います。
 事前のインフォメーションでは、「ラテン・ジャズ」ということで、久しぶりに熱さを感じさせるサウンドが聴けるかな?と期待したのですが、原則的にはコンコード移籍後に共通する「寒色系」のサウンドで少しがっかりしました。私個人としては、ベースを弾く人間としていろいろと参考にもなることが多いので、どんなサウンドであろうとパティトゥッチのリーダー作ということで、買いですが、普通のジャズ・ファンには、正直あまり興味深いジャズとは言えないような気がします。
 心機一転で、全編エレベによるタテのりのファンキーなアルバムをまた作ってもらえないものですかねぇ。
2000.2.5 Update

★★★

Steve Davis "Vibe Up" (Criss Cross Jazz)

 チック・コリアのニューグループである「オリジン」のメンバーに抜擢され一躍注目を集めるようになったトロンボーン奏者スティーヴ・ディヴィスの新作がCriss Cross Jazzからリリースされました。
 これまでに何枚かこのCriss Crossにリーダー作を吹きこんでいるディヴィスですが、そのメンバーはほぼ、ディヴィスやエリック・アレキサンダー(ts)、ジム・ロトンディ(tp)、ディヴィッド・ヘイゼルタイン(p)らを擁するグループ「ワン・フォー・オール」のメンバーが中心にサポートされていましたが、新作では、ヘイゼルタイン=ピーター・ワシントン(b)=ジョー・ファーンスワース(ds)というリズムは「ワン〜」と同じながら、フロントラインが少しユニークな編成となっています。
 スティーヴ・ディヴィスのトロンボーンに、スティーヴ・ネルソンのヴィブラフォン、ピーター・バーンスタインのギターというのが、このセッションのベーシックなもので、3曲にアルト・サックスのマイク・ディルボという人(無名ながらなかなか活きの良いアルト吹いてます。ディヴィスと音楽学校の同級生だったとか。)が参加しています。
 サウンドの方ですが、良くも悪くも破綻の無い中庸なジャズです。特にフロント・ラインに、ギターとヴィヴラフォンが入っているためか、ハーモニーに優しさと品の良さを感じさせます。がしかし、逆に考えればジャズの熱さをあまり感じない退屈なサウンドといえないことも有りません
 トロンボーンという楽器で、フレーズや演奏スタイルに個性を出すのは、大変難しいようで、自らのサウンドを作ろうとすると、アレンジや編成にこだわらざる得ないとは思いますが、やはり「ワン・フォー・オール」スタイルの3管編成が一番いいと思います。そんな意味で、この作品の中でのベスト・トラックは、アルバムラストに収録されてるアルトサックスが参加したディヴィス作のミディアム・アップのハードバップ調のナンバーでしょう。
 なかなか光を浴びることの少ないトロンボーンだけに、あまり有望な新人がなかなか登場しませんが、このスティーヴ・ディヴィスは久々に登場したニュースターといっていい優秀なプレーヤーです。今後は、良い意味での「アク」をどのように付けて個性を発揮していくのかが、彼の課題となりそうです。
2000.2.6 Update

★★★☆

Kurt Rosenwinkel "The Enemies Of Energy" (Verve)

 フィラデルフィア出身という若手ギタリスト、カート・ローゼンウィンクルの3枚目(だと思いますが…)のリーダー作が、メジャー・レーベルのヴァーヴからリリースされました。
 彼のギターを初めて聴いたのは、ゲイリー・バートンのギタリストが多く参加した92年のGRP盤「シックス・パック」だったかと思います。そこには、ジョン・スコフィールドやジム・ホール、ケヴィン・ユーバンクス、ラルフ・タウナーなどからBBキング!といった超大物達が参加していたので、そこでのカートの印象は正直皆無に近いものでした。ただ唯一感じたのは、ジム・ホールの系統に属するギタリストだなぁということくらいでした。
 ファースト作は未聴ですが、スペインのフレッシュ・サウンドからリリースされており、私は、98年にリリースされたCriss Cross盤「インチュート」からチェックしています。そのCriss Cross盤は、ピアノ入りのカルテット編成で、スタンダードを多く演奏するといったもので、そのフィーリングはジム・ホール直系のイメージよりは保守的な感じの作品でした。
 さて今回の新作ですが、洋盤のジャケットには「今日でもっともクリエイティヴで素晴らしいギタリストのひとりだ。」といったコメントをジョン・スコフィールドが記しているほど、結構力の入ったものとなっています。
 参加メンバーは、ベン・ストリートのベース、ジェフ・バラードのドラムス、スコット・キンゼイのピアノ/シンセサイザー、マーク・ターナーのテナーサックスというクインテット編成です。
 サウンドの方は、ポール・モチアンのエレクトリック・ビ・バップ・バンドに、ビル・フリゼールの後任で参加したという経歴が象徴するかのようなコンテンポラリーなもので、つかみどころの無いサウンドながらハマると結構快感という感じのものです。収録曲も1曲を除きカート自身のペンによる曲で、どれもアブストラクトなナンバーなので、どの曲が印象的か?と言われると、正直困りますが、軟体動物のようにリズムやサウンドの色彩を変えてゆく、そのサウンドは個性的といえば個性的なものです。
 カートのギターですが、これもまたとらえどころの無いスタイルですが、強引に表現すれば、ジム・ホール+ジョン・アバークロンビーといった所でしょうか。繊細なジム・ホールのようなスタイルかと思えば、アバークロンビー風のディストーション・サウンドも登場しています。このあたり個人的には、もう少し整理してもよかったかな、とも思います。
 この作品で大活躍しているのが、ピアノ/キーボードで参加しているスコット・キンゼイです。彼は、スコット・ヘンダーソンのトライバル・テックや、トライバル・テックのベーシスト、ゲイリー・ウィルスなどと共演している、コンテンポラリー系のミュージシャンですが、彼の参加は大正解で、幻想的なシンセのバッキングや、コンテンポラリーなピアノ・ソロ、それにジョー・ザヴィヌルばりのシンセ・ソロなど、単調になりがちなこの手のサウンドに広がりと奥行きを与えているようです。またサックスのマーク・ターナーも相変わらず芸風はジョー・ロバーノながら、カートの創り出すウネウネしたメロディーに絡みつきながら、個性的なサウンド構成の一翼を担っています。
 まだ今後どちらに転ぶか良く分からないミュージシャンではありますが、ジョン・スコフィールドが賛辞を述べるに値する才能をもっていることは間違いないと思います。ただ現在のジャズ・シーンの不幸な所は、マイルスやディズ、アート・ブレイキーなどなどの、若い才能を伝統の中で上手く伸ばしてステップ・アップさせてゆくワークショップ的なグループが無いことです。ジョン・スコもマイルスと出会って、ここまで成長したんですから。カートも自らの殻にひきこもることなく、ベテランとの共演やセッションなどで、様々な音楽の要素を貪欲に取り入れていけば、凄いジャズ・ギタリストになるはずです。その素材の良さはこの作品からも十分感じとれるはずです。
2000.2.7 Update

★★★☆

Pat Metheny "Trio 99→00"(Warner)

 昨年末、日本初のクラブ・ギグを敢行し話題を集めたパット・メセニーの新生トリオのレコーディング作品が発表されました。
 新生トリオのメンバーは、昨年末のツアーメンバーと同じ、ラリー・グレナディアー(b)ビル・スチュワート(ds)そしてパットというものです。(何故か二人ともジョン・スコフィールドのグループ出身です。)
 最近のパットのトリオ作といえば、ディヴ・ホランド(b)=ロイ・ヘインズ(ds)の「クエスチョン&アンサー」がありますが、それと比較すると、メンバーが若くなった分、フットワークは軽くなった印象はあるものの、インタープレイ的な面白さは無く、パット+サポートといった感じです。それぞれのプレーヤーの力量は、実証済みのはずなのに、何故か演奏が小さくまとまってしまってます。その理由を考えてみたのですが、パットが思い描くこのトリオのコンセプトが古いのでは無いかと思います。パット・メセニー・グループでは、賛否両論はあるにせよ、かなり進んだコンセプトの音楽をクリエイトしていることを考えると、このトリオというコンセプトは、新しいことにトライする実験的なものではなく、散々呑み歩いた後に家でサラサラっとかきこむお茶漬けのようなほっと一息つくユニットという感じがします。
 ですから演奏の方も、青筋立てて弾きまくるという感じの曲は無く、全曲中庸なもので、トリオのわりにはテンションは低いです。選曲も、コルトレーンの「ジャイアント・ステップス」やショーターの「カプリコーン」など、マニアは「うっ?」とくるものが収録されてますが、その期待に肩すかしを食らわすかのように、まぁあっさりと演奏してます。その他、名曲「トラヴェルズ」の再演もありますが、あんまり期待しないほうがいいと思います。
 このトリオは、チャ‐リー・ヘイデンとのデュオ作的なフォーキーな感じの曲(3曲目の「ジャスト・ライク・ザ・ディ」やラストの「トラヴェルズ」など。)では、バックの若返りによるフレッシュさや過剰なジャズっぽさの無さが活かされてると思いますが、いわゆるジャズっぽい曲では、中途半端さを強く感じさせます。もし、今後、このトリオを継続してゆくなら、ラリーとビルがもっとパットに喧嘩を売らないとダメです。かつてパットは若い頃、ゲイリー・バートン、ジャコ、オーネット・コールマンなんかに、正面から戦いを挑んで今の地位を築いたのですから…。
 最後にパット・ファンである私が総括すると、「期待以上のものはない、まずまずのジャズトリオ作」と言えると思います。もしパットのトリオ作を聴いたことが無ければ、「クエスチョン&アンサー」や「リジョイシング」を先に聴くことをお勧めします。個人的には、前作のサントラ作の方により深い感動を感じました。パット・ファンの箸休め的な1枚です。
2000 2.9 Update

★★★

Marc Antoine "Universal Language" (GRP)

 スパニッシュ・テイストなフィーリングが売りというスムース・ジャズ系ギタリスト、マーク・アントワーヌの新作が、最近アーティスト・ラインナップが寂しくなったGRPからリリースされました。
 スパニッシュ・テイストがキャラとは言っても、同じスムース系の人気ギタリストピーター・ホワイトと比べて、サウンドのどこが違うの?と言われれば、正直返答に困るものなので、最終的には、この手の作品の良し悪しは、プロデュースやサウンドメイクなどのパッケージ勝負にかかってくると思います。
 さてこの作品のプロデュースは、スムース系〜ソウル/ロック系までこなす才人、フィリップ・セス。ゲストミュージシャンには、ウィル・リー、マーク・イーガン(b)アンディ・スニッツァー(sax)ディヴ・バレンティン(fl)ジェフ・ゴルブ(g)らが参加していますが、基本的には、フィリップ・セスが創ったトラックに、マークのアコーステック・ギターのメロディーがのる、と言った感じのもで、雰囲気もスムース・ジャズの保守本流そのものです。
 後はいかに印象的な良い曲が入ってるか?という所ですが…。ほとんどの曲は、マーク自身の曲なのですが、これが「悪くはないんだけど…。」的な出来なんです。今作のテーマはタイトルから想像できるように、世界の音楽のようですが、これも、普通のスムース系の音に少しそれらしい打楽器やフレーズが仕込まれてる程度で、目新しいものではありません。
 ここまで、あんまり好意的なコメントが記されてませんが、マークのアコーステック・ギターの粒立ちの良さ、特に4曲目の70年代ソウル的なフィーリングを感じさせる優しい感じのミディアム・ナンバーや6曲目のフィリップ・セスお得意といった感じのちょっぴり幻想的な感じのミディアム・スロウなナンバーなどで、そのことを改めて感じさせられます。またフィリップ・セスのサウンド・メイクも、随所にさずがと思わせるポイントがあります。
 しかしながら、この作品でなければ、味わえない魅力みたいなものが、ほとんど無いので、BGM探しに苦労している業界関係者やよほどの熱心なスムース・ジャズ・マニア以外は、取りたててチェックする必要の無い作品だと思います。
 ただレベル的にはそんなに低いものでは無いので、CD屋の店頭の試聴機で試聴して気に入った方はどうぞ、といった感じの作品でしょう。
2000 2.11 Update

★★★

は1(最悪)〜5(最高)です。
感想を書きこんでいただければ幸いです。

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