King Crimson 2


 King Crimsonの真価を知る,あるいは評価するには,ライブ音源は避けて通れないでしょう.bootleg なんかに手を出さなくとも,Crimson には豊富な(とくに近年は)official live 音源がリリースされています.Crimson のオリジナル・アルバムを聴いて,少しでも興味をもった方,またはスタジオ録音では何か物足りなかった方,一度ライブ音源を聴いてみてください.スタジオ録音以上の演奏,あるいはスタジオとは全く違う,しかし表裏一対でCrimson を構成している姿を聴けると思います.
 また,Crimson どっぷりな方は「こいつ」はこんな事考えてCrimson 聴いてるのかと楽しんでもらえれば幸いです.


好きなライブ・アルバム

 例によってKing Crimson ライブ盤・ベスト3(+2)を.1位から順に「LIVE IN 1969/エピタフ-1969年の追憶-」,「NIGHTWATCH-夜を支配した人々-」,「ABSENT LOVERS」.そして+2で「deja VROOOM」(DVD)と「EARTHBOUND」(LP)です.おそらくオリジナル・アルバムからの想像と比べると,「LIVE IN 1969」と「NIGHTWATCH」では予想or期待以上のパフォーマンスが,「ABSENT LOVERS」と「EARTHBOUND」からは予想もしなかった音が飛び出してくるでしょう.「deja VROOOM」に関しては,演奏に関しては想像通りですが,DVDの機能を本当に上手く使って見せて/魅せてくれます.


1.「LIVE IN 1969/エピタフ-1969年の追憶-」

1969v1.JPGVOL.1
(BBC RADIO SESSIONS)
1. 21ST CENTURY SCHIZOID MAN
2. IN THE COURT OF THE CRIMSON KING
3. GET THY BEARINGS  4. EPITAPH
(FILLMORE EAST, 21 NOV. 1969)
5. A MAN, A CITY  6. EPITAPH  7. 21ST CENTURY SCHIZOID MAN
(FILLMORE WEST, 14 DEC. 1969)
8. MANTRA  9. TRAVEL WEARY CAPRICORN
10. IMPROV-TRAVEL BLEARY CAPRICCORN  11. MARS

VOL.2
(FILLMORE WEST, 16 DEC. 1969)
1. IN THE COURT OF THE CRIMSON KING  2. DROP IN  3. A MAN, A CITY
4. EPITAPH  5. 21ST CENTURY SCHIZOID MAN  6. MARS

 このコレクション実は全4枚セットですが,日本以外ではvol.3,4がDGMクラブの通販限定だったため,日本国内では「エピタフ」と「続エピタフ」の2BOX,各2枚組みで出ています(画像は「エピタフ」).
 音質は曲によりばらつきがありますが(音源は放送用音源から海賊版,ラジオのエア・チェック・テープまで雑多),エンジニアのデビッド・シングルトンが懸命の修復作業をした甲斐あって,’69の音源としては十二分といえるデキになっています.(ただし,”普通の”市販品のレベルでは考えないでください.まあ,この奇跡とも言える音源が聴けるんです.細かい点は我慢しましょう) 

 内容は素晴らしいの一語.しかも圧倒的にheavyな演奏.Fripp の荒々しいギター・リフ(この時期はのちの超絶技巧よりも荒々しさが前面に出ている),何かに取り憑かれたようなIan McDonald のsax,時に狂ったように跳ね回り,時にどっしり腰の据わったドラムを聞かせるGiles,やはり独特の存在感のあるボーカルを聴かせてくれるGreg Lake.どの演奏,どの音源をとっても奇跡としか言いようのない内容です.特にこの時期の演奏を引っ張っていたのが,Ian McDonald とMikel Giles の2人だったということを改めて実感.これはべつにFripp のギター・プレーが凡庸というわけではなく,2人のプレーがFripp のコントロールの枠をはみ出しているのが実感できるという意味です.それに比べ3期(「太陽と戦慄」〜「レッド」)のライブは,Fripp が全体を掌握している感が強いですね.

 何度も書きますが内容は1級です.が,注意点が2つ.音質は前述したとおりばらつきが大きいです.次に,同じ曲が何回も収録されているので(1期の活動期間はわずか1年,オリジナル・アルバム1枚なのでこれは仕方ない),ボリュームの割に曲のバラエティーに乏しいという点.この2点が気にならない人で,「クリムゾン・キングの宮殿」で魂もっていかれた人はぜひ聴いてください.至福の時が待っています.


2.「THE NIGHTWATCH-夜を支配した人々-」

night_wt.JPGDISC1
1. EASY MONEY  2. LAMENT

3. BOOK OF SATURDAY  4. FRACTURE 
5. THE NIGHT WATCH 
6. STARLESS AND BIBLE BLACK
DISC2
1. TRIO  2. EXILES  3. THE FRIGHT WATCH
4. THE TALKING DRUM  5. LARKS' TONGUES IN ASPIC (PART II)
6. 21ST CENTURY SCHIZOID MAN

 言わずと知れた「伝説の」アムステルダム公演のofficial live音源.このページを読んでいる大部分の方々には周知の事実でしょうが,念のために少し.’73年11月23日アムステルダム・コンセルトヘボウ公演のライブ音源は,King Crimson の6thアルバム「STARLESS AND BIBLE BLACK」のかなりの部分に使用されましたが,発売当初はみんな「STARLESS...」がスタジオ録音だと信じていて,それがライブ音源だとは思わない(思えない)ほどのデキでした.その事実からもこの公演のパフォーマンスの高さが推察され,結果様々なbootleg が出まわることになり,いつしか「伝説の公演」と言われるようになりました.
 しかし,なにしろbootleg しか聴くスベがない.どれもこれも音質はそれなり,公演の完全な収録にはほど遠いもので(わたしもLPのbootleg もっていますが,収録曲は今回の半分程度),その全貌はなかなか掴みづらいものでした.

 その音源がついに公式に発売され,その全貌を確認できることになりました.内容は素晴らしいとしか言いようがないのですが,第3期Crimson の最大の特徴であるインプロヴィゼイションが最高の形で発揮されています.各人が壮絶なバトルを繰り広げているのに破綻や暴走が微塵もなく,見事に全体がコントロールされています.ここが第1,2期のライブと決定的に違うところです.コントロールと書くと,小ぢんまりとまとまっているような印象を与えるかもしれませんが事実は逆.すさまじいエネルギーを発散させながらも正確無比に目的地なだれ込むような印象です.まさに破綻寸前,暴走直前でギリギリ制御している雰囲気です.
 Fripp の理想とするインプロヴィゼイションとは,恐ろしいほどの破壊性を持っているのに,見事なまでに理性的にコントロールされたこのCDできける類のものだったのでしょう.

 しかしながら,その分緊張感は満点,というより有りすぎ^^; 2枚通して聴くとけっこうぐったりします.ただ,その緊張感,疲労感がたまらない快感です.しかし,この緊張感を維持するのは並大抵なことじゃないでしょう.第3期Crimson は3年で解散しますが,このライブを聴くとよくぞ3年保ったもんだと感心するぐらいです.



3.「ABSENT LOVERS」

abs_love.JPG
DISC 1
1. ENTRY OF THE CRIMES  2. LARKS' TONGUES IN ASPIC PART III
3. THELA HUN GINJEET  4. RED  5. MATTE KUDASAI  6. INDUSTRY  7. DIG ME 
8. THREE OF A PERFECT PAIR  9. INDISCIPLINE 

DISC 2
1. SARTORI IN TANGIER  2. FRAME BY FRAME  3. MAN WITH AN OPEN HEART 
4. WAITING MAN  5. SLEEPLESS  6. LARKS' TONGUES IN ASPIC PART II
7. DISCIPLINE  8. HEARTBEAT  9. ELEPHANT TALK


 ’80年代に復活した(第4期)Crimson にがっかりして,この時期は全く聴いていないと言う人にこそ聴いて欲しいアルバム.スタジオ録音の「DISCIPLINE」からは,にわかに想像し難いパワフルな演奏です.ベース・ドラムのリズム隊が前面に出ていて,スタジオ録音と同じ曲なのに印象ががらっと変わってしまいます.

 わたしは第4期のCrimson が好きなので,聴き所はいたるところです.しかし,一般的には第3期の曲「RED」や「LARKS'...ASPIC PART II」を演奏しているのも聴き所のひとつでしょう.が,個人的に一番好きなのはDISC 2-7 の「DISCIPLINE」.
 一聴してわかる第4期の特徴にAdrian Blew のギターがありますが,4期を象徴する曲が「ELEPHANT TALK」と評価するのは不適切でしょう.4期の核心はやはりアルバム・タイトルにもなった「DISCIPLINE」です.この曲に第4期の全てが凝集されているというのがわたしの考え.短いリフの反復・積み重ねが最後の発散につながる構図はそのままに,スタジオ版に比べはるかに強力なリズム隊が,第4期にはどうしても欠落しがちだった緊張感を高めています.

 付け加えるとすれば,まず「LARKS' TONGUES IN ASPIC PART II」.ここで聴けるBrufford のドラムは感涙もんです.改めて惚れ直しました.それに,「THELA HUN GINJEET」.かっこいいとは思ってましたが,この曲もスタジオ版をはるかに越えるデキです.



4.「deja VROOOM」(DVD only)

deja_v.JPG 

 ’90 Crimson から1枚ライブ盤を奨めるとなると,CDでは「B'BOOM」があります.しかし,演奏のできを含めあらゆる面でDVDの「deja VROOOM」が上だと判断し,こちらを紹介することにしました.DVDの普及が今ひとつ(PS2でもDVDは見ることができますが,このDVDをPS2で見るのは非常にもったいないと思います.)なので,推薦盤というには抵抗ありますが,この内容&両面DVDで4,200円というのは絶対お得.

 収録ライブ音源は’95年10月の来日公演のもので,既発のLD/Videoとほぼ同じ内容.その点で新鮮味はありません.演奏そのものも良いできと思いますが,このDVDの真価は別にあります.

 列挙すると,マルチ・アングル/マルチ・サウンド(たとえばFripp を選択すると,映像アングルはFripp を中心に捉え,同時に音もFripp のギターが正面から聞こえる設定になる),5.1チャンネルdts(リスナー周囲を取り囲む5チャンネル分のスピーカー,0.1はサブ・ウーファー,から,各チャンネルにキチンと振り分けられた音が出る.dtsは通常のドルビーデジタル方式より高音質.ブックレットには楽器の分離があまりにも明瞭なため,本人達が「お互いにミスを指摘しあった」というエピソードも紹介されている.),各種映像特典・ディスコグラフィー(LDのように紙芝居を見せられるのではなく,詳細な資料として楽しめる/活用できる)などなど.

 しかし,わたしはこの機能全てを味わうことができません.リア・スピーカーもサブ・ウーファーもないので,音質面での真価を知ることができない.したがって,詳細な評価もしません.が,今まで買った音楽DVDで,これほどの先進性,斬新さをもったソフトはありません.いつかその真価を体感できる日が来るといいのですが...

 あと,オマケと言うには勿体ないほどの”ゲーム”が収録されています.”21ST CENTURY SCHIZOID BAND”がそれ.リズムセクション(’69,’71,’74,’96の各メンバー),ボーカル(Lake, Barrel, Wetton, Blew),ソロ(McDonald, Collins, Cross, Blew)を自由に組み合わせ演奏させることができます.たとえば,’69年のリズムセクションをバックにWettonを歌わせ,ソロはBlew がきめるなんてこともできます.注意書きにあるように,あくまで遊びであり,正当な音楽的パフォーマンスを形成するものではありませんが,卓越したアイディアであり,限りない可能性を秘めた試みでしょう.単純にメチャクチャおもしろいしね.かなり遊べます.


5.「EARTHBOUND」(LP only)

earthbd.JPG - 3,098Bytes
Side A
1. 21ST CENTURY SCHIZOID MAN  
2. PEORIA 
3. THE SAILORS TALE 

Side B
1. EARTHBOUND 
2. GROON


 ライブを演奏っていない過渡的な時期を除くと第2期にあたる「ISLAND」期のライブ音源.
 スタジオ録音の「ISLAND」からは想像できないような汚く歪んだ,しかし圧倒的な迫力をもった演奏.とくに叙情性溢れる「ISLAND」や「FORMENTERA LADY」をこよなく愛する人には,期待を踏みにじられたようで涙を流しそうな内容ですが,その異様な迫力は紛れもなくKing Crimson!

 (有名な逸話ですが)カセット・レコーダーで録音されたことによる劣悪な音質,繊細さのかけらもない演奏,まったく噛み合わないブルースもどきのインプロ.どれをとってもネガティブな言葉が並びますが,その音は一聴の価値ありです.ただし,その音を判断し,価値を決めるのは全て個人に委ねられるでしょう.どんな有名な批評家が褒めようがダメな人には「クズ」以外の何ものでもないし,どんなに立派な音楽家が非難しようがこの音に魅せられた人には「宝物」でしょう.


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