Swingroove Review

January 2000



Miles Davis "Schwanengesang〜Live in Germany June,1991"(Agon Productions)

 ここ5年ほど、マイルスもののブートレグのリリースが滞りがちで、もはや出尽くしたか?という感じだったのですが、2000年を迎えたこの時期に、何とマイルス死去の約3ヶ月前の6月にドイツで行われたライブ盤がリリースされました。
 この盤ですが、公式にはブートレグを販売しないというタワーレコードでも売られているアイテムなので、怪しげながら一応は契約上問題のない商品のようです。また日本語の解説(内容は実にくだらない無記名のエッセイ風)も付いているので、プレスはカナダながら企画元はひょっとしたら(多分?)日本なのかもしれません。まゆつばながら、この企画はシリーズ化するそうです。
 さて気になるその内容ですが、まず音質は、ライブ寄せ集めの公式盤「アラウンド・ザ・ワールド」並み。バランスのおかしな個所がほんの少しあるものの、ほとんど気にならないものです。ただ1曲目にクレジットされてる、1分少々のグレイス・ジョーンズの曲というマイルス抜きの曲の入り方は意味不明でブート丸だしの印象ですが…。客入りのBGMっぽい感じです。
 1991年の最晩年のレギュラー・グループの選曲がどうなっていたのか、手元のマイルス関係の資料では良く分からないのですが、曲のレパートリー自体は、87年〜88年あたりとほとんど変わっていないようで、89年発表の「アマンドラ」からのナンバーが追加されたぐらいですが、1曲だけ91年のライブでしかやっていないと思われるナンバーが、このライブ盤にも収録されています。「ペネトレイション」なるプリンス(元プリンス?)の作曲とクレジットされたミディアム・テンポのグルーヴィーなナンバーがその1曲です。
 その他の曲は、晩年のマイルスお馴染みのナンバーばかりです。ここは収録曲も気になるでしょうから、その紹介がてら、一言レビューを…。
 2曲目〜「パーフェクト・ウェイ」(86年「TUTU」収録。やはり原曲がちゃちなので、ピョコピョコした軽いもの。いつもの感じ。御大は演奏曲に飽きてくるとテンポ・アップするようで、これは「プラグド・ニッケル」のあたりからの伝統か。)3曲目〜「ザ・ブルース」(「スターピープル」を下敷きにしたスロー・ナンバー。フォーリーのソロが光る。)4曲目〜「ハンニバル」(89年「アマンドラ」収録。15分近くの熱演。これはいい。)5曲目〜「ヒューマン・ネイチャー」(85年「ユア・アンダー・アレスト」収録。いつもの感じ。晩年のテンポアップした感じはあんまり好きじゃない。)6曲目〜「タイム・アフター・タイム」(85年「ユア・アンダー〜」収録。いやいやこのバージョンは素晴らしい!テーマ前の御大のミュート・ソロは涙モノ。)7曲目〜「ペネトレイション」(プリンス作。7月のパリでの同窓会セッションのブート「ブラック・デヴィル」にのみ入っていた曲。最後のキーボード奏者デロン・ジョンソンのグルーヴィーなエレピ・ソロが渋い。)
 まぁ内容はこんな感じです。メンバーは、例の同窓会セッションのレギュラー・グループと同じ。御大のtp、keyにケニー・ギャレット(sax,fl)ジョセフ・フォーリー・マクレアリー(lead-bass)デロン・ジョンソン(key)リチャード・パターソン(b)リッキー・ウェルマン(ds)というメンバーです。
 私のようなマイルスの狂信的マニアには、よだれタラタラのアイテムですが、公式盤を聴きこんでいない人は、是非通過して下さい。ブートは、公式盤をちゃんと聴いてる人だけのボーナスのような存在です。ただブートはその時に買わないとすぐに市場から姿を消すので、公式盤をあんまり聴いてなくて、それでもこんなアイテムが欲しい!という人は、買うだけ買っておいて、公式盤を聴き終えるまで、押し入れの隅にでもしまっておきましょう。
2000.1.30 Update

ブートのため評価不能(個人的にはマイルスはすべて5つ星ですが…)

Winton Marsalis Septet "Live at Village Vanguard"(Sony)

 上の御大が、ミソクソに言っていたウィントンが偶然にも次ぎに登場しました。何故マイルスが、ウィントンを嫌っていたかですが、発言や態度に先輩に対する畏敬の念を少しも感じられない、俺は、ディズやバード、クラーク・テリーなんかにもそんな発言をしなかった、なんて無礼なやつなんだ!ということのようですが…まぁどっちもどっちのような…。
 この7枚組(2月下旬に発売される国内盤は1枚追加されて8枚組になるらしい。その1枚は「スタンダード・タイム・ライブ」とのことですが、何が収録されるのでしょうか?)の超大作に関係の無い話題でスタートしてしまいましたが、良くも悪くも表面上はマイルスと正反対の手法で新しいジャズをクリエイトするウィントンの新作は、1990年から94年にかけての彼のセプテットでのライブ演奏を集大成した作品となっています。
 録音日時は、1990年の3月、1991年の7月、1993年と1994年の12月で、それら4つのNYのヴィレッジ・ヴァンガードでのライブ・ソースが、7枚のCDに分割して収録されています。またそれぞれのCDには「マンディ・ナイト」〜「サンディ・ナイト」というサブタイトル付けられており、それぞれのCDがひとつのライブ・セットのように編集されています。ただ実際には、1枚のCDに別々のセットによる演奏が収録されていますので、これは演出上の遊びです。このアイディアは犬猿の仲だったマイルスの「フィルモア」や「コンプリートのプラグドニッケル」を彷彿とさせるものですが…。
 しかがって、それぞれのセッションによってメンバーも少し変更されています。サイドメンバーには、ウェス・アンダーソン(as)ヴィクター・ゴーインズ(ts,ss,cl)トッド・ウィリアムス(ts.ss,cl)ウィクリフ・ゴードン(tb)マーカス・ロバーツ エリック・リード(p)レジナルド・ヴィール ベン・ウォルフ(b)ハーリン・ライリー(ds)が参加しており、どのセットもセプテット(一部ピアノ・ソロがあり)で演奏されています。
 収録曲は、「チェロキー」「4月の思い出」「スターダスト」「エンブレイサブル・ユー」「ミステリオーソ」などのスタンダードと、「マジェスティ・オブ・ザ・ブルース」などのお勉強系ニューオリンズテイストなナンバーと、バレエか何かの音楽としてウィントンが作った「シティ・ムーブメント」という組曲風の3タイプに分けられると思います。ここで特に素晴らしいのは、スタンダードを演奏しているウィントンで、ニューオリンズに傾倒することによって得られたテクニックに頼らない、ブルース・シンガーのように歌うトランペットは、温かみを感じさせるジャズのプリミティブな魅力にあふれたもので、クールな印象一辺倒だった「ブラック・コーズ」〜「Jムード」などの頃と比較して格段にスケールが大きくなったことを実感させられます。また表面上は、まだまだ保守的な感じですが、よく聴けば、ウィントンのトランペットやアレンジなどの中に、新しいチャレンジやアグレッシヴな箇所も随所に感じられ、ウィントンのパフォーマー、バンドリーダーとしての著しい成長を見せています。レコーディングでは無機質なお勉強臭さを感じさせたニューオリンズ系のナンバーも、ライブによってダイナミックなものとなり、生きたジャズとなっています。
 何せ7枚組なので、それぞれの聴きどころを挙げて行くときりがないのですが、個人的には、最近のウィントンの作品の中ではベスト、というか、90年代のウィントンを総括したような作品だと思います。音楽のスタイルが、ぱっと聴き、保守的な感じなので、ウィントンというミュージシャンの成長の過程がいまひとつ分かりにくい気もしますが、この7枚組をじっくりと聴いた後、80年代のウィントンの作品を聴くと、トランペッターとしてのスケールが2倍にも3倍にも大きくなっていることが、分かるはずです。ただあとは、ニューオリンズ・テイストなジャズの雰囲気の好き嫌いだけです。演奏のスタイルの好き嫌いを除けば、かつてのウィントンのライブの名盤「ライブ・アット・ブルース・アレイ」よりも優れたライブ作だと思います。私としては、食べず嫌いをせずに、ジャズ・ファンなら味わって頂きたい良い作品だと思うのですが…。
 最後に下世話ながら、価格が7枚組にもかかわらず、 安い店では4300円ほどで売られていますので(タワレコで5800円ほど)、コストパフォーマンス的にも優れた作品だと思います。
 永遠のテーマ、ウィントンとマイルス、どっちが凄いか? いやいや、どっちも凄いと思います…。
2000.1.30 Update

★★★★

Bob Malach "After hours" (Go Jazz)

 最近ではボブ・バーグの後任としてマイク・スターン(g)のバンドで活躍中の中堅白人テナー奏者ボブ・マラックの新作(といっても1998年の作品で録音は1986年のよう…)が、彼の恩師ともいえるベン・シドランのレーベルGo Jazzからリリースされました。
 タイトルからも分かるとおり、Go Jazzの「アフター・アワーズ」シリーズと言えば、以前にも、ディヴ・ヘイゼルタイン(p)やボブ・ロックウェル(ts)などの作品がリリースされ、ライブ・ギグの後の深夜に収録されただけあって、レイドバックしたインティメイトな雰囲気漂う渋い作品で定評がありました。
 さて、今回の「アフター・アワーズ」の主人公ボブ・マラックですが、フィラデルフィア出身で、10代の頃からオージェイズやスタイリスティックスらを擁したフィラデルフィア・インターナショナルでの録音に参加し、NYへ移住後、スタンリー・クラーク(b)やスティーヴィー・ワンダー(vo)などのツアー・バンドにも参加していたそうですから、かなり早くからその才能を発揮させていたようです。1978年からベン・シドランのグループに参加し、その後、ジョルジュ・グルンツのビッグバンドや、ボブ・ミンツァーのビッグバンドにも参加していました。最近では、ロベン・フォード(g)のグループや、マイク・スターン(g)のバンドで活躍しています。
 初リーダー作は90年のGo Jazz盤「ムード・スウィング」で、スティーヴ・ガッド(ds)ウィル・リー(b)ラス・フェランテ(key)ロベン・フォード(g)らが参加したベン・シドラン制作のフュージョン作でした。今作は、94年のGo Jazz盤の「ザ・サーチャー」(これもロベン・フォード制作のフュージョン作)に続くものですが、録音が86年ということですから、新作というよりも、幻の初リーダー作発掘といったところでしょうか。
 メンバーは、マラックのサックスに、リッキー・ピーターソン(key)の兄であるベーシスト、ビリー・ピーターソンと、ドラムのケニー・ホーストというサックス・トリオによるものです。リズム・セクションは、他の「アフター・アワーズ」シリーズと同じということで、まぁハウス・リズムのようなものでしょうか。
 サックスのトリオといえば、ジョー・ヘンダーソンなどの成功作はあるものの、かなりの実力が要求されるサックス奏者にとっては、大変厳しいフォーマットですが、このマラック君にとっては無謀なチャレンジだったようで、正直無残な作品となってしまってます。マラック君のスタイルは、マイケル・ブレッカー+ボブ・ミンツァーといった感じのあまり個性を感じさせるものではありません。若くからプロで活躍していただけに、テクニック的には遜色ないのですが、演奏の抑揚が無く、かなり平板なサウンドなんです。こんな調子でエモーショナルな演奏が出来るはずも無く、何かマラック君のサックスの練習に付き合わせれてるような作品です。何とか1回は通しで、この作品を聴きましたが、正直もう1回、フルで聴くのは辛いものがあります。
 まぁ86年の録音ということで、若気の至りなのかもしれませんが、それなら発表しないほうが良かった気がします。ソロ・アーティストとしては、まだまだ実力不足も甚だしいですが、テクニック自体に遜色あるわけではないので、ビッグバンドや、サポート・メンバーとして腕を磨き、吹けるというだけでなく、ボブ・マラックでなくては表現できない個性を早く見つけてほしいものです。マイク・スターンの近作ではかなり良い演奏をしていますので、出来ないことはないはずです。頑張って下さい。
2000.1.30 Update

★☆

は1(最悪)〜5(最高)です。
感想を書きこんでいただければ幸いです。

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