Swingroove Review

November



Pat Metheny "A Map Of The World"
 1999年の12月には、日本初のクラブ・ギグを敢行するパット・メセニーの新作が到着しました。
 この新作は、ジェイソン・ハミルトンという作家の「ア・マップ・オブ・ザ・ワールド」という小説を映画化したもののサウンド・トラックとなっています。しかし、ただのサントラ盤ではなく、映画の中で使われたナンバーの他に、その映画や映画音楽のイメージをエクスパンドしたオリジナル・ナンバーが約25分ほど収録されての全28曲というアルバムです。
 その映画はパットの故郷であるアメリカ中西部ウィスコンシン州を舞台したもので、空の高さを感じるアメリカの乾いた中西部のイメージをアコーステック・ギターとオーケストラで淡々と表現したものです。イメージとしては、チャーリー・ヘイデンとの共作「ミズーリの空高く」にストリングスを加え、より壮大にした感じでしょうか。
 サポート・ミュージシャンは、パット・メセニー・グループのベーシスト、スティーヴ・ロドビー、元スパイロ・ジャイラのディヴ・サミュエルズは打楽器、ギル・ゴールドスタインがオルガンとクレジットされていますが、聴いた印象はパット+オーケストラです。
 1回や2回聴いた感じでは、退屈な印象が強く「あぁ…やっぱりサントラは…」という感じですが、寝る前やゆったりした時に聴いたりすると、パットのアコギによるテーマなのかアドリブなのかよく分からない、さりげないメロディーに、ふと涙しそうになったりもしました。私はアメリカ人では無いにもかかわらず、何か懐かしい感じがするのです。どこかで聴いたような…ひょっとしたら前世の記憶かも…とは少し大袈裟ですが、それくらい映画の内容は抜きにしても(私も詳しい映画の内容は知りません)、様々なイマジネーションをかきたたせるサウンドです。ひとつだけ具体的に言えば、パットのギターが奏でるメロディーは、70年代の「青空」サウンド時代のパット・メセニー・グループのそれをイメージさせるものです。
 最近、師匠ジム・ホールとの共演作や、マイケル・ブレッカーの新作にフル参加したりと、企画ものが続いたパットですが、今作も映画のサントラという企画ものながら、自らの音楽と同等か、それ以上に力と心のこもったなかなかの作品だと思います。サウンドのフォーマットや新しさに凝りすぎて袋小路に入ったパット・メセニー・グループの「イマジナリー・ディ」よりも、パットらしい気持ちの良い作品となっています。
 特に70年代〜80年代半ばまでのパット・メセニー・グループのファンの人は、サントラということで敬遠せず是非聴いて見て下さい。ここでのオーケストレーションをライル・メイズのキーボードに置きかえると…そうですパット・メセニー・グループのサウンドのエッセンスの素を感じることが出来るはずです。特に26曲目の「ホームカミング」という曲などは「レター・フロム・ホーム」あたりに入っていてもおかしくない曲ですから。
 せわしない世紀末の私を癒してくれる心優しい1枚です。 
11.17 Update
★★★☆               
Michael Bolton "Timeless〜The Classics Vol.2"
 1997年の「All That Matters」以来約2年振りとなるマイケル・ボルトンの新作がリリースされました。
 今作は、「Timeless〜」というタイトルからも分かる通り1992年にリリースしたカヴァー・アルバム「Timeless」シリーズの続編となっています。1987年の「The Hunger」で、オーティス・レディングの「ドック・オブ・ザ・ベイ」をカヴァー(オーティスの未亡人がボルトンのヴァージョンに感動したという話は有名。)大ヒットを記録させて以来、マイケル・ボルトンのアルバムでのR&Bクラシックスのカヴァー曲収録は恒例のようになりました。その後、89年の「Soul Provider」からは、「ジョージア・オン・マイ・マインド」、91年の「Time Love & Tenderness」からは「男が女を愛する時」というカヴァーソングを大ヒットさせました。
 そして92年にプロデューサーにディヴィッド・フォスターとウォルター・アファナシェフを迎え、全編カヴァー ・ナンバーとなったアルバム「Timeless〜The Classics」を発表。フォートップス、サム・クックからビージーズ、ビートルズまでカヴァーしたそのアルバムは、ジャンルを超えて高い評価を集めました。
 その続編となるニューアルバム、プロデュースは、ビリー・ジョエルを手掛けたフィル・ラモーンとマイケル自身で、「VOL.1」と比較すると、よりグルーヴ感のあるザックリした印象を感じました。
 選曲は、基本的には、60年代〜70年代初期のR&Bを中心にしたヒット・ソングというコンセプトは、「VOL.1」と同じながら、82年のマービン・ゲイのヒットナンバー「セクシャル・ヒーリング」や79年のボビー・コールドウェル!の「風のシルエット」あたりも収録されているあたりが、興味深い所です。その他、テンプテーションズの「マイ・ガール」アル・グリーンの「レッツ・ステイ・トゥゲザー」ビル・ウィザースの「エイント・ノー・サンシャイン」サム・クックの「ホワット・ア・ワンダフル・ワールド」ボブ・ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」そしてプルコル・ハルムの「青い影」等を、60年代〜70年代のモータウン・テイストなルーズなグルーヴにのせて、マイケルの「ソウルプロヴァイダー」なヴォーカルで聴かせてくれます。その中で個人的にはまってると感じたのが、「レッツ〜」、「エイント〜」そして意外にも「風のシルエット」や「青い影」もイイ感じでした。
 参加メンバーは、ニール・ジェイソン(b、programming)ジェフ・ミロノフ、スティーヴ・ルカサー、マイケル・トンプソン、ダン・ハフ(g)ショーン・ペルトン(ds)グレッグ・フィリンゲインズ、デイヴ・デローム(key)マイケル・ローズ(b)バシリ・ジョンソン(perc)マイケル・ブレッカー、ディヴ・コーズ(sax)など豪華な面子が顔を揃えています。特にブレッカーズの「ヘヴィ・メタル・ビバップ」やビリー・ジョエルのサポートメンバーとして70年代後半〜80年代に活躍したベーシスト、ニール・ジェイソンのジェイムス・ジェマーソンばりのモータウン・ライクなベースが、このアルバムのコンセプトにぴったりといった感じです。
 音楽は「良い曲」と「良い歌」に限る!ということを改めて実感させられる1枚です。目新しさはありませんが、アメリカ音楽のよき伝統と良心を感じさせてくれます。
11.22 Update
★★★★                            
Yoron Israel  "Connection~Live at The Blue Note"
 シカゴ出身でNYを中心に活躍する中堅ドラマー、ヨロン・イスラエルがオーガナイズしたユニット「コネクション」のNYのブルーノートでのライブ盤が、ハーフノート・レーベルよりリリースされました。(アメリカでは99年4月リリース)
 このコネクションというユニットのレコーディング・デビューは1995年で、当初のメンバーは、ジョー・ロヴァーノ(sax)ジェイムス・ウィリアムス(p)ジョー・ウィリアムス(b)トム・ハーレル(tp)ラリー・コリエル(g)だったようです。
 1998年の3月9日にNYのブルーノートで行われたこのセッションには、ディジー・ガレスピーのバンドでの活躍で知られるエド・チェリー(g)ラルフ・ピーターソンのフォテットに参加していたブライアン・キャロット(vib)ヨロンと同じシカゴ出身の若きテナースター、エリック・アレキザンダー(ts)、シーン・コンリー(b)そしてゲストにホラ貝を吹く、トロンボーン奏者スティーヴ・トゥーレが参加しています。
 ジャズをベースにしながら、R&B、ゴスペルなど幅広く活躍するドラマーであるヨロン・イスラエルがオーガナイズするグループだけに、4ビートから8ビート系のルーズなナンバーまで、バーサイタルなサウンドを聴かせてくれます。ダークな印象のエド・チェリーのギターやブライアン・キャロットの思索的なヴァイヴの雰囲気から、全体的な印象は60年代後半〜70年代初期のジャズといった感じです。  ドラマーのリーダー作ということで、特に3曲目のモンクのナンバー「ベムシャ・スウィング」などでは、かなりリズムに凝ったアレンジとなっていますが、ひとりよがりな印象はあまり受けないのは、ヨロンのバンド・リーダーとしての力量に負うところが大きいと思います。
 参加メンバーの中で、やはり一番気になるのは、テナーのエリック・アレキザンダーでしょう。やや「左寄り」っぽい参加ミュージシャンの中での、エリ・アレの奮闘ぶりが注目される所ですが、予想どおりコルトレーン・ライクな雰囲気ですが、グループの前任者であるジョー・ロバーノをも髣髴とさせるパートもあります。1曲目のフレディ・ハバードのナンバー「ワン・オブ・ア・カインド」でのハードなブロウは聴きモノです。ただエリ・アレのサックスがこのユニットに、100%はまってるか?と聞かれれば?という感も否めず、どっちの方向にいったら良いのか当惑しているような感じもしました。
 リーダーであるヨロン・イスラエルのタイコですが、同郷のジャック・デジョネットに影響を受けた、バタバタした70年代っぽい雰囲気のもので、新しさは皆無ですが、そこそこ味はありますし、バンド・リーダーとしての力量はかなりのものだと思います。
 NYのジャズ・シーンの日常を捉えた1枚で、彼らのホームグラウンドでの普段着のジャズです。こういう気取らないジャズは結構好きです。 
11.23 Update
★★★☆                            
Bruce Gertz "Red Handed"
 ジェリー・バーガンジ(ts)との共演で知られるベーシスト、ブルース・ガーツの新作がDoubleTimeからリリースされました。
 参加メンバーは、ジョン・アバークロムビー(g)ジェリー・バーガンジ(ts)ブルース・バース(b)アダム・ナスバーム(ds)そしてブルース・ガーツ(ac‐b,el‐b)となっています。
 収録曲は、ガーツのエレクトリック・ベース!とドラムのデュオによるコルトレーンの「ジャイアント・ステップス」以外はすべてガーツのオリジナル曲ということで、バーガンジの作風にも通ずるちょっとひねくったクールなハードバップといった感じかな?と思って1曲目のアルバム・タイトルナンバーを聴くと…、ニューオーリンズ風のファンクビートにびっくりしました。そしてアンサンブルの後に登場するジョン・アバークロンビーのギター・ソロが、ジョン・スコフィールドみたいな感じなんです。その後も3曲目にも、ガーツがエレベを弾くファンク調のナンバーがあるなど、結構アーシーなファンキーさも感じる作品となっています。しかし、その他の曲は、4ビートを基調にした少し複雑なハーモニーを持つ、いつものバーガンジ=ガーツのコラボレーションと同じような雰囲気のナンバーが並んでおり、アルバム全体の感じとしては、やや散漫な印象です。
 参加メンバーでは、当然というべきか、ジェリー・バーガンジが好調で、「ポスト・ジョー・ヘンダーソン」は彼しかいないと改めて確信させるものです。またジョン・アバークロムビーも、最近の内省的なスタイルとは打って変ったアグレッシヴなもので、近年のジョン・アバのギターにはないカッコ良さです。
 主人公のベースのブルース・ガーツですが、エレベもコントラバスも下手ではないのでしょうが、何の特徴もないもので、特にエレベに関しては、何故敢えてエレベを使ったのか理解に苦しみます。
 正直にいえば、この作品は、ジェリー・バーガンジやジョン・アバークロムビーといったサイドメンのなかなかの演奏を楽しむための作品です。まぁサイド・メン達に、そこそこのクオリティの高い演奏をさせているわけですから、バンド・リーダーやコンポーザーとしての力量はあるといっていいでしょう。ただ作品全体としては、中途半端なジャズといわざる得ないもので、バーガンジやアバークロムビーのファン以外には、強くお薦めできるものではありません。
11.28 Update
★★★                                                     
Hal Galper Quintet "Let's Call this That"
 70年代から日野晧正やジョン・スコフィールド、ブレッカー兄弟との共演や、ゲリラ・バンドなどの活動で知られるピアニスト、ハル・ギャルパー。80年代は、Steve "G"ilmore(b) Bill "G"oodwin(ds) Hal "G"alper(p)という"3G"リズム・セクションの一員として、フィル・ウッズ(as)をレギュラーでサポートし、角のとれた円熟味を感じさせてくれるピアノを聴かせてくれました。
 最近のハル・ギャルパーは、トリオでの活動が中心のようですが、このほど、DoubleTimeよリリースされた新作は、レギュラー・トリオにトランペットとテナーを加えたクインテットによる作品となっています。参加メンバーは、ハル・ギャルパー(p)ジェフ・ジョンソン(b)スティーヴ・エリントン(ds)というレギュラー・トリオに、ティム・ヘイガンズ(tp)ジェリー・バーガンジ(ts)が加わっています。
 収録曲は、サム・リバースやディヴッド・フリーゼン、ジャッキー・バイアード、バド・パウエル、チャーリー・パーカーなどのジャズ・メン・オリジナルが中心で、何故かギャルパーのオリジナルは1曲も収録されていません。
 90年代以降のギャルパーはどちらかと言えば、トリオ中心の保守的な演奏が多かったようですが、この新作では、2管のホーンと対決するような硬派でアグレッシヴなピアノを聴かせてくれます。特に4曲目のディヴィッド・フリーゼンの曲やラストのパーカーのナンバー「コンステレイション」でのギャルパーのソロは、フリー・ジャズ的なアプローチによるもので、かなり新鮮に感じました。アップテンポではフリーキーに 、スロウのナンバーではモーダルにといった感じで、かなり力の入ったピアノを聴かせてくれており、また、バーガンジとヘイガンズのフロント・ラインも、そんなギャルパーにインスパイアされたようで、力のこもったソロを聴かせてくれます。特に以前エンヤ盤でも共演しているジェリー・バーガンジがアグレッシヴなコルトレーン的テナーで、鬼気迫るギャルパーに応酬しています。
 近年のギャルパーの作品の中では、かなり聴き応えのあるアグレッシヴな作品です。またこれほど硬派なジャズを聴いたのも久しぶりという印象です。メジャー・レーベルの大物ジャズ・メンの作品が、概して腑抜けな、こけおどし的作品が多い中、DoubleTimeのようなマイナーレーベルから、こんなに骨のある良いジャズがリリースされる訳ですから輸入盤店でのマイナーレーベル盤探しはやめられません。
 やはり70年代ジャズの残党のやるジャズは未だに面白いという印象を改めて感じたことを最後に付け加えておきます。
11.28 Update
★★★★                                                     

は1(最悪)〜5(最高)です。
感想を書きこんでいただければ幸いです。

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