Swingroove Review

January 2000



Billy Childs Buster Williams Carl Allen "Skim Coat"

 ダイアン・リーヴスやフレディ・ハバードらのサポート・ミュージシャンとして頭角を現した西海岸の中堅ピアニスト、ビリー・チャイルズの新作が、メトロポリタン・レコーズなるマイナー・レーベルからリリースされました。
 ソロ・デビュー作は1988年のウィンダム・ヒル・ジャズ盤「テイク・フォー・イグザンプル・ディス」で、今回の新作は通算8作目となり、ピアノ・トリオ作としては93年のウィンダム・ヒル・ジャズ盤「ポートレイト・オブ・ア・プレイヤー」以来となります。
 96年発表の前作のシャナキー盤「ザ・チャイルド・ウィズン」は、テレンス・ブランチャード(tp)ラヴィ・コルトレーン(ts)ディヴ・ホランド(b)ジェフ・ワッツ(ds)らイースト・コーストのトップ・ジャズメンが参加した硬派なコンテンポラリー・ハード・バップ作でしたが、新作もその流れを引き継いだピアノ・トリオ作となっています。
 この作品は正確に言えばチャイルズのみのリーダー作ではなく、カール・アレン(ds)バスター・ウィリアムス(b)そしてチャイルズの名前が併記された作品で、プロデュースには、リズム・セクションの2人があたっています。
 ソロ・デビュー当時は、ジャズとフュージョンを行ったり来たりする中途半端な印象のあったピアニストでしたが、前作あたりから、ジャズにしっかりと腰を据えて取り組んで行く姿勢を強く感じたのですが、このトリオ作は、まさにその印象が間違っていなかったと言える本格的なコンテンポラリー・ジャズ・トリオ作に仕上がっています。
 ビリー・チャイルズというピアニストは、乱暴に言えば「ハービー+チック÷2」といったピアニストだと思います。特にスタンダード曲のメロディーのフェイクの仕方はかなりチック・コリアの影響を受けている感じを強く受けました。
 収録曲は、「飾りの付いた四輪馬車」「ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラヴ・イズ」「エヴリ・タイム・ウィ・セイ・グッドバイ」「ラブ・ダンス」(イヴァン・リンス作)などのスタンダードものと、チャイルズやウィリアムスのオリジナルが約半分ずつとなっています。以前は、無機質なオリジナル曲をテクニックのみで演奏することの多かったチャイルズですが、今作の「エヴリ・タイム〜」や「ラブ・ダンス」などのバラード演奏では、情感と色気を感じさせる良いピアノを聴かせてくれています。オリジナル曲では、相変わらず手先だけで弾いている感じのするパートも見受けられますが、ウィリアムスとアレンのリズムが有機的にピアノとインタープレイしているため、そんなに気にはなりません。またチャイルズの個性を上手く引き出したバスター・ウィリアムスの書くオリジナル曲(特に「処女航海」風のイントロから始まるボサ風味の8曲目)も素晴らしいものです。世代的には、チャイルズやアレンよりも一回り位上のウィリアムスのリーダーシップが、このトリオを引立てている要因ではないかと感じました。今後バスター・ウィリアムス・トリオとして、レギュラー活動しても面白いのではないでしょうか。
 以前は作曲やプロデュースなども一人でこなし、良い言い方をすれば意欲作ですが、悪く言えば小難しい中途半端な作品の多かったチャイルズですが、今作では、プロデュースやリーダー・シップをベテランのウィリアムスに任せ、ピアニストとしての役割に専念することにより、チャイルズのピアノの魅力がよりクローズ・アップされているようです。ケニー・カークランド亡き今、この世代でトラディショナル〜コンテンポラリーまでこなせる硬派でありながらバーサイタルなピアニストは数少ないだけに、この勢いで飛ばしてもらいたいピアニストです。2000年最初のお薦めピアノ・トリオ盤です。
2000 1.3 Update

★★★★

Louis Hayes "Quintessential Lou"(TCB)

 キャノンボール・アダレイなどとの共演で知られるデトロイト出身のベテラン・ドラマー、ルイス・ヘイズの約3年ぶりのリーダー作が、スイスのレーベルTCBからリリースされました。
 今回の新作は、タイトルからも想像できるとおり、クインテット構成で、エイブラハム・バートン(ts)!!ライリー・マリンズ(tp)ディヴ・ヘイゼルタイン(p)サンディ・デブリアーノ(b)がルイスをサポートしています。
 収録されているナンバーは、ジェームス・ウィリアムスやフレディ・ハバード、JJジョンソン、ソニー・ロリンズ、ジョー・ザヴィヌルらのジャズ・メン・オリジナルが中心で、ルイスの鮮やかなドラムを引き立てるハード・バピッシュなカッコイイ曲が多く収められてます。特に1曲目のウィリアムス作の「プログレス・リポート」(サニー・サイド盤のウィリアムスのリーダー作のタイトルナンバーだった曲。)や2曲目のハバード作の「クラレンシーズ・プレイス」から全開に飛ばしており、アルバム序盤からかなり痛快なコンテンポラリー・ハード・バップ作であることが実感できるはずです。
 参加メンバーの中で印象的だったのが、テナーに転向したエイブラハム・バートンです。アート・テイラーのテイラーズ・ウィエイラー出身のサックス奏者エイバラハム・バートンは、当初はアルトサックス奏者で、ジャッキー・マクリーンを意識したようなプレイでかなり高い評価を受けEnjaレーベルなどにもリーダー作を残してますが、ここではテナーサックス1本で勝負しており、ズバリ、コルトレーン・スタイルとなっています。このテナー転向が大成功のようで、アルト時代から一回りスケールが大きくなったような演奏で、かなりカッコイイ、テナーを吹いています。特に4曲目のスタンダード・ナンバー「テンダリー」でのバラード・プレイのモーダルで奥深い解釈による素晴らしい演奏は、彼の著しい成長ぶりを象徴するものだと思います。
 また無名のトランペッターのライリーもフレディ・ハバードばりの鮮やかな演奏を聞かせてくれており、ピアノのヘイゼルタインも、ヘイズは、ヘイゼルタインの「クラシック・トリオ」のメンバーだっただけに、相性もばっちりです。
 肝心のヘイズのドラムですが、ディジョネットやエルヴィンみたいな爆発的な個性は無いものの、鮮やかなシンバル・ワークと、品性とキレを感じさせる心地よい4ビートは、結構病みつきになりそうです。
 50年代の純粋なハード・バップと60年代のモーダルな感覚を絶妙なブレンドで楽しませてくれるコンテンポラリー・ハードバップの優秀作です。ジャズの要はドラムだ!!ということを改めて実感させてくれる1枚。
2000 1.15 Update

★★★★☆

Eric Alexander "Alexander The Great" (High Note)

 2000年早々早くも、エリ・アレの新作登場か!と小躍りして購入して帰ったのですが、録音が97年5月…。まぁ未発表の作品なので、収録は古いですが新作は新作ですので気を取り直してレビュー続行。
 この何ともダサいタイトルの作品は、1997年5月8日ニュージャージーのルディ・ヴァンゲルダー・スタジオ収録(もちろん録音はヴァンゲルダー自身)のもので、参加メンバーはエリ・アレ(ts)チャールス・アーランド(org)ジム・ロトンディ(tp)ピーター・バーンスタイン(g)ジョー・ファーンスワース(ds)となっています。プロデュースが昨年12月11日にカンザスシティで心臓発作の為58歳という若さでこの世を去ったオルガンで参加しているチャールス・アーランドということで、ひょっとしたらもともとアーランド名義で収録されていた作品を、もっと売れそうなエリ・アレ名義にして発売したのかな?と勘ぐりたくなるようなコテコテ気味のオルガン・ジャズ作品です。
 収録曲にアル・グリーンのR&Bクラシック「レッツ・ステイ・トゥゲザー」や、チャカ・カーンの熱唱で知られるD・フォスター作の「スルー・ザ・ファイア」などのカヴァーがあるようにかなりポップなソウルジャズ・テイストな作品で、エリ・アレの前作のライブ盤での火の出るようなテナーを聴いた後に、この作品を聴くと、別人か?と思わせるほど、リラックスしたテナーを吹いています。個人的には、このネジが1本か2本緩んでいるような大らかなエリ・アレの方が、ストイックすぎる感のある最近の演奏より意外と好きだったりしますが…。
 サイドメンでは、亡きアーランドとバーンスタインが大活躍です。MUSE時代からレーベル・メイトだった同じオルガン奏者故リチャード・グルーヴ・ホルムズの後継者的存在だったアーランドのグルーヴィーなオルガンも、もう聴けなくなったか、と思うと感慨深いものがあります。
 まぁ正直な所、熱心なエリ・アレ・ファンやこの手のMUSE〜HighNote系なソウル・ジャズの好きな人以外は、トッド・バルカンをプロデュースに迎えマイルストーンからのリリースが予定されているエリ・アレの本物の新作を待った方が良さそうです。早ければ春までにリリースされるそうです。私はエリ・アレが吹く「レッツ・ステイ〜」や「スルー・ザ〜」を聴ける!それだけで価値のある作品のような気もしますが…。
2000 1.15 Update

★★★☆

Sam Yahel "In The Blink Of An Eyes"(Naxos Jazz)

 NYで活躍する若手白人オルガン/ピアノ奏者サム・ヤヘルのNAXOS JAZZ第2作目となる新作がリリースされました。
 このNAXOS JAZZレーベルの作品は、価格破壊的な廉価政策をとっているレーベルで、輸入盤店で1枚約1000円くらいで販売されているので、ちょっと気になったら、気軽に買えるのは嬉しいところです。また失敗してもあまり悔しくないですし…。
 さて主人公のサム・ヤヘルですが、ジャック・デジョネットバンド出身で、最近再び売りだしにかかっているトランペッター、ライアン・カイザーの伝でNYのジャズ・シーンへ登場したようです。97年に日本のSweet Basilレーベルから発売された「Gファイブ」というプロジェクトにもライアン・カイザー(tp)やアンディ・スニッツァー(ts)チャーネット・モフェット(b)らとともに参加し、ここではピアノを弾いてたので、別にオルガンプレーヤー1本で行くミュージシャンではないようです。ただ他ではオルガンを弾くことが多く、NAXOSでのリーダー作もすべてオルガンものなので、メインのインストゥルメンツはハモンドB3なんでしょう。
 NAXOSでのファースト作である97年の「サーチン」ではライアン・カイザー(tp)やエリック・アレキサンダー(ts)というホーン奏者が参加していましたが、今作では、ギター=オルガン=ドラムによる正調オルガン・トリオの編成となっています。サポート・メンバーは、前作から参加しているグラント・グリーン ライクな若手白人ギタリスト、ピーター・バーンスタインとジョシュア・レッドマンのバンド出身で、ダニエル・ラノワ プロデュースのBNレーベルでの斬新なリーダー作が話題となったドラマー、ブライアン・ブレイドで、2曲に打楽器奏者が加わってます。
 収録曲は、ハバードの「リトル・サンフラワー」やタイナーの「インセプション」スタンダードの「スプリング・イズ・ヒア」「ライク・サムワン・イン・ラブ」それにヤヘルやバーンスタインのオリジナルが加わったもので、特にハバードやタイナーのナンバーがどんな風に料理されているか興味がありましたが…。実際に聴いて見ると、すごくあっさりしたもので、正直拍子抜けしてしまいました。アレンジも常識的で、ヤヘルのオルガンもジミー・スミスのように泥臭さもなく、かといって、ラリー・ヤング〜ラリー・ゴールディングスみたいなスペーシーなものでもなく、大阪の漫才コンビ「ちゃらんぽらん」のネタじゃないですが、「中途半端やな〜」というものです。リーダーがこんな感じですから、サポートするバーンスタインもブレイドもそんなにキレの良い演奏をしてる訳ではなく、普通のオルガンジャズをあっさりとやっている感じです。特にドラムにせっかく、スペーシーなドラマー、ブライアン・ブレイドを起用しているのに、リズムにほとんど遊びがないのも、この作品に面白みを感じない要因の一つでしょう。
 こうやって聴いて見ると、ヤヘルのオルガンの実力ではトリオで聴かせるのは、今のままでは正直つらいものがあります。前作のようにホーンを入れるとか、次作にはもう少しアイディアをプラスして欲しいものです。このくらいの実力では、ストレート勝負になると、すぐに打たれてしまいます。カーブやシュートの効いた次作を期待します。
2000 1.22 Update

★★☆

McCoy Tyner with Stanley Clarke and Al Foster (Telarc Jazz)

 原題は、上に記してあるのが正しくて、「マッコイ・タイナー・トリオ/夜は千の目を持つ」は邦題なので、輸入盤を購入される方は、気をつけて下さい。輸入盤に解説訳付きの帯を付けた擬似邦盤で価格が2548円、それに国内先行発売と、相変わらず、日本のレコード会社はセコイ商売やってます。ということで、良い子の皆さんは少し我慢して輸入盤を買いましょう。と業務連絡はこのくらいにして、早速レビュー。
 怒りついでにもうひとつ。なぜ原題がメンバー3人の名前になっているのに、日本では「マッコイ・タイナー・トリオ」というクレジットで販売するのでしょうか。これはアーティストの意思を無視した馬鹿なレコード会社の詐欺的行為です。特にスタンは、コントラバスとエレベを駆使し、オリジナル曲まで提供するなど、リーダー的な活躍をしているだけに、これをマッコイだけの名義の作品にして売ることに抵抗があります。売るためには何をやっても構わないという無神経なレコード会社のやり方は厳しく糾弾されるべきです。
 ひととおり怒った所で、今度こそレビュー再開。リリース前から、このメンバーを聴いて、リリース日を指折り数えて待っていた(少し大袈裟?)作品で、イメージでは、70年代チックなハードな雰囲気を期待していたのですが、の実際に聴いてみると、そのイメージはかなり覆されてしまいました。事前のイメージでは、マッコイのピアノがガンガン、スタンのベースがベンベン、ブンブン、アルのタイコがバシャバシャ、かな?という感じだったのですが、実際に聴いてみるとえらく品の良いというか大人しい普通のピアノ・トリオなんです。期待していたスタンのベースもコントラバスをメインにした上品なもので、4曲目("I Want to Tell You 'Bout That"というマッコイ作のナンバー)でやっと下品な?エレベ・スラップによるベンベン・ベースの8ビート・ナンバーが登場しますが、マッコイのピアノとアルのタイコがそんなにはじけてないので、期待した「イってるサウンド」とは程遠いジェントルなものです。アルバム・ラストに4曲目のアコースティック・ベース・バージョンがボーナス・トラックで収録させてますが、こっちの方がはまっている感じです。逆に今作で印象的だったのが、3曲目のスタンダード「ネバー・レット・ミー・ゴー」に代表されるスロウなナンバーで、マッコイの円熟した味わい深いピアノとスタン=アルの怒涛の70年代をチックとマイルスという伝説のバンドで生き抜いた貫禄を実感させられるスケールの大きなリズムセクションを楽しむことが出来ます。
 全体的には、メンバーから想像するような派手さを求めなければかなり高得点を獲得できるピアノ・トリオ作だと思います。かつて86年、DENONレーベルにマッコイは「ダブル・トリオズ」という作品を吹き込み、その中でマーカス・ミラー(el-b)=ジェフ・ワッツ(ds)というリズム・セクションをバックにアフロ・スタイルの力強いサウンドを聴かせてくれましたが、そんな勢いが今作にあればもっと面白かったとおもいますが…。
2000 1.22 Update

★★★★

Workshy "Clear" (Heat Wave/Portazul)

 ワークシャイ。このユニットはこのページをご覧になっている正統なジャズ・ファンの方はご存知ないと思います。86年にオーストラリア出身のケヴィン・キーホー(g)とイギリス出身のマイケル・マクダーモット(b,vo)、クリスタ・ジョーンズ(vo)の3人が、ロンドンで結成したユニットで、1989年「The Golden Mile(邦題=いつかどこかで)」でアルバムデビューを果たしています。92年のセカンドアルバム「オーシャン」を最後にケヴィンがグループを離れ、その後マイケルとクリスタの2人のユニットとして活動を続け、この新作で7枚目のオリジナル・アルバムとなります。
 J-WAVEが開局したりした音楽的にもバブル全盛の頃、スウィング・アウト・シスターや、シャーデーなんかとともに「カフェバー御用達サウンド」的な扱いを受け、その春から初夏にかけて吹き抜ける心地よいそよ風のようなサウンドは数多くの少々バブリーな人?の心を掴みました。
 時代は移り変わりそんな時代が過去の遺物となった今日にでも新作がリリースされるということは、このユニットのサウンドに一過性のものではない何かが普遍的な魅力があるからなのでしょう。はっきり言うと、ワークシャイのサウンドは「フェイク・サウンド」です。70年代のソウルをベースに、AOR、ソフト・ロック、ボサノヴァ、それにちょっぴりのクラブ的な尖った要素を加えた彼らのサウンドに、本物を感じることはありません。もっと言うとまがい物のサウンドです。
 しかし、個人的には、それの何が悪い、気持ちよかったらええやん、とデビュー以来開き直って聞きつづけて、ワークシャイを聴きながらドライブし、女を口説いた経験も何度もあります…。まぁそんな性格の音楽なので、ダラダラ理屈をつけて批評するのは野暮というものです。
 が少しは新作の内容にも触れないと、ピック・アップした意味がないので手短に…。今作は日本コロンビア系列のポートアズール・レーベル移籍第一弾となるもので、前作のポニー・キャニオンでのラスト作となった97年の「アルーア」のサウンドを踏襲したもので、ややボサノヴァ・テイストが強くなったかな?という印象です。アルバム前半を聴くとスイング・アウト・シスターぽくなった感じもしました。それとサウンドがよりシンプルになった分、ヴォーカルのクリスタの心地よい「ブリージン」な魅力がクロース・アップされた感じを受けました。収録曲では、日テレ系の「今日の出来事」のエンディング・テーマになっているという1曲目のモロ、ワークシャイな感じミディアム・ナンバー「ゴット・イット・クリアー」が一番気に入りました。またラストには、邦盤オンリーのボーナス・トラックとしてルパンV世のエンディング曲「ラブ・スコール」(個人的には「♪足元にからみ〜つく〜」という昔の方が印象深いですが…)も収録されてます。
 私を含めて今だにFMといえば「J-WAVE」と思い続けてる30代の自称おしゃれ人間(他人がどう思ってるかは??)御用達の新作です。
2000 1.22 Update

★★★

は1(最悪)〜5(最高)です。
感想を書きこんでいただければ幸いです。

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